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83 最初の試練

 


「いや、さっきのは普通のマンティコアだけど……普通じゃない」


 俺の疑問は聖女ティナに即座に否定された。なにそれ、なぞなぞですか?パンはパンでも食べられないパンですか?答えはフライパンもしくは腐ったパンですか。


「普通のマンティコアはここまで大きくないし、あれほど大きな高温の炎も吐かない。この迷宮(ダンジョン)ではこれが普通なのか……?」


 おい、師匠。経験者がこんなことを言ってますよ。さっきのアレ、異常事態らしいよ。つーか、そんな異常の相手なのに君達は黙って見てたの?最後まで?かわいい顔して?おい!お前もだぞ、師匠。


「あの程度なら問題無いでしょう?それとも私の手助けが必要だったの?」


 む。煽られた。クールビューティによるドSプレイなんて……そんなの店と状況によっては有料だぜ?こちらの性癖によっては御褒美じゃないですか。


「そうだね、あの程度ではね。あんなんじゃ物足りないから次行こうぜ、次」

「単純じゃの」


 うっせいよ。男の子には見栄が必要なんだよ。

 特に好きな女の子の目の前では。

 俺の原動力の8割はそれよ。残りは食欲だ。


 この後、半べそでヒィヒィ言いながらもマンティコアを4体倒した。途中からはガールズも手伝ってくれたので死にそうというほどでもなかったが。よし、なんとなくコツを掴んできたような気がする。


 どんどん行こう!







 そして現れた神の悪ふざけパートⅢ。この国ではシメールとも呼ぶらしいが、いわゆるキメラ、もしくはキマイラ。体は巨大な山羊、ライオンの頭と山羊の頭の両方があり更に毒蛇の尻尾をもつバケモノ。もし夜中、窓の外を見てすぐそこにコイツが居たら間違いなくトラウマになるわ。当たり前のように腰抜かすわ。マンティコアがアリでこいつがダメという話でもないけどさぁ……どういう意図のデザインだよ。誰のデザインか知らんけど、こいつのデザイナーは確実に疲れている。休ませてあげなさい!

 それとね、確かにどんどん行こうとは言いましたが。そのマンティコアとキマイラ、仲良く同時に出てくるこたぁないんだよ。異種なら喧嘩でもしてろよ、お互いに。


「アレク、選んでいいぞ。どっちがいい?」


 選択肢があるなら両方ごめんなさいだよ。早いもの勝ちみたいに言うんじゃないよ、両方ハズレじゃねぇの。

 A.マンティコアかB.キマイラしかないの?出来ればC.見物、が欲しいなぁ。……冗談ですよぉ、王子。そんな怖い顔はやめましょう?じゃあBでオネシャス。


「じゃあ僕がマンティコアをもらうよ。セシルは臨機応変に援護して」


 今回は随分と雑な指示ですねぇ、第3王子。


「不満かい?」

「十分だよ」


 信頼されてるのだよ、俺達は。キマイラも炎を吐くんだけど最初のマンティコアほどの強烈な炎でもない。今の俺なら十分に対処できるよ。そもそもがマンティコアはキマイラの一種だそうだ。だから戦い方も似たようなモンで、今更それほど戸惑いもしない相手だった。

 キマイラに吐かれた炎を切り裂いて、ばっくり開けてくれている喉へ槍を一突き。そのまま炎と共に心臓まで凍れ!キマイラは頭がいくつもある割には呼吸を獅子の口から行なっているようで、そこを攻撃したのが効いたのか、しばらくのたうち回った挙句に窒息し息絶えた。


 これなら、まだまだいける!やれる!今なら飛べる気がする……!


