53 男はタフじゃなくては生きていけない
「そんな顔をしないの。私は学園の授業目当てに行くんじゃなくて図書館を利用しに行くだけなんだよ?おそらくは数か月で大方の本を読み終わるだろうから、それまでは我慢してよ。だいたい、そんなに寂しいなら君も学園を受験すれば良かったんだよ」
先日、嫉妬で俺の内臓に何発もの肘鉄を食らわせておいて、どの口が言うかー、と思うが。実際寂しいのでしょうがない。うさぎは寂しいと死ぬらしいよ?……知ってるよ、有名なデマですよ。でも俺は死んじゃうかもしれないぞ?
「死なないでね?」
「……はい」
情けなくてもしょうがねぇだろうよ。俺はこの人の言う事には逆らわない人生を歩んでいるんだもの。惚れた弱みだよな。
本日から王立ハイナレィ学園の授業が始まる。つまりクリスとルーの学園生活がスタートするのだ。王子と魔神の学園生活……何も起きないはずがなく……いやいや、縁起でもない。もうテンプレはいりません。是非、平和な学園生活を送ってきてほしい。そしてさっさと帰ってきて。
「じゃあ、行ってきます。くれぐれも気をつけてね」
「いってらっしゃい。気をつけてねー」
この国……いや、この世界に最強の魔神が気をつけるようなモノがあるとは思えないけど。言われた通り、気をつけるべきは残された俺達の方ですわ。安全重視で頑張りましょうか。そうは言ってもね、大人しくジッとしてるのも性に合わない。残された俺達は俺達で、やれる事をしようぜ!
こうして最愛の魔神に置いていかれた俺は、セシルと共に冒険者ギルドへやってきた。さぁ今日から保護者無しの冒険が始まるぜ!そもそも保護者付きで冒険者してる方がおかしいんですけどね。
「アレクは本当に師匠が大好きだねー」
「うっさいわ。とりあえず、仕事するぞ」
お前だって大好きなクセに。
俺達は全員あの人が大好きなのだ。
本当はね、そろそろ迷宮に挑戦してみたかったのですよ。そんな高難易度じゃなくてもいいからさ、初級者向けなとこから始めたかったの。だって迷宮こそ浪漫でしょう。宝箱を見つけたいじゃん?
しかし、うちの魔神は過保護なので彼女無しでの迷宮攻略には即座にダメ出しされた。マッハで却下されましたわ。愛されてるねぇ、俺達は。今も俺達2人には守護精霊とやらを召喚されている。何か危機があった場合、身を護ってくれるし強く念じればルーに危機が伝わるんだそうだ。
つまり最強の防犯ブザーを用意されたわけだ。登下校中の小学生かよ。本当に重度の過保護……いや愛されてるんですよ、俺達は。しかしちょっとだけ、愛が重い。
しかし残された俺達、のほほん組も仕事しなければ。学園の授業が終わるまで日がな一日ぼーっとしてる訳にもいかないでしょ、人として。俺は日本でもニート経験なんて無いんだから。
働かざる者食うべからず。
そこで緊急企画「他のパーティに混ぜてもらって依頼をしよう!」を開催することにした。第一回チキチキだ。
「そこで俺達『白き新星』の出番となった訳だ!待たせたな、セシル嬢!」
「全然待ってないし、むしろ今すぐ帰ってくれないかなぁー?」
「そのつれない態度がますます俺の心を惹きつけるぞぉ!今日も可憐だな、セシル嬢!」
もはや定番となりつつあるやり取りをしている。
君ら、実は仲良しだろう?
