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43 私の年収、低すぎ…?


 事前に調べてもらった巣穴に風下から近づくにつれて……なんか嫌な匂いが漂ってきた。これは……ハッキリ言って臭い。これがラージアントの匂いなんだろうか、それとも違うナニカなのかな。蟻の匂いってこんななの?

 まだ少し距離はあるけど、虫の甲殻が擦れ合うような音が聞こえてきた。あー………いるわ。既にラージアントが何匹か巣穴の周囲にいるわ。これは本当にデカい蟻だなー。1m?もっとだな。少し小さめな馬くらい?虫だけど背中に人が乗れそうだな……こいつに乗りたいと思う人は少ないだろうけど。乗り心地も多分、そんなに良くないだろうしね。

 いやー、とにかくキモイ。そういえば俺、虫嫌いだったわ。前世の子供の頃は平気でカブト虫やクワガタを捕まえてたけど大人になると嫌になるもんだよね?多分、みんなもそんなもんでしょう?そうでもないのかな。しっかしアレは気持ち悪いなー………でっかい殺虫剤をプシューってしたいね。ダメだ、辛抱できん。これもバック・フィーバーというヤツか?しょうがないよ、初心者だしな、俺。ええぃ、やってしまえ。


「ヒャッハー!《極灼炎砲》!」


 あー……撃っちゃった。つい。だって大蟻が気持ち悪いんだもん?しょうがないよね。うん、しょうがない。青く燃える超高温の弾丸をイメージして放った炎の弾。それが巣穴の手前に居た蟻を何匹かまとめて貫通して、巣穴の少し奥の方で派手に爆発した。大丈夫、この爆発で巣穴が埋まることはなかった。さぁ、開戦だ!みんな、頑張ろうぜ!


「な…な…な………!」


 お、アッシンさん、知ってるの?ナナナナ~ ナナナナ~ ナナナナ軟骨ぅ~いきなり撃ってごめ~ん まことにすいまメ~ン♪わかってる、クソつまんないのはわかってるんだ。でもオヤジってのはこういうのが好きなんだよ。なんでかって?本当になんでだろうね……。


「「「アホかぁっ!!」」」


 お叱りの言葉が周囲から殺到した。プチ炎上、という言葉が頭をよぎった。悲しいかな、その声の中にセシルとクリスとルーの声は聞こえなかった。身内にとってはこれも想定の範囲内、と言うことなのかも。何気にこれが一番キツい現実だった。彼らもかなり訓練されてきたな、うん。

 いや、わかる。わかるよ。みんなの気持ちはよくわかってる。俺だって自分のこと、バカだなと思ってるもん。でも、もう撃っちゃったし。走ろう。戦闘開始だ。ほら、うじゃうじゃ大蟻が出てきたよ!うっはー!キモ~い!こういう系、ホントに無理だわー!


「ギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂギヂッ!!!」


 蟻達が一斉に大顎で歯軋りのような音を鳴らした。これは怒ってるのかな。怒ってるんだろうな。その音は仲間への警報でもあるのか、巣穴の奥から更に続々と大蟻達が出てくるよ。すっごい数。


 こりゃたまらん。

 振り払えば蟻。突けば蟻。全方位が敵だ。


 アルバンさんはラージアントには際立った弱点はないと言ってたけど、確かに甲殻は硬い。並の刀剣・槍なら弾かれてしまいそうな硬さ。しかしカールの槍は、そんな硬い甲殻をものともせずに貫いてくれる。カール爺さん、アンタ本当に世界一の鍛治師なのかもな。いやいや、いかんぞ。装備に胡坐をかいてはいかん。


 きちんと少しでも柔らかそうな腹部を攻撃しよう。

 気配も気流も振動も周囲の音の反響も感じよう。

 自分を中心として周りの全てを把握しよう。

 その上でゾーンに入る。

 全方位の敵は、そのまま全方位の的になる。

 

 たまらん。敵に囲まれて、今の俺……楽しい。


 おお、左後ろから一際大きなラージアントの大顎が俺に迫ってる。でも、これは悪手だろう。めちゃくちゃに勝手やってるけど、今の俺は1人じゃないんだよ。そっちからそう来たのなら、お前のその首はクリスの剣によって身体と永遠のお別れだ。今度は前方からとやや右寄りから2体のラージアントがほとんど同時に襲ってくるが、セシルの矢が既に右寄りの方に向かって放たれている。当たる前に分かっているんだ、お前はもう死んでいる。


 そっち側に無防備を晒して、前方の蟻に突き!

 良いのが入ったお陰で、一撃で倒せた。


 乱戦の中で俺のノルマの分の20体はもう倒したはずだ。でも、ルーの分も倒さなきゃいけないから追加の20体だ。まだまだ行くよ!