「もう外は夜だよ。今日はここまで。ここをキャンプ地とする!」

「もうそんな時間?まだ明るいのに……」


 迷宮内だから太陽が見えなくて、しかも常に一定の明るさなので体内時計は狂いまくりだ。それに今日は狼相手に乱戦してたからなぁ……意外と時間が経過してたんだな。さぁ、野営だ。お楽しみのご飯だ。


「カレー!今日はボクの番だからね!師匠っ、カレー作って!」

「はいはい、カレーね。辛さは?」

「辛いのが食べたい~♪」


 俺達の夜の食事は基本的にはリクエストで決まる。俺→セシル→クリス、の順番にリクエストが出来る。材料さえあればだが頼めば好きな物を作ってくれるし、お任せというのもある。往路のラザニアはクリスがお任せで、と言った結果だし昨日は俺が熊料理をリクエストした。そして、本日はセシルのリクエストによりカレーだ。


「ショウゴもカレーの話はよくしておったのじゃが……まさか、わらわ達が実際に食べられるとはの」


 やっぱりその辺は日本人なんだね。そうか、あいつもカレーを食いたかったのか。それを聞いてたら獄中にプレゼントしてやったのに。まぁカレーはカレーなんだけど、もう米の在庫はないから本日もナンで食べるよ。やがて漂いはじめる魅惑のカレーの良い匂いにお腹を減らしながらもテント設営を頑張る。

 今日のキャンプ地も魔物は普通に襲ってくるよ。ここにはセーフエリアなんぞ無い。あるのかもしれないけど知らないものはしょうがない。今日も岩陰で多少守りやすいってだけの場所だ。カレーの匂いに釣られてやってきた魔物を何度か撃退していたら、いつのまにかカレーは完成していた。


「はい、今日の夕飯はキーマカレーとバターチキンカレー。辛いのが好きな人はキーマカレーを食べてね」


 やっぱカレーはテンション上がるよな。ちゃんと辛いのが苦手な俺の為に、もう一種類カレーを作ってくれるあたり良い嫁ですわ。ナンも焼き立てだから柔らかくて美味しいよぅ。


「ラウルシュタインの料理とは趣が異なりますな……レ、レティシア殿。これは私には少々辛いですね」

「クレアは辛いの苦手?私にはちょうど良い」

「ラウルシュタインには辛い料理は少ないからのぅ。わらわはもう少し辛くても良いかな」


 クレア、ティア、クラウディアの異国出身者にもカレーは割と好評だ。もしかしたら異世界でチェーン展開も出来るかもしれんね。カレーのイマイチとか開業してみようか。


「クレア、このチーズをトッピングしてみて。かなりマイルドになるよ。それから一緒にミルクを飲みなさい」


 ルーが勧めているように、最近は俺達もカレーにトッピングで楽しんでいるのだ。本日のトッピングはチーズにグリルした野菜、コーンに半熟卵。主な目的は俺の辛さ対策でもあるけど皆にも好評だよ。ああ、それにつけてもご飯が欲しい。


「アレクシスよ。いやアレクよ。羨ましいのぅ……こんな美味しい料理を毎日食べることが出来て。いっそわらわ達もそなた達のパーティに入ろうかのぅ」

「完全に胃袋を掴まれとるやないか。あのな、うちは新人募集なんてしてないんだよ。それに君らは学園を卒業したらラウルシュタイン帝国に帰るんでしょうが」

「それは……そんな先の事はどうなるか分からんではないか。わらわ達のような魅力的な女子と一緒じゃぞ?ときめくじゃろうが?ハーレムじゃぞ?」


 幼児体型が何を言ってやがる。本当に賢者という名前に負けているな、君は。この残念賢者め……俺はロリではないので君には全く食指が動かないのだよ。綺麗な顔してるとはいえ、そのガッカリ残念ボディで色仕掛けが出来ると思うな。全然賢くないじゃないの。しかしクレアとティアの巨乳は……それはそれで魅力的ですけども。実際のところ彼女達は戦力になるしな。うん、アリかもな!逆転のハーレム、良いですよねぇ!


「アレク。いっぱい食べていっぱい女の子と会話も出来て良かったね~………今日の洗い物と見張り番、全部任せるよ」


 我に返ると、久しぶりに怖い笑顔のルーがいた。あぁ油断した。トークしてただけで今回も情状酌量の余地があると思うんだけど、魔神の審判では一審で有罪判決が出たようだ。もちろん控訴なんて出来ない。決して逆らってはいけないのだ。


「イエス、マム!見張り番に立ちます!はい、洗い物も大好きです!」

「あー、料理して疲れたなー。肩も揉んで欲しいなー」


 もう一度言おう。逆らってはいけない。一瞬でも気を抜いた俺が悪いのだ。











◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇










 徹夜の見張り番を覚悟していたが、皆が寝静まった頃にルーが交代してくれた。怒ったとて、修行に差し障りが出ない様に休ませてくれる優しい師匠なんです。少しだけ2人だけでイチャイチャしてから寝ました。ええ、少しだけ。

