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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
学園抗争編

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偽りのアルカナ・5

 学園内を映し出す鏡の間。

 その中で小鳥のような歌声が響いていた。それを歌っているのはルーナであった。

 抑揚のない言動をする彼女ではあるが、歌だけは多弁であり、彼女の美しい声が響き渡っている。

 それを聞きながら、【世界】は優雅に紅茶を飲んでいた。

 その前で苦虫を噛み潰した顔をして、オシリスが立っていた。


「生徒会執行部はいったいどれだけ、情報開示請求を行ったと思っている? 全部俺に握り潰せと?」

「僕は君が羨ましいな、オシリス。君には未来があるんだから」


 そう天使のような声で、寂しげに【世界】が言う。


「僕には時間が足りないんだよ。この国を統べるまで生きられるかはわからないし、そもそも卒業までにはくたばっているかもしれない」

「……貴様はわざわざこの学園に入って【運命の輪】を潰すより先に、入院して体を少しでも治して、即位までに体を持ち直すほうが先だったのでないのか?」

「あはは、オシリスは本当にいつも正しいねえ……正しくっていっつもつまんない!」


 天使のような容姿と声色で、悪魔のようなことばかり言う。

 いや、これは既に悪魔というよりも、成長を止めてしまった子供のわがままであった。

【世界】は笑みを浮かべて言う。


「僕が国に公僕として仕える前に死んでしまいそうだからね、それまでにこの国を整えておきたいんだよ。既に各階級から不満は溜まり続けている。貴族はもっとお金が欲しいとわがまま言うし、平民は税金をもっと下げろ生活ができないと怨嗟の声を上げている。この国を治めるシステムは既にガタガタなんだよ……残念ながら僕にはこの国のシステムをイチからつくり直すまでに寿命が尽きそうだからね、一旦既存のシステムで国が回るように立て直す。僕が稼げるだけ稼いだ時間を使って、次世代にシステムをつくり直してもらえばいい……そのためにはどうしても【運命の輪】をこの学園在学中に血祭りにあげないといけないんだ」

「……そのために、偽装アルカナをばら撒いたということか。少しでも【運命の輪】の魔力を削って、矜持を削って、必ず仕留めるために」

「うん。生徒会執行部の子たちは優しいからね。【運命の輪】が致命的なミスを犯さない限りは、見逃すつもりでしょう? でも、あれは処刑対象として、各地でずっとパフォーマンスを続けてきた。処刑もショーのようにして見せてきたから、皆口ではどれだけ美しいことを言っても、一度味わった嫌悪感っていうものは簡単には拭えないから、【運命の輪】を処分してもいいという大義名分を与えてしまえば、簡単にやれてしまうよ?」


【世界】の長々しい演説に、オシリスはますますもって眉間に深く皺を刻み込む。それを鎮めるように眉間を指で揉み込んでから、メガネのフレームに指を押し当てた。


「……一応事情は把握した。一応、情報開示請求は再度送るから、そのつもりで」

「答えないと思うけどね?」

「やかましい。生徒会執行部の連中の身にもなってみろ。既にあちらにも五貴人への不満が溜まりつつあるんだからな? 今のところは治安維持最優先だが、精神的には革命組織側に傾きかけている奴らもいるのだから」

「ふうーん」


【世界】は興味なさげに間延びした声を上げてから、タニアのほうに「そういえば」と話を振る。


「あの子の準備はできたの?」

「ええ、できましたわ。生徒会長、この子を生徒会執行部に派遣したいんですの。以前人手が足りないとおっしゃってたでしょう?」


 そう言ってタニアが彼女の傍付きに立たせていた少女の背中を押す。

 その小柄な少女を見て、オシリスは目を細めた。


「彼女は?」

「子爵家の息女ですわ。入学前に懇意にしておりましてね、お話したらわたくしたちと意見に賛同してくださいましてね。ほら、挨拶なさいな」


 その言葉にオシリスは押し黙った。

 辺境伯と子爵であったら、どう考えても辺境伯のほうが身分が上なため、なにをどう言われたところで、実家の手前逆らえないからだ。

 それ以前に。

 その少女の大きなサファイヤブルーの瞳に、光が宿っていなかった。


「……ルヴィリエ・ガレ、です」


 抑揚のない口調はルーナに近いが、ルーナの場合は全体的に彼女の意志で抑揚をつけていないようだが、彼女はどうだろうか。

 まるで自動人形のようだ。


「なんのつもりだ、【世界】?」

「これも全ては【運命の輪】を処刑するためだよ」


 そう【世界】は天使のように美しい笑みを浮かべて答えた。


****


 その日は授業が終わったあと、早めに帰ろうとしたところで。

 スピカはアレスやスカトと待ち合わせしていた噴水へと走っていたところで。


「新入生」


 固い口調の人たちに声をかけられた。どこかで見たことがあるとスピカは彼らを見ていて気が付いた。

 ……日頃は占星術で一緒になる先輩たちだ。日頃はスピカは処世術のためにユダの真下で授業を受けているおかげで絡まれたことがないが、彼らはどう見ても柄が悪かった。

 スピカのほうに一歩一歩近付いてくる。その仕草は、どこからどう考えても平民であった。


(……偽装アルカナの話を聞いてなかったら疑問にも思ってなかった。そもそも、どうして平民がこんなに大アルカナを持っているのって。この人たち……【世界】に繋がっているんだ)


