92 ガール・ミーツ・ボーイズ
最近、聖女ティナが遊びに来てくれないので素手の特訓で毎日ボコボコにされても自然治癒を待つばかり。治癒ポーションとか高いし勿体ないし。それでも少しは慣れて新しい傷がそんなに増えなくなった頃。
もうすぐ春ですね。
クリスは本当に勉強に頑張ったそうで宣言通り、学園の教育課程の殆どを僅か一年で終えた。ええ、ほぼ。それは文武両道にも程があるぞ。流石は魔神も認める天才王子だ。実際はただの巨乳好きのくせにな。一応、定期試験だけは受けないといけないらしいけど、それ以外は基本的に自由登校の身になった。よし、これで……思う存分遊べるぞ!目指すは全員揃ってのC級昇格だ。そして、実はその条件もほぼ満たしつつある。
「あとは何をすれば良いの?」
良い質問ですね、セシルくん。俺の脳内の池上さんが笑顔で答えた。まぁ当然の質問でもあるけども。そして俺達がクリアすべき条件とは?
「他のパーティと協力しての依頼達成が必要なんだよ」
「何度もやってるじゃん。それでも足りないならティナ達に一緒に来てもらおうよ」
「それがダメなんだよ。俺達に足りてないのは後輩……じゃなくても俺達より下のランクのパーティと協力し導いて依頼達成をしないといけないんだ」
素材調達、討伐に盗賊退治。クリスに時間の余裕が生まれてからは近くの町までの護衛依頼もボチボチとやっている。そんな俺達はヨソのパーティと組むことがあっても、だいたいが先輩達ばっかりなのよね。アッシンさん達やお兄さん王子、ガールズだってそうだ。
1年前の初心者講習会でC級のアクセルさんが来たのも、この辺りの事情と少し絡んでくる。C級以上の冒険者には後輩を教え導く役割も強く求められるそうなんだよ。そして、俺達には今まで後輩が居なかったんだ。だってルーキーなんだもん。前にD級昇格には半年から1年かかる、と言ったけどC級昇格には最低でも1年かかる。だって後輩が居ないとノルマが達成出来ないし。後輩じゃなくても下位ランクのパーティなら条件クリアらしいんだけども、やはり後輩相手に指導するというのが望ましいそうで。
そんな理由で今年の新人達を最も心待ちにしていたのは、俺達だ。まぁ全員が全員、春に冒険者登録するわけではないけども……夏に登録する奴が居れば秋に登録する人も居る。そう言う連中も後輩っちゃ後輩だ。だから厳密に言うと既に後輩はいるんだろうけど。まぁその辺は……俺達も最速昇格に挑んでる訳でもないし。寧ろのんびりやってる方なんで。それでも同期では最速だけどね!
「後輩パーティかぁ…誰かセシルの友達に居ないの?今年になって入った子でさ」
「居るよ」
え、居るんだ!?マジっすか、お前すごいな!結構な時間、俺と一緒に居るのに……どこでそんなに友達を作ってくるの?なんでそんなにモテるの?見た目がかわいいからなのか?悪意は無いけど詐欺じゃねえの?
「アレクも覚えてない?この前、喧嘩した兄弟に口説かれていた女の子が居たじゃん。あの子だよ」
居たな。あの時一番頑張った俺が全然会話もしてないのに、なんでお前が仲良くなってるんだろ。しかも、お前は女の子とばっかり仲良くなってくるよな。もしかして策士か?
「あ、今日も居るよ。呼んでこようか?」
「お願いします」
何も知らない相手を探すよりは知ってる相手の方が随分やりやすいし話も早い。それにセシルが仲良くなるなら、おかしな連中ではないだろうし……そうでもないかな?
