51 勝てばよかろうなのだァァァァッ!!
『最近、マドレリアのケーキが凄いの知ってますか?こんな感じのエクレアやらミルクレープやら日本で食べてたのと遜色無いようなケーキが続々と発表されてるんです!あれは絶対転生者絡みですよ。4人目の日本人が居るんですよ、絶対!』
ショウゴ・サイコウジに関しての報告がてらにキリヤマさん邸を訪れたら、キリヤマさんがケーキを前にして興奮していた。意外とキリヤマさんも甘党なんだろうか。甘いものが貴重な世界だからなのか、俺の周りって甘党が多いな。キリヤマさんの口調も前より砕けてきて仲良くなれた気がする、それが地味に嬉しい。それにしてもマドレリアか。4人目の転生者かー……違うんだよなぁ、なんかごめんなさい。
これがマティアス王子相手なら、いつまでも不運と踊っててくださいと生暖かく見守るんだけどな。キリヤマさんに、そんな酷なことは出来ませんて。
『すみません。それは俺絡みですね。俺の相方が甘いもの好きなんでケーキのレシピを教えたんですよ。そんで彼女は臨時でマドレリアに勤めてて……それで今、目の前にある訳ですね』
『あー………そっか~…そう立て続けにはいかんかー…。何十年も1人だったのにカスガイさんが来て、もう1人が現れて……それ以上はそうそう居ませんよねぇ…』
目に見えてキリヤマさんが凹んでる。申し訳ない。しょぼんとしたおじさんは見てらんない。やっぱりね、まるで転生者のバーゲンセールだな…!みたいな展開とはなりませんよね。これ、お土産のつもりで持って来たカレー粉で許してください。一緒にカレーのレシピも持って来たので、是非御自宅で作ってみて下さい。
この世界、少なくともこの国にはマヨネーズはあるけどカレーは無いんですね?
『多分、この世界のどこかには独自のカレーがあるんでしょうけどねぇ。この国ではスパイスを集めるのがね……更に調合も再現が難しいんですよ…カスガイさん、よく作れましたね』
うちの相方は優秀なんでね。
俺が覚えてないことまで再現してくれるんですよ。
また今度、良い物を作り出せたら持ってきますね。
『それで………ショウゴ・サイコウジはどうでした?』
『直接会話してないですし、見ただけですけど』
本当に見ただけ聞いただけなんだけど……どえらいモン見させられましたわ。
『彼は間違いなく現代の地球から来た人間です。魔法かスキルかわかりませんけどバズーカ砲みたいなのを取り出して撃ってました。撃ったらすぐ消えてましたけど…』
『そうですか!それは良かった…というのも変か。彼も望んできた訳ではないでしょうからね………きっと彼も日本に帰りたいことでしょう』
『余り期待しすぎない方が良いですよ』
どぉですかね~……彼、結構この世界に順応してたようにも見えましたけどね。かわいい女の子3人に囲まれて楽しそうにも見えましたよ、羨ましいことに。
まぁ日本に戻りたくないかどうかまではわかりませんが……。
『聖女とか賢者や剣聖って呼ばれる女の子達と同行してるようですよ』
『聖女……えーと確か…ラウルシュタインには聖女、ってのがいたかなぁ』
なんすかそれは。
ラウルシュタインは、東の方にある大きな帝国でしたよね?
