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82 国境の長いトンネルを抜けると

 


 なんとか倒したぞ、ダークマンモス。誰か俺達を褒めて欲しいけど師匠も「そのくらいは当然でしょ」的な顔してるし。もっと褒めて伸ばす方針でやってほしいぜ。

 それにしてもマンモスと言うだけあってデカいな……いつぞやのワイバーン希少種も大きかったけど体重だけならあれの数倍はあるだろうな。こんな大物、こんなところで解体することも出来ない。またギルドで解体をお願いするしかないのかな……またギルマスに睨まれそうだ。

 俺の収納魔法に入るかな…入った!意外!自覚はなかったけど俺の収納魔法も成長してるんだな!でもなんか感覚でわかった。もうパンパンって感じが。この後の獲物は入りそうにないね。ゲフッてしそう。ド下ネタも思いついたけど、それは言わない。俺だって何でもかんでも垂れ流すような人間じゃないんだから。




 そこから6階層への階段までは、歩いてすぐだった。


 そして降りた先は、また雪国だった。そういえば、国境の長いトンネルを抜けるとそこは雪国であった……の冒頭は有名だけど、あの小説のあらすじすら知らねぇですわ。まさか雪国に行って温泉に入って部屋で夕食食べて一泊してお土産を買って帰宅する話でもないだろうしな。そんなブログにでも書いてろよ、みたいな内容のわけがない。今度、日本に行ったら読んでみるか………多分読まないだろうな。我ながら、こういう所も知力が低い所以じゃないかと思うよ。


 次に目指すは7階層。雪の中で気分は半分遭難気分だが、俺達には地図がありセシルがいる。頼むぞナビゲーター。そのナビゲーターが地図を睨みながら立ち止まった。


「この森を突っ切れたら一気に時間短縮が出来そうなんだけどなぁ……」


 セシルが指差す先には、雪と木でほんの少し先も見えなくなってる原生林。文字通り道無き道ですな。これを越えていくの?またまた御冗談を………本気で?ここを進むの?積極的に自分から遭難しにいくタイプ?


「じゃあ、行ってみよう」


 尻込みする俺と違って、剣聖クレアが我先にと歩き出した。躊躇わないのね。なんて男らしい……惚れそうになったわ。後続の為に下を踏み固めて、邪魔な枝葉を払って進む……剣聖クレアが。主人公かよ…惚れそうになったわ。キュンです。ヤバい。抱かれたいかも。いかんいかん、俺も率先してやらねば。

 幸いなことに森が深すぎて狼や熊もここまでは入ってこない。魔物が少ないのは、この状況的にはありがたいよ。但し居ないじゃなく少ない、なんだよね。

 さっきからジャックフロストがやってくる。コイツは雪か霜の妖精だったかな?ただでさえ寒いのに雪玉をぶつけてきやがる。ヒーホー言わないだけマシなんだろうか。攻撃というよりは悪戯レベルなんだけど鬱陶しいと言えば鬱陶しい。

 余りにイラッとさせられると思わず炎弾で撃ち抜いてしまった。途端にサッと残りも逃げていった。それでも、またしばらく森の中を行軍していると寄ってきやがる。ジャックフロスト、弱いけど……決して強くないけれど!めちゃくちゃ鬱陶しい!おかげでストレスがガンガンに溜まったが、なんとか森を通過して大幅なショートカット成功。おかげで7階層への階段は、これまたすぐ近くだった。








 7階層へ進むと、また再びガラッと風景が変化した。


 今度は一転して荒野となった。見渡す限り殆ど木もない。迷宮(ダンジョン)ってこんなに環境が変わるのか。苛酷な環境、というほど暑くも寒くもないのが救いだねぇ。さっきまでの雪原でも凍えるというほどでもなかったもん。

 今度は防寒装備から通常装備に変更だよ。さぁ着替えタイム。今回は女子も多いけど……覗けるはずもないし。そもそも、俺は覗きには興味はない。当然だろ、見るだけで何が楽しいんだ!女体ってのは触って味わってこそだろうが!……という話をクリスに力説したんだけど、もう返事もしてくれないの。おいおい、俺に対してなら正直になってええんやで、王子。実はムッツリスケベなんだろ?