「先日は、ありがとうございましたっ!」
カミーユ・アルディと名乗った少女が元気よくお礼を言ってきた。カミーユ?女の名前なのに……なんだ女か。いや、それで良いんだよ。問題ないんだよ。この子、かわいい女の子だよ。明るい茶色の長い髪をポニーテールにして……胸はあまり大きくはなさそうだが、玉砕かれ先輩に口説かれるだけはある、ホントにかわいい女の子だね。
「いや、俺は大したことはしてないから気にしなくて良いよ」
本音は、大したことしたよ!と声を大にして主張したい。あんな大男のB級冒険者と必死で喧嘩したんだよ!とアピールしたいけど、ここはクールにカッコつけよう。こういうのがモテると信じて生きてきたんだ、今更変更出来るかっての。
「それでカミーユはパーティ組めたの?」
「はいっ!男の子3人組と組むことになりました」
ほほぅ。こんなかわいらしい子がオタサーの姫となるのか。是非その少年達の内心が知りたいところだ。多分、近い将来に揉めそうな気がするけど他人事だけに頑張ってほしいと思ってるよ。
「呼んできますねっ!」
元気な子だ。なんとなくセシルっぽいわ。何よりかわいいし。それを囲む健康な少年3人。何も起きないはずがなく……いや、まだ何も起きてはいない。でも何かが始まるのは間違いないだろう。今期イチオシのドラマだな。
俄然興味が湧いてきた。
ガール・ミーツ・ボーイズ。
運命の歯車がゆっくりと回り始めた。
これは第一話から追いかけたいよな。
こういう乙女ゲーもいいかもしれない。
「セシルさん!連れてきましたっ」
すぐにカミーユが連れてきたのは、3人の少年。右が1番背が高い、冷静そうな黒髪のジャック・カヌ。真ん中の逆に1番背が低い、癖っ毛で人懐っこい感じ笑顔が似合うダニエル・サンチェス。左は短髪がツンツンしている赤い髪のアクセル・マーロウ。
第一印象は全員元気で良い子そうだな、だった。
不真面目そうだ、よりずっと良いよね。
なんせ共同して依頼の作業をするんだからね。
「俺達が『漆黒の師団』のアレクシスとセシルです。よろしく。どこまで話を聞いてる?」
「はじめまして。僕達は『赤き粉砕者』です。カミーユから一緒に依頼を受けたい人達が居る、としか聞いてないです」
クールな雰囲気のジャックが答えてくれた。彼がリーダーなんだろうか。多分そうなんだろう。クラッシャーか……なんとなくサークルクラッシャーという言葉が脳裏をよぎった。いかんいかん、失礼な。縁起でもない。いやフラグじゃなくてさ。
ジャックの話によると、彼らはまだF級だけど既に4人で討伐依頼も含めて、何度か依頼達成しているようだ。まだ春先なのに立派なもんだよ。それで、俺達との共同依頼については……?
「是非、お願いします。勉強になりますから」
「そうか!俺達としてもありがたい。よろしくお願いします!」
俺達なんて先輩風を吹かせる程偉くもないし経験もない。是非仲良くやりましょう。
「うちのメンバーを紹介したいけど、2人は今ちょっと用事があってね。また今度紹介させてもらうよ」
ルーとクリスは御老公に呼ばれて王城に行ってしまった。何の用だ、とかジジイは新年になっていつまで王都に居るんだ、とか思うところはあるけど、まぁいい。
「『漆黒の師団』は有名ですから、だいたい知ってますよ。大丈夫です」
そうなんだ……どういう風に有名なんだろうな。俺達自身はよく知らないけど……いや、やっぱり聞きたくないわぁー。ひとつだけ彼等に言っておきたい事がある。俺は悪くない、だ。
「参考までに、君達の腕の程を少し見せてよ」
「セシルさんに見られるのは恥ずかしいけど……良いですよっ!」
冒険者なんて全員ヤクザみたいなものだからね、己の身の安全の為に秘密にしたい部分もあるだろうけど、多少は情報が無いと共同作戦は難しい。ある程度の実力は把握したい。
「じゃあ、今日も僕達はゴブリン討伐に行くので一緒にどうですか」
そんなジャックの提案に乗った。時間ならあるし、共同依頼じゃないが彼等のゴブリン討伐を見学しに行こう。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「とおっ!!」
アクセルが激しく斬りつけて、5体目のゴブリンをあっさりと倒した。彼らのパーティは男の子3人が剣士。カミーユが治癒魔法使いだった。剣士3人は……もう少し役割分担したらどうだろうとは思うけど、まだ試行錯誤の時期なのかもしれない。
「ああっ、いいっスよ!俺達がやりますんで置いといてください!申し訳ないっス」
