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91 痛くなければ覚えませぬ

 


  騎士に任じられたところで、いきなり騎士としての仕事があるわけでもない。普通はあるんだろうけど俺達には無かった。春になってクリスが旅立つその日までは暇だ。細かい事を言い出せば、本当は色々とやるべきこともあるんだろうけれど、今は暇なんだ。しかし暇だからって遊んでいられる身分でもないし。

 そして今日はルーもクリスもガールズも学園に行っている。俺とセシルの、のほほん組と違って、あの人達は基本的に真面目だからねぇ。仕方ないので朝からセシルと2人で引越しの手伝いをしてきた。俺達が保護者無しで受けられる依頼なんてたかが知れているんですよ。それでも収納魔法があれば引越しなんて実に簡単な仕事なのですぐ終わってしまった。

 昼も随分過ぎた時間だが俺とセシルはギルド内でのうのうとしていた。ぐだーっとしていたと言ってもいい。のほほん組は基本的にこうなのだ。


「遊んでいられるような身分か?」


 ………うるさいなぁ。俺だってね、何か内職系の細々とした依頼をしようかと思ったんだけど、ミシェルさんに抑えるように言われたんだよ。なんでか?っつーとね、新年になって学校を卒業した新人冒険者がやってきているんだよ、既に。徐々に。そうなんです、我々にも後輩が出来たんですよ。ああ、俺もついに先輩か。少しは尊敬されたいね。

 そして簡単な依頼は、その新人達のためにも残しておけという配慮ですね。当然と言えば当然な話だ。


「そんな配慮が出来るようになったとはなぁ」


 だから、うるさいっての。

 うっせいうっせいうっせいわ。

 俺だって精神年齢だけなら老人だからね。

 常に周囲の人々の事を考えて優しくあろうとしているのが俺なんですよ。


「おぅアレク、暇そうだな………こちらの爺さんは誰だよ?」

「………俺達の師匠の親父さんですよ」

「レティシアちゃんの!?はじめまして、俺……いやワタクシはB級冒険者のアッシンといいます。娘さんとは以前から特別に仲良くさせていただいてまして…」


 いや、特別に仲良くはしていない。少なくとも親に挨拶するようなレベルじゃないよね。せいぜいが会ったら挨拶はする、程度の仲じゃないですか。顔見知り以上友達未満くらいの仲じゃないですか。

 とゆーかだな、ほぼ半年近くぶりに再会しての第一声が暇そうだな、とはどういうことだ。挨拶も無いとは相変わらず残念な先輩だ。俺も新人達を前にして、こうならないようにしよう。そう考えれば相変わらず最高の反面教師だ。


「拗ねるなよ、ただいま」

「おかえりなさい。元気そうですね」

「……お前達の知り合いか?」

「1年前、俺達が冒険者ギルドに入って最初にルーを口説こうとしてきた、本当に色々な意味で御世話になってる先輩ですよ」

「ほほぅ……俺の娘にな。君は大変に勇気のある冒険者なのだな」


 勇気じゃなく無謀なんだ。本能に忠実なんだよ、この人は。俺以上に下半身で全てを考えているんだ。そういう意味で勇者ではある。なのであまり本気で怒らないでいただきたい。


「無理矢理付いてきたんだから大人しくしといてくださいよ…」


 大公ともあろう人がだよ。どうしても冒険者ギルドを覗いてみたい、って言い出してね。わざわざ変装までして、ついてきたんだよ。御老公だからって水戸黄門みたいなことしようとするんじゃないよ。ここは越後のちりめん問屋の隠居という設定が通用する世界じゃないんだぞ。


「お父さん、これもご縁ですから一杯奢らせてください!」

「「誰がお父さんだ」」


 爺とハモってしまったじゃないか。帰ってきたアッシンさん、いきなり通常営業だな。つくづく残念な先輩だ。いつ帰ってきたとか、ここしばらくの積もる話とか、そういった話を全く聞いてないぞ。実にアッシンさんらしいと言えば、らしいんだけどさ。


「アレク……あっちにも懐かしい人が居るよ」


 なんだよセシル、懐かしい人はここに居るのに?

