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87 酒は飲んでも飲まれるな

 


 翌日。天候は晴れ。


 久しぶりに二日酔いだ……昨夜はガールズに煽られて飲まされ過ぎた。ああ、今日の帰りも走らされる事を今になって思い出したよ。せめて水をたっぷり飲んでアセトアルデヒドを体外に排出しよう。


「ああ、やはり外で迎える朝は気持ち良いな」


 のんきな事を呟きながら宿の裏庭に出ると剣聖クレアが早朝から剣の素振りを繰り返していた。二日酔いもなく元気そうですなぁ……この子も結構飲んでたのに。若いってすごいね。今の俺の肉体も若いんだけどなぁ……。


「アレクシス殿。酒は飲んでも飲まれるな、だぞ」


 なんで、そんな日本のことわざ?を知ってるのかな。またショウゴ・サイコウジに教えてもらったんだろうか……本当にアイツは死んでからの方がタチが悪いよ。幽霊として出てこないだけマシと考えようか。


「どうですか。たまにはお手合わせしませんか」


 二日酔いで頭が痛いのに、A級の剣聖と打ち合えと?ただでさえ剣術では彼女に手も足も出ないのに。最初に剣で戦って勝てたのは彼女の油断と偶然の結果だ。


「ルーに指導してもらって腕を上げた剣聖を相手にやると思いますか?」

「普通はしないでしょうね。でもアレクシス殿は普通じゃありませんから」


 ………普通以下だとでも言いたいのだろうか。クレア嬢も腕を上げたのだろうけど、俺も今回の迷宮探索でレベルを上げて強くなった自信はある。二日酔いのマイナスを差し引いて、果たして彼女の相手になるだろうか。


「いつの日か、刺客に襲われたとして二日酔いだから今日は勘弁してくれとでも言うつもりですか?」


 剣聖クレアめ……随分と俺の性格をわかってきたね。もし、そんな事態になったとしたら……とりあえず俺なら言ってはみるだろうね。もしかしたら帰ってくれるかもしれないし。話せばわかる。いつか実現するその日を信じて!


「確かに、それで帰ってくれる刺客は居ないだろうがね」


 期待はしちゃうけど。

 夢見るお年頃なんです、俺は。

 そして夢はいつか覚めるものでしょうか。


 目の前の剣聖は、刺客というには美しすぎるし巨乳が魅力的すぎるかもしれないが。襲われたのならしょうがあるまいよ。どっちかっつーと普通に考えたら君の方が襲われる側なんだけどね。勘弁してもらえないかなぁ?


「ええ、私は容赦しませんよ」


 笑顔で恐ろしい事を言うねぇ。そういう言葉は許されるものなら夜にベッドの中で言って欲しいんだけど……こうなってはやるしか!


 収納魔法からカールの槍を取り出した。剣術三倍段、だぞ。槍術に剣術で対抗するには3倍の実力で互角になる、ってやつですね。


「では、参ります」


 律儀な刺客ですね。


「お手柔らかにお願いします」


 次の瞬間、雷光のような斬撃が来た。


 全然お手柔らかくないな!

 今の一閃を躱せたのは半分偶然。

 おい、彼女の踏み込みがとんでもなく速くなってる!

 槍と剣なのに間合いを一瞬で潰された。

 もう有利が消えた!ヤバい。

 二日酔いのせいでゾーンにも入れない。


 こういう時は前へ出るように教えられている。

 いかに剣聖が達人であっても男女の体格の差はどうしようもない。

 体当たりで彼女を跳ね飛ばして、ようやく距離をとった。


 本来なら彼女は飛ぶ斬撃も放つ。

 何それ、現実離れしてるのな!と思うけど放つのだ。


 だから本来は距離を取っても油断は出来ないんだけど、今は宿の裏庭にいるからね。彼女は良識もある達人なので、こんな場所で周りに危険な技は使わない。本物の刺客なら、こんなには優しくないぜ。俺には本物の刺客に襲われるような理由はないけどさ……多分。


 ああ、吐き気が……!

 長くは保たないな。

 俺のストロングポイントは敏捷です速さなんです。

 ここも速さで勝つ!


