94 潤滑油です
オーク集落を討伐してからの帰り道のキャンプ。夜は昨日同様に見張り番を用意して就寝するよ。今夜の見張り番のローテーションはセシル・カミーユから始まってクリス・ジャックに交代して最後は俺とアクセル。女の子でも見張り番を経験しておかないとね。しかし少年達よ、セシルとカミーユをただの女の子2人組と思うなよ?これが乙女ゲーだとしたら、全員クリアしたら攻略出来る隠しキャラがセシルなんだろうな。
早起きしたし、さっきルーに○虎乱舞を喰らってボコボコにされたせいもあって俺は泥のように眠った。熟睡し過ぎてクリスに起こされるまで全く目が覚めなかった。クリスと交代して焚き火の方に行くと、アクセルは既に先に座っていた。お待たせ♪
「たまにゴブリンが出て来るらしいッスよ」
「そんなに珍しい話じゃないよ」
今夜もセシル達が2回、クリス達が1回ゴブリンと戦ったらしい。かなり多いな……夜行性って訳でもないらしいけど来るんだよねぇ、あいつらは。俺もセシルほどの範囲じゃないけど気配察知が出来る。今は近くに何も居ないのは確認済みだ。でもアクセルにはそれは言わないよ。油断しちゃいけないしね。
「アクセル達は王都の出身なんだっけ?」
「そうッス。俺とジャックとダニエルはガキの頃からの付き合いなんスよ」
恋愛リアリティショーでも乙女ゲーでも、キャラを掘り下げた方が楽しめるからな。ここは暇つぶしも兼ねての聞き込みだ。カミーユは王都の近くの村出身らしいけどボーイズは王都の北部に住んでいた幼馴染らしい。そんな4人の出会いは唐突だった。
冒険者ギルド内で、アクセルがジャックやダニエルと楽しくトークしながら前も碌に見ずに歩いていると、走ってきたカミーユとぶつかった、と。マンガか。どうせならパンを咥えてなかったのか。そして自分が派手に吹っ飛ばされたくせにアクセルの心配ばかりするカミーユに好感を持ったそうだ。その際「怪我はありませんか?私、治癒魔法が使えますから!」と言い出すカミーユ。
アクセル達にとっては、事情が変わった。話を続けて?てなもんだろう。だって治癒魔法が使える人なんて多くはないからね。しかも、そのカミーユはまだどこのパーティにも入ってないと言うし。しかもしかも、彼女は少年達の好みド真ん中ストライクのかわいい美少女だし。これは運命を感じるよねぇ。
すぐにジャックが「これも何かの縁だよ。僕達と組まないか?」と勧誘したそうだ。白い歯をキラッと光らせて。いや、本当に歯が光ったかどうかは知らんけど、カミーユにはそう見えたのかもしれない。すごく喜んだそうだ。こうして最初の出会い編、エピソードゼロはジャックがリードしたのかな。その調子で頑張れ、リーダー。
こうして、少女は少年達と出会った。
そして運命の歯車が音を立てて回り始めたわけだ。
何が衝撃だったってさ。
このエピソードゼロ、先日の俺が剛拳のゴドフロアと喧嘩してる最中の話らしいぜ。あの日あの時にカミーユがアクセルにぶつかった理由は、アクセルが前を見てなかったせいもあるけれど、カミーユも玉砕かれ先輩から逃げるのに必死で慌てていたせいもあったんだよ。
あー、俺もあんな無意味な喧嘩してるくらいなら、こっちのエピソードゼロを観ていたかった。なるほどな、4人の出会いには間接的にセシルと玉砕かれ先輩が関係してたのな。これもバタフライエフェクトなのか偶然なのか、運命ってのは奇妙というか、不思議なものですな。
最初にジャックが好印象を与えて、今夜の夕食ではダニエルが好感度を上げた。アクセル……頑張れよ。心の中では応援しているけど、具体的には何も言わないし、してやれない。俺の恋愛スキルなんて錆びついてるから。俺に口説けるのはルーだけだからね。だって彼女は俺限定だけど難易度ベリーイージーだしな。
少年達のストーリーはまだ最序盤だ。大丈夫、まだまだ挽回出来るさ!そのうち、絶対に手出し無用を約束させてから賢者達にも教えてやろう。今季の見るべきドラマ一位はやっぱりコイツらだな。
翌日、遅めの午後に無事王都へ帰還した。馬車には大量のオーク素材が積んであるので、まずは冒険者ギルドまでそのまま移動。そこで荷を下ろしてから馬車を返却だ。ダニエルが馬車の返却に向かってくれたので、その間に俺達は依頼達成を報告しなきゃ。ただいま、ミシェルさん。
「はい、ご苦労さん。なんか問題あったかい?」
「うん、問題でもなかったけど上位種…ハイオークが1体居ましたよ」
「あらぁ…ごめんね。でも大丈夫だったんだね?」
「もちろん怪我人も無く帰ってきましたよぉ。はい、これが討伐証明」
