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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
世界革命編

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月の涙と太陽の激高・4

【太陽】のゾーンに、スピカは唖然とした顔で辺りを見ていた。


(カウス先輩たちが急いで来てくれるはずだ……こんなの……私たちじゃ全然手に負えない)


 あつい。アツイ。熱い。暑い。

 体中から水分が蒸発していく感覚。喉がヒリヒリと痛むほどに渇いていく感覚。夏がそこまで厳しい場所で育ってはいないスピカからしてみても、これが灼熱だということくらいはわかる。

 カウスは「ふん」と鼻で笑って、戦車(チャリオット)に乗っている相棒のアルを見た。


「どうする? 閉じ込められたが」

「決まっておろう。そのために我が来たのだからなあ」

「アセルスと分断されたがな」

「あれもデネボラの支援をせねばならぬから、我らで対処せねばなるまいよ」


 あまりにも余裕なのに、どうも彼らは【太陽】に対しての対処法があるらしいのは汲み取れた。

 一方、あれだけ禍々しい太陽のゾーンを出現させた張本人は、走ってルーナの元に駆け寄っていた。まるで泣いている姫を助けに来た王子のようで様になる。

 もっとも、その姫はこの場で一番被害者を出しているのだが。


「ルーナ! 助けに来たよ、いったいなにをされたんだい!?」

「……本当に、来たのね」


 先程まで美しい歌を歌っていたとは思えぬほどに、抑揚のない声を上げ、感情のない声を上げるルーナ。それは見ている革命組織の面々からしてみれば不愉快極まりないものだったが、【太陽】はにこやかに笑うだけだった。

 本当に彼は彼女にだけは、穏やかな日だまりの笑みを見せる。


「言ってごらん、助けてあげるから」

「……あれが、嫌い」


 そう言って指さした先。

 カウス、アルが立ち、そしてそれより少し離れて。しっかりとアレスを指さしていた。


「……わたし、頑張ったのに。【世界】に言われて、皆を閉じ込めてちゃんと壊す気だったのに、全部邪魔して。嫌い。きらいきらいきらい。ソール」


 彼女は感情を吐露する。

 それはアレスが引き摺り出した、嫌悪感だった。


「あいつらを、壊して」


 言っていることは身勝手極まりないものだった。

 しかしそれをソールは満足そうに、宝物を見るかのような目を向けて、頷いた。


「いいよ」


 まるで王子と王女の出てくる絵本のようなひと幕だったら。

 幕間に未だにいるまんまのアレスは、憤慨したようにスピカの出したエリクシールの瓶を握る。


「いや、よくないだろ。なんだよ、デリバリーサービスみたいに味方呼び出して俺たちを殺すのかよ」

「……いったいなにをやって、あそこまでルーナ先輩に嫌われたんだ?」


 スカトは呆れたような顔をしてアレスを見たが、アレスの態度は変わらずだ。


「知らねえよ。だってあの人は各方面に迷惑かけ通しだってのに、自分は被害者なんです、被害者だからなにをやってもいいんですって態度を貫き通してんだもん。だからあの人嫌いなんだよ」

「それ、全然あんた人のこと言えないじゃない」


 半眼でルヴィリエに睨まれたものの、アレスはエリクシールの瓶を構えながらルーナとソールを睨む。

 新入生たちがいつもの掛け合いをしている中、カウスはあくまで戦車(チャリオット)に乗ったままだったが、そこでアルが出てきた。手には鎌を構えて。

 それにソールは「ちっ」と舌打ちをしながら、手をアルに向けた。


「……君がいたら、全滅できないからね。こういうやり方はあまり好きではないけれど、本気で行かせてもらおうか!」


 そう言った途端。

 先程からゾーン内にいる人々を焼き付けている灼熱の太陽の温度が、また上がったような気がした。喉がヒリヒリと痛む上に、目が痛い、鼻も痛い。だんだん皮膚がひび破れて血が噴き出てくる。その血もまた、勢いよく乾いていくのだ。


「イッタイ……!」


 スピカがたまらず悲鳴を上げる中「ガキ共」とカウスが唸り声を上げる。


「日陰に来い」

「は、はい……!!」


 カウスの乗っている戦車(チャリオット)には、わずかながら影が落ちている。日が強くなればなるほど、影は濃く落ちる。四人は必死でそこに逃げ込むと、カウスは瓶をひとつ開けて、喉を鳴らして飲みはじめた。


「アセルスからエリクシールもらっているんだったら、さっさと飲んでおけ。あれは魔力だけでなく体力も回復する」

「は、はい……!」


【節制】のアルカナの影響か、彼女からもらったエリクシールを飲んだ途端に、粘膜という粘膜が悲鳴を上げたものの、それが少しずつ癒やされ、なんとか痛みも止まった。

 スピカは影の向こうで戦っているアルとソールを見た。


「あ、あの……助けなくってもいいんですか?」

「貴様も知っているはずだがな。あれは強いし、ゾーン使いともやり合える。だからこそ、五貴人もさっさとあれを探し出したかったし、できれば味方に引き入れるか、殺したかったんだろうさ」