 残念なアッシンさん以外に?誰が?


 セシルに言われた方を見ると………なるほど、確かにそこには1年前に見た、懐かしい光景があった。初々しい新人冒険者(女性…というか女の子、だな)に親しげに声をかける男。あれは誰だっけ……確かニコラス……なんとか。よく名前は覚えてないが俺達が冒険者ギルドに登録した初日にセシルを口説いてきて、その結果、セシルに股間の玉を一つ砕かれた先輩ではないか。毎年、懲りずにあんなことしてるんだろうか。してるんだろうな。イベント用のNPCみたいな人だな。


「セシル、あれも知り合いなのか?」

「まさか!知り合いじゃないよ!」


 そう言って、セシルが御老公に1年前の登録初日の成り行きを詳しく説明した。それもギルド中に響くような大きな声で……絶対わざとだよな?

 爺とアッシンさんはそれを聞いて、腹を抱えて笑ってる。確かに今となっては笑い話だよね。口説かれていた新人の女の子にもセシルの話が聞こえてきたのだろう、目の前の玉砕かれ先輩にドン引きして逃げだしましたわ。


「お、お前ら……いい加減にしろよ!でかい声で有る事無い事言いやがって!」


 セシルのおかげで一人の女の子が魔の手から救われたけど、代わりに玉砕かれ先輩は俺達に八つ当たりしにきた。いやいや有る事無い事って、全部有った事だよ。そして、お前らって……俺も込みなの?俺は何にも言ってないし、やってませんが。


「おい、ニック。どうしたぁ?」

「兄さん!コイツらだよ、前に話していた連中は!」


 この場合の兄さんというのは兄弟なんだろうか、それとも兄弟分なんだろうか。爽やかイケメンタイプの玉砕かれ先輩と真逆のベクトルのマッチョな大男がやってきた。全然、全く似てねぇですね。


「お前らが……随分とニックが世話になったようだな」

「本当だよ。あんまり常識が無いようだから叩き込んでやったんだよ。お兄さんの方からもキッチリ教育しといてもらいたいもんだね」

「……面白ぇ女だな。わかってないんだろうが、俺はシュルドーが誇る剛拳のゴドフロア、天下のB級冒険者だぞ?泣いて詫びるなら今のうちだぞ」

「えーんえーん、ごめんなさいでしゅー。これで良いかなぁ?」


 ……なぁ、セシル。そういうことを言いながら、なんで俺を前面に押し出してるん?これセシルの相手ちゃうん?俺、何も関係ないですやん。シュルドーの剛拳って言ったらアレだぞ、多分凄いんだぞ?俺はもちろん知らんけど凄いんだと思うよ。シュルドーも初耳だしゴドフロアの名も聞いた事ないけども。

 セシルは剛拳のゴドフロアを煽るだけ煽ったら、それでもう飽きたのか俺の後ろに隠れて爺とアッシンさんの3人で、コイツらが本当の兄弟か兄弟分なのかで議論している。「体型が違い過ぎるだろ」「でも髪と瞳の色は一緒だよ?」「父親似と母親似で違いが出たとか?」………それ、どっちでも良くないっすか。


「舐めやがって…!おい、そこの女!お前が俺達を満足させるなら勘弁してやってもいいぞ。言っておくが兄さんの強さは本物だぞ!」

「そこの女ってボクのこと?」


 セシルはもちろん、俺も御老公も彼らにそこにもどこにも女など居ないことを説明しない。それは有料のサービスだよ。がっつり課金してくれないとね?