 

 そして迷宮3日目の朝がやってきた。10階層の方がマンティコアもキマイラも多く出現するそうなので、我々は更に下層を目指して探索中だ。


 たまに、バジリスクやコカトリスも出現したが……順番的に、ねぇ。いや、脅威なんだよ?バジリスクなんて毒が凄いから槍であっても近接攻撃はおススメできない、蛇の王とも呼ばれる凶悪な魔物なんだけど……やっぱりマンティコアとかと比較するとねぇ。そしてコカトリスの方は蛇要素より鶏要素が勝ちすぎている。順番がさぁ……悪く言いたくないけど、やっぱり獅子と鶏ではねぇ。この辺は出てくる作品によっても扱いが違うから……。

 毒だの石化だの麻痺だの、バジリスクやコカトリスは状態異常攻撃が多彩なんだけど俺達はほぼ全員が遠距離攻撃が可能だ。そういう意味でも俺達は相性が良いんだろうね。そうやって倒したコカトリスの羽毛は高級品として重宝されるそうで、冒険者ギルドでも依頼が多数出ていた。その依頼の提出分以上に羽毛を採取することができたら、ルーに寝袋かお布団にしてもらおう。そのためにも狩りまくろうよ。安眠快眠の為にも出てこいコカトリス!


 それにしても、ここってオウルベア以降は合成獣(キメラ)ばっかりだな。神が酔った勢いと更に深夜のテンションと身内のノリで盛り上がってやらかしたのを纏めて押入れに突っ込んどいたような迷宮(ダンジョン)だよな。神のお母さんか奥さんにバレて怒られてしまえ。もしここがルーの親父さんがやらかした結果ならば、愛する娘に黒歴史を見てもらうがいいわ。


「あのね、最高神がわざわざ魔物のデザインまでしてないと思うよ?それに私はそこまで酷いデザインだとは思わないもん」

 

 もん、と言われても。まだコカトリスやオウルベアはわからなくもないけどキマイラとか、かなり酷いぞ……視覚による暴力だろ、あれ。クライアントの要望を全部ぶっこんだの?足し算ばかりじゃなく引き算の美学も大事らしいよ?


「ああいった合成獣(キメラ)は複数の魂も合成されている、とも言われていたの。だから同レベルの魔物より遥かに経験値が稼ぎやすいんだよ」


 そうなんだ!その理論はよく分からないけど、いわばメタル狩りをしていたのか!ならば10階層へ是非とも行かないとだな。メタキンを倒そう。


「この辺のはずなんだけど……上かな?下かな?」


 先へ進みたいけど岩場が入り組んでいて、まるで天然の迷路のようになっている。まぁここは迷宮(ダンジョン)なんですけどね。セシルが身軽にぴょんぴょんと上まで見に行った結果。


「下だね。この地図、分かりにくいなぁ…」


 ようやく岩に隠れた階段を見つけて、ついに10階層。しかし岩だらけの景色は殆ど変わらない。驚くべきは、迷宮なのに大きな火山がある。だけど火山があるのに少し肌寒い。もう意味がわからない。この階層には聳え立つ火山があるぞ……どんだけ広いんだ。あの山も登れるんだろうか。あの山の頂上は9階層にぶつからないの?天井はないのか、天井。


「代わり映えしない景色だね。師匠、ボク達は11階層を目指せばいいの?」

「うーん……一応、行ってみようか」

「この前みたいに最下層でダンジョンマスターに頼んで魔物を召喚してもらえばええんちゃうの?」


 キマイラやマンティコアを1000体とかは……ちょっと無理かもしれんけど。


「この迷宮(ダンジョン)のダンジョンマスターは人間じゃないんだよ。だからって人間と敵対まではしていないらしいけど……友好的とは限らないんだ」


 迷宮の初級向け、上級向けは結局のところダンジョンマスター次第な場合が多いそうだ。上級者向けな迷宮はダンジョンマスターが人間と友好的ではない場合が多い。つまり人間に容赦ないから上級者向け。