だから、お母さんも気にしなさんな。話をしながらもミシェルさんが素早く依頼達成の事務手続きを済ませてくれた。ミシェルさんのブースに列が出来ない理由は不人気だから、だけじゃない。ミシェルさんの処理が尋常じゃないくらい早いせいもある。それを差し引いても主な理由はやっぱり不人気なせいだけど…。
今回の依頼の報酬をジャックに半分渡す。
これで共同依頼は終了だ。
はい、お疲れ様でした。
「ありがとうございました。本当に勉強になりました!」
「そう言ってもらえると嬉しいよ。また機会があったら一緒にやろう」
ただ、俺達は今回の依頼達成でC級に昇格予定だ。早く昇格しないと一緒には無理だぞぉ。多分、彼らならすぐにE級に昇格出来ると思うけど。それほどに彼らの実力は確かだった。まぁ剣士3人体制はもう少し色々考えても良いかもしれないが。
それに君達の恋の行方が気になるから、是非ともまた一緒に依頼をやろう。その時までにサークルクラッシュしていないか、が心配だわ。
「はい、アンタ達は……これでC級昇格条件達成だね。手続き、進めるよ?」
「はい、お願いします」
これで昇級試験を合格すれば、晴れて俺達はC級になれるわけだ。
そして今回の試験内容は面接と模擬戦である。模擬戦はさておき……面接ってのは自信がないわ。昇級関係の書類を持って2階の方に上がっていったミシェルさんだったが、しばらくすると戻ってきた。まさか、今からすぐに面接とは言い出さないだろうね?そもそも誰に面接してもらうの?
「面接はギルドマスターとだよ。そんなすぐに時間が取れる程、ギルドマスターは暇じゃないよ!」
そうですよねー。あの強面が面接官かぁ……。
これがB級の昇級試験だと面接官に更に貴族も加わるらしいよ。上級冒険者は貴族との付き合いも増えるから礼儀などもチェックされる訳だ。そんな試験にアッシンさん達が合格したのが、本当に不思議だよな。そんなバカな!と言いたくなるよね。
「明日の朝でどうだい?面接」
色々とスケジュールをチェックして、ミシェルさんが提案してくれた。すぐには無理!とか言ってた割にはすぐだな……俺とセシル、ルーは大丈夫だ。何か用事があるとしたらクリスなんだけど…。
「僕も大丈夫だよ」
じゃあ早速明日の朝で。
しかし面接対策って何したら良いんだろうか。
履歴書……は要らないよな。
御社を志望した動機でも言うのか。
潤滑油です!って言えば良いんだっけ。
それとも噛めば噛むほど味の出るスルメのような人材です!って言うんだっけか。前世、日本でバイトや就職の面接をしたのも随分昔だから覚えてないわ。
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自宅に帰って、今日はクリスもそのまま我が家に泊まったよ。朝になったら、また一緒に冒険者ギルドに行くんだしというのもあったから。そしてクゥムに帰らないで!もっと遊んで!と駄々をこねられたから。こんなかわいい子に引き留められるなんて果報者め。
よくやったぞ、クゥム。対クリス用の最終兵器クゥムだ。駄々をこねて騎士職を手に入れたこの国唯一の……いや多分世界でも唯一にして最年少の存在だからな。そう考えると、すごいぞクゥム。
「面接って何を聞かれるんだろうね?」
クゥムを肩車したまま、そんな事を言うクリスがなんだかマヌケだ。面接の内容なんぞ知らん。わからん。俺だって初体験なのだから。アッシンさん達に聞いておけば良かったな。
「さっぱりわからんけど、多分大丈夫だ。なんといってもアッシンさんや、お兄さん王子がクリアしているんだからね」
これには皆が納得してくれた。いや、俺が言い出したことだけれどもアッシンさんやお兄さんの扱いが酷い。これで嫌われてるわけでもない、というのがね。2人とも良い人なんだよ、マジで。その上で残念な人、というのが全員の共通認識となっている。
それにしてもD級昇格試験が盗賊討伐、だったりしたのに比較するとC級昇格は……なんだか簡単なんだな。
「普通はな、模擬戦でB級以上の冒険者に戦いを挑むのがC級昇格試験なんだ」
本日も苦虫を噛み潰したよう顰めっ面がスタンダードなギルドマスターが忌々しげに呟いた。主食、苦虫みたいな人だな。
「はい、模擬戦も頑張る所存です」
「『血塗れの火炎』、『栄光の環、『赤い五芒星』……ああ、『ドレッドノート』の連中もそうか」
「我々の模擬戦の相手ですか?その全員と戦うんですか?」
「今言ったのは現在、王都に居るB級冒険者達だな。そしてお前らが既に私的に模擬戦で倒した相手でもある」
最近はルー主催のギルド内武闘会は殆ど開催されなくなった。全員倒しちゃったからだ。それもリベンジする気がなくなるまで何度も何度も。もちろん一度も参加してない人も居るには居るけども。
