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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
学園抗争編

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舞踏会がはじまらない・2

 スピカはどう答えたものかと、判断に迷った。


(これ、昨日のことをそのまんま言えばいいの? もしここで、自分のアルカナを確認したいって言われたら、ものすごく困るんだけれど……)


 ざっと見た限り、この中にいる大アルカナの中に、【愚者】はいなさそうだ。それにアルカナの内容を察知する能力があったら、もっと捜査も進むだろうに、そういう能力者はいなさそうだった。

 少し迷ってから、スピカは昨晩の話をする。


「私がバイトをしていたら、風使いの人たちに襲撃されました。その人たちは全員ナブー先輩に追い出されたので、私はなにもしてないです」

「まあそうだろうねえ。ナブーくんだったら、風なんて簡単に操れるから」

「ただ……やってきた人たち、複数でしたけれど、協力ができてないような……と思いました」

「んー……? それはどゆこと?」


 エルナトにそう問いかけられ、スピカはしばし口を噤む。


(この人、しゃべりやすいけど……誘導尋問なのか純粋なる興味なのかが判別付きにくいなあ。それに……)


 イシスだけでなく、こちらにぴょこぴょことイブまでやってきてスピカの話を聞きに来たのに、気まずさを覚える。


(生徒会に取り囲まれて話をするのって、尋問みたいで無茶苦茶怖い)


 さすがにこんなところで、自分が【運命の輪】だとばれるとは思わないが、こうも多勢に無勢だと緊張して仕方がない。

 とにかくスピカは背筋をピンと伸びるよう、足を突っ張らせてから口を開く。


「……あの人たち、【恋人たち】でしたけど……連携が取れてないみたいでした。知人にも【恋人たち】のアルカナ所持者はいますけど、あの人たちは連携が取れているみたいでしたから、余計に違和感を覚えました」

「なるほどねえ……ちなみにイシスさんはどう思う?」


 エルナトはそうイシスに話を向けるので、イシスは「そうですわねえ……」と小首を傾げた。


「有名な【恋人たち】のペアがいらっしゃいますから、あの方々のおかげで、【恋人たち】のアルカナの内容は新入生たちにも割れているかと思います。その中で連携を取って攪乱させなかったら負けるというのがわからないのは変ですわね。まるで最近になってアルカナの戦い方を覚えたようで」

「うん。そうだよね。僕もおんなじ意見。うん、ありがとう。新入生の子を怖がらせるつもりは本当になかったんだよ。それじゃあバイト頑張ってね」

「あ、はい……」

「ああ、そうだ。フルネームを教えてもらえるかな?」

「……スピカです。スピカ・ヴァルゴ……」

「ああ、ならスピカさん!」


 イブがひょっこりとエルナトの隣から顔を覗かせてくるので、スピカは困った顔で彼女を見る。メガネをかけているが、彼女は賢そうというよりは元気そうという印象が滲み出るのはどういうことだろうとスピカはぼんやりと思った。


「もしなにかあるんだったら、生徒会執行部にいらっしゃい! 人手が足りないから、人ではいつでも募集中だから!」

「ええっと……基本的にあそこ、貴族だけでは? 私、平民ですけど」

「人手と身分だったら、人手を取りますから!」

「ええっと……今はものすごく忙しいので、多分生徒会に入る時間がないかと思います。すみません」


 スピカがきっぱりと断ると、イブが心底残念そうに肩を落とした。


「ああん、そっかあ。後輩欲しかったのにぃ~!」

「はいはい。それじゃあお仕事頑張ってくださいね」

「うん、またね」


 そのまま生徒会執行部が立ち去っていったのを、スピカは見送りながら、どっと肩を落とした。


(疲れたぁ……バイトもまだしていないのに、どうしてこんなに疲れるんだろう。でも、生徒会執行部の人たちまで不審に思うんだ。スカトが会ったって言っていたアルカナのおかしい人たち。私の会った【恋人たち】のアルカナを使いこなせてない人たちも。誰かのアルカナの力で、誰かの力をコピーしているとか? でも【愚者】だったら、ナブー先輩に風が効かないんだったら他の力をコピーすれば済む話なんだから、コピー能力ではない……うーん、生徒会執行部まで把握していない能力が出回っているってことなの? ますますおかしい話だ)


