49 クララが立っ…
翌日、早朝。
数日前の出来事が嘘のような抜けるような青空の下。かなり飲んだ割には全員二日酔いにもならず快調だ。若い肉体って素晴らしいね。
そんな気持ちの良いヤンクロットの空には瓦礫を片付ける音、金槌で木を叩く音、色々な音が響いている。これはヤンクロットの街が、人々が立ち上がろうとする音だな。復興の音ってのは、なんとなく心が躍る。街の人々の活気に、俺はドラゴンゾンビに立ち向かう3人の勇者を思い出した。ああいう人達が居るんだ。この街は、きっと大丈夫だよ。
「気をつけてな」
「アッシンさんもね。あんまり女の子のお尻ばっかり追いかけてちゃダメだよ」
セシルに残念な先輩が注意されているけど、それは多分無理だろうなぁ。この先輩からスケベを取ったら……バカくらいしか残らないんじゃないか。
「君はヒトのこと、言えないでしょう…?」
耳元でルーに囁かれた。耳に息がかかってゾクッとした。貴女こそ……実はすげぇ肉食系じゃないですかぁ!って言いたいけど、それは俺だけが知っていれば良い。俺だけが知ってる魔神の秘密だ。
「さぁ、もう急ぐ必要もないし、帰りは順番に走って帰ろうか」
俺達の師匠も通常営業に戻った。もう少しサービスタイムがあっても良いと思うけど……それは次回に期待しよう。そして次こそは魅惑の一晩にしようぜ。さて……復路200kmを走れと言うのかね。いや、確かにここまで走ってきたけど。先日の200kmは直線距離なのか、実際はなんぼだ。1人当たりはだいたい70kmかぁ…。フルマラソン以上ってキツすぎない?
「今度は1人で全部走れとは言わないから。ほら、先陣は君からだ」
ちょうど馬は一頭足りないんだ。またルーと2人乗りできると楽しみにしていたんだが……甘かった。まぁ想定の範囲内だよ。悔しくなんかないってば。な、泣いてないよ!目にごみが入っただけだよ!
「えー……お前ら、普段からこんなことしてるの?」
走り出すと、同行のアルバンさんがドン引きしていた。いや、俺達もこれが普通じゃないの、わかってますからね?
『血塗れの火炎』の面々がしばらくヤンクロットに残るとはいえ、王都のギルドマスターにも筋を通さなきゃいけない。緊急依頼を受けて来た以上は結果の報告も必要だ。とはいえ、報告の為に全員で戻る必要もないし効率が悪い。
そういう訳で、帰りのメンバーは俺達4人にアルバンさんが加わっての5人だよ。そして経験豊富なベテラン冒険者の知識は本当に貴重だ。せっかくなので、そんなベテラン冒険者からのサバイバルの基礎知識講習を行いながらの帰路です。それを行いながらのランニング。しかも日々の宿泊も宿に泊まるでなくテントで野営するよ。地味にハードだよなぁ………確かにね、魔法もあるからこの世界の人々はサバイバル能力が高いと思う。でもどんな状況で何が起こるのかわからないから、こういう訓練も必要だ。
いつどこで、ここをキャンプ地とするッ!なんて言い出す場面になるか。そして言い出しそうな師匠が居るんだよ、うちには。言い出しそうというか、言う。時間の問題で確実に言う。だから今から備えておこうよ。
さて。サバイバルの基本その1、水の確保。水は生命の根源だ。そして俺達は全員が水魔法を使える。なので魔力が残っていれば水の確保は容易いんだけど……魔力が無い、もしくは魔法が使えない場合も想定しないとね。例えば雨水を集めるとか。地形や植生等からの水辺の探し方とか。
「最後の手段として、馬や人間の小便を飲むってのもあるぞ」
「えぇ~……ボクはそれはちょっとヤダぁ~」
「セシル、最後の手段だってば」
