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86 再会、ユキ・ダルーマン

 


「突然押しかけたにもかかわらず、大変御世話になりました。この御恩は忘れません」


 本来、人間に手心は加えないというダンジョンマスターに随分と世話になってしまった。最後に改めて全員で丁重に御礼を述べた。異世界でも礼節は大切ですよ。本当にありがとうございました。


「まだ言うか。恩を受けたのは儂の方だ。今更だが儂の名はラクアス。そうそう会うことも無かろうが儂は、この名に懸けて生涯お主達の恩は忘れぬ。またいつでも来るが良い」


 嬉しい事を言ってくれるねぇ。竜の知り合いが出来た、と教えたらオルトレットの親父もさぞ驚いてくれるだろうな。いや誰だって驚くだろうさ。こうしてダンジョンマスターの地竜ラクアスとの別れを済ませて、帰路に就く………んだけどガールズのテンションがやたら高いんです。どうした、殺意の波動にでも目覚めたのかな?


「ここに来るまでは消化不良だったからのぅ。帰りはわらわ達の修行の成果を試させてたもれ」


 ここへ修行に来たのは俺達ですよ。とは言っても彼女達の気持ちもわかるので、帰りはフォーメーションチェンジ。前衛は剣聖クレアと聖女ティア。中衛に賢者クラウディアとセシル。後衛というか……彼女達の後ろを俺とクリス、ルーがついていく感じ。

 セシルも真ん中に居るけど主に道案内と彼女達の話し相手、が役割になっていた。だって、それ以外にやる事がないんだもの。


 そりゃあね、彼女達はA級とB級2人なんだから十分強いのはわかってたけど……どんな魔物が出てきても圧倒的じゃないか、我が軍は。楽だわぁ。楽過ぎて修行としては意味無いけどな。


「ふははははは!全て燃え尽きるが良い!」


 襲ってきた狼の群れがあったとしても賢者クラウディアの広範囲魔法で一網打尽。いやぁ、確かに爽快ではあるけど……素材も討伐証明部位も全て炭だな!本当に全部を燃やし尽くしてどうすんねん。魔王かお前は。RPGのオープニングで主人公の故郷を襲う時くらいしかそんな台詞、言わないだろうに。

 そんなクラウディアもやり過ぎだとクレアに怒られてからは少しは大人しくなった。流石は委員長クレアだ。なんの委員か知らんけど。

 そんな訳で帰り道はガールズに魔物を任せて、その後を付いて行くだけの簡単なお仕事です。いや…実際にはバックアタックに備えて気を配っていますよ!それでもピクニック気分で気楽なのも事実だ。


「クリスはさ、時間があったらクレアと模擬戦を増やすといいよ」

「そうだねぇ、頼んでみるよ。なんだか自分でもわかるんだ。今の僕がどんどん強くなってるのが」

「うん、傍で見ててもわかるよ。1週間前とはまるで別人だ」


 おそらく、もうじき剣聖のスキルを得るだろう事については内緒の方が良いと言われた。それでもヒントを出しちゃったよ。これくらいならオッケーじゃないですかね。


「ねぇルー。気の早い話だけどさ。次、迷宮(ダンジョン)に修行をしに行くとしたらどこへ行くの?」

「次の迷宮(ダンジョン)、ねぇ……君達が私の想定より随分と早く強くなってるからなぁ…うーんうーん……」


 結構な事じゃないの。この調子で頑張れば遅くても春には全員揃ってC級になれるかもしれないし。一年でC級ってのは、かなり早いんだよ。別にタイムアタックしてる訳でもないから昇級に必死でもないんだけどさ。


「それよりアレクよ。余計なことかもしれんがな」


 帰りの道を急ぎながらも賢者クラウディアが暇なのか、後衛の方まで下がってきて話し掛けてきた。


「あのグリフォンの素材な、あれは簡単には買い取ってもらえんかもしれんぞ」


 なんで?かなり大量に……数十体分は素材ゲットしたのに。グリフォンはめちゃくちゃ強かったし希少らしいから高値で売れることを期待してるんですが。俺の財布の中身的にも非常に楽しみなんですが。


「確かグリフォンは本来このルシアス王国には出現しない魔物のはずじゃ。もちろん迷宮(ダンジョン)であってもな。間違いなく出所で揉めるじゃろな」

「そうなの?」

「そうだね。ラウルシュタイン帝国か…それとハイランド王国にも出現するはずだよ」


 ふぅむ……あれ?

 それってちょっと不味くない?


