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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
学園抗争編

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32/112

舞踏会の罠・1

 新入生たちが講堂を訪れるのは二回目だが、すっかりと様変わりしたその場所に、皆で驚いた。

 段々になった席には料理が並べられ、中央にはダンスフロアが用意された。その上、オーケストラまで入るのだから、荘厳な雰囲気だ。

 料理と一緒に並んでいるのはビール。さすがに酒は推奨されないが、生徒でも飲めるビールもわざわざ用意してくれているのだからありがたい。


「すごい! あそこに並んでる料理、半分くらい見たことない!」

「あー……いい匂い。こんなとこにまで来なかったらマジで匂いすら嗅げなかったわ」


 平民ふたりが料理に目を輝かせるが、それにルヴィリエが「ちょっと!」と注意する。


「今日は一曲終わったらすぐに帰るんだから! ふたりとも料理にうつつを抜かさないで!」

「う、うん……」

「でも俺たち、こんな料理次いつ食べられるかわかんねえし」

「次の舞踏会があるでしょう!?」


 ルヴィリエにそう叱りつけられ、しゅんとするスピカとアレス。

 それを眺めていたスカトは、ふいに背筋をしゃんと伸ばして「お久しぶりです!」と挨拶をした。

 そこで現れたのは、カウスとデネボラ、アルとアセルスだった。

 ソファーで寝ている姿ばかり見ていたカウスは、意外なほどにドレススーツが似合っていた。伸ばしっぱなしの長い髪を金色のリボンでひとつにまとめ、金糸の縁取りの施された白いドレススーツを着たら、一介の紳士に見える。彼の家系は既に爵位は剥奪されているはずだが、それでも風格が出るのだ。

 彼の隣にいるデネボラは空色のマーメイドドレスを着て、金の首飾りを付けている。元々スタイルのいい彼女は、空色のマーメイドドレスにはスリットが入っていないものの、脚の長さを際立たせる上にウェストのくびれまでを強調する姿、おまけに長い髪をアップにまとめているために美しいうなじまで露わになり、先程から彼女に視線が集まっている。

 日頃から陰気臭いアルは、黒いレースの付いたドレススーツを着ている。こちらはスカトと同じく前時代的なデザインのドレススーツだが、不思議なことにこれを着たアルには陰気臭さやカビ臭さより先に気品が際立つ。

 隣のアセルスは赤い巻き毛はそのままに、クリーム色のマーメイドドレスを着ている。簡素なデザインだが、この場にいる豪奢な雰囲気に飲まれることはなく、むしろ彼女の日頃からの優雅さを際立たせるものとなっていた。

 これだけ美男美女が揃い踏みしているが、遠巻きになっているのは彼らが革命組織の人間だと知られているからだろう。


「ああ、貴様らも来ていたのか……元気だったか? ずいぶんとやり合ってるようじゃねえか。アルカナ集めに興じている奴らと」


 カウスは気安くポンとスカトの肩を叩くと、スカトは途端にパァーッと顔を明るくさせる。

 一方スピカとルヴィリエはアセルスとアルに頭を下げていた。


「お久しぶりです、先日はバイトを紹介してくださり、ありがとうございます!」

「いいんですのよ。でもごめんなさいね。アルカナ集めに巻き込んでしまって……あれからあちらのバイトはなさってなかったでしょう?」

「ええっと……それなんですけど。ナブー先輩に誘ってもらって、町でバイトしていました」


 スピカの言葉に、アルがピクンと眉を持ち上げる。


「ナブーと? あの愉快犯と?」

「愉快犯かどうかはわかりませんけど……はい」


 アルが意外そうな顔をするのに、スピカはあの白塗りの不審人物を思い浮かべる。


(あの人、いろいろ面倒見てくれたり警告はしてくれるけれど、私たちのことをどうやってか鑑賞してたり見物してたりするからなあ……今もどこにいるのかわかんないし。でもそっか。私たちは面倒見てもらってたから気にしてなかったけど、あの人が面倒見るっていうのはよっぽどのことなんだ)


 ひとりでそう納得していたら、アレスが「あー……そのことなんすけど」と話を切り出した。


「ナブー先輩、こいつらに『一曲目が終わったらさっさと寮に戻れ』って忠告してたみたいなんですけど……俺らも話し合いして、とりあえずこれを先輩たちに報告してから帰ろうと話がまとまったみたいなんですけど……理由とかわかります?」


