55 話したいことよりも何よりも、ただ逢うために逢いたい
「これが……その、お土産か?」
「昨日、獲ったばっかりのアーヴァンクの肉です。少々クセはあるけどじっくり煮込むと美味しいそうですよ」
そんな顔しないでよ、ジェロム兄さん。これもジビエっすよ。野趣あふれる肉、でしょうが。子供の頃はあんなに食べたかった魚以外の肉じゃないですか。たっぷりあるから腹いっぱい食えますよ。好き嫌いするんじゃねぇ!しかもルーが料理してくれるんだから美味しく仕上がるはずなんよ。
「ありがたく頂くけど、どうせなら魚を取ってきてくれないか。もう随分と新鮮な海の魚を食べてないんだ……ああ、オルトレットが懐かしい」
甘えんな、大好きな兄よ。だまって肉を食え。気持ちは分かるけど、この街から海までどのくらいの距離があると思ってるんだ。うちの王子やセシルだったとしてもそんな贅沢、そう簡単には許しませんよ!
………でもね、実はあるんだよ。新鮮な魚介類。それもたっぷりと。
ルーの収納魔法で新鮮な状態をキープしたままのがあるんです。オルトレットを旅立つ前に市場で大量に買ったのがあるの。じゃあ意地悪しないで食わせてやれよ、となるんだが……そうもいかなくなったんだよ。いや、問題発生って訳じゃない。むしろ良い話だ。
ジェロム兄さんへのお土産として大量の魚介類を持って来たんだけどさ、王都に着いたらもうじき結婚するんだ、なんて言い出すじゃないの。だったら……結婚式の場で出した方が喜ばれるかな、てな。この世界には収納魔法を付与された魔法の鞄と呼ばれる魔導具はあるにしても、内陸の王都で新鮮な海の魚介類なんて庶民はそうそう口に出来ないんですよ。
そこで、この兄想いの弟は思ったわけだ。海辺の街から来た男が結婚するなら、結婚式で故郷の海鮮料理を大量に出してやろうじゃないかと。新郎新婦共に皆様を驚かせてやろうと。
そんな訳で、魚介類はまだ封印中。そして、その代わりでもないんだけどアーヴァンクの肉を振る舞いに来たわけですわ。決して、マティアス王子達が「えー……食うの?これを?本気で?」と言って残したので大量に余ってるとかそういう裏事情がある訳では……。
もったいないじゃない?アーヴァンクの毛皮のほうは高値で売れて結構な話だったんだけどねぇ。肉は全く売れなかった。なんでだろ?好きな人にはたまらない味らしいのに。
「そういえば父さん達から、手紙の返事が届いたよ」
ほほぅ、ようやくですか。それは父さん達が王都に来る日程の話であり、つまりジェロム兄さんの結婚の日が決まる話でもある。
「いつ、来るんですって?」
「今日からだと……10日後くらいに到着だな。そういうわけで結婚式は2週間後になったよ。アレクはもちろん参加してくれるだろ?」
「それはもちろん。盛大にお祝いさせていただきますよ」
特に料理関係は任せてくださいよ。
メインは魚介として……でも肉もあった方がいいよな。
肉、か……このアーヴァンクじゃダメだろうな。
変化球も変化球だもんな。
どっちかっつーと珍味の類だろ、コレは。
流石のジェロム兄さんも怒るかもしれない。
「ジェロム兄さん、ボクも!ボクも結婚式の料理を作るよ!楽しみにしてね」
「そうか、セシルも作ってくれるのか~。そりゃ期待しちゃうなぁ」
セシルに料理なんて出来るのか?と思ったが最近、時間を見つけてはルーに料理も習っているらしい。お前は一体どこを目指しているんだ…。
そしてジェロム兄さんのセシルへのリアクションが、もはや妹というか娘みたいだな。本当にセシルはどこまで行ってしまうんだろう。でも誰も止めないんだよなぁ。
「結婚式に相応しい、肉ね………うーん、ドラゴンが近くに出ればちょうど良いんだけどなぁ」
宿に帰ってから肉についてルーに相談したら、物騒な事を言い出して綺麗な眉を寄せていた。サラッと言うけど王都の近くにドラゴンなんて出現したら、それこそ大災害だぞ。
この前のヤンクロットの比じゃない大混乱になるはずなんだが……この人にとってはドラゴンは食材でしかないらしい。あ、そういえば以前オルトレットでヒュドラを倒したんだろう?あれは?あれも竜種でなんでしょ?
