52 No warning
「な、何故だ…ッ!?」
敗けたことは否定できないが納得もできないクレア嬢が叫んだ。しかし聞けば望む答えが返ってくる程、世界は優しくないよ。少なくとも俺は優しくはない。女の子には優しくしたいけど剣を持って襲いかかってきた子に優しく出来るか、と聞かれたら難しい問題だよな。
「剣聖は、剣において絶対無敵のはず……もしかして貴方がケヴィン・アルノーなのか?」
ティナ嬢がとんでもないことを言い出しだ。
アホか。聖女はアホの子なのか。
皆が俺をアレクシスって呼んでるじゃないですか。
それは無視か。
偽名って?そりゃ想像力が逞しすぎるよ。
それにしても……怖かったー…!ルーやクリスの動きを見様見真似でやってみたけど斬られなくて良かったぁー!なんとか勝てたけど、こんなのマグレだからね?自分でも分かってるさ。あのね。俺、剣士ちゃうねん。ビビりだから槍を使ってるの!剣とか怖いんだよ!
足が震えてるのがバレなくて良かったぜ。あんな美人にダサッ!とか思われたら泣いちゃう所だったわ。バカでビビりとか救いようが無いじゃないか……って誰がバカやねん!
まぁいいや。
改めて飲みなおそうぜー。
賭けはどうなった?俺に賭けてくれてた?
「まぁ今日のお酒代くらいには、なったかな。それと、さっきのは良い動きが出来ていたよ」
珍しく戦いに関してルーに褒められた。今日の俺、良い仕事したな。報酬、ルーの笑顔。これはプライスレスですよ。はい、デュランダルを返すね。これで俺も聖剣ユーザーの一人だな。今度、キリヤマさんにも自慢してやろう。装備すると攻撃力プラス255でした、とか幸運とか根性のスキルが付きますよとか盛っちゃおうかな。2008年まで日本に居たのなら、ギリギリでモンハンやってないかなぁ。今度、聞いてみよう。
それにしても、この世界に聖槍はないのかな。
ロンギヌスの槍とか聖槍なんだっけ。
聖剣は種類も多いのにズルいよな。
つまり、クリスはズルい。
ただでさえイケメンなのに。無駄に足が長いのに。
「そうだそうだ、聖弓もあんまり聞かないのに!クリスだけズルいぞ!」
セシルと2人して「ずーるーい!ずーるーい!」とクリスを糾弾する。セシルも既に結構酔っているのだ。そうだそうだ、王子でカッコいいってだけでもズルいのによぅ!
「うるさいなぁ。僕も好きでカッコよく生まれたんじゃないんだよ」
……聞いた?聞きました?奥さん。前世でどれだけ徳を積んだらそんな台詞が言えるんだろうな。神様、このバカに神罰を与えてください。昔はちょっとはしゃいだら熱を出して寝込んでたかわいい子供だったのに。それが大きくなったもんだな!偉くなったもんだな!ほっぺがぷにぷにだった頃のクリスはどこへ行った!?