アクセルがそういうけど、俺とセシルは暇だから……彼らが倒したゴブリンを解体しておいた。相変わらず臭いぜ、ゴブリン。流石の俺もゴブリン肉を食べようとは思わない。たまにゴブリン肉をなんとか加工して食べる物語もあるけど、これを?マジで?腐ってるんじゃないかってくらいに臭い。罰ゲームでも無理ぽ。実は日本でタヌキ肉を食った経験があるんだけどさ、アレも激しく臭かった。クセが強いなんてレベルじゃない臭さ。そしてゴブリン肉は間違いなくタヌキを上回る激クサ素材だ。およそ人が食うシロモノではない。
「良いよ良いよ、無理言って付いてきたんだし。ほら、どんどんゴブリン倒して」
彼らは思ってたより強そうだ。ゴブリン相手だけど危なげなく倒していく。確かに剣士3人なんだけど……よく見ると少しタイプが違う。
アクセルは正統派というか、いわゆる典型的な剣士だ。ゴリゴリと力と速さで正面から勝負するタイプ。それに比べてダニエルは少し短めの剣で戦っている。軽戦士っつーのかね、動きも早くて距離を取りながらも一気に接近したりするセシルタイプ、かな。そしてジャックは、やっぱり冷静に一歩引いた位置から戦っている。多分だけど魔法も得意そう。眼鏡があったらクイッてやりそうな雰囲気だ。強引に言うならクリスタイプだろう。
そして彼らの態度と会話を聞いていて分かったことがもう一つあった。
この少年たちは全員、カミーユに惚れている……!いや〜アオハルだな、オイ。好きな人はこれだけで白米が進むんじゃないだろうか。セシルにそのことをコソッっと話すと「カミーユには全然その気はないようだけどね」だって。これは……長期連載になりそうなパーティだな!
タイプの違う少年が3人。出来れば好感度を数字で表示して欲しい。個人的にはジャックを応援したい。というかリーダーに頑張って欲しい。リーダーが報われて欲しい。うん、応援というか……これは願望だな。俺もパーティのリーダーだし、リーダーには幸せになって欲しいという切実な願いなんだよ。
程なくして彼等がノルマを達成したので、再び冒険者ギルドに戻った。うん、手取り足取りしなきゃいけないようなレベルじゃないね。むしろ将来有望なパーティと言って良いじゃなかろうか。そんな彼らと、どんな依頼を受注しようね?どんなのがいい?
「何か良いのないかなぁ?」
「アンタ達が、この子達と一緒にねぇ…」
困ったらミシェルさんに聞く。人生に必要なことは大体ミシェルさんが教えてくれるはずだ。俺はそう信じてる。
「……これなんてどうだい?オークの集落討伐」
ほらな。なんとかしてくれただろ?君達も困ったらこの人に相談しなさい。あのハゲとは違って頼りになるから。ハゲって誰だって?ギルマスだよ。分かるだろ、それくらい。
「ねぇ、お姉さん。オークの集落を討伐するの?大丈夫?」
「小さな集落だそうだよ。上位種も居ないそうだし」
オーク討伐もピンキリなんだね。最難関はショウゴ・サイコウジが討ったというオークエンペラー。数百から数千の規模になったりして、それはもう討伐と言うかほぼ戦争だよね。今回のはせいぜい10体前後らしい。
「この依頼にしようと思うけど、君達は大丈夫?」
「余裕ッスよ!」
ならば、これに決定。場所は……セシルが覚えてくれる。距離的に日帰りは無理そうだな。それより、『赤き粉砕者』の交通手段が問題だ。もちろん馬も馬車もない。聞いたら、まだ遠出はしたことないそうだ。
「では明日の早朝、南門に集合」
そこで馬車をレンタルしよう。実は俺達もほとんど未経験なんだよね馬車のレンタル。以前、盗賊討伐の時にギルドに借りたことがあるだけだ。俺達は自分の馬があるし、荷物については収納魔法があるので困らないし。それでも馬車自体は何度も使ってるよ。商人の護衛依頼の時もあったしさ。
「最低2泊することになるから、お泊りセットを用意するように!」
テントも予備があるし食料も水も燃料も既に用意してある。俺達の分は、な。それを彼らに提供してあげれば、お手軽オーク討伐体験ツアーは完成するけども……それじゃあ彼等の経験にはならないだろうからね。今後、彼等だけで遠出した時に滞りなく依頼達成が出来るように教えて導かないとね。俺達が以前先輩達に教えてもらったことを、教えてあげよう。
ああ、同時にアッシンさん等の残念な先輩の背中も思い出してしまった。まぁ…世の中には反面教師も必要ってことかもしれない。
少し心配なので『赤き粉砕者』のお泊りセットの購入にお付き合い。良さげに見えてもこういうのは実は使いづらいぜ、とか体験談を交えて買ってよかったシリーズを一つ一つ説明した。俺達もあんまり過保護魔神のことを笑えないな。いや、これも師匠の影響なんだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
