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81 神箭手

 


 ついにやってきました、5階層。


 そこは予想通りというか期待通りというか、一面の銀世界だった。迷宮の中なのに雪だよ、雪。雪がたっぷりと降り積もっているけれど、気温自体は極寒というほどでもない。風も余り吹いてないので体感温度もそこまで低くはない。なんだか北海道か東北へ旅行に行った時を思い出したよ。

 オルトレットは南の、かなり暖かい地域だったから雪は降らなかった。つまり、セシルとクリスは雪を初めて見たので感激してます。ちなみにガールズはラウルシュタイン帝国で見たことあるそうで、落ち着いたものだ。


「何これ……!冷たい!……あっ、消えた!?」

「すごい!これが雪…!!」


 子供って本当に雪が大好きだもんね。初めて雪を見た2人は全力ではしゃいでいる。うんうん、後で雪だるまを作ってやるからな。

 各自、防寒装備や雪用の靴に交換中だけどセシルなんて雪に夢中で殆どルーに着替えさせて貰っている。幼児か。手袋もちゃんとしなさいよ。防寒も大事だし弓が扱えないと戦えないぞ。しかし手袋で弓が射れるのかね?


 地図によると、この5階層入り口から少し移動したところに冒険者達がよく利用するキャンプ地があるそうだ。本日はそこで一泊する予定だよ。今は誰ともすれ違う事はないが、キャンプ地方向への雪原は既に何人もの人が歩いた後で雪が踏み固められていて歩きやすい。今が何時頃かわからないけど多分、もう夜だ。


 早く休もう。












◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇













「ふぅ……美味しかった。ありがとうございます、レティシア殿」


 本日の夕飯は、俺の希望を存分に取り入れてもらいウサギ肉のシチューと熊肉のシチューの食べ比べセットでした。これには剣聖クレアも気に入ってくれたようだ。雪が降ってるわけではないが雪上なので暖まりやすいシチューにしてもらって、しかし味の方も大満足。特に熊肉はかなり野性味溢れる味だねぇ。食べてみて味的に鳥の要素はあんまり無かったわ。まぁ飛ばないしね、オウルベア。熊のような鳥じゃなく鳥頭の熊ってことなんだろうね。だったら頭部を食べたら鳥の味だったのかな?別に試してみようとは思わないけど。熊の右手は、またいつかきちんと料理してもらおう。確か、めちゃくちゃ手間と時間がかかる料理だった気がする。ちなみにウサギと熊の食べ比べではウサギ肉のシチューの方が好評だった。前世で食べたウサギ肉は鶏肉っぽいイメージだったけど……今回のはウサギではなくウサギの魔物なせいか?理由はわからないけど美味しかった。運動量が多いのか脂身はほとんど無かったけどコクがあって美味いよ!地上で食べた名物料理もそうだったし、改めて確認した。ウサギ肉は美味しい。ガールズ達も本日の夕飯には大変満足してくれたようだが、流石に迷宮内でお酒は出さないぞ……少なくとも今日は。

 

 さて、食って片付けたら寝る。

 それでも見張り番は必要。


 このキャンプ地は冒険者達がよく利用する場所で、滅多に魔物は現れないと言われてるけど絶対じゃないだろうし。周囲には互いに距離をあけているが他のパーティーが3つも居る。これが顔見知りな相手なら協力して順番に見張り番を立てましょう、とか協力プレイになるんだけどなぁ。実際、この3つのパーティーはお互い知り合いなんだろう、そのようにするようだ。

 しかし初対面で、どこの誰とも知らない俺達がその輪に入れないのは当然の話である。逆に俺達だって知らない人達に見張りを任せるのは怖いよ。なので、ウチは俺→クリス→セシルの順番で見張り番をすることになった。いつもの迷宮なら……普段なら、睡眠が無くても大丈夫なルーが不寝番をやってくれたりもするんだが……本日は事情が違った。