今、ここで飲めとは言わないぞ。
それじゃ特殊でハードなプレイだからな。
まぁ確かにハードルは高いよな。
もちろん俺だってイヤだよ。
水について教えてもらいながら走って、日が傾いてきたので今日は早い目にキャンプするよ。実は俺達、キャンプもほぼ始めてなんだ。セシルとクリスはヤンクロットに向かう途中、『血塗れの火炎』の連中とキャンプしただろうけど、その程度の経験だし。俺も前世で日本の学生時代にキャンプした以来だから本当に役立たずだよ。ソロキャンとかやっておきゃ良かったかなぁ……せめて動画でも観ておけば良かった。アレクです、アレクです、アレクです………。
一応ね、テントは買ってあるんだ。そして事前にテント設営の練習もしていたんだけど……結果、なんとか頑張って設営したけれどもアルバンさんが居なかったらどれだけの時間がかかってただろうか。これも慣れたらさほど難しくないんだろうけど、かなりめんどくさい。地球での進化した高性能なテントとは訳が違う。やっぱりね、冒険者ってのは戦闘に強いだけじゃダメなんだよ。俺達は冒険者として確かにE級だわ。
サバイバルの基本その2、火の確保。火は暖かくなるし料理も出来る。水の殺菌も出来るし夜の闇や魔物、獣も払う。そして俺とクリス、ルーは火魔法が使える。セシルは火魔法は使えないけど精霊魔法がある。まだ風の精霊シルフしか行使出来ないらしいけど、いずれ火の精霊を使えるようになったら火も起こせるようになるそうだ……なんか万能だな、精霊魔法。でも水の場合と同じく魔法に頼らず火を起こす手段も必要となるかもしれない。なのでアルバンさんに教えてもらうのは、魔力を使わない原始的な火の点け方だ。例えば火打石を使う方法だ。これもテントと一緒に買って持ってはいるけど、実際に使った事は殆ど無い。だって使う機会が無かったもんなぁ……。
まず焚き付けとなる燃えやすい枝や木の皮の探し方からはじまって、更に燃料となる木の枝とか薪を集めた。そして3人並んで、火打ち石をカンカンと………これ難しいな!こう火花が狙った場所に…こうか?違う、こうか!そして焚き付けに火種が着いたら一気に空気を送り込む!ふぅー!
これは……勉強になるわ。理屈はある程度知ってたけど、実際やってみるのと全然違うのね。無事、焚き火を起こせた時は3人揃って感動したわ。
その火を使ってルーが夕飯を作ってくれた。昨日の店も確かに絶品だったけど、この家庭的な魔神が作ってくれる料理は最高なんですよ。キャンプとは思えない程の美味しい料理を食べて、本日は就寝。
野営の場合、魔物や盗賊に備えて不寝番が必要になるんだけど……ルーが私に任せろと言い出した。その分、しっかり身体を休めて明日もしっかり走れと。申し訳ない気持ちも大きいんだけど、なんせ彼女は寝る必要の無い魔神ですならね。下手に気を遣って怒らせたくないので素直に寝させてもらった。
次の日も朝からランニング。
それと並行して、今日は食用になる植物の見分け方講座が開催された。ついでに薬草や毒草についてもレクチャーしてくれる。日本でも食べられる野草が多いのは聞いていたけど……実際に食べられる野草っては沢山あるんだね。もちろん、そのままでは食べにくいから処理が必要だったりするけど、ほとんどの野草が食べられるんじゃないか、と思う程に多彩でした。
しかし、野草には毒草もあるから用心が必要だ。更にアルバンさんはキノコについても教えてくれて、しかも毒キノコも色々見つけてくれた。これは……覚える事が多いな。知力が低い俺に不利かな?いや、記憶力は悪くないんだよ!頑張って覚えるよ!