 階層が変わると出現する魔物も、やはり変わってくる。この階層でよく出ると聞いているのがヘルハウンド。地獄の番犬だそうだ。じゃあ、ここは地獄の入り口か。


 もちろん、他にも出現する。

 ここにはブラッドウルフが出るんだって。


 ブラッドウルフ、か。俺達……まぁ戦ったのは俺だけですが、俺達が人生で最初に遭遇した魔物だ。戦ったっつーか殆ど一方的に弄ばれて、たまたま放った攻撃が奇跡的にクリティカルヒットしてくれただけの相手。しかも、あの時戦ったのはブラッドウルフの子供だったそうだし。正直、良い思い出ではないよね。まぁ……トラウマというほどでもないけどさ。


 それでも俺にとっては運命の魔物ではある。

 出て来て欲しいような欲しくないような……。


「あの岩の辺りまで行こう」


 周囲を見回しても、相変わらず現在地すらさっぱりわからないがセシルは理解してるんだろう。あの岩ってどれだよ……あれか。さっきまでの雪中行軍に比べたら、平地ってのはなんて歩きやすいんだろうね。最高だぞ、大地。寝転びたい程に大好きだ。

 荒野を進んでいると、ちょっと遠くの方で戦闘中の気配がした。久しぶりに他の冒険者パーティに遭遇だ。んー……5人組か。相手は黒い獣が数体……あれはヘルハウンドなのかブラッドウルフなのか。遠いから詳しくはわからんけど今にも魔物にやられそう!って感じでもなさそうだ。


「なぁ、あーゆーのは手伝いをした方がいいの?」

「求められない限り、こちらから手は出さない方がいい。獲物を奪われると解釈されるぞ」


 剣聖クレアがほっとけ、と教えてくれた。そうか、あれも仕事中なんだもんな。横殴り禁止。もし死んだとて自己責任。余計なことはしないで先へ進もう。


「ショウゴは目に入った魔物は全て倒す派だったから、よそのパーティとよく揉めたものだ」


 聖女ティナがしみじみと楽しそうにショウゴの思い出話を語りだした。ていうか、なにその物騒な派閥。MORPGなら攻略掲示板に晒されるぞ。君らもね、ベテラン冒険者ならそういう時はショウゴを止めましょうよ。確かに止めてもアイツは言う事を聞かなさそうだったけど。

 しばらく進んで辺りを見回しても殆ど動くものがない。迷宮(ダンジョン)の中なのに、なんでこんなにも広いんだ。セシルが指示する方へ歩くが、行けども行けども荒野だなぁ……まだ1時間も歩いてないけど凄く長く感じる。



 不意に、俺の心臓がドクンと大きく拍動した。不整脈かな?と思ったが今の俺は生まれ変わって若い身体なんだったわ……もしかして若年性とかあるんだろうか。この世界この時代にも健康診断があればいいのにね。


 ………いや、これはそうじゃない。

 早くなった鼓動だけで確信した。


「ブラッドウルフが、来るぞ」

「え?どこにも何も居ないよ?」

「いえ、アレクの言う通り……こっちに向かって来てるよ」


 セシルでもまだ分からない程の距離があるようだが、ルーが保証してくれた。これは俺の気配察知の範囲が広がったのか?違うな……多分これはブラッドウルフ限定の予感なんだろう。なんと言っても、俺とブラッドウルフには因縁があるからな。


 来る。

 来た。

 見えた。


 はるか遠くから3体の黒い獣が疾走してくる。

 いつの日か見たように、赤い目を光らせて。

 いつの日か見たように、全身から黒い炎をたなびかせるように。


「第3の試練、かな。速さで君達以上。そして君達にとって心が試される相手だね」


 楽しそうに言いやがって。

 確かに、あの日あの時の恐怖がじんわりと甦る。


 ああ、手も足も出なかったよ。

 本当に死ぬかと思った。

 本当に殺されるかと思った。

 あの時の死神が、3体も。しかも全て成体だ。

 