翌日の朝。天候は晴れ。既に全員が揃っている。
「さぁ、行こう」
俺の号令で出発だ。馬車には、『赤き粉砕者』のメンバーとセシルが乗っている。今は彼等の参考になるようにセシルが手綱を握っている。俺とルー、クリスは馬で移動だよ。そう、今回は走らない。いたって一般的なやり方で普通に依頼を達成する予定だ。セシルが索敵しながら馬車がゴトゴトと進む……ああ、平和だなぁ。
「今回は食事を作らなくて良いよ……と言うか我慢してよ」
「……わかってる。私は後ろで大人しく見てるよ」
あんまりわかっていません、と言わんばかりに不満そうな顔してますけども。拗ねないでください。これは依頼が終わったら機嫌を取る必要がありそうだ。だってねぇ……そりゃルーに頼めば依頼中の野外とは思えない美味しい食事が出てくるし諸々の快適が約束される……だけど、それは彼等にとって毒でもある。
今後、そうそう美味い食事なんか食えるとは限らないのに常にルーの食事を思い出してしまうかもしれない。食事は貴重な楽しみなのに、逆にストレスの元になってしまいかねない。なので、今回は普通の冒険者と同じように彼等だけで再現可能な範囲での食事、その他キャンプ生活を送るのだ。
『赤き粉砕者』の面々は緊張した面持ちで周囲を見回している。街道沿いだし、まだ王都の近くだから危険地帯じゃないのに……そんなんじゃ目的地まで持たないよ?と声を掛けたいけど、これも経験かもしれない。多分、俺も最初はそうだったと思うし。フォロー出来る範囲内なら自由にさせよう。
「人に教える、は優れた勉強法だよ。君にはこういう方法のが向いてるのかもしれないね」
「最近は家でも割と勉強してるでしょうが……」
「そうだね。えらいえらい♪」
そこまで子供でもないぞ、と思いながらもルーに褒められて嬉しい。こんな単純な自分が大好きなんです。
しかし、こんな日もあるんだな。今回のターゲットであるオークの集落まで、もう少しという場所まで来たが、ここまで全く魔物に遭遇しなかった。肩慣らしの訓練がてらに多少は出てくれた方が良かったんだけど……果たしてこれは吉兆か凶兆か。
「ここをキャンプ地とする!」
俺も言ってみたかったんだよ。
少しずつ夕闇が迫りつつあった。さぁ野営だっ。食事だっ。
「クリスと……君達からも1名、食事担当だ」
今夜のお食事大臣はクリス。いつもと違って新鮮な肉や野菜はあまり無いけど頼むぞ。そして『赤き粉砕者』からはカミーユが出てきた。ここは美味しい食事で、ボーイズのハートを更にがっちり掴んでほしい。初めてのお泊り、これって彼等にとっても非常に重要イベントだろう。そんなイベントを目の当たりに出来るとはステージ最前列ど真ん中の席だな。しかし我々は楽しいキャンプに来た訳ではないので、他にもやらなくちゃいけない仕事がある。
「そんでセシルと……もう1名。斥候だ。オーク集落の状況を確認してきてくれ」
これにはリーダーのジャックが手を上げてくれた。ああ、何故まだこの時代に眼鏡が無いんだろう。彼には是非、クイッとしてほしい。探せば既にあるのかな、眼鏡。あったとしたら高級品だろうけど。伊達メガネで良いからクイッとしてくれないかな。
「残りはテントの設営!」
残りって俺と、『赤き粉砕者』のダニエルとアクセル。彼等にとっては初めてのテント設営だからね。いつだったか、俺達がアルバンさんに教えてもらったように設営のやり方を教えてやるのだ。残念ながら、俺はアルバンさんほど上手くテント設営が出来ないけれどもね。
こうやって人の知識は広がっていく。
こうやって人の歴史は紡がれていくのだ。
テントの設営如きで歴史を感じられるなんて俺って本当にロマンチストだなぁ……お手軽で単純だな、とも思うが。2つのテントが粗方出来上がったところで、少し不満そうなダニエルがそっと囁いてきた。
「……あの人は手伝わないんですか?」
あの人ってルーのことか。ちなみに今日は朝から全身黒鎧を着ている……というか着させた。恋に落ちつつある少年達に別の美少女を見せて惑わせる事もないと思ってさ。
「バカヤロウ。あの人は俺達の師匠だぞ!……しかも、ここだけの話だが貴族だ」
正確にいうと彼女は王族であって貴族じゃない。爵位は貰ってないからね。御老公にくださいと言ったら簡単にくれそうだけど。そんな訳で、くれぐれも仕事させようとか思うんじゃないぞ。え?今、第3王子が料理を作ってるって?うるせぇ!言うな!見るな!見てもいいけど他所で言うんじゃないよ!
