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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
世界革命編

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83/112

はじまりの風が吹く

 結果的にスピカのやらかしにより、学園内は騒然となってしまった。

 特に貴族階級の中には、親がこのままだと爵位を取り上げられるとおそれて、金を払って大アルカナを【世界】から買い取った家も存在するのだから、突然自分のアルカナが変わって混乱する生徒が大勢いたのである。

 一方の平民階級は、そもそも取り上げられるほど強くも珍しくもない大アルカナしか持っていないために、今までアルカナ集めに躍起になっていたのを面白おかしく眺めていた貴族階級が突然慌てだしたのを冷淡に見つめていた。

 レダのように【世界】の協力者に仕立て上げられた平民階級は珍しかったのである。

 革命組織と生徒会執行部の抗争により、校舎もあちこちが壊れたが、本来この学園内はほぼアイオーンのゾーンの中だ。

 ようやく起きたヨハネに魔力と体力を回復されたアイオーンにより、学園内はすぐに修復された。


「今まで学園内であっちこっち破壊されてもすぐ直ってたのって、そういう理屈だったんだ……」


 五貴人の内、ふたりが失踪してしまった上、生徒会執行部メンバーもボロボロ状態で、学園運営に支障があると判断し、翌日は休校となった。

 本来だったら学園の治安維持を仕事としているオシリスは思いっきりそれに異を唱えたが、そこは副会長のイシスが「会長」と怒って止めた。

 そしてこれだけ派手にやらかしたにもかかわらず、今回の件にかかわった全ての人間のやらかしは、不問となった。

 生徒会長であるオシリスは、【運命の輪】のスピカをじっと見た。

 メガネ越しで彼と目を合わせるが、どうにもスピカからは、彼は複雑な面持ちのように思えてならなかった。


「スピカ・ヴァルゴ」

「あっ……はいっ」


 思わず背筋を伸ばすと、オシリスはやはり複雑な面持ちのまま、口を開いた。


「今回の件は、礼を言う」

「ええっと……?」

「ただし、この力は秩序を破壊する力だ。くれぐれも力の行使のタイミングを測り違えないこと」

「あの……お礼も、苦言も、意味がよくわからないんですけれど……」


 スピカが困り果ててそう尋ねると、イシスがおっとりとした口調で口を挟んできた。


「会長は、【世界】が焦り過ぎていることを心配なさっていたんです。あの方、体が悪いのに無理して力を行使なさっていましたから。国の今の現状がよろしくないため、【運命の輪】を処刑して恐怖政治を強いて、彼が存命の間だけでも国の立て直しの時間を稼ごうとしましたけど……今回の件で、それよりも力を貸してくださる方を募ったほうが、彼の体も楽だし、わざわざ敵を増やさないと判断してくださったのが、僥倖でしたわね」

「私……国のためにいきなり死ねと言われても困りますけど……」


 そもそもスピカは国を背負っている訳でもないのに、生まれてからこの方、ずっと命の危機にさらされていたのだ。死にたくないから隠さないといけなかったし、そんな世のため人のために死ねと言われても困る。

 スピカが困った顔をしてる中、隣でアレスは「はぁ~……」と息を吐いた。


「あんたらの事情は説明されても相変わらずよくわかりませんけど。こいつは学園出たらまた、死ぬか生きるかわからん状態にさらされるんです。あんたらのほうが先に卒業するし、卒業したら国のお偉いさんになるんでしょ? こいつが卒業する前に法律をなんとかしてくださいよ。ただでさえこいつ、命狙われてんのに目を離したら勝手に危険な場所に行ってるし、勝手に危険な目に遭ってるしで……俺ひとりじゃどうしようもないです」

「アレス、なんで私の保護者面すんの?」

「保護者じゃねえですー。俺、お前の保護者なんかヤダ」

「私だってアレスに保護者面されるの嫌ですけど?」


 毎度毎度、またもふたりが言い争いをはじめたのに、オシリスは苦虫を噛み潰したかのようになったが、隣のイシスは「会長?」と言葉を促した。


「……わかった。アイオーン……【世界】にできる限りの提言はする。そもそも大アルカナの不備も、今回の件で見えたし、いい加減きちんとしたアルカナカード制作者を連れ戻さないことには、どうにもならないだろうしな」

「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」


 そう言ってスピカは頭を下げた。隣でアレスは当然だというように鼻を鳴らしていたが、スピカが無理矢理髪を引っ付かんでお礼をさせた。

 革命組織の面々は相変わらずの様子だった。


「これで、なにか変わるのかねえ」

「さあな。今回のことなんぞ、【世界】の感情を変えただけで、まだ国も世界もなんにも変わってねえよ」


 国の階級制度。その階級維持のために大アルカナの搾取および人身売買が行われている現状に、まだ誰もメスを入れられていない。

 カウスとデネボラの言葉に、アルが「ふん」と鼻息を立てた。


「これでなにも変わらなかったら、もう一度革命を起こすまでよ」

「まあ、それもそうだな」

「それもそうだね」


【世界】の力はあまりにも凶悪で、これを打ち崩すには、【世界】の唯一の切り札である【運命の輪】の力がどうしても必要だったが。

【世界】の考えを少しでも改めさせなければ、いたちごっこがただ続くだけだった。

 現状学園アルカナにいる【世界】がアイオーンだったから、【運命の輪】がスピカだったからこそ、本当にわずかにだけ考えを変えることができたが、次回がいつになるのかがわからない。