 スピカが服飾店に入ると、事情聴取が終わった店員たちがスピカを歓迎してくれた。


「スピカさん、事情聴取は大丈夫でしたか?」

「あ、私は全然大丈夫です。皆さんは? あとお店のほうは……」

「ああ、坊ちゃまが相手の方をお帰り願ってくれたおかげで、店内も商品も無事ですよ。それに、スピカさんの注文したドレスもできましたから」

「ええ……!」


 それにスピカは目を輝かせる。店舗裏で針子をしている人々も店内に顔を覗かせて「頑張りました」と見せてくれる。本当に頼もしい限りだ。

 店員はスピカにマネキンに着せたドレスを見せてくれた。


「わあ……すごい!」


 スピカがドレスに慣れていないことを考慮して、ミモレ丈のドレスで、バラのコサージュをスカートの裾にふんだんにつけてあり、可愛らしさが全面的に出ている。


「可愛い! すごいです! でも……これ本当にバイト代だけで大丈夫ですか? 私、もうちょっと働いたほうが……」

「いえいえ。繁忙期に入ってくれたおかげで助かりました。坊ちゃまからの評価も上々でしたし」

「一番の稼ぎどきでしたからねえ。スピカさんのおかげで乗り切れましたよ。できましたら、別店舗でも働いて欲しいですが……できれば、でかまいませんが」

「そ、そりゃ、私からしてみれば次のバイトも決まれば願ったり叶ったりなんですが」


 ドレスが手に入った上に、次のバイト先まで決まれば、しばらくはお金がないことや目下悩みの種である舞踏会の問題はクリアできる。

 なによりもナブーの近くで働けるというのが、もっとも彼女にとっては価値があった。

 スピカが守ってもらえるという点だけではない。スピカを心配して迎えに来てくれるアレスに、できる限りナブーのアルカナ行使の状態を見せたいのがある。


(アレスのアルカナはコピー能力持ちで強いけれど……魔力消費が激しい力ばかりをコピーさせたらアレスが死んじゃうし、だからと言ってスカトみたいに全部拳で解決もできないよね。だとしたら、ナブー先輩のアルカナの行使の仕方が一番参考になるんじゃないかな)


 少なくとも、ナブーのおかげで最初の【恋人たち】との戦いに勝利できたところがある。彼は自分自身が強いせいか、【愚者】に力をコピーされてもなんの問題にも思っていないようだから、それを利用して思いっきり使い方を見せてもらおうと、スピカは思うのだ。

 その日のバイトも終わり、スピカは店員たちに挨拶をしてからドレスを抱えて寮に戻ろうとしたところで「よっ」とアレスに手を振られた。スピカは彼の元に寄っていく。


「あれ、今日はスカトはいないんだね?」

「今寮でルヴィリエから地獄の特訓を受けてるよ。あいつのダンスの下手さはいわばひとつの才能だしな」

「あはははは……もうすぐ舞踏会だねえ」

「おう」


 意外なことに、夜道でふたりで歩いていると、アレスはスピカと歩幅を合わせる。スピカよりも若干コンパスは長いのに、律儀な男である。

 でも下町の祭りでフォークダンスを踊っていたというのだから、存外遊び慣れているのだろうとスピカは割り切ることにした。教会の娘は、そういうのとは縁遠い。


「そういえばアレスはドレスコートどうしたの? 私はようやくドレスをもらえたけれど」

「俺? つくる真似はしねえわ。レンタルで充分だから借りた」

「えー、レンタルできたんだったら教えてくれたらよかったのに。そしたら余計な出費が」

「男はあるけどさあ。女はなさそうだったんだもん。なんかドレスを仕立てるってのが、女の格の問題になるんだって」

「なにそれ。私知らない」

「俺だって貴族の事情なんか知らねえよ。まっ、頑張って働いて買ったんだったら、それでいいんじゃねえの?」

「まあね……最近ごたごた続きだったし、舞踏会くらいはのんびりできたらなあって思うけど」

「えー……」


 アレスにそう言われて、スピカは思わず半眼になる。


「なによ? 舞踏会でのんびりしたいって思っちゃ駄目?」

「いやあ……この学園に入学して、平和なときなんてあったかねと思って」

「やめて。悪いこと言わないで」

「つうか、自覚なしのトラブルメーカー兼巻き込まれ体質がなに言ってんだよ」

「私、別にトラブルつくってないし、好きで巻き込まれてないよ!?」

「んなこたわかってるよ。こっちだって横にいる訳だし。まあ」


 アレスはガリガリと頭を引っ掻いた。そろそろ寮の明かりが見えてくる頃合いだ。


「まあ、なんかあったときは、そのときは一緒になんとかするか」

「えー……」

「なんだよ?」

「そこって嘘でも『守ってやる』って格好付けるところじゃないの?」

「アルカナカード抜きで対処する奴のいったいどこに守る必要あるんだよ?」

「私、全然戦えませんけど!?」

「もういいじゃんもういいじゃん。そういうことで」


 ふたりでギャーギャー言っていたら、帰りなんてあっという間だ。


(ただアレスと踊って、皆で楽しく過ごせる日だったらいいのになあ)


 しかしこの学園で起こっている、得体の知れないなにか。

 それが動いている以上は、安息の時なんてないだろうということは、スピカにだってわかっている。


(わかってるけどさあ……思うだけなら勝手じゃない)


 わかっているから諦められないのだ。

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