『ファニエル教における聖女らしいよ……なんか奇跡でも起こしたのかねぇ?ヨソの国の話だから詳しくはわかりません』
『なんでラウルシュタインの聖女と一緒に居るんでしょう………考えてもわかりませんね』
多分、ショウゴ君は東から来たんだろうね。そんな聖女認定された子が国外に出てもいいんだろうか。彼や彼女達の事情はサッパリわからないけどラウルシュタイン帝国の偉い人達が頭を抱えてそうだなぁ。
『東から来たのはまず間違いない。なんせ彼が冒険者としてオークエンペラー討伐の功績を挙げたのはラウルシュタイン帝国との国境の近くであるサノワだからねぇ。オークエンペラーなんて、ちょっとした軍勢を作るから本来は冒険者が数十人とか数百人が集まって討伐するらしいよ。それを彼が倒したってのは、まるで御伽噺の英雄のようだ』
あの謎の魔法かスキル次第、かなぁ。先日はバズーカみたいなのを見せてくれたけど、もしもマシンガンだのライフルだの……小型のミサイルとかまで出せるならイケるかも。
その討伐に剣聖と呼ばれていた女の子と、更にあの賢者と呼ばれていた女の子も参加してたのかな。だとしたら実力の方もすごいんでしょうね。
『しかし、なんか女の子ばっかりだね。剣聖か……上泉信綱とか塚原卜伝とかなら知ってるけどねぇ』
『しかも若くてかわいい子ばっかりなんですよ、羨ましい話ですが。その聖女や剣聖も巨乳のかわいい子ですよ』
なんか先生に告げ口してるみたいだな。
でもあの巨乳はけしからんでしょう。
まぁハーレムってのも夢ですよね、憧れますよね。
俺は嫁1人で満たされてるので、言うほど羨ましくもないんだけどさ。
……いやいやマジで。ホントにホントに。
『珍しい話ですよ。冒険者の女性比率、カスガイさんは知ってるでしょ。せいぜい全体の10%いかないくらい?それが若い女の子3人とのパーティかぁ、主人公してますねぇ』
全くですね。あの重火器を取り出したのもスキルかもしれないし。チートスキルを貰ってハーレムも手に入れて……確かに主人公道を歩んでいるね。タイトルは何ですかね。今も好評連載中なんでしょうか。そのうち書籍化コミック化もするんでしょうか。
『まぁ……近いうちに彼と話し合いの場を用意してみますよ。日本に帰るための協力者となってくれるかもしれない。カスガイさんもご一緒いいですか?』
どうだろうね。正直、彼と仲良くできる自信は無い。そうでなくてもキリヤマさんは知らないだろうけど俺、人見知りだから。キリヤマさんは話しやすかったから、あんまり意識しなかったけども。しかし、ここで嫌ですというのも角が立つじゃないですか。
『はい、是非お願いします』
引きつった顔になってなかったかしら。社交辞令ってのはこういう時に便利だよな。頭の中では拒否したいなーとか思いながらでも、定型文をなぞるだけで話が進むんだから。進んだ先がどうなってるかはさておき、ね。
◇◆◇◆◇
無事、というか俺に言わせれば当然だがクリスとルーは編入試験合格で、晴れて学園の生徒となった。あの2人が不合格なら今年の編入者はゼロだろう。
これで今までは俺とセシルの、のほほん組とクリスとルーの王族のしっかりしてる組だったのが、のほほん組と学生組になってしまった。意味はわからないがなんとなく劣勢、という言葉が頭をよぎった。なにかの暗示か。
よし、合格祝いに祝杯を挙げよう。
理由はなんでもいいのだ。
ギルド内の酒場でビールで乾杯!おめでとう!
うーん、美味い!
「あの試験の時のクリスの真剣な顔……フフッ、ボクは笑い声を抑えるのに本当に大変だったんだよ?」
「知るかっ!試験なんだから真剣なのは当たり前だろ!?」
「セシルに気がついたときの顔が一番面白かったわ。あの顔を見る為だけに潜り込んだ甲斐があったなー」
完璧超人だけに、クリスはイジるチャンスは少ない。
それだけに試験会場は貴重な機会だったんだよ。
いやぁ、笑いすぎて腹筋が痛くなったわー。
「お前達はどんだけ暇人なんだよ……全くもう」
いやいや。
途中からだけど、ちゃんとした用事も出来たんだぜ!
3人目の日本人らしき人物の調査。
彼らが無事合格したかどうかまでは知らんけどな。
「………あの彼らのことでしょう?」
そういうルーの視線の先には、確かにショウゴ・サイコウジとその仲間達がいた。テンプレどおりに先輩冒険者に絡まれながら。
「邪魔なんだが……?」
今日もショウゴ君は黒いマントを身に纏い、連れの女の子達は……やっぱり露出が多いですね。そういうプレイなのかな。それとも露出狂なのか。けしからん。もっとやれ。
「ああ、君には用はない。どう?お嬢さん方。王都は初めてなんだろう?僕が案内しよう。怪しいものじゃないないよ、僕はニコラス・デランジェール。『紅炎の盾』のD級冒険者さ」
いつぞや、セシルに玉を砕かれた先輩ではないか。懲りない人だな。それは仕事か。もはやアンタの仕事なのか、新人に絡むのが。そういうNPCなのかな。
今も時折、ルーとセシルが景品となるギルド内バトル大会は開かれるが、こいつはそれに参加したことがない。万が一でも参加するならば、もうひとつの玉も砕いちゃうけどね。
「やれやれ……テンプレ雑魚キャラは消えろ」
ショウゴくん、容赦ないね。
まぁでも、その気持ちはわかるわ。
こうやって傍で見てる分にはいいんだけどさ。
実際に関わると鬱陶しいってのは、俺にもよく理解できるよ。
「雑魚だと…?こんなヒョロそうな雑魚に言われるとはね。ちょっと痛い目をみるゥガァアアアアアアア!」
二発の銃声と共に、ギルド内に玉砕かれ先輩の絶叫が上がった。賑やかだったギルド内が一気に静まり返った。
ショウゴ君の両手には黒い拳銃。
薄い煙がその銃口から漂う。
マジかよ!