ぎゃーぎゃー騒いでいたら、テーブルをバンッと叩く手。
そこにはクレア嬢とティナ嬢が立っていた。
「まだなにか?」
「勝ち逃げする気かッ!貴様!」
えらい言われようですわ。
我々は楽しく飲んでたのに。
「散々腰抜けと煽った挙句に完敗して更には貴様呼ばわりか。剣聖とは恥知らずの異名ですか」
瞬間、クレア嬢が顔を真っ赤にした。まだ恥じるほどの良識があったのか。それでもだ。貴女こそ何様のつもりか。俺もそれなりにムカついているのですよ。そもそも、本当にA級か?確かに強かったけど……まぁ油断してたんだろうな。俺って大概の人から侮られるから。それはそれで俺の生存戦略でもある。
「この子の無礼は私が詫びよう」
ティナ嬢、あなたの詫びにどれほどの価値が…?とも思うけどさ。でも、こちらも喧嘩をしたいわけでもないのでね。聖女の謝罪でもって、ここらで手打ちとしようか。なんせティナ嬢もクレア嬢も巨乳だし。可愛いし。愛想は無さそうだけど。
「まぁ……君らも座りなよ。飲み物は何か飲みますか?」
2人とも白ワインを頼んだ。俺達と似たような年齢……つまり子供ってことなんだけど飲んでも大丈夫なのかな。飲んでる俺が言っても大丈夫もクソもないんだが。
「えーと、ティナさんとクレアさんだったよね。お二人はどちらから来たの?」
こういうとき、セシルは強い。空気を読まないのか読んだ上でこうなのか。お前の人見知りはビジネス人見知りじゃないのか。俺なんて見ろ、今もモジモジしてるでしょう?だって2人とも巨乳の美人なんだもん。マトモに目を見てトークなんて出来ないよ。
「ラウルシュタイン帝国から来た『ドレッドノート』のクレア・ファン・ステュアートと申します」
「同じく、ティナ・ヴォルフ」
その返事として、セシルが俺達を順に紹介してくれた。やはり、帝国から来た人たちだったんだね。『ドレッドノート』……それがショウゴ君のパーティか。A級のクレア嬢がいるのに、リーダーはB級のショウゴ君なんだって。 まぁね、うちもルーが居るのに俺がリーダーしてますから一緒のようなもんか。ドレッドノート……確か意味は怖いもの無し、だったかな。君達にぴったりだね。
「アレクシス殿」
「はい?」
「まず、改めて無礼をお詫びしたい。貴殿の剣には感服致しました」
そう言って、クレア嬢は頭を下げた。
そういう殊勝な態度も取れるんだね。
正直、意外だった。
「まぁ、俺も気にしてませんので、もう気にしないでください」
「お言葉、かたじけなく…それでアレクシス殿。その……私が一晩相手をするという話だが…」
バキィ!!!と何かがひしゃげるような大きな音が聞こえた。犯人はルーだ。何故か木製のビールジョッキを右手で握りつぶしていた。
「あー……古くて脆くなっていたのかな。すみませーん、新しいのください。ああ、申し訳ないね。続けて、お話。どうぞどうぞ」
木製ってそんな痛むもんなのかね。この店では木製だけど他所に行けば陶器製のジョッキというかビールマグというか、そういう店もある。個人的にはいつまでも温度が変わらない〇-モスが欲しいな。あれは家呑みで大活躍してたよ。マジで便利だった。買ってよかった商品の最上位だったね。あれ、再現出来ないかなぁ…?代わりに今は氷魔法を応用して手元で冷やすから、いつでも冷たく飲めるんだけどね。人間サーモ〇。
「アレク……師匠に謝りなよ」
セシルが小声で言ってきた。
俺が?誰に?ルーに?いや、俺なんにもしてませんやん。
謝ってもええけど……何が?って言われるで。
「いいから謝っておけって」
クリスにも言われてしまった。なんなのさ、もう。
違うと思うけどなぁ…?
「あの……師匠、すみませんでした」
「うん?アレクシス君。君は何か私に謝るようなことをしたのかな?」
そこは、「もう………ええねや」と返して欲しい。そして、いつものようにアレクと呼んでよ。いや、何にもしてないつもりなんだけど……これは滅茶苦茶に怒ってますやん。その笑顔が怖すぎるんですよ。
「アレクシス殿。私も覚悟は出来ている!その、貴殿のどのような要求でも受け入れるつもりだ!」
再びバキィ‼︎と激しくビールジョッキが破壊された。
「すみません、新しいのもう一つ!」注文を叫びながら今、ここにある危機を俺もやっと理解した。クレア嬢、もういいから少し黙ってろ。どんな覚悟もそんな覚悟もいらん!多分、君の言動が俺を死に追いやっているんだ。君には分からんかもしれんけど、今ここで魔神が怒り狂ってるんだぞ!