「ヒュドラの肉が食べられるはずないでしょうが。君も少しは勉強しなさい」
怒られた……薮蛇だった。ヒュドラは血肉から皮膚、内臓までほぼ全身が猛毒なんだそうだ。そんなものを料理して出したら目出度い結婚式が死屍累々の殺人事件現場になってしまう。ここから殺戮ホラー小説に切り替えるならアリかもしれないが、やはりヒュドラは却下だな。
「ボクはレッドボアのカレーを作るんだっ」
セシルはセシルで確実に美味しいものにしてきたな。セシルは料理初級者だし良いと思う。本当はカレーライスにしたいらしいけど米が足りないので、代わりにナンを作ることにするらしい。
「2週間以内に討伐できる竜種か………また憑依して走るなら、国外まで行けばドラゴンもいるかもしれない」
えー、また?憑依で走るのは緊急時だけにしてほしい。ヤンクロット程度でも死ぬ程の苦痛だったんだ。国外まで走ったらどうなってしまうのやら。
「お兄様の為なら……私は構わないんだけど」
「俺が構うよ。兄の結婚が理由で死ねるか」
それも結婚式披露宴のオマケのサプライズネタの為に死にたくない。いくらジェロム兄さんの為だって……ねぇ?結婚式の翌日を俺の葬式にしたくないよ。
「ならば、ワイバーンにしようか。それでも北のモンブリー……それかジェラール山脈まで行けば…」
「それはヤンクロットより遠いの?」
「だいたい400キロ程だから、倍以上の距離だ」
妥協案が全く妥協してないな!
死ぬ程の距離の倍以上てか。
俺の足が千切れるわ。
限界を超えてますやん。
「アレク。限界は超えるものではない。超えてもいけない。高めていくものだ」
これが修行の話なら良いこと言ってるな、と思う。
なるほどな、と思うよ。
でも今は食材調達の話だぞ。
肉だ。肉の話だ。
何故、俺が限界を高める話に至った。
「ワイバーン……う~ん…お兄様が喜んでくれるだろうしなぁ…」
往復800キロなら、明日にでも出発したら……馬で走れば結婚式にはギリギリ間に合うんじゃないかな?
「行った先でワイバーンを探さなきゃいけないから少し足りないと思う。ワイバーンは空を飛ぶから生息域の標高が高いんだよ」
そう言って、また魔神はう~んう~んと悩んでいる。
そんなに、何を悩んでいるんだ。
上策がダメなら中策。中策がダメなら下策だよ。
ワイバーンの次に美味そうな肉を考えてるのか?
希少な肉……希少でも美味くないとね。
「よし!アレク、セシル。君達は近いうちに王城に1日泊めてもらいなさい。私からもクリスに頼んでみるから」
何をどう悩んだら、そういう結論になるんだ。
結婚式の肉料理の話だったよね?
風が吹けば桶屋が儲かるレベルの話?
「私が単独でワイバーンを狩りに行けば24時間以内に帰ってこられる。だけど、その間の君達が不安だ。この国で最も安全な場所は王城でしょう?」
王城は王城で危険かもしれないけどな。俺の知り合いの王子は、多分王族の誰かの指示で一度賊に襲われてるからな。その後は何もないみたいだけど……城なんて魑魅魍魎蠢く万魔殿なのかもしれないよ。今の読めた?書ける?誰に聞いてるかわからないけど。
でもまぁ……俺達が襲われる理由はないか。王城で庶民を襲うやつもいまい。というか普通、王城に庶民はいねぇよ。王城を宿代わりにする庶民もいちゃいけないだろ。なのに庶民の24時間の安全確保のために王城に避難しろってか。今日も過保護が、すごい。……なんか王城がお泊り保育の施設みたいな扱いだ。
それにしても、そんな手段を思いつくならヤンクロットの時も俺達を王城に置いて走った方が早かったんじゃないか。
「私にとってはヤンクロットよりお兄様の結婚式の方が重大事なんだ。少し申し訳ないとは思うが、ヤンクロットの人々の為にアレクと離れ離れは耐えられない」
うーん、たまに出現するヤンデレルーだ。
これ以上は何も問うまい。
良かったね、ジェロム兄さん。
あなたの結婚式はヤンクロットの大災害より優先されてますよ。
そういう訳で、絶対に笑ってはいけない王城24時の開催が決定した。決定してしまった。嘘だ、勿論笑ってもいい。そんな余裕はいらないのかもしれないけど。そして後日、クリスも全然構わないよとすぐに宿泊の許可をくれた。ありがたい話だ。でも俺が言うのも変だが、本当はあんまり良くないと思うぞ……?