ショウゴ君、玉砕かれ先輩の両足を撃ち抜いていた。いやいやいや。待て。ちょっと待て。早いて。キレるのが早すぎる。導火線の短さがハンパないのな!
「ちょっとアンタ、何してんの!?」
静寂を切り裂く大声と共にミシェルさんが奥から飛び出してきた。さすがベテランスタッフは対応が早いね。一連の流れを見ていた俺達でもそう思うわ。本当に何してるのよ。突然の修羅場に他の若い受付嬢達は肩寄せ合って震え上がってる。まぁ無理もないよな。
「やれやれ……オレ達は降りかかった火の粉を払っただけなんだが?」
払い方が……と言いたいが以前のセシルも結構なことしてるので偉そうなことは言えない。あわただしく、ギルドに常駐している治癒魔法師が呼ばれて怪我した玉砕かれ先輩を処置してる。あれは確かにほっときゃ死ぬかもしれないしね。好きな野郎ではないがナンパして死ぬこたぁないよな。
若い受付嬢が震えながら血で汚れた床を掃除している。テンプレの陰にも色々な人々の仕事があるのだ。俺も先日の、魔法試験の的の片付け等を頑張ったことを思い出した。なんかやっちゃいました?じゃないんだよ、ホントに。
「確かにギルドは冒険者同士の諍いには関与しないけどね……同時に冒険者同士の諍いも控えるようにも言ってるんだからね。もうちょっと他にやりようがあったんじゃないの?」
ミシェルさんの小言が続く。あんまりショウゴ君は聞いてるようでもないが。
「やれやれ……どうも手加減は苦手なんだ。それより…王都最強、というかルシアス王国最強と言われるケヴィン・アルノーはどこだ」
やれやれが彼の口癖なのか。そんなに連呼すると……ちょっとアホっぽいぞ。そんなショウゴ君のお目当ては『月の守護者』のリーダー、ケヴィン・アルノーだそうだ。
ケヴィン・アルノー……俺でもその名は知ってる。しかし王都に来て一ヶ月以上になるけど、俺達もまだ会ったことがない。オルトレットでお世話になったボリスさんと並んで、王都の……というか、この王国の双璧の2人なんだそうだ。さらに双璧の2人でも戦闘においてはケヴィン・アルノーが最強といわれている。すごいよね。
「ケヴィンはまた依頼から戻ってないよ。だいたいアンタが彼に何の用だい?」
「なに、王国最強の座を頂こうってだけだ」
男の子だね。チャンピオンになりたい、か。これも少しだけ気持ちわかるなー。冒険者ギルドの受付で言うことでもないと思うけどな。
「アタシはついさっきも冒険者同士の諍いを控えるように言ったんだけど、聞こえてないのかい?」
主人公ってのはよく難聴になるもんなんだよ、ミシェルさん。彼の場合は聞こえてないじゃなくて、聞いてないって感じだけどね。
「フン……王都の冒険者ギルドは腰抜けばかり、と言うことか」
いやー、傲岸不遜にして好戦的だねー……。
ホントに、君…日本人なのかな?
でも野心があるのは悪いことじゃない。
むしろ若者はそうあるべきだろう。
中身がおっさんの俺はどうあるべきかは、知らないが。
常により強くなろう、そう思うのは良い事じゃないか。
向上心は常に持たなきゃな。
でもな、君はそうじゃないんじゃないか?
いや、ただの勘。
根拠も何もなし。ふと、そう思っただけ。
彼は強くなりたいとかそんなこと思ってない。
欲しいのは最強と呼ばれる称号であり結果。
勝てばよかろうなのだァァァァッ!!の精神の人間に見える。
ま、それもいいだろうさ。
君は君、我は我也、されど仲よき。ってやつだ。人は人 吾はわれ也 とにかくに 吾行く道を吾は行くなり、でもいい。つまりは人それぞれだ、他人に迷惑をかけない範囲で勝手に頑張ってくれ。
話もしてない段階で、見切りが早いかな?
ただの俺の第一印象さ。
キリヤマさんとの話を聞いたらまた変わるかもしれないよ?
