66 臓物をブチ撒けろ
「そうね、私もワイバーンの事をすっかり忘れてたよ。あれで君達の装備を整えるのは良いアイデアだね。どうせなら希少種の素材で作りなさい。その方が私も安心だ。早速、希少種の方も解体しましょう」
学園から帰ったルーに2人しておねだりしたら、すぐ許可してくれた。ああ、どんどん甘やかされていく。おねだりしておいて言うのも申し訳ないけど……この人、ダメ人間製造魔神だよな。
来週の遠征に新装備の完成は間に合わないから、迷宮用の装備はルドルフさんに紹介された武器防具屋のシャルネさんに色々と教えてもらって、とりあえず一般的なやつを買ってきたよ。地味だけど十分に動きやすいケルピーの革製の鎧をセシルとお揃いで。
「またギルマスのおじさんに内緒で解体するの?あー、希少種は大きいからギルドの解体所では入りきらないんだっけ」
「う~ん、どうしよう。ワイバーンを獲ってきたことはバレてるからなぁ。……そうだ、逆にこっちから解体を依頼しちゃおうか。ガタガタ文句を言われるより楽そうじゃん。それにプロの解体を見るチャンスでもあるよ」
この意見にルーもセシルも賛成してくれたので今回は、はじめてのいらい!を出すよ。受ける方じゃなく依頼を出す方は妙に新鮮だな。お客様の気分だぜ。いや、お客様なんだよ。
「………というわけで、今日は解体の依頼を出したいんですよ」
「若いモンが早い段階で楽を覚えてどうすんの。地道に一つ一つ解体して経験を積んでこそ、腕の良い解体士への道が開くんだよ!」
今日もミシェルさんは良いことを言うねぇ。地道な経験、本当に大事だよね。しかし俺達は解体士への道を歩むつもりもないんですが。ていうか解体士ってなんですか。俺はパティシエにも解体士にもなるつもりはないんだよ。なんで皆んな俺の将来を決めようとしてくるの?そんなに俺の将来って不安に見えますか?
「違うんですよ、ミシェルさん。今日は初級者には荷が重い結構な大物をお願いしたいんだよぅ。こういう解体を依頼するときの依頼料の相場はいくらですかね?」
「依頼っていうかギルドの解体部署で作業してもらうんだよ。手数料は解体する魔物次第だね。そうだねぇ…だいだい解体した素材の鑑定額の1~2割が相場さね。そんで、アンタ達は何を持って来たのさ?ドラゴンでも持って来たのかい?」
「惜しい」
「惜しいのかー……アタシは冗談で言ったんだけどね。ヒントちょうだい」
「一応、竜種だそうだよ。そんで基本的に空を飛んでる」
「なんでE級冒険者がワイバーンを持って来るのさ……ホントに冗談じゃなくて?」
「冗談じゃないんですよぅ。そんでミシェルさん。どこに出せばいいかなぁ?かなり大きいらしいんだよ。ここのギルドの解体所でも入らないくらいの」
俺は見たわけじゃないんだけどさ。
10m以上って言うんだもん。
「その大きさのどこが冗談じゃないってのさ。そんなでっかいワイバーンなんざ、存在するはずが……」
「ミシェルさん。俺達はちゃんとヤンクロットのお土産に竜の骨、持って来たでしょう?」
あなたには嘘ついたことないはずだ……今のところは、まだ。間に合うはずのないヤンクロットへ出向いて倒せるはずのないドラゴンゾンビを倒してきたよ。まぁアレも俺が単独でやったわけじゃないですけども。むしろ俺はオマケ……足手まといに近かったけども。そして今回も俺が獲ってきたのではない。なので俺がデカい顔する筋合いもない。
「本当にそのサイズなら、ギルドマスター案件だね。待って……いや、付いてきな。アンタ達が直接言った方が早いわ」
最後はほとんど溜息と同化したような台詞を吐き出した。またギルマスかぁ……嫌だなぁ。会いたくねぇなぁ。俺が溜息を吐きたい。
「俺だって会いたいとは思ってねぇよ」
部屋に入るなりご挨拶ですな!
……ギルドマスターくらいになると読心術が使えるのかな?