「ちょっと不味いかもな。国外に行った疑惑がかけられるかも。出入国記録が無いから……密入国疑惑になるかもしれないなぁ」


 オイ、王子。笑っとる場合か。何をそんなに嬉しそうに言ってるんだ。俺達は一般人だから別に大した問題じゃないけど、そうなったら1番不味いのはお前でしょうが。またギルマスとミシェルさんが2人して、ウッソだろ今度は何したんだよオイ…という顔が目に浮かぶわぁ。本当に違法な事はしてないんですが。


「どうする?どうしよう?」


 バレない闇ルートで売り捌く?そんな闇ルートなんざ知りませんけども。とりあえずグリフォン素材は死蔵確定か。でもそれは勿体ないなぁ……。


「簡単な方法は、ある」


 いつのまにか聖女ティナも話に入ってきた。別にいいけど…君、前衛だよね?本当に自由だよな、君達は。


「ラウルシュタイン帝国に行って処分すればいい。多少怪しまれる可能性はあるけど、法には問われない」


 別にこのルシアス王国での処分も違法ではないけどな。すっげぇ面倒に巻き込まれるのが確定なだけで。冒険者ギルドって何故か国際的な組織らしくて俺達のギルドカードでラウルシュタイン帝国でも活動出来るそうなんだ。向こうで処分すれば、若造どもがグリフォンを!?って言われるかもしれないけど、それだけだ。


「ほほぅ、国外旅行か」


 それは……ちょっと惹かれますよねぇ。

 そもそもここは異世界ではあるけど、更に異国だぜ?行ってみたいよな!


「それにラウルシュタイン帝国なら私達が案内も出来る。あなた達程の強さならエピナントの迷宮(ダンジョン)でも大丈夫」


 ありがたいけど、君達は留学中でしょうが。

 まぁ長期休みの里帰りにでも同行してもらえれば……。

 なんかトントン拍子に話が進んでますね。

 良いですね!一石二鳥じゃないですか。

 ついに行くのか、エピナント。


「そうなると、問題はクリス殿下じゃのう」

「そうだね。立場的に僕は簡単にはラウルシュタイン帝国に行けないね」


 王族だからね。黙って異国に行ったらそれだけで国際問題になりかねないわ。なりかねないっていうか……なるわ。百パーなる。そして俺達の王子拉致疑惑も持ち上がるだろう。疑惑というか確定で拉致とされるわ。嬉々として俺の指名手配をする御老公の顔が浮かぶようだ……まだ逮捕はされたくないよぅ。まだ、と言うか一生逮捕されたくないよ!


 ルーの意見も聞きたいが、まだうーんうーんと唸っている。

 珍しい……便秘かな?


「違う!」


 殴られた。言ってないことで怒らないで欲しい。


「ラウルシュタイン……そうか東か。そうだな」


 お、また反対されるかと思ったが師匠も意外と前向きな反応だ。ならクリスの問題が解決すれば初めての外国に行けるかもしんない。別にこの世界ならパスポートとか必要無いよね?

 お、ヘルハウンドの群れが襲ってきた。俺もクリスも魔法も使えるから、後方から援護射撃しようか、あんまり必要はないかもしれないが……。本日の午前中は賢者クラウディアが無双して、午後は剣聖クレアが無双だ。安心して任せていられる。修行としてはどうかと思うがな。





「東には……何かあるのかい?」


 ヘルハウンドの群れを倒したのにルーがまだ、浮かない顔をしていた。何か気になることがあるのかな。


「君には言うけど多分、メルヴィルの研究所がある」


 研究所……ああ、前にルーが探したいと言っていた場所か。何を研究してたのか知らんけど。自称、錬魂術師だっけ?魂の研究でもしてたん?何よ魂の研究て。全く想像もつかない。


「国や街が変わったとしても大陸の地形はそこまで大きくは変化しないからね。おおよその場所は掴めたと思う」

「そうか、それはラウルシュタイン帝国にあるの?行こうよ。俺も何か思い出すことあるかもしれないから行きたい」

「あー………うん、そうだよね。行きたいか。行きたいよね」


 何よ、すげー煮え切らないね。なんかクリスのこと以外に問題ありですか?


「あると言うか……無いと言うか。いや問題ではないんだけど……うん、私の問題というか気がすすまないというか、まぁ大丈夫だよ」

「気になるでしょ。何よ?教えないとイタズラしちゃうぞ?」

「……セクハラは止めてください。大丈夫、君にとって悪いことではないよ」


 なんだろう。わからん。

 まぁ誰にでも秘密はある。

 時が来たら教えくれるだろう。







 帰りの道のりは魔物も経験済みだし更に目的地もわかってるから順調そのもの。なんと言っても賢者・剣聖・聖女の3人が破竹の快進撃をしてくれたお陰だよ。その肩書きは伊達じゃないね!一気に5階層のキャンプ地まで戻ってきた。帰りもここで一泊!

