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学園アルカナディストピア  作者: 石田空
入学編

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21/112

恋人たちに明日はない・2

 スピカはルヴィリエと一緒に、風の幕に閉じ込められてしまった。

 スカートが捲り上がらないように抑えつつも、ふたりはレダを見る。レダは悲しげな顔をしていた。


「……あの、どうして!? 先輩たち、別にアルカナ集めに興味ないですよね!? 私たちをどうして……」

「エルメスも言っていたと思うけど、私たち派閥争いには興味ないわ。ただ、私もエルメスも平穏に生きたいだけ。でも私たちの平穏を脅かすんだったら、嫌いな派閥争いにだって首を突っ込む。それだけなの。さあ」


 途端にスピカの足下につむじ風が舞い、そのまま彼女は風に持ち上げられる。それは以前にエルメスにやられたことと全く同じことだ。


「カードフォルダーを出しなさい。そしたらちゃんと降ろしてあげる。出さないんだったら」


 彼女はスピカを高く高く……それこそシュラークバルのポールよりも高く持ち上げた。


「今すぐ風を止めて、落としてあげる」

「…………!!」


 レダは淡々とした口調でスピカに告げると、今度はルヴィリエのほうに視線を向ける。

 風の勢いは変わらないままだ。


「あなたもよ。お友達を地面に落とされて木っ端微塵にされたくないんだったら、カードフォルダーを出しなさい」

「あなた……! スピカになんてことを……!?」

「ごめんなさいね、私。後輩いじめは嫌いだけれど、エルメスとの平穏のほうが大事なの」


 レダは心底悲しげに言う。しかし持ち上げられたスピカからしてみれば、たまったものではない。


(どうしよう……! 今は私とルヴィリエだけでレダ先輩の風に閉じ込められて……! エルメス先輩に持ち上げられたときは、アレスの【愚者】の力で助けてもらえたけれど……いくらなんでも、同じことをルヴィリエに求めるのは厳し過ぎるし)


 そもそもスピカはルヴィリエの【正義】の力を全く知らない。その上スピカの【運命の輪】は戦闘じゃ全くの役立たずなのだ。意味がなさ過ぎて、笑えない。

 しかしルヴィリエはキッとした顔でレダを睨み、カードフォルダーを手に取る。


「先輩、スピカを離してください」

「聞こえなかったかしら? 彼女、落とすわよ?」

「いいから! 私の力、ちょっと大味なんで、そのまんま使ったら、先輩怪我しますよ!? スピカを降ろしてくれたら、カードをあげてもいいですけど」

「ちょっと……ルヴィリエ!?」


 スピカは思わず叫ぶが、黄色いリボンを靡かせたルヴィリエは、毅然とした態度のままだ。


(はったり……なの? にしては、ルヴィリエも切羽詰まってた。でも……私のせいでルヴィリエのアルカナが……!)


 スピカはどうにか自力脱出できないかとバタバタしてみたが、風になぶられまくるばかりで、脱出できない。おまけにむやみに動くと空気が薄くなって息ができずに苦しくなる。大人しく待つしかできない。

 一方、レダは自身のカードフォルダーを持つと、そのままどんどんスピカを高く押し上げてしまった。

 それにスピカは焦る声を上げる。


「ちょっと!? 先にスピカを降ろしてくださいって言いましたよね!?」

「先にあなたがカードを出してくれないから。私はあなたを信用するだけの知識も経験もないから……ごめんなさいね」

「…………! ええ、ええ。ええ……! ほんっとうにばっかみたい!」


 そう言ってスピカは自身のカードに触れた。途端に出てきたのは、剣と天秤だった。彼女はそれをどちらもむんずと掴む。


「……最初から、こうしたらよかったんだ」

「まあ……でも物理的な攻撃は無駄ではなくて?」

「いいえ!」


 そう言ってルヴィリエはなにを思ったのか、いきなり剣と天秤を投げつけてきたのだ。それにレダは少しだけ目を丸く見開いてから、風を巻き起こして剣と天秤を風で弾いて叩き落とす。


「なにを考えて……たしかに、こんなのが当たったら痛……ええ?」


 一瞬意味がわからず、レダは目を見開いた。

 先程剣と天秤を落とした地面に、気付けばスピカがいたのだ。スピカも本気でわからず「えっ? ええっ?」と首を捻っている。

 剣と天秤はどこに行ったのか。そもそもどうして人質にしていたはずのスピカが地面に座り込んでいるのか。レダは焦って剣と天秤のある方向を見て、目を剥いた。


「ちょうど先輩が浮かせてくれたじゃないですか」

「ど、どうして……! きゃあ……!」


 彼女が慌てて風で剣と天秤を弾こうとしたが、もう落ちてくる軌道が変わらない。そのまま彼女はスカートに剣が突き刺さり、天秤が手枷となり、地面に縫い付けられてしまった。