 だからこそ革命組織は解散もできないし、【世界】の行いを監視し続けないといけない。

 考えが変わったからと言って、すぐに世界が変わるほど、この世の中は単純にはできてはいないのだから。


****


 学園内は騒然としていても、臨時休校になっても、そう簡単に物事は変わらない。

 スピカたちは、寮に戻ってやっとひと息ついた。

 スピカは、ようやくドレスから制服に着替えることができたルヴィリエと一緒に歩くことができて、ほっとしていた。

 ふたりで食堂に行きがてら、ポツンポツンとしゃべる。


「私、こんな大事になるなんて思ってもみなかったんだけどな。たった一日で、いろいろ変わり過ぎというか」

「そーう? でもスピカは私を助けてくれたじゃない」

「そ、そりゃ友達だもん……助けに行くよ?」

「うん……そう。私もさ、多分スカトもだけど……貴族階級の人間って、そこそこ自分たちより上の貴族や王族の存在を知っているから、なんでもかんでも諦めちゃう癖がついてるけど。でもそれがスピカやアレスにはなかったでしょ? 多分、だからこそナブー先輩やユダ先輩が助けてくれて、あの【悪魔】と【塔】の先輩たちも一時休戦してくれたんだと思うのよ」

「どうなんだろう……それ」


 ズベンは本当にただ、アイオーンのことが好きなだけだった。全く相手にはされていなかったが、彼がこの国にいいように使われているのに我慢ならなかったから手伝っていただけだ。

 シェラタンはズベンと友達だから、どう考えてもズベンの自己満足だが、それに付き合ってくれていただけ。

 ふたりとも人騒がせだったが、処罰は受けずに済んだし、今後もアイオーン絡みで巻き込まれることもあるんだろうと思う。

 ナブーは正直、なぜか最初から優しかったが、それがどういう理屈なのかスピカにはわからなかった。

 ユダについては、スピカが敵対したくない一心で、ひたすら人間扱いしただけだったが、それが功を成したとしか思えない。

 ただ思うのは。

 全員が全員、好き勝手に動いているだけ。その中で大アルカナの強弱があったり、スクールカースト上位や下位があったりするだけ。

 ただ、人間が好き勝手に行動していたら、結果的に争ったりいがみ合ったりする一方で、時には共闘できたり、仲良くなったりもできるというだけだった。


「そういえば。スピカ、アレスとなにかあったの?」

「ええっと……」


 そういえば。スピカがアレスに話があると言われていたものの、全部が終わったらという条件だったから、まだ話は聞いていない。

 一応内容自体はうっすらとは思っているものの、聞いていない以上は聞かなかったことにしている。


「多分果たし合い」

「えっ!?」


 途端にルヴィリエは目を吊り上げるが、それにスピカは慌てて「冗談だからー!!」と首を振った。


「言葉の綾だから! 多分普通のことだから!」

「本当に?」

「本当だってばー! アレスはなんにもしないよ」

「まあ……手癖が悪いし、口も悪いけど……それ以外はまあ、そこまで悪くはないわね。うん、信じるから」


 そうこう言っている内に、食堂についた。

 相変わらず閑散としている食堂ではあるが、既にアレスとスカトが来て、手を振っていた。


「今日、ごちそうだってさ」

「なんで?」

「学園から、寮生に大盤振る舞いしろってさ」


 アレスにそう言われ、スピカとルヴィリエ、スカトは出された食事をいただいた。

 顔の半分近い大きさの特大骨付き肉にザウアークラウトを添え、玉ねぎスープを出される。

 そして一緒にこんもりと出されたパスタには特濃チーズソースを絡めて出されて、それを皆で夢中になって食べていた。

 デザートにはカシスソースのかかったフローズンアイスを出され、それもグラスに一滴残さず平らげた。


「ごちそうさまぁー……ああ、おいしかった。こんなにごちそう、もう二度と食べられないかも……」

「あんなでかい肉、多分もう二度と食べらんない……」


 スピカとアレスが満足げにお腹をさすっていると、スカトが「アレス、言わなくていいのか?」とボソリと口にする。

 ルヴィリエはそれに「決闘? 決闘だったらスピカにつくから!」と目を吊り上げるが、アレスは顔を真っ赤にして「バァーカ!」と叫んだ。

 アレスはそのままスピカの手を引いて、ずるずると寮の入り口までのっしのっしと歩いていく。

 さすがに学園内にゾーンを展開しているアイオーンに見られたくないのか、寮の外に出るような真似はしなかったが。


「あー……俺どこまで言ったっけ?」


 アレスの視線はあっちこっちに泳いでいる。それにスピカは息を吐いた。


「ルヴィリエ助けられたら言うって。ルヴィリエ助けられたのだって、アレスのおかげでしょうが。私ひとりだったら、ルーナ先輩のゾーンに押しつぶされてた」

「あー……そうだった、そうだった」


 アレスはふてくされたような、むっつりとした顔を一瞬して髪を引っ掻いたあと、ようやく顔を引き締めてスピカに口を開いた。


「俺たち付き合わない?」


 そう言われて、スピカは彼の瞳をじっと見た。いつもスピカを呆れた顔で見たり、なんだかんだ言って助けてくれる瞳が好きだった。

 出会い頭に助けられた。そのあとに脅された。なんだかんだ言って今も助けてくれている。

 ……そもそも、アイオーンとの対峙の際、彼がいなかったらどうにもならなかった。

 彼女の心は、とっくの昔に決まっていた。


「とりあえずキスしておく?」


 スピカの返答に、アレスはすぐに顔を崩した。そして、誰も歩いていないことを確認してから、彼女の唇を塞いだ。


 見た目はなにも変わっていない。

 でもたしかになにかが変わった。

 たしかに、新たな風が吹いている。


 それは、いいものも悪いものも引きつれてやってくるのだ。

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