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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
学園抗争編

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38/112

助言と道化と狂言回し

 星占術の授業が終わり、次の授業へと向かう前に。スピカは頭上にいるユダに顔を上げた。


「あのう……ユダ先輩って相談とかは乗ってくれたりしますか?」

「僕に相談するような奇特な方、ほぼいらっしゃいませんけど」

「まあ……たしかに」

「はい?」

「すみません」


 どう考えても天井にぶら下がっている人間と、最低限の挨拶と世間話をひとつふたつするスピカのほうが変わっているのだ。

 もちろんユダからしてみれば、それが戦う力のないスピカの処世術だということを理解できているかはわからない。


「それで?」

「はい?」


 スピカは天井を見上げると、ユダは目を細めてスピカを見つめる。


「あなたでしょうが、僕に相談を持ち込んできた奇特な方は。それで、なんなんですか? 僕、次の授業がありますのであまり時間は取れませんけど」

「……他の授業、受けてたんですか」

「あなた、僕をなんだと思っているんですか。天井にぶら下がって変人アピールしていると、余計な詮索をされないんで助かってるんですよ」

(人に話しかけられたくないんだったら、天井をぶら下がる以外にも方法はあったような気がする……)


 すかさずスピカはそう思ったが、一応話を聞いてもらえるらしいので、周りをきょろきょろとさせてから、ようやく天井を見上げた。


「……友達が、五貴人に連れていかれました」

「穏やかではありませんね」

「友達、なにかされたみたいで、あの人たちに玩具扱いされてて……どうやったら助けられるのか、わからなくって……」

「新入生が、五貴人に挑むと?」

「そりゃ……私だって戦う力は、ないです……でも、私も学園アルカナに来るまでは、大アルカナの友達なんていなかったですし……初めてできた友達なんです。あっちは余計なことすんなと思うかもですけど……助けたいんです」


 しばらくの沈黙。もしかしなくても、ユダは相談を聞く気はあっても、乗る気はなかったんだろうか。そうスピカはあわあわとして、周りに人がいないかを気にしていたところ、ユダが「はあ……」と小さく溜息をついた。


「これ、相談に乗る相手を間違えてるかと思いますよ。革命組織か変人のナブーにでも持ち掛けるべき案件かと思います」

「そ、そりゃあの人たちに会えたらいいですけど、あの人たちなかなか見つからなくって……っ!」

「おや、既にあの方々と知己がありましたか」

「一応……」


 ユダは意外そうなものを見るように目を大きく見開いたあと、「あなた、ギャンブルは?」と尋ねられる。


「ギャンブル? トランプとかの……ですか?」

「そうですね。あれは相性勝負です」

「相性……」

「アルカナの戦い方も同じです。あちらのほうが強い、負けると思ったら負けますが、相性が悪くなければ負けることはありません。五貴人はですね、たしかに強力で凶悪なアルカナの持ち主の集まりですよ。おまけにこの国の支配階級の人間たちで固まっている。ですけど、ここは治外法権。学園内で人が死んでも詮索されないのは、なにも平民だけでなく、貴族にも等しく支払われる価値観です」

「はあ……」

「あなたは少なくとも知己があり、あなたの知己の数だけならば、五貴人よりも多いです。できる限り情報を集めること。そして五貴人の相性のよしあしを割り当て、勝てる相性の知己と一緒に立ち向かいなさい。それとですね」


 日頃から陰気なことばかり言っているユダが、淡々としながらもこれだけ的確な助言をしているのを、スピカは初めて見た。

 ユダは最後にこう吐き出して締めくくった。


「最低限の会話をした人間を、そこまで嫌うことはないかと思いますよ。触れていい場所悪い場所はそれぞれ違いますし、それに土足で踏み込んで関係を悪化させない限りは」

「……もしかして、ユダ先輩」

「なんですか?」

「慰めてくれていますか?」


 途端にユダは不機嫌になり、ぶら下がったまま、天井を移動しはじめた。


「相談には応じました。もう結構でしょう?」

「あ、はい! ありがとうございます! なんとか、なんとかします! はい!」


 スピカは天井を器用に移動していくユダに手を振ってお礼を言った。

 ユダからの助言は、大したことがないようにも聞こえるが、スピカからしてみれば重要だった。


(私のアルカナも、相性のことを考えれば、勝てるアルカナもあるのかもしれない。それに、五貴人のことをもっと知ろう。さすがに【世界】のことはわからないかもしれないけど……他のアルカナだったら、少しは情報があるかもしれない!)


