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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
学園抗争編

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36/112

後始末とこれからの話

 デネボラは自身の魔力がシューシューと抜けていく感覚を覚え、微笑んだ。


「あの子たちは、無事に脱出できたようだね」


 カウスがアレスに許可を出して、彼女の魔力を借りている。魔力をそれなりに食らっているところからして、アレスの【愚者】がコピーしたのはゾーンの作成魔法だろうと想像した。

 彼女自身はアルカナの性質ゆえか魔力量は比較的豊潤なため、よっぽどの無茶をしない限りは魔力量枯渇で死にかけることもない。

 だからこそ、錯乱状態のアルカナ集めの人々とも体ひとつで対峙できる訳で。

 彼女が自身のアルカナの能力で怪力を引き出さずとも、アルカナに甘えたような動きでは彼女を倒すことはできない。

 ドレスでひらりと脚を上げた途端に、皆が脚と中身に気が削がれている間に蹴りが決まって終わっている。

 その中でイライラとしているのは、指名されてしまった【死神】であるアルであった。


「なんなんじゃ、本当に【世界】は……! こんなグダグダにしてなにがしたかったのか……!」

「なんでしょうね、あの方もうちょっと狡猾な動きをする方だと思っていましたが、焦ってらっしゃるような……」


 火の粉が飛ぶのを、アセルスは自身の瓶から出る水で打ち消し、イライラしているアルを心配する。


「あまり怒らないでくださいな。今カウスさんが交渉に出かけてらっしゃるでしょう?」

「あの頭でっかちな生徒会執行部では、話にならんだろう。それに、とうとう【運命の輪】の存在が露呈してしまった……! ああ、もう、なにもかもが滅茶苦茶だ」

「まあ……あの状況でどうして彼女の存在を露呈させたのかはわかりませんが」


 アルとアセルス、ふたりが話しながらでも、互いにアルカナの能力を引き出して相手を追い払う。ふたりとも無事に逃げ出したらしいスピカのことを心配しているものの、今は目の前のこと以外できることがない。

 その中、デネボラが言う。


「まあ、生徒会執行部もいい加減やばいとはわかってるだろうさ。あの上の奴らどうにかしないといけないってのは。甘やかし過ぎなんだよ。だからもろもろが歪になっている」


 そもそもいつの間にやら【世界】も、残りの五貴人も見かけない。

 大方狂乱状態の講堂の現状をゲラゲラ笑いながら鑑賞しているのだろうと察することができる。たちが悪いにも程がある。

 デネボラの言葉に、アルが「ふん」と鼻息を立てた。


「【世界】がおかしいというのは今にはじまった話ではないじゃろ。それを放置した生徒会執行部も同罪ゆえ」

「まあ、あたしたちの大将に交渉は任せようじゃないか」


 デネボラの蹴りが華麗に決まった。

 それと同時に、生徒会執行部がそれぞれ後始末と鎮圧に乗り出しはじめたので、カウスの交渉が締結決裂か判断し次第、この場から離れないといけない。

 革命とは、ただ悪いものを悪い、おかしいものをおかしいと言うだけでは話にならない。

 代替案がなければ、誰も耳を貸さないものだから。


****


 オシリスは忌々しいというのを隠しもしないで、王笏を取り出すと、そこからアルカナの力を引き出していた。


「生徒会執行部です。学内行事で暴力沙汰とは何事ですか!? 皆さん連行し次第、きちんと処罰します!」

「うるさい! 今まで放置していた癖に!」

「そもそもお前らが放置しているんだろう! 【運命の輪】も【世界】も!」

「あなた方こそうるさいですよぉ! 学園ではどんなアルカナだろうが、等しく学ぶ権利は存在します! アルカナ集めだけに興じる暇があったら、学園内できちんとコネクションをつくって勉学に励んだらどうなんですか!?」