「言ってなくてもお前の顔にハッキリ書いてあるんだよ、バカヤロウめ」
反論したいが、昔からよく言われるだけに否定できないね!そんなにわかりやすいかなぁ?それから、バカって言う奴がバカなんだからな。
「別に入ってくるなとは言わないがな、新人で何度もこの部屋に来る連中も珍しいぞ……今度は何をしでかした?」
こっちだって来たくて来てる訳じゃないやい。それに今日はまだ何もしでかしてないわ!だいたい、今回は俺達は依頼者的立ち位置だぞ。お客様扱いしろとは言わないが言い方があるんじゃないのかね。堂々と言ってやれ、俺。
「小ぶりなワイバーンと大型のワイバーン希少種の解体をお願いしたいのですが」
「この前の肉はそれか」
「全部で3体狩りまして1体はこの前の結婚式での肉にしたので、その残りです」
「お前は自分がさっきからどれだけ非常識なことを言ってるか自覚はあるのか?」
当たり前だッ!俺は登場する全ての人物の中でもトップクラスに常識人だぞ。たまたま身内に異常な人が多いだけだ。あ、もちろんギルマスも異常者枠だよ。俺以外基本的にそっちの枠ばっかりだ。
「……もういい。お前らに多くを期待しすぎた俺が馬鹿だったんだ」
ホントだよ。バーカバーカ。
……嘘です、そう睨まないでください。
怖ぇー!この人も威圧スキルを持ってるのかな。
それとも後天的に手に入れたのかな?
「それで、解体所に入らないサイズらしいので外でやる必要があるそうです」
俺の代わりにミシェルさんが話を進めてくれた。助かります。怒りっぽい人が相手だと話が進まなくて困るよな。
「そんなデカいのをどこに……お前らの魔法の鞄はそんなに入るのか」
「もう面倒なんで一度、現物を見てくださいよ。それから判断してください。俺達は徹頭徹尾、嘘は言ってませんから」
百聞は一見にしかず。そうは言っても大都市のギルドマスターってのはそんな暇じゃない。じゃあ今から行こうかとも言えないのが、ちゃんとした社会人で管理職ってもんだ。わかる、わかりますよ。「時間を作るから少し待て。嘘だったら懲罰にするぞ」そう言って慌ただしくギルマスは仕事の整理を始めた。
今のこの会話だけでも十分に懲罰だよ…。隻眼のハゲに圧迫面接されるなんて罰以外の何物でもねぇですよ。
よし、じゃあ見せてもらうぞ!とギルマスが部屋を出てきたのは一時間以上後だった。ハゲを待つなんて実に非生産的な時間だよな。これが同じ隻眼であったとしても女王様的な姐御と呼びたくなるような美女を待つのだったらなぁ。それが正しい異世界転生ってもんじゃないですか。俺はどこでまちがえたんだろうなぁ?
例によってくだらない事を考えながら、ぞろぞろと連れ立って歩いた。他の門より比較的だが人の少ない北の門から出て、広い河原のある川べりにまで移動した。解体場で処理が出来ない大物の場合は、この場所でやるそうだけど…ここ5年はそんな解体も行ってないらしい。
「じゃあルー、お願いします」
そしてドンとその場に出されたのは、俺も初めて見るんだけど希少種のワイバーン……と小さめの普通のワイバーン。確かにこれはめちゃくちゃデカい。こんなもん、あの解体所に入るわけないわ。この前のワイバーンと違って首も繋がってるし、目立った傷が殆どない。僅かに血抜きした跡があるのみだ。
「な…!な…!?」
あのギルマスもさすがに驚いていた。希少種という事に、希少種のデカさに、そしてそれを収納していたルーの魔法の鞄に。正確には魔法の鞄に入れてたように見せて収納魔法から取り出しているんだけどな。魔導具以外では個人が使う収納魔法ってのは現代では失われた魔法らしくてね、バレる事はないだろう。
「信じられん…!なんだコイツは……こんなの初めて見たぞ」
希少種というだけあって珍しいんだねぇ。ジェロム兄さんの結婚式で解体したワイバーンと表皮……竜鱗というらしいけど色が違う。普通のワイバーンはどちらかと言うと緑色系だったのが、こいつは黒だ。漆黒と言っていい程の艶のある黒だな。
「それで、いつ解体をお願い出来ますかね?それと解体の手数料も教えてください」
「こんなトンデモない代物を目の前にして、なんでお前は普通に会話を進められるんだ…。どうやって…いや、言い出したらキリがないな。本当にお前らが狩ってきたんだな?」
「詳細は企業秘密ですが、間違いなく狩ってきましたよ」
「もう頭が痛ぇよ……その辺りは今度改めてだな。俺も解体に立ち会うから明日の昼に改めてギルドまで来い。解体手数料は……こんなもん総額で幾らになるか……オークションなら億…いや数億…」
「そんなお金ありませんよ、素材を清算して手数料を差し引きしてください」
また逆鱗ないかな。
あったら高値で売れそうだ。
「本当にお前はなんでそう冷静で居られるんだ……バカなのか大物なのか…ああ、バカの方だったな」