 基礎教養を頑張りながら、図書館に通おうと気合を入れながら、スピカは駆けて行った。

 少しだけ肩の力が抜け、いつもの彼女になった。


****


 ユダは【吊るされた男】ゆえに、天井をぶら下がって生活を送っている。

 それはアルカナの特性ではなく、スピカにも言った通り、変人として遠巻きにされるほうが楽だからである。

 強い人間にはこびへつらう。

 弱い人間には平気で横柄な態度を取る。

 相手のことを思いやって行動を取れる人間は案外少なく、変人のように振る舞っていたら「なんだこいつ」と思って強い人間も弱い人間も遠ざかるのが人情というものであった。

 そこで舐められたら石を投げられたり、アルカナの的にされたりするので、適度にアルカナを使って「こいつには構わんとこ」と思わせることも忘れない。

 それがユダの処世術であった。

 ユダ……いや、彼の実家はそうしなければいつ息の根を止められても仕方がなかったのだから。


「おや珍しい。君が後輩に親切にしているところを初めて見ましたよ」


 そう親し気に声をかけられて、ユダは立ち止まる。天井にぶら下がったまま。

 ちょうどユダの真下まで歩いてきたのは、杖を携えてシルクハットをかぶったナブーであった。ナブーはユダに向かってシルクハットを脱いでお辞儀をしてから、再びシルクハットをかぶった。

 スピカ以外の例外と言えば、なんとか床に降ろして授業を受けさせようとしつこいオシリス、なにかと話しかけては不愉快な想いをさせてくるので聞き流している【世界】、そしてご存じ息を吸うようにうろんなことを垂れ流してくる目下の人物であった。


「単純に相談に乗ってくれと言われたので応じただけですよ」

「でも君は、基本的に人に対して興味ないでしょう? 普段であったら、相談に応じても、慰めるような真似はしませんよ」

「……余計なお世話です」


 そのまま無視して立ち去ろうとしたが、「ところで」とナブーがユダに尋ねる。


「そろそろ君も舞台に上がりませんか? 君の悲観癖を鑑賞するのもたしかに楽しいですが、そろそろ別の一面も見てみたい。俳優がひとつの役だけに固執しては損ではありませんか」

「あなた、相変わらず人生を舞台にたとえるんですね……」

「だって、君が舞台に上がれば、誰もが沸き立ちますよ。【世界】の勧誘も、革命組織の懇願も無視している君が、主役に値する少女に珍しく声をかけた。素晴らしいじゃありませんか」

「馬鹿馬鹿しい」


 スピカはなにをどう気に入られたのかは知らないが、本当にナブーとも知り合いらしい。だとしたら、革命組織と知り合ったというのも本当なのだろう。彼らはすぐに根城を変えるために、生徒会執行部も足取りを掴めていないというのに。

 ユダは次の授業に向かおうとする中。

 ナブーは逃がさないとばかりに、くるりと杖を回した。


「オージン・ルーン……優秀な魔法学者であり、アルカナカードの制作者の家系たる君が、名前も素性も偽って、ただの道化で終わるのは、あまりにもつまらなくはありませんか?」


 そのひと言で、ようやくユダ……オージンは立ち止まった。

 相変わらず白塗りの食えない男……生徒会執行部も革命組織も五貴人すらも敵に回したがらない男であった。


「あなた……知ってたんですか」

「なにぶん、顔は広いもので。大概の情報はわたしの耳に届くんですよ。【世界】ほどではありませんが。だからこそ、君が舞台に上がったらどうなるのかが興味あるんですよ」


 ナブーはくるりくるりと杖を回した。

 それは狂言回しの仕草であり、実際にナブーは狂言回しだ。

 どの派閥にも、権力にも属さない。だからこそ、舞台の上にも観客席にも、自由に移動できる。


「この国はアルカナにより管理され、アルカナが身分を決め、力を決め、人の心の在り方を決めてしまう。でも最初は本当にそんなものだったのか? 本当はもっと別のものだったのではないか? でなかったら、もっとも強き力を持つ【世界】が、【運命の輪】に脅えてわざわざ処刑するに至りませんよね?」

「あなた……そこまで突き止めたんですか?」

「そんな。わたしは残念ながら推理する力は備わってないんですよ。ただ想像たくましく考えられるだけで。でも君の言い方からして、そこまで的外れでもないようで安心しました」


 仰々しい動きを止め、ようやくナブーは杖を手に携え直した。

 それを呆れた顔をして眺めたユダは「ふん」と鼻息を出した。


「スピカさんの相談内容は僕には不得手です。あなたが出向いて差し上げるか、革命組織に誘導したほうがよろしいのでは?」

「おやおや。本当に君も変われば変わるものだ」

「ご友人が五貴人に捕らえられたと」

「なるほど……たしかにこれは厄介な話だ。そうだね。カウスくんとデネボラくんに話をしてあげよう」


 一瞬ナブーは寒々しい目になったものの、すぐにいつもの人を食った顔になり、そのまま立ち去って行った。

 それをユダはやれやれと見送っていた。


「……本当に、らしくもない」


 日陰でなければ生きていけず、目立つことに罪悪感を覚えて生きてきたのだ。だからこれ以上誰かの生死に関わりたくはなかった。

 しかし当たり前のことを当たり前にした後輩に、らしくもない助言をしてしまった。

 これで生徒会執行部やら五貴人やらにまた絡まれたらと思うと。

 先のことを考えてげんなりしながら、ユダは授業へと向かった。

 天井にぶら下がり変人を演じていても、根の学者家系らしい勤勉さだけは、拭い切ることはできなかったのである。

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