69 最強の野菜
ここは迷宮内だからね。当然ながら太陽は見えないし時計もないから今が何時なのかもわからん。でも、スコーンと寝て起きた。3人揃ってオカン魔神に他愛も無く寝かしつけらてしまった。お腹ぽんぽんされてスヤァですよ。お陰様で爽快な朝の寝起きだ。思った以上に身体は疲れていたのかも知れない。
そして、いつものように俺が一番早く起きた。クリスは朝寝坊の印象はないけど、まぁ普通かな。そしてセシルは今日も俺が起こすまで起きないだろう。この子は放って置いたらどこまで寝るんだろうな。普段の宿ならともかく迷宮内でキャンプ中なのにな。
眠り姫の如く眠り続けるセシルの寝顔を眺めながら自分の収納魔法からタオルを取り出して、水魔法で少し濡らした。寝起きの顔を綺麗にしたら気持ちもサッパリですよ。テントの外に出ると、オカン魔神は1人で焚き火の番をしていた。
「おはよう、何かやることある?」
「おはよう。大丈夫だよ、もう少しで朝食も出来上がるし」
今は黒鎧も脱いで、いつものルーだ。
寝ていないとは思えない程、いつもと変わらない。
全く俺達は今もこれ以上無いレベルで甘えているよねぇ。
相変わらず改善が見られない。
「ルー、おいで」
訓練の成果か、2人だけの時は抵抗なく膝の上に座るようになってきた。努力の甲斐があったってものだ。そして今も練習中の収納魔法から取り出したるは、とろけるミルクプリン。コレもマドレリアで発売された新作の一つだよ。どうやって作ったのか俺も知らないけれど、日本でのプリンとほとんど遜色の無い出来栄えになっている。もちろん開発者はここに居るルーですよ。慣れたものであーん、ってするとすぐ食べるようになった。手乗り魔神……いや膝乗り魔神だ。
甘えるのが避けられない以上、こちらも全力で甘やかす!
防御は無視して攻撃の極振りだ。
そんな俺も楽しい2人だけの朝の時間を邪魔する気配を微かに感じた。
「む……またキノコかな?1人で片付けてくるから見ててよ」
せっかくの癒しの時なのに、空気の読めない魔物だ。しかし師匠のプリンタイムの邪魔はさせない。俺の気配察知の範囲だから結構近いが所詮、舞茸2体だ。1人でも楽勝だよ。
「うん、見てる。だから君のカッコいい所を見せて」
この師匠は、本当に俺をノせるのが上手い。それとも俺がノせられやすいのかな。いや、単純な男と思う勿れ。仮に他の女の子に同じ事を言われても、俺はそう簡単にノせられないぞ……多分。
寝起きの、まだ朝食も食べてないのにな。
ルーにああ言われて無様は出来ぬ。
朝から全開ですよ。
エノキやシメジのファンガスは出てきたが、流石に松茸は居なかった。居るとしても激レアな魔物なのかもしれん。でも松茸って外国人には臭くて不評って話も聞いたし、もしかしたらハズレ枠なのかもしれないが……それを探すほど俺達は暇じゃないので先を急ぐよ。
現在、13階層。この辺りまでくると魔物は結構多い。前半と違ってキノコは殆ど出現しなくなったが違う野菜……いや植物系魔物が増えてきた。
「居たっ!この先少し行って右手。新顔が5体、来るよ」
セシルが魔物を探知して、サーチ&デストロイ。流石は迷宮ですよ。どんどん奥から湧いてくるようだ。
「うわぁ…トマトじゃん……」
今度はデカい……50cmくらいはありそうな空飛ぶトマトが5個、襲ってきた。うん、俺も数え方がもうよくわかんない。トマトと言っても魔物ですよ。どこが目なのかもわからんが、裂けたような口があり牙がある。トマト界の異端児だな。なんだっけ、殺人トマトに襲われるカルト映画があったよな。タイトルは忘れたわ。
…っ!動きは速い!トマトなのに!いや、そもそもトマトは動かないか。しかも、このトマトは水魔法を使うようだ。水の刃をいくつも撃ってくる。
「いやぁん、ボクはトマト好きじゃないんだよぉ……」
好き嫌いを言うな……と言いたいがトマト好きな俺だって、こんな気持ち悪いトマトを食いたいとは思わないぞ。いや、誰も食えとは言っていないんだ。弓で撃て。手を動かせ。
「《極灼炎柱》!」
クリスの放った巨大な火柱で次々トマトが焼きトマトに……なんだか良い匂いが……これ、本当に料理スキルが作用してない?この迷宮に入って以来、妙にクリスが大活躍してる気がする。気のせいだろうか。
「セシル!」
おお、しばらく無言だった師匠もここはガツンと言う場面だな。言ってやれよ、戦闘中に気を抜くなって。