「どのような要求でも、ですって。どのような要求なのかなぁ?」
いやぁ、ルーの笑顔が……今日もかわいいんだけどなぁ。かわいいけど、これは俺に死をもたらす笑顔だ。この笑顔の前で、どのような要求もクソもあるか!考えろ!ここで返答を間違えたら、俺は死ぬ。さっきの剣聖との立ち合いより今この瞬間こそが俺の死線だ。グッバイ、俺のハーレムルート。
「そうですね、じゃあクレアさんには今晩の酒代をお願いしますか。今夜の我々の酒の相手をしていただきましょう。そして師匠、よろしければ肩をお揉みいたしましょう」
「お、おお。その程度でよろしいのか?」
よろしいよろしい。
というか、それ以外なら俺は死ぬ。
間違いなく師匠に殺される。
「ねーねー、クレアさん達はラウルシュタインから学園に勉強しに来たの?」
「私たちはラウルシュタインからの留学という形で来ている……が目的はショウの付き添いだ。アレクシス殿も見上げたものだが、ショウも凄いぞ」
「ショウって……あの黒いマントを着てた人?」
「うむ。彼は人智を超えた強さの持ち主だ。それに…カッコいいんだ」
「へぇ~…そんなに強いんだぁ。失礼ながらそうも見えなかったよ。クレアさんは彼の恋人なの?」
セシルがぐいぐい行ってくれるから聞き取り調査も楽だ。彼女達も、本人が居ないところでそんなベラベラ喋って大丈夫?とも思うけど、好きな相方ってのは皆んなに自慢したいもんね。
「違う。クレアはショウの恋人ではない。恋人と言うなら私だろう」
ティナ嬢がそれは看過出来ないと言わんばかりに割って入った。おいおい、美少女2人で奪い合い?それは羨ましい話だなぁ。
「ティナは冗談が上手だな。私がショウの恋人でなくてなんだと言うんだ」
まぁ……喧嘩はやめましょうね。
やっぱりハーレムなのか。実に羨まグフッ!
「……アレク。肩を揉む手が止まっているけど?」
はい、肩揉みを継続します!あやうく内臓が口から出るかと思った…師匠、俺なんにも言うてませんやん。その肘の一撃を放つ前に警告を発してくれよ。No warning反対!いや警告したからってダメだよ。俺は何にもしてないのに理不尽だ。
「ショウは賊に襲われていた私を命懸けで救ってくれた勇者。彼は無敵」
ティナ嬢はそうおっしゃるけど、貴女が言う剣において絶対無敵の剣聖はさっき破ったよ。無敵ってそんな安くないよ。俺はルーこそ無敵だと信じてるけど、そんな彼女ですら初めて会って以来一度たりとも自分は最強だとは言わない。せいぜいが最強に近い、とか屈指、と言った事はあったかな。無敵とか最強とかそんなに軽くないんだよ。
「私達は嘗て彼と一緒に、あのオークエンペラーを討伐したことがある。あの時のショウは鬼神の如き活躍を見せてオーク共を蹂躙したのだ。剣だけなら剣聖たる私も負けないが……それでも間違いなく彼こそ最強の存在だ」
無敵、最強か。男の子は好きだよね!
いや、俺も好きだよ。
オークエンペラーに反応して、セシル・クリスからクレア嬢に質問が殺到だ。なんせオークエンペラーってのは100年に一度レベルの大災害らしいから。どんな怪物だったんだろうね。あのドラゴンゾンビと比較してどっちが強いのかな。そうは言ってもドラゴンゾンビも俺は正面から倒したわけじゃないのにな。
クレア嬢の話によると、ショウゴ君は殆ど単騎でオークエンペラー率いるオークの軍団の大半を薙ぎ倒したらしい。断片的な情報だけど、やはり機関銃かガトリングガンなのか、そんな感じの兵器で撃ちまくったようだ。さすが現代兵器ってすごい。
もっとショウゴ君の情報を集めたいが……ここに居ない人のことを聞くのもな。あとは本人に聞けばいいか。そもそも俺は彼にそこまで興味無いしな…。
だってさ、ここまで聞いてショウゴ君を表現する言葉って強さだけだぜ。無敵、最強。勇者、鬼神。あ、カッコいいもあったな。これはクレア嬢の主観にもよるが。君達……本当にショウゴ君のこと好きなん?彼の強さ以外に好きな部分あるん?優しさとか性格で良いとこないん?