「他に誰がいる!そもそもお前が大人しく俺のモノになっていれば……!」


 玉を砕かれることもなかったって?その点に関してだけは俺も少しは同情してるよ。さっき、見知らぬ女の子をナンパしてたのを見て少し安心したくらいだ。是非、残った玉を大事にして欲しい。


「おいおい、そんな口説き方があるか。お前童貞か?そうでなくても俺の目の前でセシルを口説こうなんざ良い度胸だな」

「あぁ!?ジジイはすっこんでろ!」


 俺もこのジジイにはすっこんでてほしい。本音を言えば、彼らの側に立って「そうだ!ジジイはくたばれ!」くらい叫びたいけど流石に口には出来ない。この爺さんの正体を知ったらチビるで、君達。


「来てみるもんだな。こんな新鮮な会話は久しぶりだ」


 喧嘩を売られながらも呑気な爺さんだ。口にはしてないが、コイツらと似たような台詞を俺も言ってやりたいと常々思ってるよ。本人の希望があるなら、これからは面と向かって言ってやろうかな。

 まぁそれはそれとして、だ。俺達も一緒に居るのに大公に怪我をさせる訳にもいかない。忌々しいが何処ぞのチンピラにやらせられない。アレだ、お前を倒すのは俺だからな……的なヤツだ。


「おやおや、御老人が相手だと元気ですね。俺達相手じゃ自信が無いのかな。それとも子供や老人を殴って手に入れた名ですか、剛拳てのは」

「おい、ニック!俺はもうキレたぞ……おいお前、表に出ろ!本物の冒険者の強さってモンを教えてやる!」


 だってよ。セシル、頑張れよ。

 キチンと教えてもらえ。


「なんでボクが。今、指名されたのはアレクだろ」

「えー……アッシンさん、どう?天下のB級冒険者だってよ」

「俺はお父さんの相手で忙しいんだ」

「お父さんじゃない!……が、アレク。お前が少し懲らしめてこい」


 その台詞を言うとますます水戸の御老公じゃないですか。いや、あんな大男相手に喧嘩なんて無理だって。そんなモン、勝てる訳ないですやん。相手B級やで?僕、D級やで?体重も随分差があるよ。契約体重超過で失格じゃない?あ、契約はしてないか。


「それともレティシアにアレクシスはB級の大男相手にビビって半泣きで逃げ出しました、とでも言おうか?」

「なんだとジジイ……いいか!誰にも、チキンとは呼ばせないぞ!」


 この世界では誰にも通じない映画のネタだ。ああ、5分前で良いから過去に戻りたい。その辺にガルウイングの自動車ないかな。ドクは居ないのか。つまらんネタを披露したかっただけなんだけどなぁ。この世界では誰にも通じない映画ネタを言ってたら話の流れ上、俺が喧嘩することになってしまった。いやぁ〜……マジで無理だろ、あんな大男。しかも得るものがない。コレ何の為の喧嘩なんだ。


「俺はアレクシスの勝利に1万!他に居ないか!」

「俺もアレクシスに5000だ!」


 そんな俺の気持ちも知らず、わいわいと皆が賭けを始めやがった。ちなみに真っ先に賭け出したのは御老公だ。テメェ…!このジジイ、やり方が慣れ過ぎていないか。多分、若いころから城を抜け出して似たような事をしていたんだろう。この不良王族め。どうしよう、俺がこの剛拳のゴドフロアに賭けちゃダメかな。八百長か、それは。


「心配すんな、小僧。武器なんざ使わねぇよ。男同士、正々堂々素手で来い」

「……そりゃどうも」


 何が心配するな、だ。武器が無きゃ普通は体格勝負じゃねぇか。素手ならお前が有利じゃん。しかも剛拳の、なんて名乗る男がだよ。おい、それは素手か?なんかトゲの付いた痛そうなグローブ付けてますけど武器じゃないの、それ。おい、聞こえてないの?それ武器だよね?なんで外さないの?


 B級冒険者だったか。まいったな。

 想定は……誰が良いかな。

 そうだな……あの時の、火山ステージの紅いクリスにしようか。

 殺意の波動に目覚めたクリスだな、このゴドフロアには勿体ないか?

