転生した先は
「きゃあ!?」
キイイイイっと甲高い音と鉄臭い匂い。
私は、私の人生の幕引きはそんなもので終わった。
でも、今まで良い人生だった。
容姿に恵まれ、友達も男も欠かしたことがない。
適当に取り繕っていれば、成績の良い私がいじめをしているなんて先生は気がつくこともない。
取り巻きも多く、しょっちゅうパシリをさせていた。
まあ、次の人生だって楽勝でしょ。
そんなことを思いながら少しの眠りについた私が目を覚ましたのは暗い廃屋の中だった。
「なあに、ここ」
キョロキョロと辺りを見回す。
何だか見覚えがあるようで無い世界。それに前世の記憶もある。
「いわゆる転生ってやつかしら」
平然とそこら中を歩き回った。ホラー系は得意なのだ。
と、そこに1人の男が通りがかった。
「あら、人がいるわ。おーい」
私が声をかけているのに男は見向きもしない。
ムッとして目の前に立った。
「ちょっと!?って、あら?」
男は私の体をすり抜けて何処かへ行ってしまった。
「え?どういうこと?それに……まさか」
私は記憶を辿ってトイレに走った。
目的はそう、鏡だ。
「嫌、何で」
鏡に私は映らなかった。
私は男に見覚えがあった。前世で怖がりな取り巻きにやらせたホラーゲームの主人公にそっくりだったのだ。
「ゲームの世界ってこと!?私は一体どうなってるのよ!」
バンッと鏡を勢いよく叩いた。
すると、鏡には真っ赤な手形がついた。
「え?」
もう一度叩く。手形がつく。
このホラーゲームの脅かし要素の1つに赤い手形がベタベタとつく、というものがあった。
「私の存在意義、手形?」
ありえない。この私が?
それに、どうすれば私はこの現状を変えられるというの?
私は慌てて主人公っぽい男を追いかけた。
とりあえず人間はあの男しか見ていない。彼に何とかしてもらおう。
だが、話しかけても声は届かない。
そこで、男の前で手形でデカデカとタスケテと書いたが、悲鳴をあげて逃げていくだけだった。
「このくらいで、軟弱な男。まあ、でもゲームの仕様にないことだって気がついたら、製作者が私の存在を消してくれるでしょ。次の人生で私はまた好きに生きるわ」
私はわざとあっちこっちに手形を付け、色んな文字を書いた。
フザケルナ、ダセ、コロシテヤル、ジンセイヲカエセ、などなど。
実際、前と仕様が変わったとそのゲームはちょっとした話題になった。
だが、前より怖くなって面白い、もっとやれ、次の更新はいつ?などの好意的な意見ばかり集まっていた。
製作者は本当に起きた怖いバグとしてコメントを残し、さらに話題を呼んだ。
果たしてバグが直される日が来るのか、それはもうわからない。