「レティシア殿、セシルも今日は私達のテントに泊まりませんか。その……色々とお話をお伺いしたいな、と。ジョシカイと言うのをやりましょう!」


 ショウゴよ、お前さぁ……どういう話の流れで彼女達に女子会を教えたんだ。どんな顔して説明をしたんだ、と問いたい。問い詰めたい。小一時間問い詰めたい。まぁ女子会自体は楽しんでくれて結構ですよ。見張りは俺達がちゃんとするし。しかし、ルーがちょっと焦ってるぞ。女子会に男の娘も誘われてるからなのかな。ここでセシルのことを言うのか?言うにしてもそれは本人が言うべきじゃないか?…等々を気にしているのかもしれない。今更ながら仲間はずれにしたら可哀相だし、でも女子会にも少し興味もある。そんな心理が透けて見えるようだ。

 魔神も人間関係に関してはポンコツだから迷ってる迷ってる♪オロオロしてるルーを見ているのも楽しいが、たまには背中を押してあげよう。是非、人生初の女子会を楽しんできて欲しい。ここは迷宮内だけどな!


「女子会をすると言うのなら……せっかくだから美味しいスィーツと極上のワインを提供しようか」

「おお、アレクシスにしては気が利くのぅ!ささ、レティシアちゃんとセシル、わらわ達のテントでじっくりとコイバナをしようではないか!」


 ホントにね、マジでショウゴは何を教えたんだよ。今後、この世界にジョシカイとコイバナが定着したらアイツのせいだからな。俺は知らんからな。そんなこんなでセシルとルーは女子達のきゃっきゃと賑やかな声と共に、賢者達に背中を押されてテントに入って行った。この期に及んでは何も言うまい。


「なんなんだろうね、ジョシカイってのは」


 残された俺とクリス、男子会のメンバーは淋しく雪だるまを作っていた。時間的には夜だけど、この迷宮内は何時だろうと曇天程度の明るさが一日中続く。白夜みたいなものだろうか。本来ならクリスはさっさと寝るべきなんだが初めての雪に興奮して寝られないようなので、雪だるまを作ったら満足して寝ろと言ってある。王子、はじめての雪だるま作りに挑戦!だ。


「女子会とは、女性だけで集まって色々と楽しく話をする宴会のことだよ。日本語だ」

「ほぉ~……それでか。ショウゴ・サイコウジから知ったんだな、彼女達は。ん?女性だけ……?」


 言うな。聞くな。疑問に思うな。

 俺達の親友の男子が混ざってるけど、今更じゃないか。


「俺は何も言わないから、お前も何も言わずに寝ろ。それがいい」

「そうだな。多分それが一番いいね」


 そんなトークをしながら2人で雪玉をコロコロ転がして完成した雪だるまは……焚き火の近くだと溶けちゃうから、この辺に置こうか。結構大きな雪だるまが出来た。お前も俺達の見張り番のパートナーとして、一緒に頑張ってくれ。うん、お前の名前はユキ・ダルーマンだ。おお、お前も女子だったのか……ユキ、今からでも女子会に参加させてもらうか?

 無事ユキ・ダルーマンも完成したことで満足してくれたクリスは1人、俺達のテントに戻って就寝。一方の俺は焚き火の近くに愛用の椅子を取り出して周囲を警戒しながらもぬくぬくしていた。時折、女子会テントからきゃっきゃっと笑い声や歓声が上がったりしている。盛り上がってるな、オイ。

 俺も緊張感の少ない人生を歩んでる自覚はあるけど、迷宮(ダンジョン)内のド真ん中で女子会を開催するメンバーには負けたような気がする。何が勝ちなのか負けなのか知らんけど。むしろ負けはアイツらじゃないのか、と思うけども。