 剣聖クレアの呼吸を読む。おお、ゾーンには入れないと思ったけど、それでも集中力は増してきた。彼女の目の動きや筋肉の細かな変化も見えてきた。


「ハッ!!」


 今日、最速の斬撃を皮一枚で躱して左側を取った。

 剣聖クレアの形の良い顎先に、カールの槍の穂先を寸で止めた。


「お見事、ですね」

「ギリギリだよ、本当に」


 色々な意味でギリギリ。もうヤバい。

 するとどこからか、パチパチパチとわざとらしい拍手が聞こえてきた。

 こーゆークサい事をするのは一人しかいない。

 文字通りの王子様キャラだ。


「朝から面白いものを見せてもらったよ」

「クリストファー殿下。お恥ずかしい場面をお見せしました」


 クレア嬢は本当に律儀だ。

 あんなん、クリスで良いんだよ。


「僕にクレアさんと模擬戦しろと言った次の日に、自分がやってるんだもんな?」


 うっせいな。成り行きだよ、成り行き。

 俺だってそんなつもり無かったんだもん。

 こう見えても襲われてるんだよ、俺は。


「私とですか?殿下が宜しければ是非お願い致します」

「ええ、是非にお願いします。その前に準備運動としてアレク、一本やろうか」


 この巨乳好きめ。

 俺は前菜かよ。

 準備のまま終わらせてやろうか、とも思ったけど。


「無理…………………吐きそう。というか、吐く」


 だからギリギリなんだってば。

 この時2人がどんな顔してたのか、知らない。

 俺はトイレに向かってダッシュしてたからね。

 二日酔いの朝から激しい運動をするもんじゃない。


 その後、胃の中が空っぽになって少しは楽になったけど頭が更にガンガンと痛い。何度かうがいして、冷たい水を飲んだ。前世の頃から二日酔いの度に、二度と酒など飲むかと思うんだけどなぁ。酒飲みって懲りないんですよね。


 それでも、今度こそは禁酒しよう。

 とりあえず今週は飲まないようにしよう。

 まずは1日頑張ってみよう。


 そんな我ながら達成困難そうな誓いを立てながら裏庭に戻ると、クリスとクレアが戦っていた。それは戦いと言うより、まるで2人で舞を踊っているような。剣舞なんて見たことないけど、これがそうなんだろうかと思った。うん、美男美女の共演だ。こりゃお金が取れるね。見せ物に出来そう。


 券あるよー、余ってる人は券買うよー。

 ダフ屋が現れたら人気の証拠かな。


 剣聖と呼ばれる美少女と、魔神に天才と認められた麗しき王子の戦いは優雅ですらあった。達人同士……まだクリスの方は達人と呼ぶには早いかもしれないけど、2人の優雅な戦いはクレアがギアを上げて様子が変わった。

 うちの師匠は防御で攻撃を受けると良い顔をしない。避けろ、躱せと言う。魔神の攻撃を避けろとか無理を言うな、と毎度思ったものだ。そんな教えを受けているクリスだけど……今は激しく打ち合っている。クレアの剣を避けきれないんだ。まるで時代劇の殺陣か、ライトなセイバーで戦う宇宙の騎士の様な戦い。2人の斬撃がとてつもなく速い。二日酔いでゲロして集中力を失った俺には目に捉えきれない程に速いよ。

 互角、って感じだけど……技術的にはやっぱり剣聖クレアが少し上をいくかな。多分ね。だってクリスが使ってるのは不滅の刃、聖剣デュランダルだよ。マトモに打ち合えば、どんな名刀であっても欠けるか、下手すりゃ折れる。確か『月帝』という刀だったかな、クレアの刀は。剣聖が使うくらいだから名刀なんだろうけど、それでも保たない筈なんだよな。どこかに不滅の盾があったらリアル矛盾をやってほしいね。勿体ないか、勿体ないな。いや、矛盾はさておき凄いのは剣聖クレアの技術だよ。あの速さの中で、自らの刀が傷つかないようにクリスの斬撃を全て柳に風の如くいなしているのだから。力だけならクリスの方が断然強い筈だ。それを互角以上に打ち合うのだから……剣聖恐るべし。あの天才王子も大概だよ。剣士の頂点に立つという剣聖を相手にどれだけ打ち合うねん。むしろ徐々に剣聖の速さに追いつきつつある。

 いつまでも続きそうな戦いは、剣聖が放った斬撃でクリスの聖剣が跳ね上がられて終わった。最後のは俺の目でもよく見えなかった。あれは斬りあげたのかな?