 そして、このロマノアの迷宮のダンジョンマスターは中立。積極的に人間に危害は加えないが同時に手心も加えないよ、というスタンスだそうだ。クールだねぇ。


「なるほど……知性のある存在なら交渉次第では、ってことかな?じゃあ行くだけ行ってみよう」


 まさか問答無用に攻撃はされないだろう。されないよね?ウチの場合はセシルが問答無用で攻撃しないかを心配すべきかもな。


「じゃあ目指すは、あの真ん中の山だよ。あの山の中腹に入り口があるみたいだ」


 うへぇ……ついに登山か。迷宮なのに登山……しかも下の階に向かう為に登るなんて、もう訳わからん。しかも少し寒い中、山を登るだけでもしんどいのに魔物が次々と襲ってくる。ついにはマンティコア、キマイラに加えて鵺が登場したよ、読める?ぬえ。

 和風だわぁ。まさしく和風キマイラ。雷獣とも呼ばれるそうで、実際に雷を放ってきた。危ないなぁ!鵺の鳴く夜は恐ろしい、だったか。そのフレーズを聞いた覚えはあるけど……一体どういう意味だっけ?

 昔話じゃないが、鵺はセシルが弓でもって倒した。雷は脅威なんだけど、マンティコアに比較したらちょっと小柄なせいか耐久度に劣るのかも。今度出たら、俺が1人で戦わせてもらおう。雷をどうするかが問題だな。確か……昔読んだ本で見たのは、雷の速度って光速の数分の1くらいだそうだ。そんなもん対処不可能という意味で光速と一緒やないか。うん、避雷針かな。この場合、役に立つのかね避雷針って……。






 登る、魔物が来るので戦う、休憩。登る、戦う、休憩。

 これを何度も繰り返して、ようやく目的地が近づいてきた。

 最下層への階段……というか扉。

 あの扉の向こうに階段があるのだろう。

 降りる為に登るというこの矛盾。


 しかし、その前に番人がいた。

 いや人じゃねぇですけど。




 俺達の前に立ちはだかるのは、グリフォン。獅子の下半身に鷲の上半身をもつ怪物だ。獣王と鳥王とが融合した非常に高位の存在で、その性格は極めて獰猛。

 しかしライオンは合成獣界では大人気だね。流石は百獣の王だわ。そんなこと言われても、ライオンはちっとも嬉しくないだろうけどさ。そして目の前のグリフォンはライオンの倍以上の大きさ。背中に人が数人は乗れそうだ。つーか、俺が見た資料には、この迷宮にグリフォンが出るなんて書いてなかったよ。レア?隠しキャラ?これは大当たり?もしくは大外れなんだろうか。


「いや、私もこれは確認していない。予定外の相手だよ」

「倒しちゃってもいいんだろう?」

「上級の魔物だ。今までの相手とは格が違う」


 む。煽るねぇ、師匠。それは俺達には無理だと言いたいのかな?


「もう一度聞くけど……倒しちゃってもいいんだろう?」

「バカなことを言うな!我ら3人でも勝てるとは言い切れない程の相手だぞ!無理だ!」


 ほほぅ、A級冒険者の剣聖にB級冒険者の賢者と聖女でもか。

 そんなこと言うから、むしろセシルはやる気満々だぞ。


「じゃあアレを倒せば、ボクらはA級レベルってことだね」

 

 なぁ、愛する師匠よ。

 試練ってのはこういうもんだろう。

 これは第4の試練じゃない。


 こいつだ。


 こいつこそが、この迷宮(ダンジョン)での最初の試練だ。

 俺達が挑むべき、そして超えるべき壁なんだよ。

 魔神よ、お願いしますから今は黙って俺達の戦いを見てて下さい。




「アレク、セシル。まず翼を狙うぞ。飛ばれたら絶対的に不利だ」


 覚悟を決めて槍を持つ手に力が入る……が怖ぇええええ!!なんなんだよ、あの鷲の目。上級の魔物なら相応に知性も高いはずだし、今からでも話し合いで解決しないかな?話せばわかる、実に良い言葉だ。残念ながら、それが良い結果となった場合を俺は知らないけども。覚悟?もう食べちゃったよ。俺のは一口サイズだったの。喉越しも良かったよ。

 しかし俺が話し合いを始める前にセシルが後方から矢を連発した。まだ精霊を降ろしてはいないが、それでも避けられた場面すら碌に見たことのないセシルの矢は、残念ながら今回は空を切った。いや、そんな光景を見たんじゃないよ。多分、矢は外れたんだろうって話だよ。見たくても見られなかったんだよね。だって矢で狙われたはずのグリフォンは、その姿勢から急加速して俺とクリスをまとめて吹っ飛ばしていたんだから。ビビってはいたが油断してなかったのに!速いなんてもんじゃない!子供の頃に見たブラッドウルフの動きを彷彿させる。いや、ブラットウルフよりもめちゃくちゃ速い!