 そんな女子会のテントもいつしか静かになり、数時間が経過したかな?と思うころにクリスが起きてきた。見張り番、交代だ。新しく薪を追加して、さて俺も寝るぞぉ。いつでもどこでも眠れるってのも戦士に必要な素養だと教わっている。セシルには負けるけど、最近は俺も寝つきが良くなってきたからね。たまに添い寝してもらってるせいかもしれない。誰に、ってそれを聞きます?野暮ねぇ。













「おーい、起きてー」


 ………人生でセシルに起こされる日が来ようとはな。オルトレットの眠り姫に起こされるなんて、俺は魔女に眠らされた王子様だったのかしら。


「ボクもさっきまで寝てたんだよ!クリスがジョシカイに気を遣ってくれてね、見張り番を続けてくれたみたい。まぁボクはジョシカイ、早々に寝ちゃってたんだけどさ」


 見た目だけはかわいい女子なんだけどなぁ。胸は当然として男子的にも身長も体重も成長しない割によく眠るんだ、この子は。せっかくの女子会なのに普段通り寝てしまったのか。それともルーが魔法で寝かしつけたのかもしれない。セシルには聞かせられないようなトークでもしてたのか?

 顔を綺麗にしてテントから出ると、朝食の準備はほぼ終わっていた。セシルはユキ・ダルーマンを相手に、はしゃいでいた。そんな俺を出迎えてくれるのはガールズの面々。


「おはよう、アレクシス殿。昨日は我等だけ楽しんで申し訳なかった」

「いや、たまの機会なんだ。楽しめて良かったね」


 どんな話をしたのか知らねーですけど。そりゃね、ちょっとだけ気になるけど聞かないさ。俺だってそこまで不粋じゃないよ。


「アレクシスよ、わらわはそなたを見直したぞ。純愛しておるのぅ。不覚にも泣いてしもうたわ」


 !?


「レティシアさんが……可愛すぎる」

「わかるぞ、ティナ!レティシアちゃんがあまりにも可愛くて……アレクシスよ、わらわ達にレティシアちゃんをくれんかの?」


 やらねーよ!何?女子会でどんな……何の話したの!?ルーも戦闘ならまだしもコイバナではガールズに勝ち目はないだろうしなぁ。手玉に取られたのかもしれんね。根掘り葉掘り聞かれたのだろうか。聞かれたんだろうなぁ。

 朝食にスープを作ってるルーに「昨日はどうだったの?」と聞いたら、耳まで真っ赤にしていた。本当にどうだったんだよ、おい……あまりに恥ずかしがるので、それ以上聞くのも怖くなった。ゆうべはお楽しみだったんですね。









◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇









 さて、しっかり休憩して本日も目指すは最下層。この雪の階層には、もはやお馴染みのオウルベアに加えてイエティも出現するらしい。もちろん雪上の戦いなので機動力も落ちる。無理はせずに魔法や弓などの遠距離攻撃を多用していこう。

 レアな魔物としてダークマンモス、てのが出たりするそうで。ルーは2つ目の試練として、そのダークマンモスを探し出して倒せ、と言い出してきた。レアなのに?探して倒すの?まだ早朝だし……なんとかなるかな?なんとかするしかないんだけどな!

 テントも片付けて、さぁ出発だ。現在地はキャンプ地で、目指すべき目的地は6階層への階段。セシルがナビしてくれるから迷う要素は少ない。不慣れな雪上移動ってのが若干不安な程度なんだが……問題はダークマンモスだな。どこに居るんだろな。


「時間が限られているからね。君達はこのまま階段を目指して進みなさい。ダークマンモスは私が探し出して誘導してこよう」


 黒い鎧に身を包んだルーが指示をくれた。どうでもいいけど、その装備は防寒機能もあるのかなぁ……存在がチートで更に装備もチートなのはズルい。前前世の俺よ、俺にもなんか残しておいてくれてないのか?気が利かないなぁ、昔の俺。

