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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
学園抗争編

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偽りのアルカナ・6

 スピカと同じクラスのアレスが遅刻したのは他でもない。

 クラスの当番だったからである。掃除しながら、クラスメイトと世間話をする。


「なんか入学してから、もうちょっといろいろあるって思ってたのに。気付いたら寮と校舎を往復するだけで、楽しくないって思う」


 ぶーっと文句を言っているのは、アレスと同じく【愚者】の平民だ。あまりにものアルカナを開示したがらないところから、アレスが察しているだけだが。

 このクラスは意図的なのかくじ引きの結果なのか、平民が比較的多かった。


「わかるー。町の物価が高過ぎて、路地裏まで行かないとなんにも買えないし」

「購買部で売ってなかったら、怖いけど路地裏まで行くしかないもんなあ……」

「どこもかしこもお貴族様は楽しげに買い物してらっしゃるけど、こちとらそんなところで買い物なんてできないんだっつうの!」

「はあ……自分らのアルカナだったら絶対無理だってわかってても、先輩たちがアルカナ集めに必死になる気持ちもわからんでもないんだよな……だって校舎と寮の往復以外に楽しみがないんじゃ、絶対にノイローゼになるから、一発逆転を狙いたくもなる……もっとも、【戦車】も【死神】も強いって噂だし、犯罪者の【運命の輪】に関わりたくないから、参加したくないんだよなあ……」

「その先輩たちを襲撃してかっさらうっていうのは?」

「無理無理無理無理……そもそも舞踏会のあれ見ただろ? 【戦車】の戦車に轢かれたくねえし、それを倒せる先輩なんて怖いから関わりたくない」


 それらに適当に相槌打ちつつ、アレスは「なんだかなあ……」と思う。


(そりゃスピカが自分のアルカナを秘匿しまくった結果、友達いねえはずだわ。俺よりも警戒心よっぽど強いし、人としゃべるのも敵に回したくねえってだけだもんよ)


 実際にアルカナ集めを行っている先輩たちの動向はほぼ、【戦車】と【死神】が強過ぎて怖いからと、犯罪者である【運命の輪】を探し出すことに焦点を当てはじめた。

 いよいよ持って、言い出しっぺの【世界】の頭の回転がおそろしくなってくる。


(【世界】の全能力を割り出して公表したら、この国が変わるっつってたけど……それより先にスピカをどうにかしねえといけねえんじゃねえのか?)


 正直可愛くはあるが、いい性格しているし、変なところで図太いし、その癖友達が減るのを怖がっている女子だ。

 それ以前に教会にずっといたせいか、おかしなところで潔癖でもある。


(……あいつ、戦う力もねえのに、すぐ無茶するし、そうせざるを得ない状況に追い込まれる。守ってやるっつうのは、なんか違うけど。一緒に戦ってもいいじゃん)


 昔から貴族も王族も大嫌いだと公言して、周りに遠ざけられていたアレスからしてみれば、それを「ふうん」と初めてまともに聞いてくれたのがスピカであった。最初はそれを、彼女が王都の常識やアルカナの常識に疎いだけかと思っていたが、どうもそれだけではないらしい。

 アレスがようやく掃除を終えたところで「それじゃ、もう行くから!」とさっさと教室を出ようとする。


「彼女んところ?」

「はあ?」

「だってお前、よくスピカと一緒にいるじゃん」

「ばーか!」


 それだけ言って、そのまま走って行った。

 ただ迷子になっているところを拾い、たまたま同じクラスになり、何度も何度もアルカナ集めに巻き込まれて一緒に戦わざるを得なくなっただけの、よくしゃべる女子ってだけだ。