 すっげえ距離を吹っ飛ばされた。もうね、全身が痛すぎて痛くないの。あまりの衝撃で肺の空気が交換されない。苦しいよぅ……空気、空気をクレ。

 

 流石は幻獣グリフォン。どっちかっつーと神様寄りな強さなのね。格が違うと言う師匠の言葉が身に沁みるよ。ワイバーン希少種の装備じゃなかったら即ゲームオーバーだったのかも。


「グルルルルルルゥ……」


 そんな必死の俺達に対して全く焦ってもない様子のグリフォン。実に余裕だねぇ。魔物だけど、なんだか品格すら感じるわ。ええ、なんだかイラッとする程にな。

 この先、神をぶん殴ろうと思うなら……コイツ程度に苦戦は出来ない。喘ぐように呼吸しながら無理矢理立ち上がった。おい、グリフォン。なんだその態度は。その余裕が気に入らないね。ああ、気に入らないよ。


「おい、それは余裕のつもりか。ちゃんと追撃に来いよ、四つ足の鶏風情が……ヒトを、舐めるなよ」


 ああ、貴重な空気を挑発に使っちゃったわ。バカバカ、俺のバカ!ホラ、人語をどこまで理解してるのか知らないけどグリフォンがカチンとしたのは俺にも伝わってきたわ。でもな、グリフォンよ。カチンと来てるのは俺達もなんですよ。


「だらぁあああっ!」


 今度はお返しだ。再度のグリフォンの高速での突進にカウンターでその鳥頭を右の拳でぶん殴ってやった。

 出し惜しみ無し手加減無し。ここからは最後までゾーン入りっぱなしだ。それはそれとしてね、ゾーンに入ったとしても拳が硬くなる訳ではない。身体能力的には変化しないのね。だから当然の結果が待っている。あー……殴った右の拳が既にズッキンズッキンしてるぅ……コレは折れたかなぁ。折れたよねぇ。俺にはパキッって音が聞こえたもの。まだ痛みは麻痺してるのか余り感じないけど、後で痛いぞぉコレは……。

 それに対してグリフォンは少し怯んだ程度で殆どダメージは無さそうだが……なんだ、その目は。だから舐めんなって言ってんだよ。お前が戦っているのは俺だけじゃないんだぞ。三歩歩いて忘れたのか、鳥頭め。


「グルルルゥ!!」


 如何に幻獣だろうと獣王だろうと、だ。聖剣に斬れぬもの無し。俺がグリフォンを引き止めている間にクリスがグリフォンの後ろ右足を斬り落としてくれた。これでもう、さっきのような高速ダッシュは出来ないだろう?


「グルルルルゥ…!」


 もちろん言葉はわからないけどさ。どうやら痛み以上にグリフォンのプライドを傷つけたようだ。鳥の顔で大したもんだ……お前の表現力に乾杯。将来、俺が映画を撮るときはお前も役者として参加してくれよ。でも役柄には困るなぁ……一人暮らしのOLが部屋で飼ってるペット役でどうだろうか。恋に仕事に疲れたヒロインが一人暮らしの部屋に帰ったら、そこにはグリフォン。若い乙女がそれで癒されるかどうかは知らんけど。斬新な絵面だよな。これはインパクトあるぞぉ。インパクトというか……あるのは違和感の方かもしれないけど。どういうストーリーになるか逆に興味出てきたわ。


 さぁ片足無くして動けなきゃ、もうお前なんぞ相手じゃないぞ!あー………飛びましたか。そうですよね、アナタは飛べるんですよね。おいクリス、足じゃなく翼を斬らんかぁ!!


