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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
学園抗争編

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偽りのアルカナ・3

 その日、スピカとスカト、アレスが三人揃うことができたのは、昼食のときであった。

 昼食を取りにやって来た学園内の食堂は、いつにも増して閑散としてしまっている。


「こんにちはー……なんだか人少ないですね?」

「舞踏会の一件で貴族階級だけでなく平民階級まで怖がってねえ……皆寮にまで戻って食事を摂っているんだよ。別に大丈夫なんだけどねえ、命のやり取りになったら、さすがに私たちも介入するから」


 食堂で働く調理師はそう言うので、三人は顔を見合わせる。貴族階級は町で食事をしたり、使用人たちに食事をつくらせているため、食堂を使う頻度は低い。それに対して平民は安い食堂で食べるか、寮の食堂で食べるかの二択だが、わざわざ寮母のゾーン頼りに安全に食事を摂りたかったらしかった。

 本当に閑散としている中、三人で情報交換をしながら、食事を摂る。いつもは大皿を四人で分け合うのだが、今日は三人だ。スピカには少々量が多いため「なら俺食べるー」「僕も」とスピカが落ち込む暇なく、アレスとスカトが残っているものを平らげてくれた。おかげでスピカも気持ちが沈み込みそうになるのを、なんとか堪えることができた。

 食事をしながら、今日の出来事をそれぞれ伝え合う。


「なんか、また襲撃を受けたよ。【悪魔】の人から」

「それってさズベン先輩? 俺も受けたー」

「違うよ、ズベン先輩じゃなくって知らない先輩。でもあの先輩、前に会った【恋人たち】を使っている先輩たちみたいに、アルカナが噛み合ってないように見えた」

「あー……前からたびたび出てる、アルカナが全然合ってない人ねえ……俺、生徒会執行部に取っ捕まって、尋問受けた」


 思わずスピカはむせ、ゲホゲホと背中を丸めながら咳をした。スカトは顔を曇らせる。


「それ、大丈夫だったのか?」

「あっちも俺が悪いことしているから取っ捕まえたんじゃなくって、捜し物していたから事情聴取したかっただけっぽい。あ、生徒会の人たちのアルカナ聞く? 多分能力から考えて、あそこにいたのは【女帝】と【教皇】っぽい」

「【女帝】と【教皇】か……どっちも法を重んじる貴族家系に多いアルカナだな」


 スピカは以前に自分に声をかけてきた、イシスとエルナトを頭に思い浮かべた。


(あの人たちかあ……貴族も本当にピンからキリまでだなあ……享楽主義が過ぎる人に、法を重んじる人……でもどの人も五貴人とも主義主張が違うみたい)


 以前に話をしたエルメスとレダを思い浮かべた。


(エルメス先輩は、本気でアルカナ集めに興味ないみたいだけど、レダ先輩にねだられて仕方なくやっているみたいだった。でも貴族階級の人たちがアルカナを集めたところで、あんまりメリットはない……レダ先輩が集めている理由は……?)


 スピカの思考があっちこっちに飛んでいる中、アレスは手分けして食べている野菜ソースたっぷりのカツレツを食べながら、言葉を続けた。


「それでさ、生徒会執行部はずっと偽装アルカナってのを探しているっぽい」

「偽装アルカナ?」

「大アルカナだって嘘ついてるって話。でもさあ……学園アルカナでは魔力で選んで大アルカナをこの学園に召喚してるじゃん。そんなのってできるのか? どうにも五貴人が隠してるからって、生徒会執行部も情報開示しろって迫ってるみたいだけれど、梨のつぶてなんだと」

「なにそれ……」


 スピカは顔をしかめながら、ガブッとカツレツを食べた。

 アレスも不満げにカツレツをむしゃる。


「そりゃ怒って当然だろ。俺たち、全然強くない多過ぎ弱いって大アルカナ携えて生きてるっつうのに、偽装アルカナ使って入学って、いくらなんでも都合よ過ぎだろ」

「それはいくらなんでも……でも今日会った【悪魔】の先輩もそうなんじゃないか?」

「どんな人だったの? 俺はズベン先輩しつこいと思いながらやり合ってたけど」

「うん……」


 スピカは自身のカードフォルダーを見せた。既にアレスから借りた力はなくなり、いつも通り【愚者】にステルスを決め込んでいる。


「ズベン先輩だったら陽動をしてきて、下僕化するじゃない。あの人はそんなことしなかった……力を使いこなせてない感じがした。多分あの人が、生徒会執行部の言っている偽装アルカナなんだと思う」

「しかし……生徒会執行部まで問題にしている偽装アルカナ、こんな連中を増やして、なにがしたいんだろう?」


 三人とも「うーん……」と考え込むが、答えは出なかった。


「そりゃ決まってんだろ。手駒っつうのは何人いても足りねえからな。お貴族様は」

「あっ」


 食堂で会うのは珍しい。カウスとデネボラ、アテルスとアルが揃い踏みで食堂にやってきたのだ。ガラガラの食堂を見て、「ふうむ」とカウスは唸り声を上げる。


「こんにちは、カウス先輩」

「こんにちは、カウスさんっ」


 全員挨拶をすると、カウスは軽く手を振りつつ、食堂でさっさと肉巻きを注文して、それを食らいつきつつ「ガキ共無事か?」と尋ねてきた。


「ああ……いないのは【正義】のガキか」

「あ……」

「話は聞いた。五貴人にガキをひとり奪われたと」


 誰だろうとスピカは考えた。


(ユダ先輩はそこまで親切とは思えないし……いつもどこかからこちらの観察しているナブー先輩? 生徒会執行部がわざわざ革命組織のカウス先輩たちに声をかけるとは考えにくいし……)