数日後、学園の授業を終えたクリスとルーに合流して俺とセシルも王城に入った。久々にやってきた王城は……相変わらず目が痛くなるほど煌びやかで生活感が無いよねぇ。やっぱり堅苦しくて庶民には落ち着かない。夕食に美味いものを食わせてくれるだろうから、それだけが楽しみかな。
「ちゃんとご飯食べるんだぞ?ちゃんと勉強もしてお風呂も入って、夜更かしはしないこと。朝もいつものように早く起きてトレーニングするように。わかった?着替えはちゃんと用意しておくからね?」
オカンか。旅立つルーが念入りに指示を出していく。う~ん、最近この人の過保護が更に加速してる気がする。大丈夫だよ、勉強をするしハンカチも持ったし歯も磨くし知らない人にはついていかないよ。
「じゃあ、行ってきます。いい子で大人しく待ってるように!」
そう言ってルーは出発した。
いってらっしゃーい!
てっきり、この場からすっ飛んでいくのかと思ったが街の北門までは馬車で行くようだ。王城から人が飛び出してきたら、万が一それを誰かが見たら事件になるかもしれないから、だって。確かに普通そんな人は居ないからね。ちゃんと門から出て門から帰るつもりらしい。意外。俺の想像以上に常識人だった。落ち着け、俺達の常識のハードルはかなり低くなってるのかもしれない。
「幼児相手じゃあるまいし、あそこまでキッチリ指示していかなくてもねぇ?」
苦笑いの俺に、セシルもクリスも真剣な顔で「幼児相手ならあそこまで心配しないで済むのにね」と口を揃えやがった……なんか君達と認識のズレがありそうだな。
学園の授業が終わった後、というがまだ午後も日が高い。とりあえずクリスの私室に通されたけど……いきなり暇だな。なにしようかー?クリス…というか王族ってどんな生活してるの?
「今はとにかくずっと勉強だよ。そのうち執務や公務も任されるだろうけど……僕はオルトレットからこっちに来て日が浅いからね」
うげー。学校行って帰ってまた勉強か。俺は王族じゃなくて良かったわ。勉強…まだまだ必要なのはわかるけど、なかなか手が伸びないんだよねぇ。
「そう言うだろうから、ってレティシア師匠から課題を預かってるよ。師匠が戻るまでの間に熟読しなさい、だって。後でテストするそうだよ」
そう言ってセシルが本を取り出した。そんなの聞いてないよ~……!あー、渡された本の中を読むとルシアス王国内に出現する魔物の特徴・弱点や採取すべき素材がまとめてある。簡単に言えば魔物の攻略本、みたいなモノだろうか。俺の持論は、自分が知らなくても知ってる人を知ってればいい、なんだけど……確かに知らないよりは知ってた方がより良いよね。わかってはいるんだけどさぁ。
「ボクも勉強するんだからねっ。クリス~、書庫を見せてよ」
「ああ、今フランツを呼ぶよ。3人揃っての勉強も久しぶりだな!」
なんで勉強だってのに、そんなに嬉しそうな顔が出来るんだよ。変態かよ。バカかよ。いやね、今生の身体は記憶力も非常に優れてるので学科も優秀だったんだよ、俺も。なんなら科目によってはセシル・クリス以上に。でも苦手は苦手なの。もう机に向かうのがイヤ。得手不得手以前にイヤなものはイヤなのです。
待つほどの時間もなく、クリスの部屋の扉がノックされた。
これまた久しぶりのフランツさんだ。
「お待たせ致しました。それではセシル様を書庫へご案内致します……ですが、その前にセシル様。誠に申し訳ありませんが、ひとつ頼まれてくださいませんか」
「はい?ボクに出来ることでしたら、なんなりと」
「マティアス様が執務をされているのですが……お恥ずかしいことに少々滞っておりまして。セシル様から、お声を掛けていただきますと、その……マティアス様の励みになると言いますか、非常に仕事の能率が上がるのです」
一瞬でセシルの顔から笑顔が消えて、代わりに絶望の2文字が浮かんでいた。「はぁ?なんでボクがそんなことしなくちゃいけないの?」と表情だけで雄弁に語っている。俺が映画監督なら一発オッケーな見事な表情だ。腕を上げたな。この場合は演技じゃなく素なんだけどさ。その顔を見てるだけでめちゃくちゃ面白いけど、笑っちゃダメだ。やっぱり笑ってはいけない王城24時の開催だったんだな。
「ついてきたらコロス!」
顔を真っ赤にしながらセシルは出て行った。なんだかんだで、引き受けるセシルは良い子。それを見送りながら、クリスに結婚式の事を言わなきゃいけないのを思い出した。
「そうだ、ジェロム兄さんの結婚式。クリスも参加してくれるだろ?」
やっぱさ、来賓がいると箔がつくじゃない。結婚式のゲストに王族!まさにスペシャルゲストだろ?良いじゃないの。見栄えするじゃないの。スペシャル感満載だよね!
