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85 天に愛された2人

 


 流石に疲れたのか、聖女ティナが大きく息を吐いた。


 さっきから立て続けに治癒し続けてもらっているので無理もない。むしろ、こんなに何人も連続して重傷患者を治療出来るなんて、流石は聖女と言うべきなんだろう。


「これで、クリス殿下は大丈夫。このまま寝かせておこう」


 クリスの全身が血塗れだったけど、その多くは魔物の返り血だったようだ。あれだけの魔物の群に囲まれて、片手にセシルを抱いて戦って……こいつもかなり人外に近づいてきてるね。そうは言っても十分に重傷だったので聖女ティナもかなりの時間をかけてクリスを治癒してくれた。


 セシルはクリスが護ったおかげで無傷。

 でも魔力切れの影響だろうか、今は深く眠っている。


 そして俺もルーに憑依してもらって走った後遺症を治してもらった。ほんの少し……往復で10キロにも満たない程度の移動だったけど、それでも全身の骨と筋繊維と靭帯がズタズタになったようで、憑依を解いた後で久々に気を失うレベルの痛みを感じた。泣きそうになった。もし聖女ティナが居なけりゃ1週間は寝込んでいたと思う。

 とりあえずはこれで一安心だぜ……王族の顔に傷でも付けたら、めちゃくちゃ怒られそうじゃん。今回は顔に傷どころじゃなかったし。下手すりゃ死んでたよ。冒険者をやっといて何を言っているんだ、とも思うけど今回の件に関してはほぼ100%俺のせいだからね……いや、あの魔神が悪いんだよな。俺達は被害者じゃないか「痛っった!!!」


 脳天に拳骨を落とされた。


「少しは反省しなさい」


 師匠に優しい声で厳しく言われた。

 すみません。反省してます。

 ただ、反省だけなら猿でも出来るんだよなぁ……。


 


 現在、俺達はセシルとクリスを連れて再び最下層に戻り、ダンジョンマスターに場所を借りてテントで宿泊中。治癒は済んだけどセシルもクリスも、まだ眠ったままだ。俺も昔、重傷を治してもらった事があるんだけど治してもらった直後って眠くなるんだよねぇ。セシルの方は魔力切れで寝てるんだろうけど。

 そしてテントの中で、看病と言う訳でもないが2人の横でルーと肩を寄せ合って座っている。目の前に2人が居るけれど眠っているから、今だけは俺とルーは日本語で会話してる。公然とした内緒話だな。


『………2人を巻き込んだのは、本当に反省してるんだよ』

『さっきのアレには私も腹立たしかったから君の気持ちはよくわかるよ。でも、もう少し周りの状況も見ようね』


 そりゃな、そもそも俺が勝てるような相手じゃなかったんだからルーに全部任せておけば話は早かったはずだ。セシルとクリスは遠くへ飛ばされることもなく、あの魔神はあっさりと倒されていただろう。間違いなくそうすべきだった。でもな。そう簡単に上手く出来るほど、俺はお利口さんじゃないんだよなぁ。

 だってそうだろう、アイツは邪神に連なる相手だぜ。黙ってるのは………うん、無理だよな!クソが。本当に反省してるのか、俺。いや、反省はしてる。後悔していないだけだ。結局、邪神に関しては全く何も分からなかったけどさ。とりあえず、今日のアイツをボコボコに出来るレベルに強くなる必要がある。


『……クリスは、強くなっていたなぁ』

『クリスはね、天才なんだよ。君達3人の中でも唯一の天才だね。もう少しでスキル『剣聖』が顕現すると思うよ』

『剣聖クレアは、隣のテントで就寝してるよ?この世に剣聖は一人だけなんだろ?』

『別に『剣聖』は世界に唯1人のスキルじゃないよ。もちろん、そう簡単に得られるスキルでもないけれど。クリスほどの天才が努力に努力を重ねた上で命を懸けて、はじめて僅かな得られる可能性が生まれる。そんなスキルだよ』


 クリスが天才というのは、実はわかっていた……気がする。だってさ、今も俺達と同じように肩を並べて戦っているけど、幼少期から王子は常に桁違いに忙しかった。だから昔から訓練時間も実戦経験も3人の中では最も少ない……筈なのに、今まで一緒に戦ってきてクリスを足手まといと感じたことがない。寧ろ、さっきの一閃……今思い出しても背筋が寒くなった。

 初めて会ったあの頃は、ただ遊ぶだけでも、すぐに熱を出して寝込む子だったのにな。御老公よ、近いうちに再びお孫さんの事で驚愕することになりそうだよ。スゲーよ、お宅のお孫さん。天才だとよ。やっぱり自慢の親友だ。