まぁ、おっさんの戯言だよ。
彼ら彼女らにも物語があるだろうからな。
俺からもクレア嬢に質問があるんだが、しようとするとルーから肘を食らう。本当に内臓破裂しそうだよ……これは嫉妬だとようやく気付いたけど、その表現がかわいくない!というか、普通の女の子ならかわいいもんだけど、加減はしてくれているけど魔神の一撃は兇悪な一撃なんだよ。
しょうがないから、肩揉みを止めてルーを膝の上に抱っこしておく。よしよし、ちょっと暴れたけど膝の上に乗せたら、やっと大人しくなってくれた。はいはい、コレ食べたいの?あーんして。
「クレアさん、その、貴女が使われているのは刀ですか?」
「よくご存知ですね。これは遠い東の国で作られた、秘刀『月帝』です」
遠い東の国かぁ。ルーは知ってる?1000年前にもあったのかな?
「私も刀は初めて見るけど、東の島国については聞いた事がある。……今はもう、あの当時の国は存在していないかもしれないな」
1000年前……えーと、日本なら平安時代かな。それって日本刀が誕生するくらいの時代だったか。いや、この辺りがヨーロッパ中世〜近世相当なら1000年前は奈良時代以前か。よくわからん。でも東の島国、いつか行ってみたいね。日本語が通じたらスゲーよな。
「東か。そうか東か……そうだな。私達はやはり行かねばならんな」
ルーが妙にキリッとして言ってるけど俺の膝の上だからね。かわいいかわいい膝乗り魔神だ。そして膝で味わう彼女のお尻の感触も、実に味わい深いものだ。
「今更ですが剣聖って何なんですか?称号?」
スキルだったら、ちょっとマナー違反かもしれない質問。その場合は謝って許してもらおう。
「うむ、確かに称号でもある。剣聖という名のスキルを持った者が百年に一度生まれるのだ。ラウルシュタイン帝国では世界の剣士の頂点とされる」
あー、スキルだったか。本当はあんまり聞き出すものじゃないんだったな。申し訳ないです。もしかしたら、聖女も似たようなもんかもしれない。これもショウゴ君が言ってたのをチラッと聞いただけだから黙っておこう。それにしても、そんな貴重な人材が胡散臭い男についていってホイホイ留学しても良いもんなのかね。
多分、絶対に良くないんだろうけど彼女達を見ていると、仮に出国禁止しても勝手に逃亡しそうな気もするなぁ。賢者だの聖女だの肩書きは実に立派なんだが簡単に男を追いかけすぎじゃないだろうか。多分、間違いなくラウルシュタインの偉い人たちも激しく頭を痛めているだろう。偉い人達、頑張って!
「そうか、どこかでショウが口にしたのか。彼は…少々浮世離れしたところがあるからな」
彼の普段の人となりは知らないけど、アレを少々の浮世離れで済ませられるのか。他人のスキル……それもおそらく激レアであるのだろう剣聖だの聖女だのを簡単にペラペラ話すのもどうなんだろうね。聖女がスキルなのかわからんが……寛容だねぇ。惚れてるが故で許してるのかな。
あとは、当たり障りのない話題となった。剣聖と聖女だろうが、やっぱり女性は会話が好きらしい。色々なたわいも無い話題で楽しそうに盛り上がっていた。彼女らも冒険者なので王都に留まるなら今後も会うこともあるだろう。お互い適度な距離感で仲良くしましょうね。
それにしても俺の、このショウゴ君への嫌悪感はなんだろうね。
苦手な人物というなら御老公を思い出す。ただ、御老公とショウゴ君は……何か違うんだよな。俺は、ぶん殴りたいランキング殿堂入りの爺さんを憎々しくも忌々しいと思いつつも、それと同時に尊敬すべき部分も多々あると思っている。あまり認めたくはないが、あのジジイは確かに立派な人物でもあると思う。
ショウゴ君はそうじゃないんだよなぁ……何が?どの辺が?と聞かれると、俺自身もサッパリ分からないんだけどさ。ヤダヤダ、俺はそんなに器の小さな偏見持ちなのかね。それともハーレムパーティへの嫉妬なのかな。まだ会話もしたこともない相手をこんなに苦手意識を持つとはな。違うな、苦手意識じゃない。これは嫌悪感だな。
クソッ、ガキみたいな事を言ってんじゃないぞ、俺。
さっさと寝て忘れよう。
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
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