「複数の斬撃を同時に繰り出す、私の奥義の一つですよ」


 そんな秘事まで教えてくれる剣聖は良い子。

 他人に話したくなるから、あんまり俺達を信用しないでくれ。

 つーか、そんな奥義……必殺技があるんですね。

 やっぱり浪漫だよね、必殺技。


「ああ、やっぱりクレアさんは凄いね」


 息も荒く相手を褒め称えてるけど、お前も普通じゃないんだからな。もちろんクリスは普通以上の方だ。自分では分かってないんだろうけどもっと強いんだよ、お前は。あの迷宮の最奥で俺に向かって無意識のクリスが放った一閃はもっと速かった。あの時の斬撃を自在に繰り出せるようになったら……その時はクリスにもスキル『剣聖』が宿っているのかもしれない。








 それにしても朝から頑張りすぎた。


 クレア嬢も帰りは走るんだからな。まだ弟子とは認めないものの、指導はすると言うことで帰りはガールズも順番に走ってもらうことになった。なのに朝から体力を奪いやがって…!俺の貴重な体力を。

 朝食は固形物は食えそうになかったのでスープだけでも胃に入れた。走るとはいえ、距離は一人当たり10キロくらいだから大丈夫だろ。俺の順番が回ってくるまでに多少でも回復しますように。

 そうそう、帰宅前に再度冒険者ギルドに行って達成した依頼を精算しなきゃね。お金は大事ですからね。行ってみると、冒険者ギルドの多くのスタッフの目の下にクマが出来ていた。お疲れ様です。

 ここでまだ残ってるマンティコアやキマイラやコカトリスの素材をドンと取り出したら、この人達はどんな顔するだろうな、と思ったけど精算待ちでもう一泊するのは勘弁だ。俺とセシルだけなら構わないけれどクリスの休みがなくなってしまう。

 それでも、結構な数の依頼が達成できたよ。急いではいないけど、これだけ達成すれば俺達のC級昇格も時間の問題だ。


 さぁ、王都へ。

 我が家に帰ろう。











◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











「多分、また解体所に入らないサイズの獲物だと思うのでお願いします」

「久々に来るなり何を言っているんだい、アンタは」

「ロマノアの迷宮(ダンジョン)でダークマンモスを狩ったんですよ。どうしたらいいのかわからなくなったんで、ミシェルさんに全部任せることにしました!」


 実に理路騒然と説明できた気がする!

 気のせいかもしれないけど。


「任せられてもねぇ。あー……急ぎじゃないんだろ?ギルドマスターに申請しとくからしばらく待ちな。それで?他にもあるんだろう?どうせ」


 流石は王都のお母さん。よくわかってらっしゃる。お言葉に甘えて奥の倉庫で残ってたマンティコアやキマイラ、その他色々をまとめて提出した。賢者クラウディアに言われた通り、ここではグリフォンの素材は出さないことにしておいた。ダークマンモスは手続きしてもらって後日の解体ですね。

 ついでに、スタッフの皆様で食べてくださいと全員分のケーキも差し入れしといたよ。令和の日本と違ってケーキは結構な高級品なんだよ。今回も迷惑かけてるのはわかってるから、心付けってやつだ。念の為ギルドマスターの分も用意しておいたけど、あの人がケーキなんて食べるんだろうか……ちょっと想像が出来ない。


「少しは小分けをしなさい。なんでいつも一遍にドカッと持ってくるかねぇ…」


 ミシェルさんの小言が止まらないが同時に仕事の手も止まらない。書類がどんどん片付いていく。解体と同時に素材の評価をしてもらって、依頼として処理できるものは処理。残りは換金。やっぱりミシェルさんに任せるのが正解だったようだ。早いねー!