『お父様はわかっていたのかも。聖剣デュランダルは本来、第3王子が手にするような剣じゃないからね』


 確かに俺でも聞いたことある伝説の聖剣だもんな。

 あのジジイがわかってたのかどうか……読めねぇな。

 俺が知ってるあのジジイは超テキトーなんだもの。

 転生したジュンジ・タカダじゃねぇの?と思ってるよ。

 

『天性を授かった王子に、精霊に愛された幼馴染。スキルを持たない勉強嫌いのアレクシスは……さて、どうするのかな?』


 師としては退屈しない弟子達ですね。

 天に愛された2人だな。

 魔神にも愛されているし。


『天に愛された友人以外に何も無かったアレクシスは、代わりに誰よりも魔神を愛して誰よりも魔神に愛されていましたとさ。それだけで俺には十分過ぎるね』

『アレクを愛する魔神は、もう少し勉強も頑張って欲しいなと思ってるよ』


 ……はい、鋭意努力しております。

 ええ、これでも全力なんですよ。








◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇









「痛ったぁ!!」


 おでこに刺されたような痛みが走った!

 お?何?何事?

 マンティコアの尻尾か?


「のうのうと師匠の膝枕で寝てるんじゃないよ!」


 精霊に愛された幼馴染が全力で不満をあぴーるしていた。

 もう朝か……お前、人の起こし方が下手だなぁ…。


「うるさいなぁ……僕はまだ眠いのに…あー。なんだアレクか。あれは夢じゃなかったんだな」


 最後に起きてきたのは天才王子。

 俺も寝てたんだけど、たった今、文字通り叩き起こされたんだよ。


 ルーに濡れたタオルをもらって、顔を洗う。

 スッキリと爽やかな目覚めだ。


「ふぅ………先生、お腹が減りました」

「はい、すぐに朝食を準備するね」


 セシルもクリスも、昨日は夕飯を食べてないからね。


「それから………っと、そうだな、朝食を食べる前の方がいいか……おい、歯ぁ食いしばれッ!」


 いつもの朝の雰囲気そのままの中で、クリスに全力でぶん殴られた。昨日ルーに殴られたのと同じ場所を。避けるつもりはないが、そもそも避けられるような速さでもなかった。剣を持ってなくても強くなったんだな。


「僕はともかく、セシルが死ぬところだったんだぞ。昨日の一件はアレク、お前のミスだ」


 知らないはずなのに、ルーと同じ場所を殴られて同じことを言われた。もちろん痛いよ。ものすごく痛いけれど、それは確かに納得のいく痛みだった。どう考えても、どこまで考えても2人が正しい。間違っていたのは、絶対に自分だ。


「ボクは寝てただけだから、別になんでもなかったんだけど……このバカ野郎がッ!」


 そして三度、同じ場所を殴られた。


「クリスが死んでたらお前を殺してたぞ、この大バカ野郎め……!」


 言い訳は何も浮かばなかった。

 手加減されずに殴られた事に不思議と、満足していた。

 その後の2人の笑顔にやっと許されたような気がした。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇










「朝から痴話喧嘩かの?ティナに治してもらったらどうじゃ?沁みるじゃろ」

「いや、これはこれで良いんだ」

「アレクは罰として1ヶ月間食事リクエスト禁止だよ」


 セシルとクリスから判決が出た。

 今回も弁護士不在だが、不当とは思うまい。


 皆んなで朝食を食いながら、今日の予定を立てる。予定っつってもレベル上げを続けるだけ。ただ、そのレベル上げの為にダンジョンマスターに交渉しよう……として昨日はド派手に脱線したのだった。あの魔神のせいだ。


「改めまして、ですが。ダンジョンマスター殿、不肖の弟子達の修行にお力を貸していただけませんか」

「何を言われるか。お主は……いや、お主達は儂の命の恩人だからな。可能な限り最大限に便宜は図ろう」


 意外と脱線のおかげで話はまとまりそう。

 人間万事塞翁が馬ですね。


「今日から3日間、集中的に修行をしましょう。君達3人は前回の迷宮の時と同じだ。ひたすらに魔物と戦い続けてもらう。そして……クラウディア、クレア、ティナ。貴女達が良ければだが、その間に私が少し稽古を付けてあげようと思うが、いかがかな」

「私達にもですか?レティシア殿の御指導がいただけるなら……是非!」


 対魔神オアシヴ戦……一方的な虐殺でしかなかったけど、あれを見てからガールズがルーを見る目が随分変わった。言ったでしょうが、彼女は桁外れに強いって。


「わらわは魔法なんじゃが……それでも?」

「私は治癒魔法と盾術だよ」

「治癒魔法に関しては理論だけで実践は出来ないけど……他は全て大丈夫、指導出来るよ」


 この最下層に来るまでにも彼女達3人には、かなりお世話になったからね。ルーからの恩返しという事らしい。お世話になったのは俺達だけど、保護者からの返礼です。異世界のふるさと納税。