食材を探しながらのランニング、そして時々魔物と遭遇しての戦闘。残念ながらゴブリンばっかりで食材になるような魔物には遭遇しない。そして本日の夕飯は山菜鍋ですよ。今日、採取した材料だけでの鍋。アルバンさんが居なけりゃ、めちゃくちゃ貧相な鍋になっただろう。
単なる帰宅途中だと思ってたけど、これは本当に勉強になるなぁ……アルバンさんの教え方も上手いし、これはお金が取れる講習会だな。
夕食の前には、今日も組手を行う。最初はいつものように俺たち3人がかりでルーと戦う。続いて、ルーに憑依してもらった俺対セシルとクリス。怪我はさせないけど、そのギリギリまで追い込まれるよ。アルバンさんは、これも見て引いていた。でもね、これは俺達の日常ですよ。
最後はルーに1人ずつ、挑む。相変わらず手も足も出ない。だけど。なんだろうか、何か掴めそうな……もどかしい感覚が付き纏う。俺は、とてつもなく大切な何かに気がついてない気がする。あー、もう!自分のバカが恨めしい。
こればかりは自分でなんとかするしかない。
王都への帰路、3日目。曇り空。
行きに比べて随分のんびりとした帰路だ。時折、セシルの気配察知に見つかった魔物を倒しながら順調に進んでいる。俺も魔物を探してはいるんだけど察知出来る範囲がまだまだ狭いなぁ。
そんな調子で走りながら、水がありそうな地形を教えてもらったり。食べられる野草が生えていそうな場所を教えてもらったり。昨日までに習ったことの総復習ですね。
それに加えて、今日のキャンプ地ではテントの他に簡単なシェルター作りも学んだ。突然の野営で、もちろんテントがありゃ、それが一番良いんだけど無いときは、木や草、葉っぱや蔦でシェルターを作るんだって。緊急時に雨や風から逃れて体温低下を防ぐ必要があるんだとか。
3人で、屋根の骨組みとして木を立てかけた。これに木の枝を組み合わせて……簡易な小屋の完成だ!なんとなく、北海道で黄金を探すジビエ漫画を思い出した。
「まだ完成じゃないぞ。大事なのは地面なんだ」
アルバンさんが言うには、地面ってのは人間の体温をどんどん奪っていくらしい。今みたいな冬はもちろん、夏であっても床断熱しないと体力を奪われてしまう恐れがある。なので床に柔らかそうな枝や草をしっかりたっぷり敷き詰めて断熱して……よし、これで完成!自分達で作ると、なんだか立派に見えるから不思議だ。なんとなく愛着も湧いてくるよねぇ。
「今夜はここで寝てみようかな」
「あっ、ズルい!ボクも寝てみたいのに!」
3人がかりで作ったけど、小さいんだよね……。頑張って、せいぜい2人が横になれるかなというくらの広さ。でも、初めて作った小屋で寝てみたいよね!
「じゃあ、2人で寝たら?」
クリスが呆れた顔で笑いながら妥協案を出してくれた。
「ダメ。セシルに欲情するような男と一緒に寝るなんて許しません」
しかし師匠が即座にダメ出ししてきましたよ。まぁ……普段、俺達は宿では3人部屋で一緒に寝てますけども。ていうか欲情してねぇよ。
「私がセシルと一緒に寝るから、君はテントで寝なさい」
そうするとテント内が男性オンリーになるじゃないか。いや、昨日もテント内は男性しか居ないんだったな。パッと見は男女混交でしたけどね。知らぬはアルバンさんのみ。別に秘密でも無いけど……わざわざ言う事でもないしね。
4日目、天気は晴れ。予定では今日の昼過ぎには王都に到着するだろう。ラストスパートですよ。走るクリスのペースも快調だ。
「王子も冒険者なのはわかってるけどさ……本当にいいのか?」
アルバンさんの今回の旅で何回目かの、いいのか?だ。慣れてください。俺達はもう慣れました。別に今日が初めてじゃないでしょう?慣れろというか、もう諦めろよ!
確かによく考えたらすごい光景だよなぁ。王子であるクリスだけ走らされていて、残りは全員馬上なんだからな。俺達にとっては今更な光景だけど……俺も改めていいのかなと思い始めた。
どこぞの世界には、貴族が庶民を殴ったら手を痛めて、そのために殴られた庶民の方が処刑された……なんて話もあるらしいしね。理不尽にも程があるけど、そういう世界なんだよ。
気にしないクリスの方が変なんだろうな。変人王子だもんな。もう王都まであと少しだから、このままゴールまで行くよ。まぁ大丈夫だろ、まさか王族がこんなとこを走ってるとか誰も思わないさ。
「大丈夫な訳があるか。せめて見えないところでやれ」
ギルドマスターの部屋に入って、秒で怒られた。
ですよねー!
反論の余地なし。
俺も怒られ慣れてるから何も言わない。
精神年齢はギルマスと左程変わらないのにね。
ヨソでやれとヒントまでくれているのに、これ以上求めるのもな。
落ち着いたところで、アルバンさんが代表して一連の経過を説明をしてくれた。俺達は勝手に行っただけなんで説明する義務はないんだけど、勝手に行かせてくれた義理はある。そして俺は義理堅い人間なんだよ。
「………なるほどな」
アルバンさんから、そして俺からの報告を聞いたギルマスは、そう呟いて沈黙した。あのな、ただでさえ威圧感たっぷりな風貌なんだから黙るなよ。俺も愛想は少ない目の人生を歩んでる自覚があるけど、アンタは皆無だな!地元のカール爺さんでも微糖程度には愛想があったぞ。そんなんで上司やれんのか?下が付いてくると思ってんのか?パワハラじゃないか?あぁん?