「アレク!クリス!ボクを援護して!」


 後衛のセシルが前に出てアタッカーになる。つまり精霊を降ろす気だ。そう、今から30秒で決着をつける。空を飛ぶグリフォンは地上以上の速さで飛びまわっている。アレをなんとか止めるんだ!………どうやって止めよう?そうだ、弾幕だ!飛ぶ相手には弾幕だ。左舷、弾幕薄いよ!なにやってんの!


「《氷裂弾》!」

「《豪炎槍》!」


 そうだよ、こっちを見ろ。


 相当に知性が高いのか執念深いのか……右足を斬ったクリスより俺を見てやがる。こちらの最高戦力がセシルだと分かった上で俺から殺す気だ。クソッ、鳥頭のくせに記憶力良いじゃないの。

 そんなにさっきの俺の挑発が効果的だったのか…………そんな鶏風情とか嘘ですやん。冗談ですやん。ほら、グリフォンってどこかの国の王家の紋章にもなってて超かっこいいですやん。あのドラゴンのライバル的存在らしいですやん。なんというか僕、ファンなんですよね、実は。今更ですけど友達になりませんか?……無理ですかそうですか。

 フンだ。お前が弓矢より速く飛ぼうが、ルーほどは速くないんだぞ。ゾーンに入った俺には、お前の姿が見えてるんだからな。


「セシル!俺の目の前に撃て!」


 手負いのグリフォンが上空から加速して鋭い爪で俺の首を抉ろうと迫る。グリフォンの戦い方はシンプルだ。その頭抜けた速さと力強さでもって爪や嘴で攻撃してくる。そう、圧倒的な強者の戦い方だ。だからこそ読める部分がある。


「《岩塊障壁》」


 本来は防御用の障壁だけどさ、これを高速移動してるグリフォンの目の前に出せば、そのまま攻撃になる。どこに来るかわかっていて姿が見えていれば、こんな芸当もできる。質はさておき魔法の出の速さならルーにも負けないぜ。俺も高速移動が売りの戦士だからよくわかる。高速移動中に壁にぶつかるってのは、とんでもないダメージだ。運動エネルギーが一気にゼロになる衝撃。その自慢の飛行能力で自爆しやがれ……!

 衝突の衝撃で砕かれた岩の障壁のわずかな隙間をセシルの矢が射抜く。今度は避けられないだろう?これが俺達自慢の神箭手だ。正確にグリフォンの両眼をセシルの矢が貫いた。ああ。心配すんな、こんなチャンスをそれだけで終わらせないよ。これを逃したら、お前はもう油断してくれないだろう?分かってる、俺はお前を過小評価なんてしないよ。

 貫け、カールの槍!飛び散る岩の障壁も無きが如し、グリフォンの心臓を正確に刺した。よし!クリスの剣で、セシルの矢で、俺の拳と槍で上級の魔物を撃破!見たか!見たか!見たか!!


 あー………終わったら途端に右手がズキズキと痛みだしてきた。槍はともかく俺の拳はグリフォンを倒すのに必要無かったかもしんない。ああ、聖女ティナが一緒で助かった〜。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











「信じられん……竜種に近い強さを持つ本物の怪物じゃぞ?それをわらわ達の助力無しで倒しおるとは……」

「今、助けてもらってるよ。もう右手が治った、ありがとう」


 治してもらったとはいえ、俺の右手は壊れたしセシルの魔力もほぼ空になった。流石はグリフォン、容易い相手じゃなかったねぇ。実際、紙一重だったと思うよ。


「もう……なんで君はわざわざ殴るかな。お願いだから普通に戦ってよ」


 格上相手に普通に戦ったら負けちゃうでしょうが。殴ったのは……いつか神を殴る予行練習ですわな。


「でも私の予想を超えてよく頑張りました。3人とも、よく出来ました」


 試練を乗り越えた実感が湧くね。

 久しぶりに師匠に褒められた。

 ああ、頑張った甲斐があった!



 さぁ、最下層への門番は倒した。この迷宮に出現するはずのないグリフォンが何故ここに居たのか、他にも気になることはあるが、まずはダンジョンマスターに会いに行こうじゃないか。聞いても教えてくれるとも限らないが色々と聞いてみないと始まらない。


 あ、手土産の一つも持ってくりゃ良かったなぁ。

 ケーキ……じゃダメだろうか。



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