失礼な。しかし、これだけ大きいと肉も大量にとれそうだなぁ。そういえば、希少種は美味いってルーが言ってたっけ。ステーキにするか焼肉にするか、悩む。両方か、両方だな。いや…しゃぶしゃぶも捨てがたいぞ。ハンバーグも間違いなく美味しいだろう。
「自分達で食う気か!?上手く換金すれば、この希少種だけで豪邸が建つぞ!?」
「えー、ダメですか。俺達の防具を作る分の素材と肉を少しだけ確保出来たら残りはお任せしますので」
そんで豪邸じゃなくてもいいから家を買おうか。
いいじゃない。元歯科技工士、異世界で家を買う。
俺が買うんじゃなくて皆で買うんだけどね。
「ミシェル、すまんが後を頼む。俺はもうバカの相手に疲れた……」
「りょーかい、ボス。アレク!はいアンタ達も集合!」
集合と言うが、俺もルーもセシルもここに居ますよ。今日居ないのはクリスだけ。それでも整列する律儀な俺達です。
「お姉さん、これってレア素材なんでしょ?ギルドにとっても喜ばしいことじゃないの?」
「セシル、多分だけどギルドマスター達は俺達を護ろうと苦労してくれてるんだよ。これが素材として出回ったら、どうしても出所も探られるだろう?そうなると俺達は少々……色々と不自然すぎるんだよ。そこをなんとか護ろうと…してくれてるんだと、思う」
「わかってるなら、もう少し普通に出来る事は普通にして欲しいもんだね……この希少種の話だけじゃないよ?」
ミシェルさんに呆れたように言われた。
鋭意努力はしているんですけどねぇ。
……いや、ちょっと最近ルーに甘えすぎてたな。
何かやっちゃいました?より酷いわ。
自覚してやっちゃってるんだもん。
久々に、ちょっと自己嫌悪だな。気持ち悪い…。
ヤダヤダ、俺らしくもない。
「すみませんでした。ご迷惑をおかけしますが何卒よろしくお願い致します」
深々と頭を下げた。いつだったか、ショウゴ・サイコウジに頭が高いと言ったが俺こそ何様だろうね。頭が高いよ、俺。実る程に頭を垂れる稲穂かな。実ってもないクセによぉ!
「……バカだね、アタシゃ怒って言ってるんじゃないんだよ」
そうだね、怒ってるんじゃない。
これは叱ってくれているのだ。
前世では……あんまり叱られたことなかったな。
今世では御老公といい、結構叱られてるなぁ。
精神年齢だけは高いのにな!ありがたいことだよ、ホント。
「こんなのね、どうとでも処理出来るし、してみせるよ。そんなのは大人に任せときな。アタシ達はね……ちょっとだけアンタ達が心配なだけさ」
……イイ女でしょう?
これで、あと30歳くらい若ければ…ほぐわあああっつぅ!!!!
「なんだか失礼なこと考えてるような気がしたから、私が代わりに殴っておきました」
「あらヤダ、レティシアちゃん気が利くわねぇ。ウチの息子の嫁にどう?」
なんで毎回、臓物をブチ撒けろ!と言わんばかりにボディばかり狙うかな……ホントに中身が出そうだよ…。そしてミシェルさん、この子は俺の嫁だから。やらねぇですよ。
「ほら、いつまでも時化た顔してんじゃないよ!それはそうと、このワイバーンね、解体せずにこのまま丸ごと売った方が高値で売れるかもしれないよ。どうする?」
「そりゃダメだよ。コイツの素材で俺とセシルの防具を作るのが目的ですからね」
「豪勢な話だねぇ……じゃあ手続きを進めとくから、明日遅れるんじゃないよ!」
はーい。さて、大金が手に入ったらどうしよう?ホントに家、買っちゃう?お風呂付の。だとしたら不動産屋を巡らなきゃいけないな。それとも土地を買って1から設計して建てるか?やっぱ自分の部屋は欲しいよな。クリス用の部屋も用意してやるか。いらねーか。どうしようか。そんな話をみんなでキャッキャと話しながら帰った。こうやって、あーでもないこーでもないと話してるときが一番楽しいよね。
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翌日のワイバーンの解体自体は、さすが解体のプロ達だね。あんなにデカくても昼には終わったよ。やっぱりプロってすごい。そして俺とセシルと今日はクリスも含めて貴重な経験だからということで解体に参加させていただいた。素人の参加なんて足手纏いだろうに解体職人の皆様方、みんな親切だった。詳しく説明を交えながら教えてくれました。クリスとセシルが気に入られただけで俺はオマケという説もあったけど。今週のみんなの説だ。
ルーは今日は殆ど見てるだけ、だったけど逆鱗だけは採取していた。小ぶりなワイバーンの方は見つからなかったけど、希少種ワイバーンのはちゃんと見つけていた。さすが。
逆鱗を見つけたとき、皆から歓声があがったよ。普通のワイバーンの逆鱗でも一つで家が買えるとギルマスが言ってたからな、希少種ワイバーンの逆鱗なら幾らで売れるんだろうね?