 驚いたことに、なんとユキ・ダルーマンも無事だった。まさか俺達の帰りを待っていてくれたとは……感動の再会だ。意外と他の冒険者にも気に入られていたのか、俺も知らない飾り付けも付け加えてあった。人気者なんだな、ユキ。生みの親として誇らしいぞ。

 前回と同じようにテントを設営して、その間にルーが作ってくれた迷宮内最終日の夕飯はハンバーグとソーセージ。最後なので、今日の夕食は大活躍してくれたガールズのリクエストに応えたものですよ。日本人にはお馴染みな料理だけど、これもラウルシュタイン帝国での郷土料理になるんだそうだ。ソーセージなんてビールのお供に最高でしょ!と思うけど迷宮内で飲酒はダメ。女子会以外で迷宮内のアルコールは許しません。これは絶対のお約束。


「これは確かにラウルシュタイン風で美味しい…!レティシア先生は本当に万能ですね」

「また女子会やる?」

「おっ、良いのぅ!レティシア先生、やろうではないか」

「イヤだよ、もう恥ずかしい……」


 うちの魔神をいじめないでください。しかし結局、なんだかんだで再びルーとセシルはガールズに拉致されていった。すっかり仲良しだなぁ。

 寂しいから、こっちはクリスと2人で男子会をすることにした。ちゃんと焚き火の横で不寝番をしながらの緊急開催、男子会。クソ真面目な王子に全力で下ネタをふって好きな女性のタイプを無理やり聞き出したよ。年上で優しいとか料理が上手い女性とか、そんなのどうでも良いんだよ!お前がおっぱい星人かどうかを聞いているんだよ!

 ………うむ、そしてお前もやっぱり巨乳好きだったのか、同志よ。グッと固く握手をしたが、俺は実は違う。正確に言えば女体が好きなのだ。乳の大きさなど枝葉の問題よ!微乳は美乳だ!あれはあれで良いものです。

 じゃあティナとクレアとルーで、どの巨乳が良きか、と尋ねたらクリスの変なスイッチが入ってしまった。巨乳なだけじゃなく、いかにルー自身が素晴らしいかと言う話を延々と聞かされた。彼女が素晴らしいのはよーくわかってるつもりですが。まさか古代の美術論にまで遡って話が膨らむとは……多分、古代の人々もそこまで考えてなかったと思うよ。









 翌朝、早朝。


 クリスのバカ話に付き合っていたせいで眠い。今生の別れになるだろうユキに挨拶をして地上を目指す。5階層から更に難易度が下がっていくので帰り道ってのは気も楽だ。もちろん、外に出るまでが迷宮だよ!油断はしない。そして今回は冒険者の死体を見かけることも無かった。

 その代わり、手助けはしたよ。4階層で狼の群れに囲まれて困っている感じのパーティが居たんで「大丈夫ですかー、手助け要りますかー?」と声をかけてみたんだ。


「た、頼む!」


 彼らは若い男性4人組のパーティで20体ほどのダイアウルフに囲まれていた。俺達は戦闘員6人だからね。1人タンカーだから攻撃要員は実質5人か。1人当たり4体、楽勝だよ。本日もガールズが無双してザクザク倒してた。襲われていたのは経験の浅いパーティなのかね。まぁ俺達もこの迷宮のキャリア1週間も無いから経験の浅さについてヨソのことは笑えない。

 助けた4人組には怪我人も居たけれど、これはティナに治癒してもらった。狼に囲まれたのは不運だったけど、まさか聖女に怪我を治してもらえるなんて、これはこれで幸運じゃないかな、お兄さん。まさに不幸中の幸い。多分、お兄さん達は彼女を聖女だとは気付いてないだろうけどな。

 涙ながらに感謝してくれたけど、こういうのはお互い様ですからね。倒したダイアウルフの素材を持っていってくれ、とも言われたけど既に俺達の収納魔法の中にはダイアウルフ素材だけでもウンザリするほど大量にあるので譲っておいた。

 その程度で他に特筆することもなく、まだ太陽が出てる時間に外に出て来れた。これもガールズ&セシルのおかげだな。ルーはさっさと素材を納めて王都へダッシュしたい様子だったが、そこをなんとか頼み込んで街で一泊!相変わらず旅情は無いが、それでも少しでも旅気分を味わおうぜ。








 まずは素材を納めに冒険者ギルドへ組(俺とルー)と今夜の宿探し組(セシル、クリスとガールズ)の二手に分かれた。

 出発前にお世話になったイケメンの受付に冒険者ギルドの奥の倉庫に案内して貰って、ドカンと提出するのはジャッカロープ、ダイアウルフから始まってオウルベア、イエティ等等。ダークマンモスは倉庫に入りそうにないから、また王都のギルドで解体を頼もう。