 イブが吠え、彼らが放つ水やら火やらを土壁で塞き止めるが、あちらに暴風の使い手がいるらしく、彼女の土壁は難なく壊されてしまう。


「うるせえ、お前の力なんてとっくの昔に割れてんだよ! この生徒会執行部の鉄砲玉が! とっととくたばれ……!」


 そのまま暴風がイブを持ち上げる。この高さから床に叩き付けられたら、間違いなく死ぬ。日頃であったら、イブは【女教皇】の力である土の行使で床を砂に変えて逃れるくらいできるのだが、猪突猛進な彼女でも恐怖に駆られたら身が竦む。

 やがて風はピタリと止んだ。


──死ぬ


 イブがぎゅっと目を瞑ったとき、なにかが自分のクッションになり、衝撃が襲ってこなかった。それはクッションというよりも……人の太股のような感触をしていた。


「よう、いつもの元気はどうした?」

「なっ……ど、どうして、革命組織の方が私をわざわざ……!」


 彼女は気付けば、カウスの膝の上にいたのだ。カウスは戦車(チャリオット)を動かして、講堂の中を飛び交っている。それにイブはムキィーと声を上げる。


「なんですか! 講堂の中で戦車を飛ばすのはマナー違反です!」

「なんだ、あのガキ共のアルカナで下手打っておっ死ぬのがお似合いだったか?」

「そんなことないですもん! 会長が助けてくれてましたもん!」

「そりゃあいつだったら難なくいなせてだろうなあ、貴様と違って」

「馬鹿にしてますっ!?」

「してないしてない。貴様くらい元気なのが、この学園にゃちょうどいいだろうさ。どいつもこいつも真面目に考え過ぎだしなあ。この狂乱状態を見ろ。無茶苦茶じゃねえか。下手に抑え込んでても、暴発したらご覧の有り様だ。もっとちゃんと空気を抜いてやらねえと、人間いつ不安と不満で爆発するかわかったもんじゃねえ」


 そう言いながらカウスはぐるっと講堂の上空を回った。

 どうにかイシスが避難誘導し、出入り口をアルカナ集めをしていない生徒たちが並んで逃げ、オシリスが制圧した生徒を捕縛し、エルナトに引き渡している。彼のアルカナのおかげで、処罰を受けた生徒はしばらくは大人しくしているだろう。

 どれもこれも、不満さえつつかれなければ起こらなかった光景だが、この事態は処罰される側の生徒だけの落ち度だったのだろうか。

 既に首謀者たちはいないのだから。

 イブは悔しげな顔でカウスを睨んだが、カウスは涼しげな顔で、オシリスが王笏をふるってアルカナを行使している横に戦車(チャリオット)を停めた。


「よう、オシリス。加勢するか?」

「貴様……うちのイブが世話になったな?」


 カウスに声をかけられ、あからさまにオシリスは顔をしかめた。それにカウスはやれやれと肩を竦めてみせる。

 イブは涙目で「会長~」と寄って行ったのがカウスの目尻に映る。


「誤解すんなよ。落下死しそうになってたのを拾ってやっただけだ」

「……礼だけは言っておく」

「で、本題だが。これだけの騒動起こしておいて。貴様はまだ五貴人と【世界】を放置しておくつもりか? 今回のことで我関せずだった生徒すらアルカナ集めに巻き込むというのを悟っただろうが」