「好き嫌いしてると大きくなれませんよ。今夜はトマト鍋にします」
「いやぁぁぁあああ!!!!」
違う、そうじゃない。そこじゃない。お母さんか!……ああ、オカン魔神だったわ。俺はトマト好きなんでトマト鍋はそれなりに楽しみだけど……半泣きで異議を唱えるセシルは…もう放置でいいや。迷宮ど真ん中で、駄々をこねる子供とお母さんの図。もしかしたら俺は松茸の魔物よりレアなものを見てるのかもしれない。
14階層、トマトが減ってきたと思ったら次は玉ねぎの来襲。何が手強いって、斬ると目が沁みる。地味に辛いよこれ。玉ねぎ……実に優秀な野菜だ。煮て良し焼いて良し、生でも良し。まだある。玉ねぎは洗う必要が無い。皮を剥けば、真っ白な柔肌を晒してくれる。水の貴重なキャンプにおいて最高の野菜と言って良い。まぁ、俺達の場合は水魔法で洗えば良いから関係ないけど。更に玉ねぎは保存性だって悪くない。水分にはちょっと弱かった気がするけど……ああ、だったら水魔法で攻撃してみよう!
結果、こうかはばつぐんだ。
襲い掛かってくる玉ねぎ達を次々と撃墜。
これも今夜の食材になるんだろうか。
玉ねぎも好きだけど……これはデッカいんだよね。
味はどうなんだろうか。
15階層、トウモロコシ。
トウモロコシも野菜だっけ?穀物になるんだったかな?いや、別にこの迷宮は野菜に限定した迷宮ではなかったね。そのトウモロコシが粒を弾丸のように放ってくる。更に、その飛ばした粒が爆発するんだ。そう正しくポップコーン。あんまりポップじゃない、殺人的なトウモロコシだ。火魔法で焼こうとすると、これもまた爆発する。コイツにも水魔法が有効でした。植物系だけに炎に弱くて水には強いイメージだったけど、色々あるんですね。たまに白いトウモロコシも現れる。強さはあんまり変わらないけどレアらしい。これも捕獲依頼……収集依頼か採取依頼って言うべきなのかな?依頼があったので、白いトウモロコシ目当てにしばらくウロウロと探し求めた。おかげで地味に手間取った階層となった。
16階層、トマト再び。
トマトだけじゃなく今度はナスとコンビを組んでやってきた。ルーが言うにはトマトもナス科の植物だから14階層のトマトは先兵だったのかもしれないな、だって。それは真剣な顔で言うことなのかな。ナスとトマトにそんな序列があるんだろうか。多分、違うと思うんだ。根拠はないけど。
トマトとナスはイタリアンの定番食材ですね。相性が良いらしいので、そういう意味ではルーも大喜びだ。本日のトマト鍋に具材が追加された。魔神からすれば、この迷宮はちょっと手間のかかる畑の収穫なのかもしれない。
17階層、カボチャ。
あれだ、トリックオアトリート!のあれだ。そうだ、ジャック・オー・ランタン。メガテンでもお世話になったよ。合体材料としてだけど。コミカルな見た目を裏切って高威力の火魔法を連発してくる。しかもカボチャだけに固い。ちょっと手強いぞ…!
「クリス、カボチャは縦に斬る方が斬りやすいよ」
師匠、魔物と必死に戦ってる最中の弟子に贈る言葉がそれですか。それは助言のつもりなのか。料理教室ですか、ここは。今日は……というか昨日から、完全にお母さんモードじゃないですか。すっかり主婦目線ですよね。
「はぁっ!!」
クリスがホントに縦に両断しやがった…!お前もあんな助言を役に立てるなよ!ここに至って確信した。絶対に料理スキルが悪さしてるに違いない。確かカボチャはレンジで軽くチンしても切りやすくなったりしたはず。レンジはどこだ…!無いか。ある訳ないわ。あったところで、ですが。
俺は好き嫌いは無い方だと思うけど、実はカボチャはそんなに好きではない。なんかさ、甘みが強いから……サツマイモもそう。俺的順位は下の方だ。そりゃね、出されたら食うけど自分からは食う事はない。しかし、俺はセシルとは違う。余計なことは言わない。
「………………」
見てる!こっちを見てるぅー!ルーが俺の方を無言で見てるよ!落ち着け、ポーカーフェイスで乗り切るんだ。素数を数えるんだ。
「さぁ、先を急ごう。もう少しで最下層だ」
「カボチャの煮物か…天ぷらか……サラダ…いやスープも…」
レシピを検索してるぅー!なんでだよ!今夜はトマト鍋って言ったじゃん!それにナスも玉ねぎも居た?というかあった?じゃないか!話が違う!思てたんとちがう!