 それはさておき、迷宮(ダンジョン)の冒険者ってのは基本的に目当ての素材があって、それを収集してくるわけだ。だもんで、俺達みたいに目的以外との戦闘なんて普通しない。当然だ、体力も魔力も無限じゃないしね。仕事なんだから避けられる相手は避けていくのですよ。

 そういう常識が有るというのに、どこにいるかも分からないマンモスの魔物を連れてくるんですってよ!どう考えてもデカいだろうし強いだろうし。そんなん隠れ中ボス的な存在ちゃうの?娘の彼氏レベルに会いたくない相手だわぁ……かわいい娘が彼氏を連れてくる、とか言い出したら、その日は普段行かない釣りにでも1日中でも行ってしまいそうだぜ。経験無いけどそんなもんじゃないの?そんで夜に妻と娘から怒られるんだ。でもパパの気持ちもわかっておくれ……。


 俺達の返事も聞かずに、ルーはさっさと走り出して視界から消えた。

 諦めろ、俺。しょうがないんだ。

 諦めが肝心という言葉もあるじゃないか。

 認めてあげようよ、娘の結婚を。


「アレクシス殿、あなた達の師だというのは知っているがレティシア殿の強さってどの程度なんだろう?もちろん、私が勝てるとは思ってもいないが」


 数度のオウルベア戦を行いながら6階層を目指して雪を踏みしめて歩く最中、クレア嬢がそんな質問をしてきた。それは宇宙の広さを問うようなモノかもしれんね……。


「彼女の本気は俺もまだ見てないけどな。例えば、ここに居る6人が命懸けで特攻して……そうだな、仮にショウゴ・サイコウジを加えてもいい。それでも一瞬で俺達が皆殺しにされる。確実に」

「そこまでか。S級冒険者すら遥かに超える強さだな……我等全員で本気を出させるのが精一杯とはな。昨日の夜の姿からは想像も出来ぬ」


 昨日の姿がどんなだったのか。俺はどちらかと言うと、そっちの方が知りたいが……それはさておき、本気なんか出してもらえる訳がない。俺達全員にショウゴを加えたとしても鼻歌混じりに鎧袖一触されるのがオチだ。万が一、3秒でも持ち堪えたら祝賀パーティーを開こうぜ、あの世で。

 それほどの…それ以上の戦力差がある。クレア嬢にそこまでの事実は説明しないけどさ。それを超えようって言うんだから俺の人生も大変だ。

 そんな会話をしながら林を抜けると、なだらかな小高い丘になっていた。周囲の雪のせいか遠近感が分かりにくいなぁ。


「オウルベアじゃない、何かが居るよ!」


 丘の途中…黒いナニカが動いている?

 なにあれ。熊?オーガ?違うな…あれがイエティか!

 UMAだな!子供の頃は俺も好きだったぞ。


 セシルが弓で、クラウディアが火魔法で攻撃を仕掛けたが……避けた!雪上なのに速い!一瞬、身がすくむような雄叫びをあげたイエティはそのまま俺達の方に高速で突進してきた。お前らは除雪車か!と言いたくなるような雪煙と共にイエティの突進。 


 まるで金属同士がぶつかったような硬質な激突音が響いた。

 それでも聖女の盾は揺るがない。

 少女の小さな身体は微動だにしない。


 盾にぶつかったダメージに加えて、その事実を認められないのかイエティが呪詛のような悲痛な呻き声を出していた。いくら速くても動きさえ止めてしまえば、残念ながら俺達の敵じゃない。

 優秀な盾って頼りになるよなぁ。ふと、お兄さん王子を思い出したが聖女は同レベル以上の盾役だな。更に回復も出来るし。かわいいし巨乳だし。そもそも、この子はお兄さん王子ほど変人じゃないしな。いや少々は変人だが。大丈夫、まだ許容範囲内だ。そのかわいさが全てをカバーしてくれている。