「それは……」


 本来、【死神】こそが王族であり、【世界】に乗っ取られたのだということは、以前にスピカとアレスはユダから懇切丁寧な説明を受けている。

 現に今も、ソールから直射日光を受けてもなお、平然と立って鎌を振っていた。


「あの……どうしてアル先輩、あれだけ直射日光を受けても、平然と立ってられるんですか!? アセルス先輩のエリクシール飲んだ形跡なんかないですけど」

「あれは自力で回復できるからな。本当だったら、【太陽】の能力ひとつでも停止させれば、それで勝敗は制することができるが、それをしないのは【世界】とやり合うために、魔力を温存しておきたいからだろうさ」

「アル先輩……まさか【死神】がそこまで強いアルカナだったなんて」

「だからだろうさ、【世界】も焦り過ぎて、【運命の輪】だけでなく、俺とアルまで始末しようとしたのは」


 カウスは淡々と説明してくれる。

 だとしたら、この分だとアルがソールを下すことができると、少しばかりの期待は出るが。


「だがな」とカウスは釘を刺す。


「大アルカナに弱いものなんかひとつもない。【運命の輪】すら【世界】を下すことのできる唯一のアルカナだからな。そこに感情さえ乗ってしまったら、勝敗なんてアルカナの強弱で決められるもんじゃねえ。欲望の強弱だ」


 実際に。ソールは魔力を出し惜しみするアルとは違い、太陽を使役してアルを焼き切ろうとしているのだ。だが、アルはそれを無視して鎌を構えて走る。


「この色ボケが。それで我らを阻むか!?」


 鎌の刃がソールの首を狙う。

 それより早く、太陽の光が刃を狙った。それは細い光線を放ち、アルを焼き切ろうとする。

 ジュッ……と音を立てたが、その火傷はすぐにアルのアルカナにより無効化される。


「残念だね、君には大切な人はいないようだ」

「可哀想な個人のために、無辜の民を犠牲にするつもりか!?」

「その無辜の民が彼女になにをしてくれたんだい?」


 アルの言葉はどこまでも正論だった。

 しかし、正論はソールには届かない。恋慕で突き動かされているソールには聞こえない。ソールの太陽は、なおも光輪を描いてアルを襲う。焼き切ろうとする。回復する。焼き切ろうとする。回復する。

 それは端から見ると破壊と再生を繰り返す、おぞましい絵であった。しかし、それでもなお、ふたりは怒鳴り合う。


「彼女はどこまでもこの国に囚われている……宿命に、運命に、生死すら自由にはできない。それを助けたいと思って、どこが悪い?」

「戯けたことを……選択肢があるということは力があることであろうぞ! 弱者はそもそも選択肢すら与えられず、手にしている力なきカードで明日を生きるしかなかろう! 巨大な力を得てもなお、憐憫を向けるつもりか!?」

「本当に君は可哀想だね。大切なものがなにもないから、顔すら覚えられないものを後生大事にできるんだ」


 平行線。どこまで伸びても続けても、その会話に和合を見出すことはできそうもなかった。

 しばらくふたりのおぞましい破壊と再生を眺めていたが、それを眺めていたカウスは、「ガキ共」と小さく影に避難した皆を集めた。


「なんですか?」

「今はアルが【太陽】の気を引いて、こちらはおろそかにしているから言う。あれだけ言っているんだから間違いなく、【太陽】の弱点は【月】だろうさ」

「……どうするつもりですか?」

「人質にして、【太陽】のゾーンを解除させる」


 いともたやすく言われるえげつない作戦に、皆は互いに顔を見合わせた。

 そもそもスピカとルヴィリエは、ルーナのゾーンで心身を削られたために、彼女が怖くて身動きが取れそうもないが。

 彼女のゾーンでは手に負えなかったアレスと、そもそもゾーンに捉えられなかったスカトは、ふたりともルーナを眺めている。


「あの人がゾーンを展開させて、無効化させるっていうのは?」

「ゾーンを破られたら、魔力の消耗がゾーンを行使する負荷より倍かかる。おまけに【月】個人じゃ魔力の回復はできない上に、今は【審判】がいねえ。【審判】がこのゾーンを侵食してこない内に最大戦力を狩っておきたい」


 スピカは黙ってカウスの手元を見た。

 彼は未だに戦車(チャリオット)に乗ったままであり、なにかあったら戦車(チャリオット)でソールを撥ねる気だ。

 スピカは「アレス」と言う。


「……ルーナ先輩、盾にしよう」

「おっ、お前も乗ったか」

「……先輩たちにこれ以上特攻させたくないだけだよ。それに、アレスはルーナ先輩と決着が付けたいんでしょう?」

「……おう。あの女、一度へし折らないと気が済まねえ」

「本当にそればっかりなんだから……でも、あの人なんとかしないと、私たちもここから出られない」


 ルーナをへし折りたい。それは、新入生たちにとっても共通の願いだが。彼女を人質に取ることを失敗すれば、折角アルが隙をつくってくれているのに無駄になり、逆にソールを激怒させてこちらも全滅しかねない。いくらエリクシールがあるとはいえど、自力回復できるアルとはそもそも素養が違い過ぎるのだから。

 ソールがアルとのやり合いに集中している間、それぞれが手短に作戦を立てると、行動を開始した。

 ソールがルーナを守りたいのと同じように、彼らにだって守りたいものがある。

 欲望が勝敗を決するのならば、これから先は、どちらがより欲が深いかの勝負になる。

【死神】

・鎌の召喚

・アルカナカードの能力をひとつ指定して封印することができる。封印を解除するには死神を殺すか戦闘不能にするしかない。

・アルカナカードで受けたダメージからの再生

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