 アレスの言葉に、カウスは「ああ……」と髪を撫で上げた。


「生徒会の連中がおかしな動きをしていたからな。大方、五貴人がなにかやらかしたんだろうさ」

「そのう……前々から思ってたんですけど、その五貴人はアルカナ集めをしようって決行したり、今回舞踏会でなにかしらやらかそうとしたり、結局なにがしたいんですか?」


 アレスがそう尋ねると、カウスはちらりと周りを見回してから、デネボラに尋ねる。


「貴様、今は俺に力を寄越せるか?」

「やれないこともないけれど、ここでゾーンを展開させたら、生徒会やら五貴人やらを警戒させるだけさね。立ち聞きされてもかまわない程度に話をとどめな」

「だとよ。だから俺も聞かれてもかまわねえ程度しか話さんぞ」


 そう警告を新入生たちにしてから、口を開いた。


「五貴人の目的はだいたい三つほどだろう。【運命の輪】の捕縛、自分たちの権力の誇示、そして暇つぶしだ」

「最後待って?」


 思わずアレスがそう突っ込んだら、スコンとスカトが殴る。日頃から襲撃を拳ひとつで迎撃している彼の打撃にしてはかなり軽い。

 ふたりのやりとりを尻目に、ルヴィリエはおずおず尋ねる。


「あのう……暇つぶしっていうのは……? 他のふたつもよくわからないんですけど……」

「五貴人の連中は学園内のことは大概盗み見れるからな。それでアルカナ集めを娯楽の一環としてるんだろ」

「ひどい。私たちいきなり襲われてるんですよ!?」

「ああ、ひどいさ。でもあいつらはなんにも思っちゃいねえよ。あいつらは偉そうなんかじゃない。偉いんだから、娯楽を得るのは当たり前だと、そう思っている。それが貴族って奴だからなあ……貴様らのように平民と貴族が入り交じってることのほうが、そもそも珍しいからな」


 そう言われ、スピカは気付いた。


(そっか。カウス先輩は普通にスカトと知り合いだし、ルヴィリエも貴族の出だってわかるんだ)


 彼女がひとりそう納得していたところで、スカトも口を挟んでくる。


「暇つぶしをしたら、権力の誇示や【運命の輪】を捕縛できるんですか……?」

「大方、自分たちは選ばれしアルカナだと誇示したいのであろうよ」


 唐突に口を挟んできたのはアルであった。陰気臭い先輩の唐突な乱入に、スカトは少しだけ困惑して彼を見た。


「五貴人……特に【世界】はアルカナ集めで遊んでおるからのう……あれは我らが考えるよりもよっぽど陰険よ。しかし、日頃なんでもかんでも鑑賞物扱いするナブーを動かしたとは、そちらなにをやった?」

「えー……?」


 アルの指摘で四人とも顔を見合わせたが、特にナブーに気に入られた覚えがない。強いて言うなら。


「舞台の主役について説かれたくらいで……?」


 スピカがそう言った途端に、アルが意外そうに目を丸くし、カウスはにやりと笑った。


「あいつが主役の理論を説くっつうことは、よっぽど貴様ら気に入られたんだな。だがな、あいつは飽きるのが早い。せいぜいあいつを楽しませてやれ。あいつが楽しんでる間は、少なくとも敵には回らんだろうさ」

「俺ら本当になんもしてないんすけど?」

「無自覚なら、それでかまやしねえよ。俺たちもあれを敵に回さず済むから、万々歳だしな。それから、一曲踊ったら離脱しろという話だが」


 カウスはデネボラを見た。彼女はヒクンと鼻を動かしている。それは彼女の妖艶さと合わさり、肉食獣の動きに見えた。


「……どうにも臭うね。合わない臭いが複数ある」

「そうかよ。だそうだ。おそらく外に逃げたら逃げたで、五貴人の手の内のもんに襲われるのがオチだろうさ。まだ講堂にいたほうがマシだ。万が一の場合は俺がゾーンを展開するから、その中に引き込めるからな」

「えー……すぐ逃げるはずだったのに」


 アレスがげんなりとしていたら、カウスがいきなり彼の肩をぐいっと抱いた。


「な、なんなんすかっ!?」


 アレスが慌てていると、なにかしら囁いてから離した。

 そのまま革命組織の集団を連れて立ち去っていく。


「せいぜい上手く立ち回れ」


 そう言い残して、人波に紛れていなくなってしまった。

 スピカはアレスに尋ねる。


「カウス先輩なんか言ってたの?」

「……いや、別に。とりあえず、一曲踊ったあとに仕掛けられるのはわかってんだし、どうする? このまま寮まで逃げ切れたらいいけど、カウス先輩の警告だったら、それも微妙だし」

「もう! だから今日は大人しく寮にいようって言ったのに!」


 ルヴィリエがぶんぶんぶんと腕を振るが、後の祭りだ。既に一曲目がはじまりかけている。

 スカトはひょいとルヴィリエの腰を抱いた。それに彼女はうろんげな顔を向けた。


「なによ?」

「さすがに僕のアルカナだったら、君を守るには足りないけど。拳でできることだったらできるから」

「……私はいいから、スピカを守ってよ」


 ルヴィリエのぼやきに、今度はアレスがスピカの肩を抱いた。


「とりあえず、臨機応変に行こう。一曲終わって様子見したら、逃げる。俺もさすがにできるかどうかわかんねえし」

「えっ、できるってなにが?」

「わっかんねえ」


 曖昧な会話のまま、皆でダンスフロアへと向かう。


 ここはダンスフロア。本来ならば豪華絢爛な社交界を夢見る子息子女のための練習会場。

 しかし今は五貴人の遊楽場へと姿を変えてしまっている。

 彼らの高笑いは、まだ響いてはいない。

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