 でもな、俺もあの日の俺じゃないぞ。

 手に持つのは、げいぼるぐ(笑)じゃなくカールの槍だ。

 更に魔神ルーに10年以上の修業をしてもらった。

 そして何より、あの日は屋敷へ逃すのが精一杯だったセシルとクリスが俺と並んで一緒に立ち向かってくれている。



 悪いな、ブラッドウルフ。あの日の数倍の戦力で来てもらったが、俺達の戦力はあの日の数百倍、いや数千倍だ。


 今日、確かに実感したよ。

 俺達は強くなった、と。












◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











「5歳でブラッドウルフと戦ったじゃと!?信じられん…」

「あれは戦ったじゃなく襲われた、って言うんだよ。それに相手はブラッドウルフの子供だったんだ」

「ボクとクリスは逃げるので精一杯だったのに、アレクはブラッドウルフをぶっ飛ばしたんだからね!すごかったんだから」


 セシルは昔からそういうけどね、ぶっ飛ばされたのは俺だっての。1000回やったら999回やられるところを、たまたま運良く生き残っただけなんだよ。


「それでも水鏡の儀を前にして……よほどの天稟に恵まれたのか…」

「アレクはすごい、ただそれだけだよ」


 天稟なぁ。一個もスキルは持たないがゾーンに入れた男は天稟に恵まれたのか、どうなんだろうか。

 ただ、最近思うんだ。俺がゾーンと呼ぶ超集中力。これがスキルじゃない理由。天の神様が……それこそルーの親父殿すら忘れてた隠れスキルとかじゃなくて。これは…おそらく人間誰しもが持ってる能力なんじゃないだろうか。かつてルーが呼吸や歩行なんてスキルはない、と言っていたのと同じってことで。出来て当たり前過ぎてスキルですらない、のかもしれない。

 仮説でも何でもない、ただの思いつきだけどね。こんな話はどうでもいいか、どうでもいいな。でも、いつか担当者の神様……それがルーの親父殿かどうか知らんが会ったら聞いてみよう。




 時折、襲ってくるブラッドウルフやヘルハウンドを撃退しつつ8階層を目指している。初遭遇したヘルハウンドは、これも黒っぽい獣だった。黒と赤の獣。ただ、こいつは口から炎を吐きやがる。普通に戦うなら聖女の盾で無力化して一撃で終わりなんだけど、師匠はそれに頼るなと言う。確かにこの迷宮に来たのは、効率的に狩りをする為ではなく修業目的なので言われた通りにしますよ。


 槍の穂先に魔力を纏わせて炎を切り裂く。

 なんとなく、わかるんだ。

 きっと、この先で必要となる技術なんだろう。

 基礎はこの10年で教わっている。

 既に応用し実践する段階なのだ。






 なお、8階層になると荒野というか岩場というか、あまり平坦ではない。地形の変化はさておき……狼が多い。7階層と違ってガタイのデカいブラッドウルフとヘルハウンドが、たまに亜種混じりに結構な数の群れで襲ってきている。他に餌が無いのか?普段こいつらは何を食って生きているんだ?

 1階層にも稀に出現するらしいけど、この階層にもアルミラージというジャッカロープとは別のツノウサギがよく出現する。結構凶暴で、ウサギなのに逆に狼を食らうこともあるそうなので、狼達の良い餌とも言いがたい気がする。

 それにしても今は獲物の血抜きとかしてないのに、次から次へと……ゆっくり移動しながらだけど数十体に囲まれている。状況は4階層の時より酷い。


「師匠ぉ、地図だと………今ここであってるんだよね?9階層への階段が見えないの、なんでだろう?」

「見せてみて。うん、そうだね。ここが現在地だから………」


 円陣の真ん中では、セシルとルーがのんびりと地図で現在地と9階層への階段場所を確認中。さっきからひっきりなしに狼に襲われているから、地図を確認する場所がそこしかないのよね。狼達の血飛沫と咆哮、そして悲鳴や断末魔が折り重なる場所のど真ん中に居ながら、あの2人の冷静さは見習いたいものだ。でも同時に、人間がああなったら終わりだぞ、という気もしている。大切にしましょうね、常識。


「う〜ん、もどかしいのぅ……」


 広域魔法が得意な賢者クラウディアだが、素材回収の為にも単発魔法で対処してもらってる。プチプチをまとめて潰すか一つずつ潰すか、で言うならクラウディアはまとめて潰すタイプだね。その気持ちは良くわかるぞ。一網打尽、素敵な言葉です。ただね、クラウディアの魔法は強力すぎて広域魔法を展開したら高確率で素材まで台無しにしかねない。

 

「そうか、この岩場を降りたところにあるんだ!こんなの予め知ってないとわかんないよぉ~」


 地図班は無事問題を解決したようだ。


 後はまだまだ湧いてくる狼を倒し尽くすだけですね。これもレベルアップの為だ、片っ端から薙ぎ倒すよ!ここでメーヌの迷宮での修行が役に立っていた。あそこでは連日乱戦を倒れるまで繰り返したからな。小1時間ほど戦い続けた結果、やっと全ての狼達を沈黙させた。個体でも苦戦する強敵が出て、更に乱戦も経験できる。なるほど中級向けの迷宮なんだね、ここは。