「副菜に欲しくない?それに今日、食べなくても明日食べればいいじゃない」
絶対わかってて言ってるよな……まぁ作ってくれるなら食べるけどさ。でもねぇ、カボチャはねぇ…心はときめかないわ。
更に進んで18階層、ニンジン。ジャガイモ。そして復活のT。いや玉ねぎ。肉じゃが、もしくはカレーの為のような階層だ。今夜のメニューに迷ったら、こういう階層があると便利かもしれない。自然とメニューが絞られるよね。ニンジンも割と嫌いな子供が多い食材なんだけど……セシルは平気なんだろうか。
「美味しいよ、ニンジンは」
根菜で唯一の緑黄色野菜。もちろん栄養豊富だ。俺はニンジンも好きでも嫌いでもない。ふつー。ただ、この迷宮のニンジンがそういう普通のニンジンと一緒なのかどうか……それを言い出したら最初のキノコからそうですけどね。まぁ、いいや。次の階層に行こう。
19階層、キャベツ。
確かに植物系が多い迷宮とは聞いた。植物系というか……食物系だよな。スーパーの野菜コーナーか八百屋さんを思いだす迷宮だね。最下層が近いだけにこのキャベツも結構強いんだけど、緊張感がない。
ちなみに俺は勝手にトマトだ玉ねぎだキャベツだと呼んでいるが勿論それぞれに正式名称が別にある。キャベツ……こいつはアンノプレタニアという魔物だそうだ。その意味は知らん。この世界でキャベツって意味じゃねーの?もう良いじゃない、キャベツで。キャベツだって玉ねぎと並んで生で良し焼いて良し煮て良し。更にキャベツも表層を数枚剥けば洗う必要がほとんど無い。栄養も食物繊維も豊富だよ。胃腸にも優しい。なんと優秀な野菜なんだろうね。俺はてっきりボスはキャベツだと思っていたんだけどね……この後、最下層にはキャベツを上回る最強の野菜が待っているのだろうか。キャベツ以上…?今までの人生でも考えたこともないお題ですな。何をもって最強と考えたら良いのやら。
そして、いよいよ最下層である20階層への階段を発見した。いよいよ……本当にボス戦だろうか。ボスが居たとして……やっぱりそれは野菜なんだろうな。流石に少し緊張しながら、ゆっくりと階段を降りると、そこはもう迷路じゃなかった。
目の前には、大きな扉がひとつ。
扉ってのは希望と不安の象徴ですよね。新しい場所への入り口でもあるし、しかし扉の向こうには何があるのかわからない。それでも、ここまで来て開けないという選択肢はないよ。俺はゆっくりと両手で扉を押し開けた。
……うん、ちょっと重い扉だ。セシルでもクリスでも、誰か開けるのを手伝ってほしいけどカッコ悪いから意地で開けた。サッと開くようにしとけよ……絵にならないだろうが。万が一、扉が開かないのでボス戦は止めましたとか、そうなったらそっちも困るだろう!?困りはしないか…。
扉の中は……広い広い部屋。今まで洞窟を思わせるような壁だったのが人工的に岩を整形しました、というような壁だった。天井も高い……誰が作ったんだろう。まぁそれはいい。
その広い部屋の真ん中に居たのは……ブロッコリー?
いやデカイけど。まぁデカいブロッコリーだね。
「ウルカマレン。非常に高い再生力を持つ魔物なので、注意して戦うように」
ルーが正式名称と共に簡単に説明してくれるけど……もうブロッコリーでいいんじゃないかな。もちろん、ウルカマレンだろうとブロッコリーだろうと魔物である以上は油断はしないし容赦もしない。出し惜しみ無し手加減無し。そして先手必勝だ!