正直言って彼が気に入らん。
何から何まで、お気に召さないわ。
これまでもこれからも、お互い別々の道を無干渉に歩もうじゃないか。
「奴が居ないのなら、ここに意味はないな……オレは宿に戻る。お前たちは好きにしろ」
そう言い残すとショウゴ君は、黒いマントを翻して去っていった。
本当に何だったんだ……お前は何しにきたんだよ。
「ショウが帰るなら、わらわも帰るとするかのぅ」えーとクラウディアだっけ、のじゃロリの賢者の子だ。
「クレアも帰ろう?」確か、こっちの子は聖女のティナだ。
「うむ…私は、昨日の不完全燃焼がな……」剣聖の子だ。そうそうクレア。
いやー、みんなかわいいね!全員、日本に連れて行けばアイドルにもなれそうだ。ショウゴ君、このメンバーは顔で集めたのかなぁ。ショウゴ君には興味無いけど、彼女達には興味深々だなぁ。許されるなら仲良くなりたいっすね!
しかしクラウディア嬢は本当にショウゴ君を追いかけて出て行ってしまった。ティナ嬢も帰りたそうにしてるけど……クレア嬢はそうでもないみたい。
「この国の男どもは腰抜けばかりかっ!誰か腕に覚えのあるものはいないのか!?」
これにはギルド内、シーンである。いきなり叫ばれても何が何やらだよ。そういや、この前の編入試験でも似たような事を言ってたな。この国の出身じゃないのかな……ああ、この子もラウルシュタイン帝国の出身なのかも。
「私に勝てるなら、一晩中酒の相手をしてやっても良いぞ!こう見えても私はA級冒険者だ!誰ぞ、骨のあるヤツはおらぬのか!?」
なんか、どこかで聞いたようなこと言い出してきたよ。ほら、逆にクスクスと笑いが起こってるじゃない。でも本当にA級ならすごいな。今ここに居る連中の中でも最上級ってことだ。
「スマンな、お嬢ちゃんに挑む暇があったらレティシアちゃんの方に挑戦するわ」
「はぁ!?」
クレア嬢の困惑も尤もだよなぁ。ある意味、新鮮な扱いだろう。なんだろうね、腕に覚えのある美人は似たようなこと言い出すんだろうか。
「小娘にこうも言われて腹も立たぬのか、お主らは!ここで一番腕が立つのは誰だ?!」
小娘に何を言われたとしても、別に腹も立たんけどね。誰でもいいから相手してやれ…よ………なんでギルド内の皆さん、こっちのテーブル見てるの。
いやいや皆さん先輩じゃないですか。お強いじゃないですか。普段はグイグイ前に出て俺が俺が、で若手のチャンスを潰す勢いじゃないですか。隙あらばMCに食って掛かるタイプじゃないですか。ちょっと待ってくださいよー!と言いながら雛壇からすぐに立って前へ前へ、じゃないですか。ガヤは任せろって感じじゃないですか。クルマをぶつけたとしても気づかずに逃げちゃうタイプじゃないですか。それに僕ら変人担当じゃないんですよー。
「彼女は一番腕が立つのをリクエストしてるんだぞ。名乗りでろよ、リーダー」
剣で戦うならクリスだろ。自分で名乗り上げろよ王子ー。
こんな時だけリーダーとか言うんじゃないよ!
「はいはい!この人がやりますよー!」
いやいや、止めてセシル。は、恥ずかしい…!
「ぬ……若いな。そなたがそこまで腕が立つようには見えぬが…うん?どこかで会ったか?」
あー、入学試験でチラッとニアミスしてますが。
よく覚えてますね。
「アレク、お相手して差し上げなさい。……ただし剣で、ね」
お師匠様、何を言い出すんですか。槍使いがA級冒険者の剣士に、それも剣聖を相手に剣で挑むてか。あなたに鍛えられてるから剣も全くの素人でもないけどさぁ……普通にやったら勝てる訳ないでしょうが。しかし、そんな俺の気持ちも知らずギルド内のみんなも盛り上がってきたよ。指笛をぴゅーぴゅー鳴らしてる。アンタら他人事だと思って…!