 それからそれからヘルハウンドにブラッドウルフが多数。この時点で倉庫の半分以上が埋まってしまった。こりゃダークマンモス以外でも全部は無理っぽいな……それでも、いけるとこまで!と思ったけどマンティコアとキマイラを少し出したところでストップがかかった。

 イケメンギルド職員も最後は青い顔をしていた。出した俺達が言うのもなんだけど、こんなに出して良かったんだろうか。今回は解体もお願いするので、今日は皆さん残業だろうな………あまりの数なので、これらの解体と評価には相当な時間がかかるので明日また改めて来ることになった。

 あ、そうそう。迷宮内で食べた分のジャッカロープやオウルベアの肉以外の素材もあったんだった…どうするかな。これはミシェルさんへのお土産にしようかな。気に入ってくれなかったら、その時精算すれば良いか。

 解体職人達が俺達を恨みたくなるような量を提出して奥から戻ると、セシル達も既に戻ってきていた。宿は見つかったの?また今回もメーヌの時みたいな、どちゃくそ狭いドミトリーの宿じゃないよね?


「大丈夫、今回は彼女達もいるしね」


 居なかったら、またドミトリーに泊まる気なんだろうか……王子なのにタフだな、お前。俺はあーゆー部屋は無理なんですけど。風呂付きとは言わないので、せめて個室で泊まれる所にして欲しい………と思ったら本日のお宿はお風呂付きらしいですよ!珍しく奮発しましたね!


 さぁ迷宮を出たからには、打ち上げだぁ!

 今回もルーに料理とお酒の美味しい店を探してもらった。

 今宵も神眼、万歳。


 とは言っても所詮は田舎町なので料理もたかが知れている。普段からルーの料理を食べている俺達には尚更なんだけど、それでも久々の外食はテンション上がるよ。金さえ払えば食べ放題、飲み放題ってすごいよね。すごく頭の悪い発言をしているのは自覚しているが……なんというか今夜は頭が悪い以上に席が悪い。

 総勢7人なので二つのテーブルに分かれて座った。何故か俺はクレア、ティア、クラウディアの3人に囲まれて……確かにこれって本来ならハーレム状態なんだろうけどさ。どっちかというと現状はチンピラに絡まれていると言うべきだ。向こうのテーブルではルーとクリス、セシルが楽しく飲んでいる。天国が見える地獄の席だ。


「アレクよ、さぁ飲め。飲んでわらわ達の加入を認めるのじゃ」

「私の酒も飲め。セシルとレティシア先生がドレッドノートに移籍でも良い」


 想像以上に賢者クラウディアと聖女ティアがタチの悪い酒だ。反社か!?お前達二人共返上してしまえ、賢者の名も聖女の名も。そして俺とクリスはいらんのか。泣くぞ。


「私はアレクシス殿も素晴らしい御仁とわかっているぞ」


 今となってはクレア嬢だけが癒しだ。


「……わかっているから、さぁ手合わせしよう。今の私ならアレクシス殿にも勝てる!」


 酔ってないように見えて、剣聖クレアが1番酔っているんだよなぁ……ストッパーが最初に酔ってどうするんだ。ほら、刀は仕舞いなさい。


「クレア、それよりレティシア先生との馴れ初めの話を聞こうではないか。アレク側からの話をな。初めて会った時のレティシア先生の印象はどうだったのじゃ?」

「胸しか見てなかった、だと思う」

「む、アレクシス殿も巨乳好きなのか?」

「見よ、この巨乳を。ティナのもクレアのも天下一品じゃろ?」

「ほれ、巨乳。日本人は大好きなんだろう?」


 ………さっきから俺はなんにも喋っていない。ルーとの馴れ初めか、いきなり殺されたわ。世界が真っ赤な血の色に染まる馴れ初めだったわ。許されるのなら俺だってポッ…と頬を染めるような初々しい馴れ初めが良かったよ。

 そんな話をする間もなく3人が怒涛の勢いで喋ってくる。姦しいの語源ってこれかもな。まぁ巨乳好きも否定しないが……。

 聖女は酔うと性女となるようだ。ぐぉおお……目の前で魅惑の双丘がポヨンポヨンしてますね。しかしこれは毒入り危険、触ったら死ぬで。すぐ近くにルーが居るのだ。ここで下手な行動を取れば、そこで俺の人生は終わる。間違いなく強制終了させられる。それはリセットされるとか、いきなりコンセントを抜かれる、なんて優しい話じゃないよ。即座に本体ごと全てを叩き潰されるんだよ。そしてショウゴは本当に何を教えているんだ。死んでからの方がアイツに困らされているのはどういうことだ。


 その後も、酔って支離滅裂なガールズの相手をさせられた。

 やっぱり、コイツらの加入は保留にしておくべきだな。

 主に俺の身の安全の為に。





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