「本来は、一人ずつB級冒険者と戦ってC級に相応しい武威を示すわけだ。まぁ実際はB級にコテンパンにやられて大変な目に遭うという通過儀礼だ」
やはり簡単には昇級って出来ないらしい。
盗賊を討伐するより大変なのかも。
「しかしだ。実に腹立たしいが、お前たちの強さは証明済という事だ……上には上が居る、という事も知っておいて欲しかったんだがな」
「それは日々痛感していますよ」
昨日も魔神を相手にして3人がかりで一蹴されてる。この人にも上が居るんだろうかと疑問に思ってしまう程に、上には上が居るという言葉を反芻してますよ。
「では、どうしますか。A級冒険者を呼んでくるんですか」
「呼べるか、バカもん。模擬戦は……今回は免除としておこう。あまり意味がないからな」
おぉ、ラッキー。
良い言葉だ、免除。
じゃあ、もう帰って良いですかね。
「面接も異常者を弾くのが目的だからな。本来なら形式的なもので終わりなんだ。だからお前ら全員C級昇格試験は……合格だ」
やったぁ♪
これで、もっと報酬の良い依頼も受注出来るぞ。
「では、解散!……と言いたいがアレクシスは残れ。お前には特別講習だ。俺が正しい冒険者の在り方というものを一から……いやゼロから教えてやる!」
こういう時、セシルとクリスの逃げ足は尋常ではない。この展開を知っていたのか?と思うほどに早い。あいつら……今日はルーもだけど、既に部屋を出て行っていた。ギルマスが解散!と言った時点で既にドアノブに手をかけてるからね。単純な戦闘ならば魔法込みでも簡単に負けるつもりはないけど……危機回避能力という意味で、俺はあの2人の足元にも及ばない。あれは……なにかスキルでも持っているのだろうか。
えー……それは特別講習という名のお説教でしょ?
マジでやるんスか。忙しいんちゃうんか、ギルドマスターって。
「模擬戦をする予定の時間が空いたからな。それに、お前には前から一度しっかりじっくりと話してやらねばいかんと思っていたんだ」
勘弁してくれ。問題児その1とその2は逃げたというのに。一番の常識人である俺だけがお説教されるの?そんな事を前から考えてたの?他にもっと考えるべき事があるでしょうに!
俺の心の叫びも虚しく、模擬戦免除と引き換えに、しっかりみっちりきっちりと2時間に及ぶ特別講習を受けた。あのギルマスとマンツーマンですよ?本当に拷問だよコレ。B級冒険者全員と戦う方が遥かにマシだったよ。
「お前たちは酷い。罰が当たるよ。俺が神様なら当てるね」
ようやくギルドマスターのお説教から解放されて、ヘロヘロになって冒険者ギルドの一階に戻ったら3人で優雅に紅茶を飲みながらケーキを食べてるじゃないの。神界におられるルーのお父さん、あなたの娘さんも含めてバチを当ててやってください。
そりゃフランス革命も起こるよ。立てよ、国民達。
俺も今なら王政廃止、貴族制度廃止に立ち上がるぞ。
民衆の先頭に立って旗を振るわ。
フォローミー!って先陣で叫んでるのが俺だ。
「お前なんぞ、ラウルシュタインのお姫さんにも嫌われてしまえばいいんだ」
「ああ、僕は一向に構わないぞ」
お前好みのかわいい巨乳の姫が現れて、心底後悔するがいいわ。あー……昇級したけど今日はもう何もする気が起こらない。今日の夕飯は昇級のお祝いに、ご馳走にしましょう。せめて美味いものを食べて元気を出したい。
「君が元気になる美味しい料理は作るけど、今日はもう一つお仕事があるんだよ」
「え、なに?聞いてないよ。もうクタクタなんですけども」
「そうだね、君がギルドマスターと話している間に急遽決まった話だからね」
「……なに?何したら良いの?」
「君とセシルは立ってるだけで良いよ。クリスのラウルシュタイン行きの日程が決まったからね、その護衛の打ち合わせするだけだから」
………へぇ。それって結構重要な打ち合わせちゃうん?
「そうかもしれないね」
そんなもん、即決まって即やることなの?即即なの?いい加減なもんだな。まるで俺が運営しているかのようじゃないか。正式な騎士団の団長さんとか来るのかな、ほらジェロム兄さんの義理の父みたいな団長が。ふぅ……ギルドマスターの次は王城の偉いさんかよ。今日は気疲れする日になるねぇ……ま、ここからは俺は立ってるだけでいいらしい。
そういう訳で一旦、家に帰って近衛騎士団用に作った制服に着替えた。別にクゥムは王城に行く訳ではないけど、アタシも一緒が良い!と言うのでクリスが手伝って騎士用の制服に着替えている。幼児サイズだけどルーが縫製してくれた特別製な制服なんだ。
着替えさせているのを見るとクリスも王子というか、クゥム専属の執事だ。しみじみ、こき使われている王子だよな……と痛感した。もう少し、クリスに優しくしよう。そう心に決めた……がいつも次の日には忘れているんだよな。