「お前らが確保したい分は、それだけでいいんだな?」
ギルドマスターの指示で、ギルド職員達が手分けして魔法の鞄に解体したワイバーン素材を収納していく。あれも相当に収納量は大きいようで、ギルドって結構金を持ってるんだな。
俺達は防具製作用の素材と食用の肉だけあれば良いので、これは別に分けた。これは俺が収納魔法で保管しておきます。実はね、練習して俺も収納魔法が使えるようになってきたんだよ!以前からルーに憑依を繰り返してもらって最近になってようやくコツを掴みました!まだルーに比べたら僅かにしか入らないけど、大きな前進だよ……取り出せなくなったらどうしようね。
「ワイバーンの血液も別に保管してあったんで、これも一緒に換金お願いします」
「これだけの素材でこれだけの量だ。少々時間がかかるのは覚悟しろよ?」
結構親切な対応してくれているけどギルマスの顔は今日も怖い。俺が知る限り、もっとも接客業に向かない人だな。この人のスマイルの値段は希少種ワイバーンよりも高そう。
「これだけあれば家、買えますかね?」
「オークションで相当な値段がつくだろうからな。お前らが城でも買いたいと言い出さない限り、大丈夫だろう」
やだなぁ、そんなこと言う訳ないじゃないですか。
「お前らが今までどれだけ『そんな訳ない』をしてきたと思ってるんだ……本当にやるなよ?」
すんません、マジで買いませんので。絶対にやるなよ、と言われても大丈夫っす。ダチョウ部じゃないんで絶対やりません。そもそも売ってないだろうよ、城は。売ってても買わない。それにしても家かぁ、楽しみだな。もうすっかり家を買う方向で考えている。何が楽しみって……個室になるからな!ついに!18禁なことしちゃうよ!そんなの当然だろ!
いやいや、まだその辺は皆には内緒だし、そもそも換金もまだなんだから。焦るんじゃない、俺はスケベな事がしたいだけなんだ。
そもそも、俺達の財布事情がな。普段の食事や宿泊費は『漆黒の師団』としての財布が作ってあって、そこから出している。俺達を襲ってきたセルジャンから奪った財産も換金してここに入ってる。現在の総額は3000万Gくらいだそうだ。
それとは別に各自、個人の財布もある。今の俺の財布の中身…10万Gくらい。全然貯まっていないよ。普段の衣食住は大丈夫なんだけど、ルーの機嫌伺いにケーキをよく買ってるからだ。ケーキ破産しそう。
クリスは勿論、ルーやセシルの財布の中身は知らない。多分、みんな結構持ってるはず。御老公が相当お小遣いをあげたはずだからな……俺も素直にもらえば良かったかな。いやいや、アイツから金を貰うなんてプライドが許さん。
そんな状況からの、今回のワイバーン希少種バブルですよ。これらは現金化されたらパーティーの財布に入る。本来ならルーの財布に入るべきなんだけどみんなのお金、としてくれた。どっちみち預かるのはルーなんですけどね。本当におんぶにだっこ。出来た嫁だ。甘えすぎだという反省はどこへ行ったのか。
ワイバーンを解体したその足で、俺達はルドルフさんに防具作成を依頼をしに行った。クリスもお揃いの防具が欲しいと言い出してきたので、3人分の装備を依頼したよ。お前は高級な装備を持ってるくせに……でも確かにワイバーン希少種素材の方がレアかもしれん。案の定、ベテラン鍛治師であるルドルフさんもワイバーン希少種の素材には驚いていた。是非とも良い品をお願いします。
採寸後、3人分の装備の作成期間として最低でも4週間くらいは必要だと言われた。ルドルフさんには来月にまた取りに来ます、と告げて帰った。楽しみだな。
さぁ予定外の寄り道をしたけど、いよいよ次は迷宮に入るよ!
拙い作品ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この作品を読んで、ほんの少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
是非とも感想、レビュー、ブックマーク、評価を頂ければこれに勝る幸せは御座いません
(人>ω•*)お願いします。