 スピカは先輩たちの後ろのほうも注意深く見たが、どうやって【世界】が自分たちの情報を引っこ抜いているのかがわからなかった。

 スピカたちは必要な話があれば、全て寮母のゾーンの中に存在している寮の中で話を済ませているし、革命組織の場合はカウスのゾーンの中でしている。

 ゾーンの中のことまでは、さすがに立ち聞きはできないみたいだが。


(……私に直接先輩たちを派遣してきたってことは、多分【世界】は私の場所を把握しているんだろうけど……いったいどうやって? あの人もゾーン使いだってことは知っているし、カウス先輩が【世界】の監視をかいくぐってしか情報を話さないけど……可能性がないわけじゃないけど、でも)


 カウスの与えた情報で、どうにか推測を立てようとするが、上手くまとまらなかった。

 スピカが顔をしかめている中、先輩たちは言う。


「お前、アルカナを偽ってるんだって?」

「五貴人がさ、【運命の輪】、【戦車】、【死神】を差し出したら願いを叶えてくれるって言うからさあ……」

「……なんのことですか」

「革命組織のリーダーとか、寮母とかなんて襲えねえじゃん。寮母に至っては戦闘能力無効のゾーンの中に閉じこもってるし」

「【死神】に至ってはステルス決め込んでてて全然探し出せねえし……消去法で言ったら、お前くらいしかいねえんだよ」

「意味がわかりません」

「だって、五貴人が言ってたんだよ……お前が【運命の輪】だって」


 そのまま彼らがカードフォルダーで触れてきそうだったので、咄嗟にスピカはしゃがみ込んで避けた。

 カードフォルダーはぶん、と空振ったので、「ちっ」と舌打ちが飛ぶ。


(今の……多分私を下僕化しようとしてた……この人のアルカナは【悪魔】! でも残りの人たちは?)


「逃げるなっ! 大人しくカードを……!」

「ち、がいますから!」


 スピカはそのまますたこらさっさと走りはじめた。

 廊下に人気がない。

「下品」「はしたない」と思って、貴族階級はアルカナ集めをほぼしていないからだ。しているのはほぼ地位向上の機会を伺っている平民階級ばかりだ。

 それこそ後輩いびりが派手に行われていても、助けてなんてくれない。

 スピカはそれに不平不満を覚えたりしないのは、アルカナ集めに加担しなくとも、普通に応戦してくれるスカトやルヴィリエを知っているからだろう。

 スピカは必至で頭を動かしながらも、先輩たちから距離を離そうと走る。


(アレスから新しくコピー能力をもらってないし……私も昼間の戦いで魔力を削ったからそんなに使えない! でもあの人たちはズベン先輩と違って徒党を組んでいるから……ひとりでなんて戦えないじゃない!)


 他の先輩たちは追いかけてくるばかりで、能力を使ってくる気配がない。

 だとしたら攻撃しなかったら反撃できない【隠者】だろうか。そこまで考えて走っている中。

 ぐいっとスピカの首根っこが捕まれた。


「ぐえっ」


 首が絞まってアヒルの鳴き声を上げると、溜息交じりに「あなたねえ……」と声をかけられた。


「……ユダ先輩?」

「また釣り上げたんですか? 物好きな」


 天井にぶら下がっていたユダが、スピカを持ち上げたのである。スピカは「首絞まる、絞まってますっ! あとスカートの中!」とバタバタするのに、ユダは溜息交じりでカードフォルダーを取り出すと、そこから風を送り出した。

 その風がスピカの周りを覆い、それでいて上層部は開いているので呼吸はできる。おまけにスカートを抑えてくれた。

 先輩たちはユダを見た途端に「げっ」と声を上げる。


「な、んで……お前そういうのに参加しないんじゃなかったのかよ!?」

「気は乗りません。けど、五貴人に少しでも嫌がらせができるのであれば、よしとしましょう」


 そう言いながら、彼はカードフォルダーを構えた。

 そこから風がぶわりと吹き荒れる。

 最初は風を使う能力かとスピカも思っていたが、スピカの纏う風に水分が混ざってないだけで、先輩たちに向けられた風には湿度が多分に含まれている。


「これ、まさか……嵐?」

「あなた多分、ここが学園アルカナでなかったら探偵局で働いたほうがよろしいかと思いますよ」


 そう言いながら、ユダは竜巻をつくり上げると、練りに練られた竜巻に先輩たちを巻き込んで、そのまま校舎の外まで吹き飛ばしてしまった。

 スピカはその様子をぽかんと見ていた。

 ユダはいつもの陰気な顔で「ふん」と鼻息を鳴らした。


「ええっと……ありがとうございます? ユダ先輩」

「どうして疑問形なんですか、あなたは」

「いやあ、今までなにをしゃべっても返事をくれなかった人がわざわざ助けてくれたのに、驚きを隠せなくて……すみません」

「ええ、ええ。そうでしょうね。ただ、面白くなかっただけです」

「なにがですか?」

「五貴人や【世界】がいるのに、ちっとも卑屈にならないあなたを見てたら、自分だけ我慢するのが馬鹿らしくなっただけです」

「ええっと……私」


 ユダは嵐の高度を少しずつ降ろして、スピカを廊下に降ろしてくれた。

 スピカはユダに何度目かの「ありがとうございます」とぺコンと頭を下げながら言う。


「私、悪いことしてないです。もしかしたら誰かを傷つけるような言動はしたかもしれないですけど、命を取られないといけないほど悪逆なこと、してないです。だから私は死なないといけないって言われても、納得できないってだけです」

「……あなた、変わってるって言われませんか?」

「よく友達に心配かけてます。その友達を助けなきゃなんですけど」


 スピカはユダに「本当にありがとうございます!」と頭を下げてから、待ち合わせの場所へと向かっていった。

****


【吊るされた男】

・嵐の使役

・×××

・×××

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