 あれに素手で挑むのかぁ、大変だな。









 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇










 そのままギルド前の道路に移動して、俺と剛拳の周囲を野次馬が囲んで……これを輪と考えたら、これもリングと言ってよいのだろうか。前世でもゲーム以外でボクシングなんてやったこともないけど、とりあえずファイティングポーズでも取ってみよう。


 素手の戦い、か。


 俺もセシルもクリスも実は慣れてるんだ、素手も。俺達の師匠による、武器が常に手元にあると思うな!という指導方針の元に、素手での戦いをも我々に叩き込んでくれたからだ。もちろん実際に叩き込まれたのは師匠の拳であり肘であり膝であり蹴りだったりするんだけど。痛くなければ覚えませぬ、なんて実際に言われたら戦慄するよね。美少女に殴り殺される経験なんてノーサンキューだよ。そういうのがご褒美な業界なんて俺は知らないんだってば。



「ガアアアアアアアアアッ!!」


 開始の合図もなく放たれる、大砲のような右ストレート。なるほど、剛拳のゴドフロアと呼ばれるだけあるわ。思わず両腕でガードしたけど、ガードごと……というか俺の身体ごと吹っ飛ばされた。痛ぁ!なんて力だ!

 周りの野次馬共が歓声を上げる。楽しそうやね、皆さん。俺は真後ろに陣取っていたセシルとアッシンさんが支えてくれなかったらどこまで飛ばされていたんだろうか……あー痛ぇ。さて、どうしようかな。今からでも逃げ出したい…!


「今の無様に吹っ飛ばされた様子を師匠に黙ってて欲しかったら、秒殺してきな」

「秒殺されそうなんですが」

「なに?ボクと代わってほしいの?」

「いや……引き続き応援よろしく」


 失敗だ。油断した。あの時のクリスが相手ならもう殺されている。あー……今のがルーにバレたら、それだけで殺されそうだ。あの師匠は防御に関して非常にうるさい。ダメージが無けりゃいいだろうってもんじゃない。当てられた、と言うだけで酷く怒られる。


 何のために鍛えた見切りだよ。

 いかん、セシルに命運を握られてしまった。

 失態を黙っててもらう為にも一秒でも早く、この剛拳を黙らせねば。


 そうだ、落ち着いて習った通りにやってみよう。まずは……襲い来る剛拳の追撃を見切ってバックステップで回避、そして魔神直伝のいわゆる落とすローキック!砕けろ、膝!

 良い音が響いた。我ながら会心の蹴りが入った。この時代にはまだ存在しないであろう、近代格闘技が磨き上げた叡智の結晶のような技だ。


「っ!!!」


 痛いよな、わかるよ。俺なんて最初にコレ食らったとき泣いたもん……子供の頃の話だよ?いたいけな子供の俺の膝に執拗にローキックを叩き込むルーってマジでドSだ。最近も蹴られて泣いたのは内緒だよ。

 それを思い出したかのように連続で防具の隙間にローキック。うんうん、未知の痛みは辛いよね。流石の剛拳も激痛に顔を歪めて膝を付いた。そんな低い位置に顎が来たら……今度は近代格闘技のもう一つの奥義、ジャブ。徒手空拳では最速の攻撃だ。脳を揺らせ、ほら揺れろ揺れろ脳!

 久しぶりの素手の戦いであっても激痛と死の恐怖を伴って身体に刻まれた技術は忘れないもんだな。流石のB級冒険者も脳震盪を起こしたのか、朦朧としたところに膝蹴りを顔面に打ち込んで、ようやく剛拳は地に倒れた。


 周囲の野次馬から本日最大の歓声が上がり、対象的に玉砕かれ先輩は青い顔をしていた。どう?もう一つの玉もついでにいっとく?


「間に合ったかな?」


 連中は無視して、すぐにセシルの機嫌を伺いに戻った。どう?秒殺だったかな?頑張ったからルーには黙っててくれるよね?怒らせると怖いんだよ、あの師匠は。


「間に合ったのかなぁ。……どう?師匠」

「うん、ちゃんと勝ったところは見たよ」


 ……居るじゃねぇの!

 本人が!背後から御本人登場してるよ!

 本当にドッキリするもんだね!

 心臓のドキドキが止まらないよ……これって恋?