なんだかんだでテントの設営完了。そして食事の方もそろそろ準備は大丈夫そうだ。と言っても、普段のような手の込んだ料理じゃないぞぉ。干し肉を切って少々の野菜と煮込んだ簡単シチュー、そしてチーズ。パンは各自用意してきたのを頂く。
野営での食事って本来はこんなもんらしい。ひとつ、ミスというか失敗だったのは『赤き粉砕者』の連中が持ってきたパンだな。保存性の高そうなカッチカチのパンを持ってきたのだ。それでも間違いじゃないんだけど、今回は2泊3日の予定だからもう少し柔らかいパンでも良かったと思う。大航海にでも出る予定か、君達は。
あとはセシル達を待つだけだ……と思っていたら馬の足音が近づいてくる。予想通り、セシル達だ。さぁ話を聞く前に飯を食おうぜ。
「聞いていた通り、あの森の中に集落があったよ。本当に小さかった……数えた限りは9体のオークが居たよ。上位種らしい個体は無し」
「武装は?」
「ジャック、説明してあげて」
「はい。鎧とは言えないような粗末な装備をしていました。武器は……見た限りではほとんど持っていなかったんですが1体は錆びた手斧を持っていました」
まぁね、オーク達も生活してるだろうから。防具はさておき集落内で常に武器は持ってないかもな。オークも健気に平和に生きている訳だ。それを襲撃しようっていうんだからな。………平和に、てのは少し嘘だ。これは先日の話だけど、近くの村が襲われているらしい。幸いなことに死人こそ出なかったらしいが、それはラッキーってもんでしょ。魔物ってのは、やはり人の天敵なんですよ。
「思ってた程難しい依頼では無さそうですね」
笑ってそう言うアクセルに釘を刺した。
「油断しちゃいけないぜ」
確かに難易度は低そうだけどな。でも作戦決行前に油断しちゃうようなことは言わないよ。常に多少の緊張感を持って、です。
「オークは素手でも人とは桁違いの戦闘力を持つ。それに……多分、上位種が居る」
「ボクの気配察知をみくびってるの?」
「それは信頼してるさ。多分、さっきは集落の外にでも出てたんじゃないか?」
「根拠は?」
「勘だよ。いやな、今日ここまでの行程も静か過ぎるでしょ。一度も魔物に遭遇しないなんてさ。もしかすると強力な魔物が居るから……雑魚は逃げちゃったのかもな」
その程度の想定はしておいても良いだろう。まぁ俺の勘なんて当てにならない。せいぜいカミーユ達が油断しないように、と思って言ってるだけだよ。
「決行は明日の夜明け前。カミーユは後方でセシルから離れないように。前衛はクリス以下剣士ども、4人で斬って斬りまくれ。俺は随時援護します。最優先は敵を倒すより安全だ、くれぐれも無理はしないように。する必要もない」
失敗したとて無事ならまた挑戦すりゃ良いだけだ。チラッとルーを見たけど無言。多分、問題無いんだろう。魔神基準で問題無いと言うだけかもしれないから油断は絶対出来ないけど。
さて、食事も終わったら明日に備えて寝るよ!見張り番は最初は俺とジャック。順番にセシルとダニエル、クリスとアクセルと数時間ごとに交代する。これも1人で十分だけど最初だからね。初めての見張りで1人は心細いだろう。俺達の場合も、初めての野営での見張りはルーが一緒に居てくれたもの。眠らなくても大丈夫な魔神が。
あー……違うな、セシルとクリスだけは俺より先に魔神無しの野営を体験してたか。あの時は俺とルーだけ先にヤンクロットに行ってたから。あの時の2人はどうだったんだろ。『血塗れの火炎』のメンバーと合流して野営していたはずなんだよな。女好きをさておけば頼りになる先輩達だから不安は無かったと思うけど。
いつか、その物語も聞いてみよう。