「ああ、もちろん参加するよ。当然だろ?僕が剣を振り始めた時、最初の先生の1人がジェロム先生なんだぞ。それで式はいつやるんだっけ」
あー……そうだったな。まだクリスに出会って間もない頃、あれはそうだな、俺達がブラッドウルフに襲われた直後くらい。あの頃、一番上のレスリー兄さんは既に学校を卒業して従騎士だったから忙しかったし。うちで一番時間があったのは、まだ学生だったジェロム兄さんだったんだよね。
だもんで、クリスがうちに遊びに来たとき、剣の指導を出来るのはジェロム兄さんだけだったんだ。律儀な弟子だよね、十年前の学生の指導をちゃんと覚えてて、先生と呼ぶなんてさ。
「王子が来るに相応しい料理も出すからさ、期待してくれよ」
「セシルも料理を作るらしいじゃないか。僕も作る方で参加しようかな」
料理男子……いや料理王子か。現代日本でもモテそうだなお前は。じゃあ当日は俺と一緒にルー料理長の補佐をしよう。こき使うから覚悟しておくように。
「多分歴代の王族でも、僕は歴代最高に料理上手な自信があるよ」
でしょうね。
仮に料理スキル持ちだったとしても普通の王子は料理しないだろうからね。しないっつーか、周囲がさせないよな。それがどうだ、旅の途中で調理助手させるわ下町の総菜屋のバイトさせるわ……よく考えたら酷いな俺達。その上、末端レベルの臣下の結婚式の料理を作らせるとかな。それを止めないトコにも俺達の問題点がある。まぁでも、いざとなったら俺以外の誰かが止めるんじゃないかな。俺以外の皆も同じように考えていそうな気もするけど。
「2人とも、楽しそうだね……」
きゃっきゃっとクリスとお茶しながらトークを楽しんでいたら、いつの間にかセシルが戻ってきた。なんかもう、ついに千日回峰行を終えましたみたいな疲労困憊って感じで戻ってきましたよ。おぉ、お疲れ。
「なんか知らないけど、みんな死んじゃえばいいのに…」
何があったんだセシル。全然悟りを開いてないじゃないか。闇の側に堕ちているじゃないの。せいぜいが頑張って仕事してね♪的なこと言いに行っただけじゃないの?あの、その、もう何があったか聞かないので俺の背中を無言でバンバン叩くの止めてもらっていいですかね。あ、却下ですかそうですか。いや、あのね。そんなに背中を叩かれると痛いし課題が読めない。熟読しろと言われた課題がね?揺れて字が読めないの。叩くの止めてくれる?あ、却下ですかそうですか。
其の後は3人で大人しく、集中して勉強をした。
時間が来たら、さすが王城の夕食だよな。
普段食べるのより何倍も豪華な料理を頂いた。
希望したらワインとか酒も用意してもらえるんだろうが、今日はパス。
続いて王城の豪華な風呂で汗を流してさっぱりした。今晩は特別に、クリスの寝室に俺達のベッドも用意してもらって3人で寝た。俺達が、3人だけで寝るのは……本当に子供の頃以来だなぁ。セシルも一緒に、ということでフランツさんも戸惑っていたのが面白かった。大丈夫、この子は実は男の娘なんで問題無いんですよぉ………逆に問題満載な気もするけど。
このことはマティアス王子には内緒な。俺達も寝ているのに、セシルの夜這いに来られてもちょっと困る。パジャマパーティじゃないが、3人で深夜までトークした。取るに足りない話題で遅くまで笑って楽しく盛り上がった。あっと言う間に時間は過ぎた。
いつしか2人が寝静まって俺もベッドに横になっていたんだけど………眠れない。オカン魔神に夜更かし禁止と言われているのにな。あー……めちゃくちゃ淋しいな。思わず呟いた本音に自分でも驚いた。久々の3人で盛り上がったのは事実だ。でも、もしかしたら何割かは2人に気を使わせてしまっていたのかもしれないな。
水鏡の儀が終わってだから………初めて逢ったのは7歳の頃か。いや、逢う前から同じ街に居たんだから物理的な距離は数百メートルか、せいぜい数キロしか離れていなかったはずなんだ、俺がこの世界に産まれた瞬間から。