「ちょっと……あなたなにを言い出す気ですか!?」


 イブがカードフォルダーと取り出そうとしたのを、「イブ」とオシリスが王笏を振って押し留める。イブは悔しげに唇を噛みながら、カードフォルダーをしまい込んだ。

 オシリスが王笏をひと振りすれば、風が相殺され、水が弾かれる。火が放たれれば土で塞き止められ、土を流そうと風を行使されれば水で土を強化する。

【皇帝】としての力を次々と行使しながら、オシリスはカウスを睨んだ。


「俺に……【世界】を裏切れと言いたいのか?」

「そもそもおかしな話だな。貴様は次期宰相であり、次期国王の【世界】の監視が主立った役割だろう。あれを野放しにした結果がご覧の有様なんだから、ちょっとは反省しろ」

「貴様こそ、混ぜっ返していないか?」


 イブはハラハラしながら、オシリスとカウスのやり取りを見つめている。

 ふたりの会話は、イブからしてみれば空中でやり合っているように掴み所がなく、どちらに対してもどこで反論すべきかがわからない。

 オシリスに加勢したいのに、できない。それでも黙って見つめていたところで、オシリスが「イブ」と優しく声を上げる。


「そろそろ制圧は終わる。エルナトに捕縛した生徒を引き渡したら、次はイシスを手伝ってやってくれないか?」

「は、はい……!」


 イブは慌てて「行きますよ!」とオシリスが制圧した生徒の首根っこを掴んで引き摺ると、エルナトの元へと向かっていった。

 アルカナの力のせいですっかりとぐちゃぐちゃになってしまった講堂を眺めつつ、オシリスがカウスを睨んだ。


「この学園では外の法律は通用しない」

「そうだな。だから外ではまず【運命の輪】は見つかり次第即処刑されるが、この学園においては見つけ出さない限りは居場所がある。見つけても通報の義務もなければ、匿った連中をしょっ引くこともない」

「だからこそ、【世界】の力が試される。【世界】が学園の中でどれだけの影響力が出るのかの試験石がこの学園なのだからな」


 オシリスの言葉に、カウスは目を細めた。


「……つまりは、【世界】の学園制圧計画のために、【世界】の行う全てのことに目を瞑れと? 貴様、もうちょっとマシな人間だと思っていたがな」

「ああ、俺だって現状がよくないことくらいはわかっている。【世界】が生き急ぎ過ぎたせいで、滅茶苦茶だということくらいな。五貴人だってそろそろ不満が漏れ出そうだとはわかっている。だがな……!」


 オシリスは吐き出すように言ってのけた。


「……あれの寿命が、王位継承まで持つかどうかがわからなくなった。だからあいつは、自分が在学中の内に、学園を制圧して記録に残ろうとしている。滅茶苦茶な方法で学園全ての生徒に傷を付け、その傷により国への拘束力を強めようという、荒療治でな……!」

「あれひとりの命のために、学園ひとつを犠牲にしろと?」

「そうとは言っていない! だが……俺はあれを止めるべきかやり遂げさせるべきかの、判断が付かない……!!」

「はあ……」


 カウスはオシリスの言葉に、髪を引っ掻いた。


「あれひとりの命に対して揺らぐ癖に、ガキひとりの命はどうでもいいと? なにもしてないのに処刑対象にされ、ずっと逃げ惑いながら脅え続けるガキと、恵まれた環境で持て囃され、命のやり取りすらも『多少のわがまま』として全部通るお坊ちゃんと、命の価値が違うと? 糞食らえだな」


 カウスは「ちっ」と舌打ちをすると、さっさと戦車(チャリオット)に飛び乗った。


「オシリス、俺ぁあのガキ共に肩入れする。貴様と決着を付けるのは今じゃねえからな」

「おい……! 逃げる気か!?」

「その辛気臭い顔をどうにかしたらなんとかしてやる。【世界】を甘やかした罪も、そこできっちり支払わせる」


 そのまま彼は戦車(チャリオット)で飛んでいってしまい、見えなくなった。大方ゾーンを出して、そこに革命組織の面子を回収するのだろう。

 オシリスは唇を噛んだ。

 本当に無茶苦茶だったのだ。【世界】のしでかしたことは。

 だが。【世界】が全てを敵に回しても、付き合うと決めたのはオシリスであった。

 秩序と混沌。善と悪。正義と悪辣。

 全てが入り交じった混沌の中で、彼は王笏を握りしめている。

****


【力】

・怪力

・アルカナカードを一枚使役して、魔力を貸す

・×××


【皇帝】

・王笏の召喚

・四大元素 (地・水・火・風)の操作

・×××

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