 イエティを倒して、ほとんど平地のようななだらかな丘の上に立つと…また一面の銀世界。この程度の斜面でもスノーボードで滑れそうだ。そういえば前世の友人の1人がクレイジーなボード好きだったが、あいつならこの景色を喜びそう。秋なのにこの雪量はすごい!なんて言ってな。ちなみに俺はボードは一回滑った程度。難しいよ、アレは。


 その丘の上でセシルが地図を広げて6階層への階段を確認した。俺も地図を広げて見たけど、まず現在地がわからん。北も南もサッパリわからん。もちろん目的地もわからん。何のために地図を広げたんだ、と思うでしょ?俺も思ったよ。


「あっちだよ」


 指差された方角を見ても……やっぱりわからん。目印も何も雪は全てを隠してしまうなぁ。


「あそこに3本の大きな木があるの見える?その向こうなんだよ」

「……あれか、そんなに遠くはなさそうだな。それからもう一つ、そろそろやってくるだろうダークマンモスと戦うのにちょうど良い開けた場所はないか?」

「ここじゃない?今、居るこの場所」


 ほぅ。言われてみると確かに周囲には何もない、なだらかな傾斜の広い場所だ。強敵を迎え撃つのに適した場所と言えるだろう。あとは……雪がちょっと邪魔だな。レア敵と戦うのにハンデを抱えて戦いたくないよ。


「よし、溶かすか」


 ビチャビチャにはなるけど、雪上で戦うよりはだいぶマシだ。頑張って半径数十メートルの雪、溶かそう。メンバー内で火魔法が使えるのは俺、クリス、クラウディア。3人で一面の雪を溶かしてまわった。

 これから全員で戦うならクラウディアの魔力は無駄遣い出来ないけど、今回のマンモスも課題なので戦うのは俺とクリスとセシルの3人だからね。そして俺達は3人とも強引に分類するなら魔法戦士だから。一応、魔法無しでも戦えるもんね。クラウディアには見物しながら魔力を回復しててもらおう。


 雪を溶かしたら丘の上でルーを待つ。待ちながら、気温が低いから皆んなに暖かい紅茶を配った。雪を溶かした地面は短い草に覆われていて、予想以上に水捌けも良かった。そりゃ多少は湿ってはいるけどぬかるみでもない。これならいつも通りに戦える。

 さぁ用意は全て整った。さぁ来い、ダークマンモス。出来れば小柄なヤツがいいな。









 しばらく静かな時間が過ぎた。

 静かだからこそ届いた、遠くから聞こえるおぞましい嘶き。

 多分あれがダークマンモスの声なんだろう。

 まだ姿も見えないのに、どんだけの音量だよ。

 ご近所トラブルの素だぞ。


 はるか遠くで木が薙ぎ倒されて雪が空高く舞い上がっている。まるで大型のラッセル車かな?という勢いでこっちに向かっているよ。雪だけじゃなく木も一緒に爆発しているかのようだ。まだ姿は見えないけど怒髪天を衝く勢いだなぁ……ルーはダークマンモスを誘導するのに何をしたんだろうね。あの感じじゃ平和に話し合いする余地は全く無さそうだ。


「ここで迎え撃つつもりか。さて、昨日以上にステータスでも体格でも負けている。どうするのかな、アレクシス君」


 うわ、いつの間に帰ってきたのよ。背後に、実に楽しそうな笑顔のルーが居た。どうするもなにも……正面から受け止めて叩き潰すのさ。嫌だけど。やりたくないけど。貴女がやれと言うならやるよ。象の弱点……マンモスの魔物と共通かどうかは不明だけど試してみる価値はあるでしょ。


 象の弱点は確か、足。


 その重すぎる体重を支える足を一本でも奪えたら勝ちだ。後は…耳の裏だっけかな。足の付け根も弱いらしい。詳しくは知らん。当然でしょ、象は動物園で愛でるものであって倒すものじゃなかったから。象は俺の一番好きな動物だったもの。そんな象と戦うシミュレーションなんてしたこともない。俺はソウ・タケイじゃないんですよ。あんなにかわいくてファンタジーなデザインなくせに地上最強の動物って言われてもな。



