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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
世界革命編

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星の瞬きに抗い 月の溜息に耳を塞ぐ・3

 スピカの過去なのか夢なのかわからない光景は、延々と続いた。

 透明人間のスピカと違い、過去なのか夢なのかわからないスピカはどんどんと成長していく。

 生え揃っていなかった髪もストロベリーブロンドに伸び、ハーフツインに髪を結えるようになった。

 初等学校に入学の直前、シュルマに初めてアルカナの使い方を教わった。


「いいかい、スピカ。お前は【運命の輪】なのだから、絶対に隠さないといけないよ。見つかったら……」

「しょけい……されるんでしょ?」

「そう、だから私たちは隠すんだ」


 そう言って、アルカナカードに触れる。

【運命の輪】の絵柄は、聖杯の絵柄に切り替えられた。

 彼女はその力を、シュルマに教えられて、一生懸命それの練習をした。

 小アルカナは魔法が使えないため、叔父から教わらなかったら魔力の使い方も、アルカナカードに魔力を込める方法も、アルカナカードの力の行使の方法もわからなかったが、何度も何度も練習して、ようやく使えるようになる。


「あっ……!」

「よし、スピカ。頑張っておいで」


 こうして、彼女はカードフォルダーに偽装したアルカナカードを入れ、初等学校で元気に学園生活を謳歌するようになったが。

 その日、友達と広場に出かけることになった。友達も変な顔をしている。


「今日、広場でなにがあるの?」

「うん……なんでもさ、【運命の輪】が見つかったんだって」

「え……」


 スピカは立ち止まる。友達は不思議そうな顔をする。


「スピカ?」

「ううん、なんでもない。でも、どうして?」

「さあ? それで、うちの町で処刑するからって。人が死ぬところなんか見たくないけど、見に行って今日の感想を書いて提出したら、次のテストで点数まけてもらえるんだってさ」

「うん……」


 その光景に、透明人間のスピカは混乱していた。


(ちょっと待って……こんな光景見たことなかったはず……よね? でも……)


 スピカはそこで、処刑台に吊るされている人を見た。

 全く見知らぬ人が、シャツとスラックスの上からでもわかるほどに、青痣だらけになって、麻縄で乱暴に吊るされているのが見えた。

 その姿に、叔父ではないことにほっとする自分に、嫌悪感が募る。

 一部では無責任に、屋台でビールが配られ、子供にはバームクーヘンを配られるという、一種の祭りの様相を醸し出していたのが余計に不気味だった。

 皆がビールの注がれたコップを片手にわいわいと処刑台の人を見上げている。

 だんだんバームクーヘンを持たされたスピカの喉を、苦酸っぱい胃液が逆流してくるのが伝わってきた。


(私たちは……私は……こんな見世物にされるために生まれたの? なんで? 私たち、なにもしてないじゃない……!)


「人間、生まれながらに生き方が決められているの」


 この混沌とした祭りと葬式が一緒くたになった不謹慎な場にそぐわないような、抑揚のない声が響き渡った。

 一瞬誰かがわからなかったが、この抑揚のない声に、整い過ぎて返って特徴がなさ過ぎて覚えられない顔は、ルーナだと気付く。

 透明人間で、この場にいる誰もが目に留めなかったスピカを、ルーナはバームクーヘンを持って、この場にそぐわぬドレス姿で処刑台を見上げていた。


「【運命の輪】は【世界】にとって邪魔だから殺される。【星】は【世界】にとって有益だから飼育される。生まれたときから、生き方は決められているの。あなたは【運命の輪】だから死ななければならないの」

「わ、たしは……!」

「違う? 違わない」


 やがて、処刑台に吊るされた人に、誰かが石を投げた。それを皮切りに、次から次へと人々が歓声を上げながら、手元にあるものを好き勝手に投げはじめた。

 あれだけ青痣だらけの人が、血を流し、ビールをかぶせられ、卵の黄身を垂れ流していても、誰も気にせずに、好き勝手に。

 その醜悪さに、スピカの吐き気はとうとう限界に来た。

 スピカは地面にとうとうバームクーヘンを落としてしまい、その場にしゃがみ込んでしまった。

 そのスピカが得ずく様を、ルーナは淡々と見下ろしている。


「自分じゃなくってよかったとそう思っているんでしょう? 見つからなくってよかった。誰にも気付かれなくってよかった……自分の与えられた生き方に、従いなさい」


 ルーナはそう言って、スピカをドシンと突き飛ばした。

 意味がわからず、スピカは嘔吐した口元を拭いながら転がると、今まで透明人間で彼女を見ていなかった人々が、一斉に転がる彼女に視線を移した。


「【運命の輪】だ……!」

「今までどこにいたんだ!?」

「殺せ!」

 「殺せ!」

  「殺せ!」

 「殺せ!」

    「殺せ!」


 辺りは既に、石を投げ続けられて腫れ上がった処刑台の人に向いてはいない。

 爆発した広場の凶器が、一斉にスピカに襲い掛かってきた。


(やだ……! やだ…………!)