 スピカが考えてる中、スカトは「そうです!」とガタンと立ち上がって訴えた。


「五貴人の連中、ルヴィリエに脅迫まがいなことをして、それで……!!」

「ふうむ……さしずめガキのアルカナの能力をご所望ってことか。こりゃ相手は【星】確定だな」


 スカトが熱弁する中、カウスは肉巻きに食らいつきながら冷静に分析する。


「【星】? それこそ、五貴人でなかったらそんなアルカナ持ってないですよね?」


 スカトの言葉に、スピカはきょとんとした。


「あのう……五貴人が全員揃ったとか、支配者層が五貴人の家系っていうのは、何度か聞いたことあるんですけど……あの人たちって、アルカナ固定……でいいんですか?」


 たしかに血筋でアルカナはある程度決まっては来るが、家族でアルカナが違うことだって普通に存在するし、違うアルカナ同士で結婚すれば普通に全く別物のアルカナだって生まれることだってある。

 代々アルカナが固定というのは、スピカからしてみれば信じられないことだった。

 アレスもまた、目を細める。


「さっき生徒会執行部が偽装アルカナの捜査をしてるっつってたんですけど……まさかと思いますけど、五貴人まで偽装してるとか言わないっすよねえ?」

「落ち着け。ひとつ、俺も五貴人のアルカナの情報を全部抜けてはいない。ひとつ、最初から説明するから、ちょっと待て。デネボラ」


 隣で優雅にトマトグラタンを食していたデネボラに促すと、デネボラが「せっかちだねえ」と呆れた顔をしながらも、自身のカードフォルダーに触れた。

 同時にカウスもカードフォルダーに触れ、ゾーンが展開される。

 前にスピカとアレスが入ったことがある隠れ家的な空間ではなく、どちらかというと教室のような空間だった。食堂の食事はそのままだ。

 カウスはホワイトボードに手を伸ばすと、勝手に文字が書き込まれていく。


「まあ食いながらでいいから、説明を読め」

「ええっと……【五貴人は、辺境伯、公爵、神官長、公娼、王により成立している】……公娼!?」


 聞き馴染みのない言葉に、スピカは小さく悲鳴を上げた。

 それをアセルスがやんわりと説明する。


「公娼とはたしかに娼婦とされてますけれど、基本的には王城ご用達の歌姫や踊り子になりますわね。もちろん王族と懇ろになる方々もおられますけれど、貴族の中でも五貴人クラスにならないと支払えないお金を取りますから、一般的な貴族ではまず買うこともできません」

「はあ……そんな人がいるんですねえ……」


 スピカは舞踏会で出会ったタニアとルーナを思い浮かべる。どう考えても人を引きつける力はタニアのほうだから、タニアだろうかと考えるが。

 カウスはアセルスの説明に付け加える。


「まあ、表向きはな。真相は汚れ仕事をとてもじゃねえが貴族階級の人間にはさせられねえ。さりとて、あのアルカナは危険過ぎて市中に出回らせる訳にもいかねえから、王族が監視しているってところだろうな」

「危険過ぎる……アルカナ、ですか?」

「【月】……ありゃ、単純にゾーンを使う能力じゃねえ……相手を精神的に折れるまで追い詰め、廃人にする、拷問特化のアルカナだ」

「あ……」


 途端に脳裏に浮かんだのは、思い出そうとしても全く顔を思い出せないルーナだった。

 彼女の言葉は、あまりにも鋭過ぎた。それはナイフのようにぱっくりと傷口を切り開くものではない。何度も何度も痛い痛いと言っても刺し続ける、蝕むように傷口を抉ってくる針のようなものだった。

 スピカがあのときに覚えた恐怖で言葉を詰まらせている中、スカトは尋ねる。


「……ルヴィリエはその人に捕まって、やられたみたいです」

「だろうな。あいつらは【正義】の力を手元に置いておきたかったんだろう。そのためにあのガキは」

「……それ、【正義】だったら誰でもよかったんですか?」


 スピカの問いにも、カウスはあくまで淡々としたままだった。


「在学中にいる【正義】であったならな」

「私は、別にルヴィリエと【正義】だから友達だったんじゃないですっ!」


 スピカはガンッと机を叩いて立ち上がる。カツレツのソースが飛ぶが、それを気にもせず。アセルスが自身のカードフォルダーに触れると壺から水を出してハンカチを湿らせ、「今なら取れますから拭きなさいな」と差し出してくれたので、小さく「ありがとうございます」と言って拭きながら、言葉を続ける。


「あの人たち……ルヴィリエのこと、なんにも考えちゃいないじゃないですか……あの子からしてみれば、私たちのことなんとも思ってなかったのかもしれないですけど……でも、助けたいんです……」

「落ち着け」


 カウスは肉巻きを全て平らげると、再びホワイトボードに手を向けた。

 先程の文字は消え、代わりに新しい文字が出る。


「イチから説明するって言っただろ。それに、ガキ共が闇雲になって殴りかかって考えを改める連中だったら、俺たちがわざわざ徒党を組んで革命をおっぱじめようなんてしねえよ」


 それにスピカは言葉を詰まらせる。

 カウスの隣でデネボラが頷き、アルとアセルスが頷いている。おそらくは、彼らが従えている今はいない革命組織の面子も、彼の考えに賛同しているのだろう。


「あちらからしてみれば今回は【運命の輪】がいるから、それを処刑すれば丸く治まると思ってるのと一緒で、俺たちからしてみれば五貴人には【世界】がいる。そいつをどうにかすれば、革命は成されるんだから、力押しだったら負けるとしても、こちらが有利なことにはなんら変わりはねえんだよ。だからあっちも焦ってるんだ」


 カウスの言葉には温度がない。

 だからこそ、信用ができた……説得でも説教でもない、事実しか述べてないのだと。

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