 数百メートルくらい向こうの森の端の木と雪が爆発した。もうもうと舞い上がる雪煙の中から今回第2の課題、ダークマンモスが登場した。

  高さ……あれは何メートルあるんだろう。多分5m以下って事は無いと思う。そうだな、過去の例で言えばヤンクロットのドラゴンゾンビと似たような大きさだ。あんまり人間が挑む大きさじゃないよね。そう思いながら、あの時ドラゴンゾンビに立ち向かっていた3人の勇者のことを思い出した。そして今は俺達も3人、か。よし、たまには勇者になってみようぜ。さぁ覚悟を決めよう。

 全身に雪を被って……まるでクリスマスツリーの飾りみたいになってんのな。ダークと言うだけあって雪に覆われた全身が黒い。そこは白くてもいいんじゃないか?と思ったけど大きな牙まで黒い。そんなダークマンモスの、相対的には大きくはない目が、雪に塗れた長い毛の奥で気味の悪い赤色に輝いている。立ち止まっていたダークマンモスは鼻で、なのか目で、なのかは知らんが早くも俺達を確認したようだ。改めてこっちに向かって突撃再開。あー、今からでも逃げ出したい。推定でも10トン以上の怪物の体当たりなんてヤダヤダ。


「《岩塊障壁》、《岩塊障壁》」


 そんな怪物であっても、止まってもらわないと困る。イメージするのはヤンクロットでルーに見せてもらった防壁魔法。あの竜の息吹をも食い止めた、あの巨岩の障壁だ。早い、デカい、固いの3拍子。いや下ネタじゃなくてさ。……早くはないからね俺は。いやホントに。

 今の俺にはあの障壁は完全再現は出来ない。早さはまぁまぁにしても大きさと強度は段違いにショボい。なので俺の作った障壁はダークマンモスの体当たりで脆くも破壊された。ええ、あっけなく。予想通りに。予想してたから壊される前に、二つ目の障壁を作っておいた。それでも巨体は止まらない。ああ、きっと止まらない。これも予想通りだよ。


「《岩塊障壁》」


 だから、三つ目。これで止める。もしかしたらこの三つ目でも完全に止めるのは無理だったのかもしれない。それでも、その爆発のような突撃は鈍らせた。十分な距離で十分な速度まで。それで良いのだ。



 俺達には、これで十分な『神箭手』がいるのだ。



 ダークマンモスが三つ目の障壁にぶつかった瞬間に緑に輝く瞳の、神の如き射手がダークマンモスの左右の赤い目を正確に矢で撃ち抜いた。さぞかし苦しいのだろう、とんでもなく大きな声を上げて後ろ足で立ちあがってのけぞった。


「「豪炎砲」」


 俺とクリスの火炎魔法を丸見えになったダークマンモスの喉元に同時に打ち込む。打ち合わせしてなくても、この瞬間この場所にこうすると俺もクリスもわかってるのだ。いかに巨体であろうとも、のけぞったところをアッパーくらわせた形になったからね。轟音と共にダークマンモスは背中からひっくり返って倒れた。


 ようこそ、大地へ。


 倒れてくれたなら耳の裏も足の付け根も、槍じゃなくても攻撃範囲になった。俺とセシルは槍と弓で急所を攻める。そしてクリスは聖剣で前足を攻める。聖剣に斬れぬモノ無し。この足ではダークマンモスも、もう立てないだろ。

 そして動けなくなったダークマンモスに出来ることは少ない……が、それでも巨体だけに寝返り一発で潰される可能性もある。油断せずに鼻と牙にも注意しながらじっくりと弱らせていく。


 やがて弱々しい断末魔と共にダークマンモスは力尽きた。

 さらば、巨大な好敵手よ。


 第二の試練、突破。



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