 今回の迷宮ツアーの収支は未提出のグリフォン素材やダークマンモス等、まだ未確定な部分が多いんだけどそれでも現時点でも一人当たり約800万(ガル)と推定された。ああ、ガールズも含めて全員で均等割。なかなかに潤った……金欠脱出。よぉ〜く考えよぉ〜、お金は大事だよぉ〜。頭の中で古いCMがリフレインしてた。そうだね、無駄遣いはしないようにしよう。


 冒険者ギルドの前で、賢者達とは解散だ。

 楽しかったよ、また遊ぼうね!

 さて、おうちに帰ろう。


 あ、でもまずはクゥムにお土産を買っていかねば。

 一人で留守番して機嫌を損ねている筈だからね。


「クゥムのお土産……何にしよう?あの子は何が好きかな?」


 幼児にウサギや狼の魔物の肉をお土産と言うのも殺伐としてませんか。クゥムの好みを一番知っているのはセシルでしょ。


「うーん、絵本は好きだよ。後はケーキとか……あ、師匠のアイスクリームが大好き!」


 子供か。いや子供だったわ。

 よし、絵本を買って帰ろう。

 アイスクリームの方は……師匠、お願いします。


「うん。帰ったらアイスクリーム、作ろうか」


 魔導具で冷蔵庫的なモノはあっても流石に冷凍庫は殆ど無い。だからアイスクリームは保存が困難でね…毎回その場で作るしかない。希少価値があるよね。

クリスもクゥムに会いたいと言うので王城に帰る前に我が家に寄っていくことになった。今日もフリーダムな王子様だね。








「おかえりなさーーい!!!」


 お留守番をしていた精霊幼女はセシルに飛びついた。うむ、笑顔がかわいいぞ。まずは精霊に愛されし者に飛びついて、次は美しき魔神に抱きついている。流石の俺もクゥムに嫉妬はしないので存分に抱きつくが良い。そしてほんの少し迷ってクリスに抱きついて最後に俺に飛びついてきたので、そのまま肩車したよ。


 全然良い。

 全然構わないんだけど………俺が最後なん?

 クゥムに出会ったのは寧ろ俺が一番最初なんだけどな?

 セシルとルーは良いとしても……既にクリスにも抜かれている!クゥムの中に序列があるのか?迷ってたからクリスとは僅差なんだよね?でも解せぬ。

 ちなみに初めて会ったときは透けて見えていたクゥム。まるっきり幽霊でしかなかったクゥムだけど、今は普通に幼女としてクッキリと目に見える。この家の魔素が特別に濃いせいだそうだ。元々、ここは龍脈とやらの影響が強い土地だそうでね。だからこそゲニウス・ロキのクゥムが生まれたんだけど更に俺達が住んでいるせいで、その龍脈ってのが更に活性化してるそうだ。よく分からんけど、この家には俺達っつーか魔神が住んでるからね。魔神と精霊と男の娘とバカが住む家。なんだか魔境だな!


 うるさいうるさい、何が魔境だ。

 今は心安らぐ楽しい我が家なのだ。


 夕飯はクゥムの大好物のハンバーグ。そして食後のデザートはこれもクゥムの大好きなアイスクリームだよ。寂しい思いをしていたクゥムだけど、絵本に囲まれてハンバーグをいっぱい食べて、更にアイスクリームもあるよ。きゃっきゃと喜ぶクゥムの笑顔で迷宮での修行の疲れも吹っ飛んだ。


 ただいまクゥム。

 ただいま日常。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇










 さて、クリスとルーは再び学園生活に戻った。俺とセシルは、また迷宮探索からは程遠い引越しや店の手伝い等の依頼したりの日常。


 そんな平穏な日々を送りつつ東へ旅立つ下準備を始めようか。まずは何が必要だ?やはり一番の難題は第3王子の国外外遊の許可だなぁ。クリスの外遊の許可か………どうしたらいいのかさっぱりわからん。こんな時に御老公が居ればなぁ。あのジジイなら許可くらい出せるんじゃねーの?あんなんでも国家の偉いさんなんだろ?居れば居たで鬱陶しいが、居ないと困ることもある。全くもって忌々しいジジイだ。ええ、八つ当たりなのは承知してます。



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