 スピカは頭を押さえて、とうとう涙腺を決壊させた中。


「人の妄想に飲まれてんじゃねえよ、ばっかじゃねえの!?」


 スピカは驚いて顔を上げた先には、いつの間にか行方不明になっていたはずのアレスが立っていた。

 それにはスピカだけでなく、ルーナまでもぎょっとして彼を見る。


「アレス? あれ? ルーナ先輩のゾーンに皆、個別で囚われて……」

「とりあえず、逃げるぞ!」

「わっ!」


 スピカをひょいと手首を引っ張り上げて立たせると、狂乱状態の広場から逃げはじめた。

 後ろからおそろしい足音が響いてくるが、振り返ることがスピカには怖くてできなかった。

 アレスは気にする素振りもなく、走り出す。


「アレス、いったいどうやってルーナ先輩のゾーンを抜けたの!? 怖いものをたくさん見せられて……私ももうちょっとで飲まれるところだったのに……!」

「ばぁーっか! 既に飲まれてたじゃねえか! あれ、相当こけおどしだろうが」

「怖かったんだからしょうがないでしょ!?」

「へいへい……まあ、無事でよかった。さすがにルヴィリエだけでなく、お前まで人形になったらどうしようって思ってた」

「……うん」


 アレスの手首の温度は、たしかに何度も逃げ出したときに捕まれたものと同じだった。

 思えば、あれだけリアリティー溢れるものだったはずなのに、あの場には温度が存在しなかった。だからこそ、ルーナとアレスだけは本物だと認識できた。

 でもシュルマの行いや家族のこと、先程の【運命の輪】は、果たしてただのルーナのつくった幻覚だったんだろうか。

 スピカは不安げにアレスの手に指を絡めながら尋ねる。


「でも……アレスはどうして無事だったの?」

「俺? というより、あの人俺のこと嫌いみたいでなあ……無茶苦茶ひどい幻覚に叩き込まれた」

「なんで無事だったの!?」

「だって俺、ルーナ先輩のこと大大大大大嫌いだし」


 アレスはむっとしたように、唇を尖らせながらきっぱりとそう言い切る。それに先程まで吐いたり泣いたりしていたスピカは、とうとう噴き出した。


「プッ……! それで……論破したっていうの?」

「笑うなよー! だってムカつくじゃん! ひとりだけ自分不幸なんです、ものすっごく不幸なんですって、それ、人を何人も壊す免罪符になんのかって話だよ! あの人の人形遊びに、なんでこっちが付き合わねえといけねえんだよ!」

「アハハハハハハ……! そうだね!」


 ルーナがなにをそこまで人生について打ちひしがれているのかは、スピカにもアレスにもわからない。

 スピカは生まれのせいで、常に命の危機にさらされてきたし、アレスは貴族から差別をもろに食らって育ってきたから擦れている。そもそも不幸のない人生のほうが稀だというのに八つ当たりされても、そんなのお門違いだとしか言いようがない。

 スピカは少しだけ胸がすっとした。


「ありがとう、アレス」

「おう……多分ここにルヴィリエがいるんだろ? 探しに行こう」

「うん……でも、私でルヴィリエを助けられるのかな……」


 スピカはルーナに食らったゾーンの力に、あいにく飲まれて動けなくなるところだった。寸でのところでアレスに助けられたとはいえど、誰も助けてくれないまま、ルヴィリエは三日間も閉じ込められ、責め苦に遭ったのだ。

 タニアやルーナの言っていたとおり、ルヴィリエを助けられたとしても、既に元のルヴィリエでも、スピカたちの知っているルヴィリエでもない可能性だってある。


(私、ルヴィリエに助けてもらってばっかりで……こんなに苦しい思いを抱えてたなんて、知らなかった……)


 スピカが自然と唇を噛む中、アレスは平然と言ってのけた。


「大丈夫だろ、どっちみちここのゾーンは時期に壊れるし。そのときには、ルヴィリエだって解放されるだろ」

「え……?」

「どんだけ怖いゾーンだってさ、外からの攻撃には弱いって、もうカウス先輩も言ってんじゃん」

「あ……!!」


 途端に足が軽くなった。気持ちも軽くなった。

 そして、スピカを捉えていた空間が途切れた。

 それでもなお、ルーナのゾーンの中なのだろうと思うのは、ここ一体があやふやな靄の中で、とてもじゃないが五貴人の居住区画とは思えないせいだった。


「……ズベン先輩やシェラタン先輩は大丈夫かな……」

「ズベン先輩は大丈夫だろ。あの人ありえねえくらいに【世界】贔屓の神経太過ぎる人だし。シェラタン先輩はどうなんだろうなあ……あの人のことは本当によくわかんね」

「うん……どっちみち、革命組織もそろそろこっちに到着するだろうし、それまでにルヴィリエと合流しよう」

「了解」


 こうしてふたりで、ルーナのゾーンをさまようこととなった。

 外の革命組織と生徒会執行部のやり合いがどうなったのかはわからない。

 ズベンとシェラタンは現状どうしているかもわからない。

 いきなり自身のゾーンを上書きされたタニアだっているし、現在このゾーンを支配しているのはルーナだ。

 現状不安しかないが、今はふたりでいる。ならば、なにもないよりはずっといい。

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