 仲がいいから付き合っている。

 ふたりの関係を、勝手にわかりやすいカテゴリーに押し込められるのは、御免被る。


****


 スピカがどうにかして噴水のほうに走ってきたとき、既にスカトが来ていた。


「大丈夫か? もしかして、また絡まれたのか?」

「……うん」

「アレスと来たらよかったのに」

「アレスは掃除当番だったから、先に行ったの。待ってたら好き勝手言われるから」

「難儀だなあ……」


 貴族階級は恋愛は結婚してからという考えなため、平民ほどなんでもかんでも惚れた腫れたの考え方にはならない。この辺りの感覚は習慣が違うため仕方がないだろう。

 そうふたりでしゃべっていたら、ようやくアレスも合流した。こちらも必死で走っていたのか、汗が額から噴き出ている。

 皆でそれぞれしゃべっていたら、スピカがまたもアルカナ集めに巻き込まれたこと、同じ授業を取っている先輩に助けられたことが語られ、「また難儀な……」という顔になった。


「その人は大丈夫なんだよな? 生徒会執行部とか、革命組織とかと関わっては……」

「わかんない。多分ズベン先輩たちみたいなもんだと思う。いつもぶら下がってるから」

「ぶら下がって……?」


 そう三人でとりとめのない話をしている中、スカトが思いっきりスピカの手を引いて噴水の近くに引き倒した。それと同時に、噴水がバシャンと跳ねる。

 かまいたちが、飛んできたのだ。


「もう! 今日だけで三回もやり合ってるのに! また来たの!?」

「いや多過ぎだろ!?」

「かまいたち……」


 スピカがとうとう癇癪を起こし、アレスにツッコミを入れられている中、そこにはエルメスとレダが立っていた。

 レダは気のせいか目尻に涙を浮かべているのに、スピカはぎょっとする。

 まさか、三回も同じ人たちから襲撃を受けるとは思っていなかった上に、彼らとは個人的な話もしているのだ。

 嫌いではないのに、何故か戦わないといけなくなる。


「あの人たち、なに考えてるのかわかんねえ……既にあちらのアルカナは割れてる上に、こっちだって対策取り放題なのにさあ。スピカは?」

「私、さっきも逃げてたところだよ? それに、まだ魔力そこまで回復してない」

「じゃ駄目か。スカトは?」

「僕は一応やれるが……」

「あっそ。じゃあほいっ」


 アレスは手早く自身のカードフォルダーを取り出すと、それでペチンとスカトのカードフォルダーに触れた。

 またもなにかしらの力をコピーしたものを彼に貸したのだろう。アレスのほうが、王都でまともに魔力の使い方の教育を受けていた分だけ、スピカよりも魔力量は多い。これでもスピカも入学前よりは大分増えたのだが。


(いいなあ……)


 そう思いつつも、スピカはエルメスとレダを見つめる。


「先輩たち、またアルカナ集めですか?」

「……ええ。これで最後になると思ったから」


 答えたのはレダのほうだった。気のせいか、彼女の声は震えている。

 スピカはそれに「あれ?」と思った。

 思えば不思議だった。彼女は性格上、エルメス以外に興味がないのだ。当然ながら【世界】が急に提案したアルカナ集めなんて無視すればいいのに、それに固執している。

 スピカが長考しようとした中、素早くかまいたちが飛んできた。それを相殺したのは、アレスのカードから出た風だった。アレスは以前にナブーが使い方を見せた風の精密操作を、どうにかトレースを試みていた。もっとも、精密操作をしようとすれば風の力が弱まり、相殺しようとすれば操作が乱雑になる。それは魔力以上に神経をすり減らす作業だった。


「あんなの、あの人涼しげにやってんのかよ……!」

「だ、大丈夫? 私が変わろ……」

「お前魔力ないだろ。もうちょっと回復するまでそこ座ってろ」

「うん……」


 実際に、スピカであったら精密操作するほど魔力を放出する術を学んで来なかった。いつもアルカナを偽装するために魔力を漏れ出しているだけで、的確に形を持って放出する力を使ってこなかった弊害だ。