心の中で思う存分ギルマスを罵倒して、そろそろ許してやるかという気分になったとき、ドアをノックする音が響いた。
あら、御来客ですか。
じゃあ我々は帰りましょうか、と言うか帰らせてくれませんかね。
「入れ」
何故か俺から視線を外さずに、低い声でギルマスは入室を促す。部屋から出す気ゼロだな。なんか知らんけど、拉致監禁とかそんなワードが脳裏をよぎる。もしかして部屋を出るにはギルマスを倒すしか無いんだろうか。
部屋に入ってきたのはミシェルさんだった。
「『血塗れの火炎』と『漆黒の師団』の臨時パーティに関しての報告書だな。ラージアント討伐……女王蟻が2体というイレギュラーだったそうだが、討伐完了。その後、緊急依頼にてヤンクロットでのドラゴンゾンビ2体を討伐し住民の安全を確保した、と。その全ての依頼完了を確認した」
入ってきたミシェルさんから渡された書類を見ながら、ギルマスがそう言った。うん、うん。うん…?なんて?
「ごめんねぇ、アタシがラージアント討伐完了の手続きを終わらせる前に、アンタ達は臨時パーティを解除する間も無く緊急依頼を受けちゃったんだね」
そうだったかな。まぁ……手続き中だったような気はする。そうだ、討伐証明を提出中だったっけ。ほほう、じゃあ俺達は勝手にヤンクロットに行ったのではなく…?
「ギルドの緊急依頼に従って行ったわけだねぇ。そりゃしょうがないわよねぇ。手違いでC級と組んでたE級パーティを緊急依頼に参加させちゃってごめんなさいねぇ。アルバン、アンタもベテランなんだから、ちゃんと確認してくれなきゃ」
「あー……そうだな。あの時は俺達も慌てたしな。スマン、アレクシス。どうやら、俺がうっかりしてお前らを巻き込んじまったみたいだ」
2人ともニヤニヤしちゃってさ……茶番もいい所だろうよ。役者としては3流以下だよ。俺達は巻き込まれたじゃなくて、自分から飛び込んだんですけどね。
「そういうわけで、ミシェルとアルバンには口頭注意をもって処分とする。……今後気をつけるように」
それで終わり?
お説教は無しで終わりでええのん?
「結果、お前らは問題になる行動をしていないことになるからな。ただしD級への特別昇格もないが」
それはいらねぇって言っただろうが。まぁ……大人が配慮してくれたなら、子供は大人しく受け取っておこう。ちょっと都合良すぎかな?でもサンキュー、ギルマス。顔は怖いけど話わかるじゃん。
「お前らは要注意と言うより、要警戒な連中だとよくわかった」
うむ。認識は悪化したような気がしないでもないが。
「まぁでも……よくやった」
デレた!
クララが立っ……いやギルマスがデレた!!
聞いた?
もっと大きな声で褒めてくれたらいいのに!
そんな小さな声でボソッと言うんじゃなくてさ。
俺達は褒められて伸びる子なのにね。
「そういや、ミシェルさん。これ約束のお土産だよ」
殆ど全部ヤンクロットに寄付してきたんだけどさ、ミシェルさんのお土産用に大きなのを1本だけ確保しといたんだ。こんな場面で申し訳ないけど、忘れないうちに渡しておこう。
暴君赤竜の骨。
かなりのレアものらしいね?
「アンタ……お土産ってこれ…コレの価値わかって言ってるのかい?これだけで少なく見積もっても5000万G……いや下手すりゃ億を超えるかもくらいはするんだよ」
ほほぅ………マジっすか。それだけの値で売れたら十年は、いやミシェルさんの年齢なら生涯遊んで暮らせるかもな。ちょっとやりすぎたかもしれんね。でもな、男が価値を聞いてから引っ込められるかよ。欲しけりゃ、また竜を倒すからいいさ。今度は独力で倒すよ。
「これからも、たまぁーに迷惑をかけるかもしれないからさ、前払いだね」
「アンタ達の迷惑料の前払いって言うなら……多分すぐに足りなくなる気がするよ」
失敬な。まあウィットに富んだ受付嬢ジョークですよね、わかります。だから、そんな本当に可哀そうな子を見るような目はやめてくれませんか。
………あの、ジョークなんですよね?
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
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(人>ω•*)お願いします。