 スピカはこの訳のわからない光景を見て、唖然としていたが、だんだん冷静になってきた。


(そ、そうかあ……【正義】は多分、剣と天秤を出すっていうのがひとつ。アルカナカードの力を入れ替えるのがひとつ。最後のひとつはわからないけど、私を拘束していた風とルヴィリエの召喚した剣と天秤を入れ替えたんだあ……)


 ルヴィリエはちゃんと強かった。

 彼女は能力を交互にふたつも使ったというのに、毅然としたまま背筋を伸ばし、しゃんとしている。魔力が足りないスピカとは大違いだ。

 そのまま地面に縫い付けたレダのほうに向かうと、ルヴィリエはしゃがみ込んだ。


「風を解いて私たちを解放してください。この勝負、私たちの勝ちですよね?」

「……断るわ」

「私、正直アルカナ集めとか全然興味ないんですよっ、スピカを危ないことに巻き込みたくないですし、他からアルカナを集めてるって因縁付けられるのヤですし」


 ルヴィリエがそう訴えても、レダはぷるぷると首を振る。


「私は……エルメスと一緒にいたいから。あなたたちからどうしてもカードを奪わないといけないの」

「ヤですよぉ、そもそもこんな風ずっと使い続けてても……」


 ルヴィリエがそう断っている中、急にレダは目を大きく見開いた。それにスピカもルヴィリエもきょとんとする。


「止めて、エルメスから……取らないで!!」


 そう言った途端、急に出られないほどの風の幕が消えた。

 スピカは訳がわからずキョロキョロと視線を彷徨わせる。いったいエルメス対アル・アセルスでなにがあったのかと思ったが、それより先にルヴィリエが手を取った。


「今の内に逃げよう!」

「で、でも! アセルス先輩も、アル先輩も……!」

「バイトを誘ってくれたいい人たちかもしれないけど! 私たちを助けてくれなかったじゃない! レダ先輩が動けるようになったら困るから、このまま逃げよう! どっちみち、もうちょっとしたら剣も天秤も消えるから、それまでに!」


 スピカはルヴィリエに引きずられ、とうとう観念したように走りはじめた。

 振り返るが、状況がわからない。ただアセルスは優雅ににこやかな顔で小さくこちらに手を振っているのだけは確認できた。


(エルメス先輩も……レダ先輩も本当に生徒会にも革命組織にも興味ないって本人たちも言ってるのに……どうしてアルカナ集めをするんだろう? 誰かに脅迫でもされてるの? でも……誰に?)


****


 エルメスは風を巻き起こす。さしずめアルのカードフォルダーを奪おうとすべく。

 だが、魔力量が多ければ多いほど、カードに魔力が満ちる。満ちた魔力はカードの所有者から磁石のようにピタリと貼り付いて離れようとしない。


「わかっておろうよ。我とそちでは相性が悪いとな」

「……わかってるさ。それでも、負けられない戦いがあってねえ……!」

「可哀想ですわね……カウスさんに相談なさる?」


 アセルスは心底悲しげにエルメスを見る。

 レダはエルメス以外に興味はないが、アセルスは基本的に革命組織の仲間たちはもちろんのこと、新入生も後輩も、同級生にも優しい。それこそ、結果的に敵対している生徒会や五貴人にすら情を傾ける。

 それにエルメスは端正な顔を歪める。


「君たちみたいな生き方も楽しいだろうが……俺は彼女以外はいらない……っ!」


 風がなおも強くなる。だんだん風はカッターのように鋭く尖り、ふたりを嬲るように襲いかかってくるが……それにアセルスは悲しげに目を伏せながら自身のカードフォルダーを取り出すと、そこから事もなげに壺を取り出した。

 壺から水が噴き出たと思ったら、その水が膜を張り、カッターを相殺していく。

 アセルスは壺の水が弾かれていく様を眺めつつ、アルに尋ねる。


「もうできそう?」

「ああ……あと数分。それまで時間稼ぎを頼もうか」

「ええ」


【節制】は水を使役する。

 アセルスのように優しい水は、しぶきとなってアルにかかり、彼が行使しようとするアルカナで削られていく体力と魔力を回復していく。壺を占める水は全てエリクシールだからだ。