なんでコレを選んだんだ、とセシルの目が雄弁に語る。見事なジト目だな。睨まないでくれ、言いたい事はわかってるけどしょうがないじゃない。セシルが絡まなけりゃコレ……いや、このお兄さんは本当に良い人だし実際俺も何度か御世話になっている。しかもこう見えてもコイツは王子なんだぞ?偉いんだぞ?あ、コイツとか言ってしもうた。
それと同時に忘れそうになるけどお兄さんには実はクリス暗殺を計画した黒幕の可能性がある。それもわかっているんだけど……普段のお兄さんは残念な部分もカッコ良い部分も含めて、そんな事件の黒幕とは思えないんだよなぁ。情が移ってしまったかなぁ。油断はすまいと思ってはいるんだけどね。
そんなこんなで、なかなか断りにくかったんだよ。いや、マジでごめんて……セシル、尻を蹴らないで。お兄さんはお兄さんで、俺も蹴られてみたいみたいな顔しないの。そう言うのが御褒美なタイプですか?ダメだ、そっちへ行くな!帰って来い!まだ間に合う。惚れた相手が男の娘なセシルである時点で色々手遅れな気もするけど。改めて確認しておくけども、悪いのは俺じゃない。
「迷宮に行きたい気持ちはわかるがな、やはり君達にはまだ早いと思うぞ。それに俺達は他の冒険者たちが選ばない依頼を優先的にやっている」
俺達が、これまで冒険者ギルドでマティアス王子に出会わなかった理由の一つがコレらしい。儲かる依頼や割の良い人気の依頼ってのは基本的に朝の早いうちに受注されていく。そりゃそうだ。そんなのは早い者勝ち、競争ですよ。
そんな状況なのにマティアス王子達は、そろそろブランチの時間も終わりかな?てなくらいに、やってくるそうだ。主に太陽に従って生きている世界においては、超のんびりさん。
これは、マティアス王子には優先すべき執務があったりするし単純に忙しいって事情もあるんだろうね。そして、そんな遅い時間に残ってる依頼ってのは不人気依頼が多い。つまりは儲けの少ない、或いは危険な依頼って訳だ。その上で得られる評価は低かったりとかさ。要するに割りに合わない依頼ですね。
なんで、わざわざそんなのを選んでやるの?
「……?俺達がやらなかったら、誰がやるというんだ?」
真顔で、すげぇカッコ良いこと言われた。このお兄さんは残念な部分とカッコ良い部分の境目が非常にクッキリしている。もう少し均一化出来ないものか。少しは乳化しろ。セシルも悔しそうな顔で「お兄さんのくせに…!」とぐぬぬしてた。俺も今ならその気持ちはわかる。
そんな訳で本日、『白き新星』とお兄さんの愉快な仲間達である俺達が臨時参加して引き受ける依頼はアーヴァンクの討伐となった。
アーヴァンク。
水棲の魔物で鋭い爪と怖ろしい怪力を持っていて、大きな岩でもって巣を作る。性格は荒く人間や家畜も襲う。土手を壊し、畑を水浸しにし、牛馬を水の中に引きずり込んで溺れさせたりもする。要するに農家の敵……以上はセシルによる解説でした。
そのアーヴァンクが村の近くに巣を作って暴れて畑を荒らしているので、討伐して欲しいという依頼だ。依頼者は王都から馬で2時間くらいの距離にある小さな農村の村長。そこまでなら、よくある依頼のひとつに過ぎないんだけど、通常と異なってる部分がひとつ。依頼料がバグってるの?てなくらい安い。つまり、そういうことなんだよ。
アーヴァンクは、それほど強い魔物ではないらしい。容易くはないだろうけど、一対一ならD級の冒険者でも頑張れば倒せる程度の相手だそうだ。だから倒せる冒険者が少ないわけでもない。ただ、この依頼料で引き受けるような冒険者が居ないだけだ。じゃあもっと依頼料を上げればいいんだが……そりゃ出せるものならね。
「他の冒険者達の生活もあるからな、こうやって安く引き受けることが必ずしも正しいとは言えない。それでも依頼者側にもこれ以上の額を出せない事情もあるだろう。ならば、俺達の出番と言うわけだ」
さすがクリスの兄だ。今まで残念な部分しか見てなかったから、こんな風にちゃんとした発言が驚きでしかない。今、目の前に居るのは実はよく似た別人じゃないか?とも思ったがセシルに夢中なところを見ると、間違い無く本人なんだろう。
実際、王子には報酬なんてさほど必要でもないだろうしね。そしてそれは『白き新星』の他のメンバー全員にも言える。だって彼らはみんな大貴族の子弟なんだもん。
「つまり、我々はラスブール冒険者ギルドの便利屋担当な訳だ。まぁアレだ、貴族の義務と言うヤツだね」
そう言って優雅に微笑んでいるのはアンドレ・ド・ルブラン。どこぞの侯爵家の次男だって。普段はお兄さん王子の政務補佐とかをやっているんだって。元騎士団所属で当時も剣士としても名を馳せたそうだ。この辺は以前にジェロム兄さんから聞いた話です。
大した背景をお持ちだが、それすら些事だ。
なんでかっていうと、この方の奥様がなんとエルフなのだ。
ついに会えたよ、伝説のエルフ!
ハーフでもないピュアエルフだよ!