「大丈夫、貴方が怪我しても私が治す」
おう、ティナ嬢。そのために貴女は残ってたんですね。フォロー係か。色々大変そうだな、君も。つーか、あなたのツレに足を撃たれた玉砕かれ先輩も治してやれよ。下手すりゃ死んでたよ、あの場面。
「亢龍の牙を使う?出そうか?」
「それともデュランダルを貸そうか?」
めちゃめちゃ楽しそうだな、君らも。
人の気も知らないでノリノリじゃないですか。
う~ん……その二択なら、どっちかっつーとデュランダルかな。聖剣……なんとも魅力的な響きだよね。うん、どうせ運命から逃れられないなら聖剣を貸して貰おうか。それに一回、聖剣を使ってみたかったのも確かだよ。
「おおっ!?アレクシスが剣でやるってよ!おい、賭けようぜ!」
「えー、この女の子はそんな強いのかー?オレはアレクシスに賭けるぞ!」
「この子、剣聖だそうですよ」
「剣聖…?なんか知らんけど強そうだな!A級なんだろ?俺は彼女に5000G賭けるぞぉ!」
いやぁ、皆さんも本当に楽しそうですねぇ。
全員ぶっとばしてぇな。
「何故、私が剣聖と知っている……?」
「あぁ、学園の試験で話してるの耳にしましてね。お手柔らかにお願いします」
結局流されて、こうなってしまった。
どうにも解せぬ。
階下の訓練スペースに移動しながら何故こうなった、と天を呪う。俺はどこで選択肢を間違えたのかな……いや、さっきから俺の前に選択肢なんか無かったよ。前回のセーブ地点に戻っても、この展開からは逃れられなかっただろうな。
やるならやるで覚悟を決めようか。さて相手はクレア嬢。A級の剣聖か……強そうだな。どのくらい強いのかな。うーん。なんでもいいか。相手の想定はいつだってルーとしておこう。
剣聖ってのがどれだけ強いとしても、あのかわいい魔神より強いはずはないからな。そして、その想定なら開始の瞬間から全開じゃないと瞬殺される。
クレア嬢と相対して、今更ながら気がついた。
この子の武器は……あれは日本刀かな?鞘の中なので詳しくはわからないけど、あの柄。そして鍔と鞘の反り。前世でも日本刀なんて手に取ったことはないけど、何度か見たことはある。この世界にも日本のような文化の国があるのか。東の方にあるんだろうか。だとしたら、いつか行ってみたいもんだ。
「それでは、始めっ!」
勝負はティナ嬢の掛け声で始まった。
俺とクレア嬢は同時に剣を抜き、彼女の正眼の構えと俺の雄牛の構えで向かいあう。少し、居合い抜きを警戒したが様子見のつもりかな。武器は違えど、万を超える回数の死線の上で魔神の動きを見てきたんだ。死に際の集中力で見てきた神の動きを再現してやるよ。
いくぞ、剣聖。
舐めんな、こっちは魔神の弟子だぞ。
一足一刀の間合いに入るや否や、クレア嬢の空気を切り裂くような斬撃。
あっぶね!!!
かわいい少女の放つ斬撃じゃない。
剣速だけなら、クリス以上だろう。
もしかして剣聖って名前のスキルなのかもな。
そんな剣聖の一閃を避けた俺、我ながらすごいな。
「飛斬ッ!」
おお!?飛ぶ斬撃ってやつ?それ自体はセシルの得意な風魔法に似てるけどそれよりも圧倒的に速い。
でも、その斬撃ですら俺には止まって見えるんだ。
ああ、なんでだろうな。
こんな時に、少し思い出した。
多分、最近の俺が弱くなっていた理由。
少しずつ強くなって、ゾーンに入ることでルーの斬撃ですら見えるようになっていった。それまでは見えないからこそ、なんとかしようと足掻いてもがいて、少しでも動きの無駄を削いでいたのに。ルーの動きを、手の位置を足の運びを見て盗んでいたのに。
見えなかったものが見えるようになったが故に。必死で積み上げたものを顧みなくなっていたのかもしれない。必死で研き上げた身体の動きを、運びを軽視していた。
そして、俺は弱くなってしまった。
何を言ってるか訳わかんない?俺も言っててわからなくなったよ!
「はッ!」
裂帛の気合と共に繰り出される剣聖の一振り一振りを紙一重でかわす。彼女が次に攻撃しにくい位置に、そして俺の攻撃がかわしにくい位置に、そして俺が攻撃しやすい位置に。先を読んで少しずつ剣聖を追い詰めていく。そうだ、あの頃の様に戦ってみよう。
まるでパズルか、詰め将棋だ。
一手ごとに、苦しい姿勢を強いられて彼女の一太刀は鈍くなっていく。そうなるように動いたつもりだ。そして最後の一手。苦しみながら足掻くような彼女の一振りを右にかわして、上段から振り下ろしたデュランダルを彼女の首筋で寸止め。
クレア嬢の赤い髪が数本、宙を舞った。
今日も出し惜しみ無し手加減無し。
勝負あり、だろ。
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
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