「私もこの迷宮(ダンジョン)には初めて来てるんだ。手頃な相手がいるのは調べたけど、あんなに囲まれるのは想定外だったよ。あんなにいっぱい来るなんて驚いたよね~」


 9階層へ進みながらルーの説明を聞いていた。なんつーか、感想が軽い。知ってたけど時々いい加減だよな、この師匠。そして改めて説明されたのは、今回の修行の主な目的はこの9階層10階層にあるということだ。



 その9階層、10階層は火山ステージ。


 ステージってもゲームじゃないんだけどさ。火山と言っても常に噴火してるとか、あちこちが溶岩の海になってる程でもない。結構暑くて…熱くて?所々から噴煙なのか湯気なのか上がってる。たまに硫黄臭い。せっかくだし温泉は無いのかな。ここに無くても、そろそろ温泉イベントがあっても良いじゃないんだろうか。

 もう少し具体的にハッキリ言うと混浴したいよな。これは強く希望したい。せっかく女性キャラも増えたんだし是非、前向きに検討して頂きたいものだ。誰に決定権があるのか知らんけど。


「この9階層からキマイラとマンティコアが出るよ。全てのステータスが君達以上で、更に毒を持つ」


 オウルベア、ダークマンモス、ブラッドウルフと来て、この迷宮(ダンジョン)での試練の本命はこのキマイラとマンティコアだそうだ。

 全ての面で俺達を上回る、か。毎日、組手してもらってる魔神が全ての面で俺達を遙かに上回っているからな。劣勢の戦いなんて慣れたもんだ。しかし慣れてはいるけど……その魔神に勝ったことも無いんだったわ。

 目当ての魔物が出る階層ではあるけど、宿泊にはイマイチな環境なので更に最下層を目指す。またボリスさんが居たらそれはそれで面白いんだが。もし居たらボリスさんのストーカー疑惑が発生するね。


「ボリス殿は今は西に向かっておられるはずだ。一見、飄々としているが……隙の無い方だったな。いつか、お手合わせを願いたいものだ」


 俺の横を歩くクレア嬢は先日王都でボリスさんに出会ったそうだ。あの日、迷宮最下層で俺達と会って以来、ボリスさんは実にイキイキと、そして精力的に活動を行っているそうで。お手合わせねぇ……もしかしたらボリスさんには美少女にぶっ飛ばされるのが大好きというドン引きな趣味というか性癖があるかもしれないからクレア嬢も十分に気を付けていただきたい。君にパパ活は似合わないよ。


「それにしても暑いし臭いし……苦手だ、ココ」


 セシルが熱に負けてフラフラしていた。

 確かにこの階層、暑いよな。


「セシル、これを飲みなさい」


 ルーがセシルに冷やした水を渡していた。それだけじゃない、氷魔法を応用して周囲の気温を下げたようだ。屋外対応型の移動可能なクーラー、それがルーです。あー、ひんやり。なんて素敵なんだ。少々俺達を甘やかしすぎな気もするけれど、この快適さを一度知ってしまったら……たまらん。


 余談ですが昔、クリス達と一緒にモルガン先生に授業で魔法を習ったとき、氷魔法なんて分類は無かった。

 その後、クリスが教えてくれた話では魔法学的に言うと氷魔法ってのは、火魔法もしくは水魔法に分類されるそうだ。え?それはどういう意味?と聞くと、火も氷も温度を変化させるという観点から見れば同一の現象だから火魔法なんだ派と、水と氷は近い……というか固体と液体の違いでしかない。水が凍れば氷なんだから水魔法なんだ派が学会で論争になっているそうだ。俺?俺はどっちでもええがな派だ。邪馬台国は九州か畿内か、みたいな話だろうか。ちょっと違う気もする。ちなみに俺は、これに関しては九州派。




 元気を取り戻したセシルのナビで、更に進む。


「何かが居るよ」


 ここまで、あんまり魔物と遭遇せずに来たけど遂に出てきたか。どっちだ?キマイラか、マンティコアか。それとも別のナニカか。セシルが言うには移動はしてないそうだ。ブラッドウルフやらヘルハウンドは嗅覚が凄いのか、すぐ俺達に突撃してきたから、こういう反応は新鮮だな。お、俺の気配察知の範囲にも入った。群れじゃなく単独でいる。当然ながら知らない気配だ、さてその正体は……?正解はCМの後で。