「まぁ、まずは席に戻ろうじゃないか。アレクシスが小銭を稼いでくれたからレティシアも飲もう」

「お父様、こんな場所に珍しい……一体何があったんですか?」

「さて……どう説明したもんだろうな、アレクシスよ」


 ジジイが今日一番の邪悪な笑顔でこっちを見ていた。

 ………最悪や。

 最悪の相手に最悪の情報を握られてしもうた。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇









「アッシン殿もお久しぶりですね」

「おう、向こうが落ち着いてきたか昨日、戻ってきたんだよ。レティシアちゃんにも長い間淋しい思いをさせてゴメンな?」


 私は露程もそんな思いはしていないよ、という言葉を飲み込んで魔神は無言でニコリと微笑んだ。おいアッシンさん。微笑んでもらえるだけサービスだろ。無料じゃないぞ、有料だ。持ってんだろ、金出せよ。ほら全部出せ。


「そんで、ルーはどこから見てたの?さっきの」


 皆で酒だの料理を注文して、落ち着いたところで恐る恐る聞いてみた。多分、大丈夫だと思うんだ。根拠はある。だって、ぶっ飛ばされたところを見てたとしたら既に説教モードなはずだ。今はいつもの優しいルーだから見ていない筈だ。


「君がジャブを打ってたところから。あれは何があったの?」


 セェ~~フ!!!オッケイ!大丈夫!見られてない!

 やっぱりな、そんなに不幸は続かないんだ。

 止まない雨は無いじゃない。

 明けない夜は無いじゃない。


「あれはね、去年の今頃にセシルに絡んできた奴が復讐に来た……そんな感じ。でもね、もう終わったから大丈夫だよ!」


 そう、この話は終わったんだ!いいよな、皆!すげぇニヤニヤしているジジイが約1名いるけども……いいか、余計な事を言うなよ!もう帰れよ!


「アレクシスよ……男はな、平穏を求め戦い続けるしかないのだよ」

「何を言っているのかサッパリわかりませんな、御老人………痴呆かな?」


 その老人が懐からテーブルの上にカードを出した。いわゆるトランプだ。俺が知ってるトランプと比べると少々絵やマークは違うけどトランプ。こんなもんをすぐに懐から出てくる王族ってどうなんだろうな。国民として、ひくわぁ…。


「平穏が欲しけりゃ勝負しろといっておるのだ。そうだな、ポーカーでもやるか」

「不良老人め…!勝てばいいんだろう、勝てば!」


 今日の俺は星座占い、絶対最下位なんだろうな。何の因果で平和な午後がこんな風になったんだ。あのぼーっと昼寝してた頃に帰りたい…!それにしてもこんな時代にもポーカーってあるんだね。それともこれもキリヤマさんが広めたのだろうか。それとも文明が進むと異世界でも同じように発明されるのかね。


「ディーラーは………セシルはポーカーわかる?子供のときやったの覚えてないか?わかんないか、じゃあルー、お願いします」


 このジジイに任せるとイカサマされそうで…俺?イカサマなんて、したくても出来ないよ。ポーカーの特訓なんざしたことない。あるわけがない。リバーシなら少しは自信あるけど。ポーカーなんてドドド素人だよ。今からやるのも普通のドローポーカーだ。令和の地球で流行りなのはテキサスホールデムだっけ?そんなの、やったこともないよ。


 チップは互いに1000Gコインを10枚。

 そういえば、御老公と直接勝負するなんて初めてかもしれないな。

 事情はさておき、負けられん!

 まずは1000Gコインを一枚、お互いに出す。


「お父様も子供なんだから……2人とも仲良くしなさい?」


 カードを配りながらルーに軽くお小言を頂くが……このジジイと仲良くなんざ無理無理無理。無理ぷー。そして俺に配られたカードは……ハートの3・剣の7・星の7・星のJ、そして木の8。大したカードじゃない……がワンペアあるだけ上等だ。


「3枚チェンジ」熟考の後、場にもう一枚コイン出しながら宣言。ジジイの方は2枚交換。ククク………きたぜ、ぬるりと!俺のカードは……剣の7・星の7・ハートのA・ハートの9・星の6。うん、全然だめだぁ。


「クックックッ……相変わらずお前は表情でバレバレだよなぁ」


 そう言いながら場に更に2枚のコインを出してきやがった。

 うっせいぞ、ジジイ。

 そういうのはな、勝ってから言いやがれ。

 コールだ、コール!


「5のスリーカード。……まずは俺の勝ちだな」


 きぃーーー!くやしい!