 その水の相殺をしながらも、なおもエルメスは風を巻き起こす。


「……さすがにアルくん。あんたの力を使わせる訳には」

「……残念よの。【死神】とはいえ神よ。その力を使わせるべきではなかったろうに」


 アルはそう短く言うと、鎌を大きく振るった。

 途端に、なにかがプツン。と切れた音が響いた。途端にあれだけ荒れていた風が止まる。それにエルメスは愕然とした顔をして、アルを見た。

 隣のアセルスは悲しげな顔をしている中、アルは陰鬱な顔を歪めるばかりであった。


「そちの風、ちと厄介だから止めたぞ。【死神】の力を持ってなあ」

「う……」


 風が使えなければ、【恋人たち】のアルカナは戦闘能力はもうない。

 アルカナカードの戦いは、本来ならば団体戦だ。三つの力を全て開示しまったら攻略されてしまう。一対一だったら記憶勝負になり、攻略法も編み出されてしまう。だから攻略されてしまわぬよう、弱い箇所を数人で補い合うのがセオリーだ。

 革命組織は基本的にカウスの指揮の下、基本的にひとりだけで戦うことは禁じられている。アルのアルカナ【死神】は大技を持つが魔力量を大量に使い削る上に大技行使に時間を食うからこそ、エリクシールを常時出せる【節制】のアセルスと組むことで常時回復と時間稼ぎを同時に行っていた。

 新入生相手だからとレダをひとりにせず、ふたりで戦えば勝機はまだ残されていたが。

 ……エルメスの性格上、レダをこんな危ない連中と戦わせる訳にはいかなかった。


「おおよその予想はついておるがな、誰にアルカナ集めを強制されたか、吐いてもらうぞ」


 そう言ってアルが冷たい顔をして鎌を構えた中。


「止めて、エルメスから……取らないで!!」


 レダの悲鳴が届き、新入生たちを捕まえていた風の幕が消えた。逆にエルメスの風の力が戻った。

 アルはそれは大方予想ができた。

 レダがエルメスに施した風の使役の封印を、肩代わりしたのだ。

 エルメスはレダをアルとアセルスから守るように風の盾をつくりながら、地面に縫い付けられているレダのほうまで走り出し、彼女を縫い付けている剣と天秤を抜き取る。


「レダ……! 君は……!」

「ごめんなさい、エルメス。エルメス……!!」

「君の魔法が……」

「いいの。エルメスが無事なら……!」


 ふたりが抱き合って涙を溢している。

 それをアセルスは気の毒なものを見る目で見ながら、アルに視線を戻す。


「どうしましょう? ふたりとも完全にふたりの世界ですわ」

「……【恋人たち】の力を使って、自分を犠牲にしたか」

「力、返してあげますの?」

「しばらく返却はせぬよ。大方、アルカナ集めを仕掛けた張本人が、一部の生徒に集めるよう脅迫をしているという状況証拠がわかっただけよしとしよう」


 このふたりが互い以外に興味がないということくらい、彼らとしゃべったことがある人間であればわかるのだ。

 それがあろうことか新入生からアルカナカードを強奪しようとなど弱い者いじめをする。

 彼らの性格や性質を無視するとなれば、どちらかが、もしくはどちらとも五貴人のいずれかになにかしらの取引や脅迫を持ち込まれたと考えるのが妥当だろう。

 アルの言葉に、アセルスはやんわりと注意する。


「全部、聞かれていますわよ?」

「聞かせてるんじゃ。どうせあちらは我らの情報など筒抜けで、今頃茶を傾けながら手を叩いて鑑賞しておろうよ」


 アルは忌々しげに空を仰いだ。なにもないが、監視はされている。

 それにアセルスは「そう、ですわね」とだけ言った。

****


【正義】

・剣と天秤の召喚

・アルカナカードを二枚指定し、その攻撃を入れ替える

・×××


【死神】

・鎌の召喚

・アルカナカードの能力をひとつ指定し、封印することができる。封印を解除するには魔力切れか【死神】所持者を戦闘不能にするか、殺害するしかない

・×××


【節制】

・壺の召喚

・水の使役。なお壺を満ちる水は全てエリクシールであり、浴びるごとに体力魔力が回復する。

・×××


【恋人たち】

・風の使役

・【恋人たち】のアルカナカードを持つ人間が把握できる

・【恋人たち】のアルカナカードの所持者のダメージを自身のダメージと入れ替えることができる

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