 アレスの風の動かし方に、何故かエルメスが「やるね」と笑った。


「君の彼女を守りたいという気持ち、見事だ」

「あんたら、ほんっと恋愛脳っすね!? そんなんじゃねえっす!」

「照れるな照れるな。相変わらず君たちが仲良くて羨ましいと思っただけだ」


 風を纏い、ふたりで浮いてかまいたちを仕掛けてくる。おそらく風でふたりを浮上させている風を使っているのはレダのほうで、かまいたちを仕掛けてきているのはエルメスのほう。

 アレスはどうにかかまいたちを相殺しながらも、スカトをちらっと見ると、指を差した。それにスカトは頷く。

 このふたりのコンビネーションが、風の力を底上げする。今までの風使いの中で、やはりこのふたりが一番強いが。

 弱点もわかりやすい。


「でも、前から疑問なんですよね。俺らにアルカナの使い方教えてくれる先輩たち、いっつも戦い方変えてきてるんで、パターンつくりません。どうしてそんな自分たちから種を明かすような真似をするんですかね?」


 アレスがそう尋ねると、エルメスは極上の笑みで「挑発かい? 可愛いね」と切って捨てる。それにスピカは困惑する。


(なんというか……いつもよりも必死? それにレダ先輩の様子が変だ。でもスカトは……)


 アレスが挑発して、一瞬エルメスがそれを答えるために無防備になったところを狙って、風が乱れた。

 スカトがアレスから貸し出された【恋人たち】の力を使って、無理矢理アレスとエルメスの攻撃を反転させたのだ。狙ったのは……レダのほうだ。ふたりとも噴水へ真っ逆さまに落ちる。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「レダ!!」


 大きな水しぶきが上がる。

 アレスはそのままふたりに「さっさと寮に帰ろう」と言ったところで、スピカは「待って!」と声を上げた。


「あの……これが最後って言ってたけど、どうしてですか? レダ先輩」


 ずっと気になっていたのだ。

 彼女はエルメスに抱き着き、エルメス以外に興味がないはずなのに、何故か自分を敵視しているような目が見え隠れしていた。

 エルメスがレダにしか興味がないのは見え見えだったから、余計にスピカは彼女の目が気になっていた。

 噴水ですっかりと制服がびしょびしょになってしまったのを、エルメスが「すまないね、レダ」と言いながら、風で乾かしてく。その風に嬲られながら、レダは一瞬戸惑ったようにスピカを見つめた。


「私、あなたのこと嫌いよ?」

「ごめんなさい、知ってました。私、レダ先輩に嫌われる意味がわからなくって、ずっと気にしていました」


 レダはそれに口を噤む。

 その中で、アレスは髪をガシガシ引っ掻きながら、エルメスのほうに尋ねる。


「つうか、彼女にしか興味ねえ先輩が、わざわざ後輩いじめする意味がわからねえんすわ。いい加減説明してもらっていいですかね? 俺二回、こいつ三回。いくらなんでも多過ぎです」


 それにエルメスまで黙秘を貫こうかと形のいい唇を閉じてしまったときだった。

 いきなり、五人の立っていた噴水の周りに、土壁ができて、取り囲まれた。


「これ……」

「生徒会執行部か!?」


 アレスが声を上げる先に、イブとエルナトを伴ったイシスが「やっと見つけました」と声を上げる。

 スピカはだらだらと背中に汗を掻く中、アレスが黙ってスピカを背後に追いやる。その中、スカトは毅然と「なんの用ですか?」と尋ねると、エルナトが軽く笑って手を振る。


「ごめんね、新入生くんたち。今日の用事は君じゃないんだ」

「今日は新人教育もありますから、手早く終わらせないといけませんしねっ!」


 イブの言う「新人教育」に若干引っかかりを覚えつつも、イシスがつかつかと足音を立てて、噴水の縁に立つエルメスとレダに近付いていった。


「レダ・カストル。偽装アルカナ所持及び使用の現行犯につき、退学処分と致します」


 その高らかな声に、スピカだけでなく、アレスもスカトも目を見開いた。

 ただエルメスは唇を噛み、レダだけは黙ってイシスの審判に視線を向けていた。

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