急所は知らん……いや知るわけないでしょ野菜の急所とか。なんだよ、野菜の急所って。知ってる単語と知ってる単語を組み合わせて、新たに意味不明な言葉が出来てしまった一例ですか。とりあえず正中ど真ん中にカールの槍で全力の突き!
「……なんだ?手応えが…!?」
簡単に貫いた……けど、なんだこりゃ、ダメージ与えてる?いや全然元気だわ、ブロッコリー。カールの槍を引き抜いて一歩下がったところに、入れ替わるように今度はクリスが聖剣で袈裟懸け。これもあっさりとブロッコリーの4分の1ほどを断ち切ったが……すぐ生えてきた!?
再生力が非常に高い……あぁ栄養豊富だもんねぇブロッコリーって。確かに日本でも最強の野菜という人は多かった…あ、だからボスとして出てきたのか!?安易じゃないのか。今更だろうか。そういや伝説のスーパー野菜人もブロッコリーだったなぁ。関係あるんだろうか。多分、無いと思うよ。
「矢も効かない…っ!」
栄養豊富さを活かして再生して、物理攻撃無効ってことなんだろうか。斬新だな。斬新な効果だ。なんとなくだが、他の物理攻撃無効持ちの魔物に謝れと思った。
「キュキャシャアアア!!」
そんなブロッコリーが奇声を上げながら、あの小さなぶつぶつを開いた。後で聞いたら一つ一つがブロッコリーの蕾だそうだ。これは……攻撃か?ものっそい気持ち悪い。蓮コラか。
ゾーンに入って加速した世界で蕾を観察する。何も出てこない…?いや少しだけ蕾が歪んで見える。これは……熱か風魔法だろうか。不味い、この位置だとクリスが避けきれない!
「スマン、クリス!」
左足でクリスをブロッコリーの攻撃範囲から蹴りだした。その反動として、俺もブロッコリーの攻撃を回避した。どうやら、あの蕾のひとつひとつから微細な風魔法を放出しているようだ。ブロッコリーは微塵切りが好きなんだろうか。どっちかというと切られる方なのにな。
「痛たた……けど、助かった!」
ごめんて。緊急避難とはいえ王子を蹴飛ばしたことを人に言うんじゃないぞ!そして、このパターン……実は物理攻撃無効な相手も俺達は実は経験済みなのだ。何年も色々な魔物を召喚してもらっては訓練したからね。その中には、この手の魔物も居たんだよ。なので対策はある。
「セシル、合わせてくれっ!」
「「《極灼炎柱》」」
「《風塊》」
今、3人で繰り出せる一点集中最大火力の攻撃。
俺とクリスで同時に巨大な炎柱を出して、更にセシルが炎に風を加える。3人で繰り出す超必殺技、みたいなものかな。極小さな規模で火災旋風を再現するのだ。超高温で全てを焼き尽くす。
前に、アムブロシアの迷宮でルーに召喚してもらった対スライム戦での決め技だ。スライム、あのかわいいプルプルを想像してたら……実はえげつない魔物なのね。粘液状だから基本的に物理攻撃無効。なのに魔法にも結構耐性があって正直めちゃくちゃ苦戦した。あんなもん勇者と言えどレベル1で戦う相手じゃない。そんなかわいい相手じゃない。後で教えてもらったんだけど、実は物理で倒す方法もあるらしい。その話はまたいつか別の機会に。
俺達の繰り出した火災旋風が消えた後、ブロッコリーは流石に消し炭も残らなかったな……あ、黒くなった魔石があった。焦げてるのかな?後で綺麗にしよう。
さて。ボスは倒したけど……ここがゴールかなぁ?
あ、俺達が入ってきた反対側にも大きな扉があったよ。
こちらへ進め、てことだよな。多分。
……うん、こっちも重い扉だ。そして、お前ら全然手伝わないのな!いや確かに俺が前衛ですけど。決してドアマンではないんだぞ。こういうときだけ、頼むよリーダー的な顔しやがって。よっ!頼りにしてるよ!的な顔で。僕、王子ですから!ボク、かよわいですから!と言わんばかりの態度。お前たちは本当に要領が良いなぁ。いや開けますけどね……もちろん。
扉の奥の部屋には、ついに辿り着いたぜダンジョンコアの部屋。
そして、そこには実に意外な人物がそこにいた。