 そして俺達3人は、10階層の火山に戻ってダンジョンマスターの召喚した魔物と戦うこととなった。なるべく数も戦いたいけど、どーせなら強いのと戦いたいじゃないの。


「グリフォン、お願いします。まずは2体」

「1体でも厄災と呼ばれる部類の魔物なんじゃが……良いのじゃな?」

「もし死にそうになったら、私が止めますのでお願い致します」


 ガールズを指導しながらでも、ルーの神眼は俺達を見逃さない。さぁて死なないように、頑張りましょー。目指す先はこの山よりも高いんだぞぉー。

 まずはグリフォンから、だ。まずは、っていきなり俺達が倒されてもおかしくない恐るべき怪物だ。昨日のグリフォンは今、思い出しても心胆寒からしめる強さだった。あんなもんに勝てたなんて運が良かったとしか言いようがない。なのに、いきなり2体はやり過ぎたかも。波に乗っていこうと思ったけど乗っていたのは調子の方だったのかもしれない。まぁ、いつもの事だよ。


 確かに上級の恐ろしく強い魔物だよ、グリフォン。

 それでも速さも力も既に経験した。

 今日は超えてやろう。

 その速さも、強さも。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











「よしっ!」


 セシルの矢が黒いグリフォンの頭を貫いた。

 それがトドメとなって、黒い巨体はゆっくりと倒れ込んだ。

 黒いグリフォンなんて晴海埠頭とかの方が似合いそうだよね。

 わかってよ、そういう世代なんだよ。




 今日はもう最終日。


 この3日間はグリフォン、キマイラ、マンティコア辺りを織り交ぜて1日辺り150体。数で言うならメーヌでの20分の1ではあるが、経験値という意味では逆に十倍以上になるそうだ。

 実際、クリスの伸びが凄い。久々に死線をくぐったせいなのか、手の付けられない強さになりつつあった。もちろん、俺もセシルも負けてないつもりだよ。


「強くなったのは、そなた達だけではないぞ?レティシアちゃん……いやレティシア先生は本当に破格じゃの。帰りの魔物はわらわ達に任せい。この新しい力を試したくて昂っておるわ」

「先生はやめて。私の弟子はこの子達で打ち止めなの」


 最終日、夕飯にピザ……いやピッツァを食べながら、賢者クラウディアが燃えていた。え?今日のはピザなの?その違いがわかんないわ。ちなみに、ダンジョンマスターは別室だが世話になったお礼にと、グリフォンを1体丸ごと炭火焼きにして提供した。デカいだけあって倒すより料理する方が時間がかかった…。


「ダメですか、私達は貴女の指導で驚くほど成長できました。更に導いていただけるとありがたいのですが……」

「別にあなた達が嫌いなわけではないの。機会があれば助言程度はするけれども、この3人は私にとって家族であり特別な存在なんだよ」


 そうは言うけど、ルーは彼女達をかなり気に入っている。そうじゃなきゃ指導なんてしないよ。だいたい俺達以外に指導なんて、初めてじゃないか?あ、マドレリアでケーキのアドバイザーをしてるわ。まぁ戦闘術の指導ってことですよ。


「特に大事なのはアレク、じゃろ?のぅ、アレクよ。レティシア先生をくれぬか?」

「あげません」

「セシルよ、わらわ達が『漆黒の師団』入りするなんてどうじゃ?良い考えじゃとは思わぬか?」

「ボクは歓迎だけど、そういうのはリーダーに言ってよ。1番偉いんだからね。おいアレク、水取って」

「……お前の目の前にありますけど。水」

「このボクに手を伸ばせ、と言うの?早く取れよ」


 逆らわない。

 氷魔法で水を冷やしてから渡す。 

 先日の一件から、どうにも俺の立場が低い。


「クリス殿下、殿下からも言ってもらえんかのぅ?」

「僕はなんとも言えないなぁ。一番偉いリーダーが首を縦に振らないと。アレク、今日も洗い物は全部任せたよ」


 リーダーは日々雑用に追われて忙しいのだ。まいったな、皆に頼られるリーダーだせ!な、泣いてなんかいないんだからっ!リーダー兼雑用で雑用の割合が98%程度なだけだよ。ほら、セシルは索敵と道案内があるし。クリスは戦闘中の指揮があるし。暇な俺は雑用くらいしますよ……だから泣いてないってば!


「そういう訳で、君達の加入は一旦保留とさせていただきます」


 ガールズ3人からブーイングが起こるが黙れ黙れ。

 確かにお世話にはなったけども。

 俺も実は構わないんだけど、過保護魔神が承認するまでは保留だ。


 過保護魔神は嫉妬魔神でもあるから、適齢期のしかも巨乳で美人揃いの新メンバー加入を、そう簡単には認めてくれない。


 俺のおっさんパラダイスはまだまだ続くぜ。



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