 まだ勝負は終わってませんよ!


「そうだよ、アレク。勝負はこれからだよ、頑張って。それと、この勝負が終わったら……そうだね、下の訓練所に行って素手の近接戦を復習をしましょうか。今日は少し厳しめにやるよ」


 …………なんで?え?


「はい、カードを配るよ。あの程度の相手にガードしたとはいえ一発食らうとは……弛んでいるよ!情けない!」


 コインを出す俺の手が震えてる。ドS魔神が少し厳しめにやる、って多分どえらいことになるよ。あれ?ここの地下の訓練所って死んでも生き返れるんだっけ?多分、今日が俺の命日だ。


「セシル…!?」

「ボクはなぁ~んにも言ってないよ」

「クックックックッ…!3枚交換だ。相変わらず笑わせてくれるな、お前は」


 ジジイ、笑ってる場合かァ!

 1ミリも笑えないわ!

 何故バレた!

 誰が……だってセシル以外御老公以外………あ。

 あああ……!!!居た!


「だってレティシアちゃんに聞かれたら言うだろ。全部。ああ、最初から」


 何故、昨日帰ってきたんだアッシンさん。

 半年近く王都に居なかった男が何故。

 忘れずに口止めしておくべきだった…!

 コイツだ。まずコイツから始末しておくべきだったんだ…!

 剛拳なんぞ後回しで良かったんだよ。


「……何枚交換?」


 どうする。どうすれば切り抜けられる。そうだ、カード交換だ。カードを、運命を交換するのだ!……え、それはどういう意味?それに交換というなら、俺は既に交換されたカードなのだよ。そう、あの剛拳に喧嘩を売られたとき。

 あれは……そもそもセシルの喧嘩だろう?あの時「なんでボクが」の一言で何故かセシルと俺がチェンジされてたんだ。何故あの時、俺はまぁいいかと思ってしまったんだ……とか現実逃避。


「何枚交換するの?しないの?」


 魔神の声のトーンがいつもより低い。

 相当に機嫌は悪いぞ、これは。

 俺、大ピンチ。


「……このままでいい」

「「はぁ?」」


 理解してくれるのはルーだけでいいや、もう。だいたい、この勝負の意味ってもう無いしな。勝とうが敗けようが。それより、この後の悲劇をいかに回避するかで頭がいっぱいだよ。


「自棄になったか?カードも見ずに勝負するのか?」

「………ああ、このままでいい」


 なんなら花〇院の魂も賭けようか?


「ま、俺は構わんよ。さぁ勝負だ」

「待ちな……爺さん。俺のレイズの権利が済んでないぜ…」

「レイズ?本気かお前」


 そこはレレレレレレレレイズだと?くらいは言ってほしかったな。なんでそんなに冷静なん?もっと慌てていいんやで?


「残りのコイン全部だ」


 母親の魂は賭けません。

 そもそもハナから魂は賭けてない。


「コール」


 あっさりコールされた。

 バカヤロウ、ここが見せ場なのに。

 クソジジイめ!わかってるはずもないけど、わかってないな!











 勝負?当然の様に負けました…良いんだよ、魂を取られるわけじゃないし。金は取られたけど。それとジジイのムカつく面を拝まされただけだ。あー、腹立つ!やっぱりめちゃムカつくわ!ケッ!


 その後の記憶はあやふやですわ。だって直後に地下の訓練所に連行されてドS魔神にボッコボコにされたから。乱舞だよ、乱舞。ガード不可。もう修行なのかお仕置きなのか、俺にもよくわからん。

 ほらアッシンさん、目を背けるんじゃない。よく見ろぉ、アンタがベラベラと喋った結果がこれだぁ。代われ、アンタがこのローキックを、そして彼女の拳を受けろ。好きなんだろぉ?かわいい女の子が好きなんだろ?思う存分蹴ってもらえぇええ!骨が砕け肉が飛び散るまで蹴ってもらえ!


 これは完全に八つ当たりだが、今度また玉砕かれ先輩か剛拳に出会ったら……許さん。絶対に残りの玉も砕いてやる!



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