 アレはうざかったなぁ……いや、そんなこと思い出してる場合じゃない。


「あれはマンティコアだ……!」


 一見、巨大な人面ライオン。それで飛べるのかどうか知らんが背中には蝙蝠のような翼もある。そして蠍のような尻尾。見た目の奇天烈さはオウルベアどころじゃねぇな。これもルーのお父さんの悪ふざけなんだろうか。お父さん、疲れてたのかもしれませんけど雑な仕事はやめましょうよ。夏休みの宿題で8月31日に慌てて作った「ぼくの考えたさいきょうのまもの」みたいになっとるやないか。そんな神の悪ふざけパートⅡに喧嘩を売るってか。


 例によって、ガールズとルーは手を出さない。

 これは俺達3人の相手だ。


「恨みも無いが、いざ勝負」


 聞いているかどうかも知らんが、一応マンティコアに宣戦布告。つくづく俺って律儀でしょ。マンティコアが人語を理解するなんて話はどこにもなかったが、聞こえたかのように奴もゆっくり立ち上がった。巨大な獅子……ってデカ過ぎるだろう。まるでカバかサイのような大きさ。これで俺達より速いってか、たまらないねぇ。逃げ出したくてたまらないよ。


「いつも通りだ。アレクは正面から抑え込めろ。僕があの尻尾を切り落とす。セシルは援護」


 クリスよ、あの巨体を正面から抑え込めろとか簡単に言ってくれるね。その分、最も危険と言われる尻尾を引き受けてくれてはいるけれど。王子に言われたからにはやるしかない。ジリジリとマンティコアに近づいていく。この距離まで近づくと獣臭がキツいね。日本で子供の頃に行った動物園を思い出した。

 

「《炎槍》」


 出の速い、炎の槍を3発続けざまに発射。

 避けるかな…?


「ガオオオオォォン!」


 耳を塞ぎたくなる程の咆哮と共にマンティコアは炎のブレスを吐き出した。俺が放った炎の槍を掻き消すほどの超高温。あっつ!なるほど、ヘルハウンドの炎を聖女の盾に頼るな、と言っていたのはコレの対策だったんだな!そんな事を考えながら、槍に氷の魔力を纏わせて炎のブレスの全てを切り裂いた。

 正解でしょ!と言わんばかりにドヤ顔でルーを振り返ってみたら、めっちゃ素でした。完全なる無表情。ノーリアクション。どうやらマンティコア対策でもなかったようだ……少し恥ずかしい。

 切り裂いた炎が完全に消える前に、セシルの矢がマンティコアの目を襲う。こんな巨体の頭部なんて槍でも中々届かないから弓矢ってありがたい。しかし俺も黙って見てるだけじゃダメだ。


「《氷柱陣》」


 マンティコアの足元から氷の柱が林立させた。なんとなくだけど炎を吐くくらいだから水属性とか氷属性とか効きそうかな、と。ダメージもそうだけど足元がこう不安定になれば高速では動けまい。そして動きが取れなくなったマンティコアは目の前の俺にどうするか。


 頭上から、蠍の尻尾が降ってきた。


 毒か……今更ながら聖女は解毒も出来るんだろうか、と心配になった。ルーは出来るのか出来ないのか。戦う前に聞いておけばよかったな。毒をくらったら苦しいんだろうなぁ。どちらにしても刺されるつもりはないけれども。

 槍の穂先で毒の尻尾を弾いて距離を取る。外れた尻尾は地面に深々と突き刺さった。おいおい……毒じゃなくても単純に破壊力だけで人が殺せそうな勢いなんですが。しかし、その脅威も今、無くなった。

 伸びきった尻尾は聖剣で音も無く斬られた。ああ、クリスが有言実行してくれた。まだ、大きな爪があり兇悪な牙があるけど、これで最大の脅威は消えた。だったら一気に攻めるよ!マンティコアが失った自慢の尻尾に気を取られている隙に下から懐に飛び込んで、その喉を貫けカールの槍!脳漿までぶちまけるのだ。

 魔物特有の赤い目の光が消えて、生命活動を終えたマンティコアの巨体がゆっくりと倒れこんできた。待って!ちょっと待った!こっち来るな!あかん、逃げないと潰される。ここまで戦って最後が圧死というのは避けたい。

 おいおいおい、こんなのが中ボスとかレアでもなくて、その辺に普通にウロウロしているの?ここって中級者向けの迷宮なんだよね?マジかよすげぇな中級者って!



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