封印を解除してからも、大公邸と我が家の距離で。そしてオルトレットを出てからは基本的にずっと一緒で。ヤンクロットも勿論一緒に行って帰って来たしね。
今、人生でルーと最大距離にして最長時間、離れている。淋しい。
アレクシスが感じていることは、ルーも感じている、だったっけ。もう彼女は目的地に着いただろうか。もしかしたら既にワイバーン、狩り終わっただろうか。その辺はわからないけど……多分、いや間違いなくルーも淋しい思いはしているはずだ。
話したいことよりも何よりも、ただ逢うために逢いたい。
I love you をこんな風に訳したのは竹久夢二だったかな。わかる、わかるよ。とにかく逢いたい、近くに行きたいし近くに居て欲しい。
早く帰ってこないかな。
早く帰ってきて欲しいな。
そんなことを考えていたらせっかくの王城の豪華なベッドだが、あまり寝られなかった。
やがて東の空が少しずつ明るくなってきた。結構、早起きな俺だが夜明け前に起きているのも珍しい。春眠暁を覚えず、って春じゃなくても夜明け前に起きるのは中々大変だ。まぁこの世界、この時代なら起きている人間も意外と多いかもしれないけども。
『早く、ルーに逢いたいな』
窓の外、まだ昇り始めてもいない太陽に向かって日本語で呟いた。
気分は王子様の帰還を待つお姫様だわ。
『私も早く君に逢いたかったよ』
…………。
聞こえるはずのない、綺麗な透き通るような声が日本語で返事をくれた。
あら、王子の寝室の窓から侵入なんて。
お行儀が悪いですよ?
そこには太陽のような黄金の瞳が煌いていた。
だから、まだ夜明け前なんだってば。
『それはわかっているけど、早く君に逢いたかったんだ。しょうがないでしょう?』
片道400キロだぞ?山脈の標高の高い生息地のワイバーン狩りなんだぞ?昨日の昼過ぎに出て、今日の早朝戻るのか。ちょっと早すぎない?
『私、頑張った!』
えらいよ。
そして、おかえり、ルー。
『ただいま、アレク』
暁に抱きしめた俺の半身は、いつも以上に愛おしくて良い匂いがした。ああ、もう淋しくないよ。
セシルとクリスの2人は夜更かしした分、まだ熟睡している。ルーが帰ってきたよ、と起こしてやりたいが。
『いや、またすぐ会うんだし起こすのもかわいそうだ。実はまだ入都の手続きしていないから……もう一度街の外に出てキチンと手続きしてこないといけない』
門も飛び越えて王城まで一気に来ちゃったの!?セキュリティどうなっているんだ、と思ったけど魔神を止められるセキュリティなんて無いか。
『アレク成分が不足していたから先に補充に来た。課題はちゃんとやった?』
そう言って、俺の胸にぎゅーしてた。俺だってルー成分を補充したい。課題は……うん、なんとか覚えたよ。テスト、どんと来い!超常現象は…この世界には超常現象だらけなのでどんと来られても困る。
『うん、えらいぞ。このままだと私も色々我慢できなくなりそうだから、もう行く。朝食は私の分も用意してもらってくれ』
そういって、再び窓から出て行った。どこの怪盗だよ。シルクハットと白のタキシード、白いマントにモノクルを付けてから来い。ハードルは随分下げたつもりだったんだけどな。誰だよ、あの人を常識人とか言ってたヤツ。そいつは多分バカだぜ。
そう考えている俺の顔が、ニマニマが止まらない。
暁の怪盗め。
ヤツはとんでもないモノを盗んでいきました。
その代わり、その怪盗のハートは俺が盗んでいたようだけどね。
すっかり目が醒めてしまった。
あー、いい朝だな!
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
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(人>ω•*)お願いします。