「そう言いながら、貴族っぽくないでしょ?この人」
こちらがアンドレさんの奥様、マグリットさん。そのエルフ本人だよ。アンドレさんとお似合いな綺麗なお姉さんですよ。美男美女夫婦ですね!美しい絹のようなブロンドヘアの間からとんがった耳が見えている。ハーフエルフは何度か会ったけど、純エルフは初めて。年齢は……アンドレさんと同じくらいに見えるけど実際は何歳なんだろうね。この世界でも勿論、女性にそんな質問は失礼だよ。あ……昔、ルーに年齢を聞いた事があったわ、そういえば。そしてその後、キチンと殺されてたわ。
そんなマグリットさんの担当は弓と治癒魔法なんだって。いかにもエルフって感じ。セシルには良い教材となってもらえるかもね。確かにアンドレさんもマグリットさんもフランクで貴族っぽくなくて、実に接しやすい。最初、アンドレ卿って呼んだら今の俺は冒険者だから止めてくれ、って言われた。ついに出てきてくれたよ!敬語などいらぬ系貴族!待ってました!よっ、ナーロッパのお約束!まぁ呼び方だけの話で、やっぱ基本的には敬語で会話してますけどね。まぁ当然ですよねー。
アンドレさん夫婦は本当に良い意味で貴族っぽくないけど、それ以上に規格外に王子っぽくない王子が目の前にいるんでね。でしょ?と言われても、なんと返事していいか困るわ。
ついでに呼び方の話をすると、マティアス王子の事は俺もセシルもお兄さんと呼ぶ。なんか、いつの間にかそうなってた。それでも怒らないお兄さん、偉いよな。ミスター兄貴だねぇ。
「俺は嫌いじゃないぜ。金よりも尊敬と感謝が欲しいんだよ、俺は」
こちらはルネ・デル・モンクティエ。この人もどこかの貴族の息子で尚且つ騎士団の魔導部隊にも所属する凄腕の魔道士でもある。見た感じはワイルド系というかオラオラ系なお兄さんだ。そんなタトゥーやピアスをいっぱい付けてそうなお兄さんではあるんだけど、こんなパーティに参加してるんだから、良い人だ。じゃなきゃ、こんなボランティアみたいな事はやってられないだろう。
あ、マティアス王子自身は重騎士っていうんだろうか。そういう系。いやお兄さんは騎士じゃないけど。確か地球では王族や貴族で、尚且つ騎士ってのも居たような気がするんだけど、お兄さんは単純に違う。騎士としては任命されていないんですよ。
そんなお兄さんは純白に黄金の縁取りが施されたゴツイ全身鎧と、同じく白と黄金に彩られたデカい盾で魔物の攻撃を引き受けるタンクなんだって。付いた二つ名が『ルシアス王国の大盾』。やっぱりさ、二つ名とかカッコ良いよね。俺もかつて凶獣とか呼ばれたこともあったけど……えれぇ差だな。ひでぇ差だよ。
そんで王子が?タンク?盾役なの?正気か?バッカじゃねぇの?本来なら護られるべき貴人がなにやってるの?そう思うけど、実際やってるんだもんなぁ。本当にお兄さんはトコトン王子っぽくない人だよね。俺がよく知る幼馴染の王子だって、ここまでは酷くないわ。
「アレクシス君、その言葉の方が酷いぞ……俺はいたく傷ついた」
あ、酷いって言っちゃってたか。
酷い王子って言っちゃってたわ。
声に出して言ってたわ。
本音が出ちゃってたわ。
つい、だよ。
そんな会話をしてても、アンドレさんもルネさんもうんうんと頷いている。「確かに酷い王子だよな」だってさ。「ホントだよ。酷いにも程がある」と更に強く同意してくれたのはセシル。やはり皆の共通認識のでもあるようだ。多分、このお兄さんにその辺を求めちゃいかんのだろう。しかし、そんな雑な扱いをも受け止めるお兄さん、流石はルシアスの大盾だな!
「よし、それじゃ気を取り直してアーヴァンク退治に一緒に行こうか!なぁ、セシル嬢」
気を取り戻すのが早い。
流石は盾役、心もタフだ。
男はタフじゃなくては生きていけナイ。
そして優しくなくては、生きている資格がない。
これはハードボイルドな探偵じゃなくて、盾役の話。
「………はぁい」
本来なら、じゃあ1人で行って来てねー、お兄さん!くらい言いたかったんだろう。しかし王子の意外なしっかりした一面を知って、そんなことを言うのも悪い気がしてる。そんな感情が入り混じった、不満そうな顔してる。セシル、お前がそんな簡単に人を嫌いになれる訳ないだろうに。
「ボクの頭の中を読むなっ!」
痛ってぇ。また尻を蹴られた。
セシルが読みやすい顔してるだけなのにね。
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
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