 こりゃたまらんね。心が震える。


 今日の俺は絶好調か。勢いに乗って……もしくは調子に乗っていこう。ラージアントの攻撃は当たる気がしないし、俺の攻撃は外れる気がしない。今日も出し惜しみ無し手加減無し。集中して甲殻を突く、貫く、穿つ!ありゃ、大蟻を倒し続けていたら俺だけ突出しちゃって巣穴のすぐ近くまで到達してしまった。まだ続々と大蟻が巣穴の奥から出てくる。ここは1番危険な場所だけど、同時に1番楽しい場所でもあった。







「アレク、ちょっと戻りなさい」


 大きな声ではないけど、師匠のよく通る声で呼び戻された。俺はいつだってルーの声を聞き逃さない。師匠の言うことはちゃんと聞くよ。え、初っ端にいきなりぶっ放した?しょうがないよ、あれはバック・フィーバー、バック・フィーバーなんだから。しょうがないんだから。

 巣穴の前で次々と出てくる大蟻を相手に無双して……調子に乗って更に大蟻共に囲まれていたけど、師匠に呼ばれてるのに待たせる訳にはいきませんからね。周りの大蟻共をすばやく斬って突いて薙いで、その全てを沈黙させて一旦、師匠の元へと戻った。あれ、もう黒い鎧は脱いだのね。目の保養になるから俺は嬉しいけど。


「色々と君には言いたい事があるけれど、それは後にするとして……気付いてる?この気配」


 ええ、巣穴の奥から今までのラージアントとは比較にならないほど大きな魔力を感じさせる存在が近付いている。多分、これが女王蟻。クィーンの登場か。いよいよ。ラスボスだ。わざわざ自分から出てきてくれるとはありがたい。


「女王も怒り心頭だな……今日はいきなり我儘したんだから、君が最後まで責任を取りなさい」


 師匠にそう言われて、再び巣穴の前に戻った。最初からのラージアントの匂いに加えて、周囲にはむせ返るような悪臭……なんだろうけど、もう鼻が死んでる。全然鼻が利かない。さっきまで限界が無いかの様に連なってワラワラと出てきていたラージアントも急にパタッと止まった。


 あれか、ラストダンジョンを踏破して。

 ラスボスの場所に辿り着く直前か。

 急に罠も敵も出なくなってるやつだ。


 ま、今回は中に入るまでもなく向こうから続々と襲いかかってきてくれているんですけどね。そういう意味では楽で良いや。戦闘中に束の間の休息だけれども、女王蟻の気配はどんどん近づいてきている。もうすぐそこ……いや、来た。現れた。暗い穴の底から、女王の降臨だ。

 残念ながら虫の表情なんてわかんないけど、確かに大顎をカチカチさせて怒りをアピールしてますね。今までの通常の蟻と比較しても3倍くらいの大きさはある。その身体は巣穴ギリギリの大きさ。特にお腹が長くて大きくて……めちゃくちゃ気持ち悪いな。羽も生えてる。羽蟻だ。見た感じではとても飛べなさそうだけど、こんなので飛ぶのかな。更に女王蟻以外にも羽付きの蟻が何匹か出てきた。こいつらは幹部か親衛隊って感じなんだろうか。


「コイツが巣別れする筈だった女王蟻だ。若い分、元気だぞ」


 アッシンさんが解説してくれた。

 なるほど、デカくて強そうですね!


「当然つえーよ。単体でCランクなんだぞ?周りの羽付きはオスだ。飛ぶ前に叩くぞ!」


 なるほど、女王とそのハーレムが相手のようだ。魔物なのに…蟻なのに…ハーレムだなんて羨ましい!ちくしょう、嫉妬の炎をくらえ!


「《極灼炎砲》!」


 羽は燃やしちゃう、で良かったのだろうか。それとも濡らしちゃった方が良かったのかな。……足元がぐじゅぐじゅは嫌だから燃やそう。ぐじゅぐじゅよりサラサラのふわふわが好きだなぁ、俺は。


「《乱風刃》」

「《極灼炎槍》」


 セシルとクリスの魔法が周りの羽蟻を牽制して女王蟻までの道を切り開いてくれる。友よ、助かります。ルーに教えてもらったステータスの数値でもそうだったけど、俺の一番の武器は速さだと思う。相手の攻撃は避けてかわして一足一槍の間合いから、或いは懐に飛び込んで魔法を撃つ。

 俺の放った炎の砲弾をその身に受けて悶える女王に一気に近づいて、女王蟻の真下まで来ると……いやぁ蟻なのにクソデカいな。こりゃ本当に気持ち悪いわ。その女王が俺に気がついて下を見る前に、天まで貫け!とばかりにカールの槍を繰り出す。穿て、カールの槍よ!一撃必殺、顎下から頭頂部まで貫いてやった。如何に女王がでかくても、こちとら装備は槍だ。兵器之王は伊達じゃないよ。

 頭部を破壊された女王蟻がゆっくりと倒れたとき、巣の周辺にもう動く蟻は居なかった。『血塗れの火炎(ブラッディフレイム)』の面々も仕事が早い。


「おい、アレクシス!」


 アルバンさんに怒鳴られた。うわぁ……また怒られる。まぁしょうがないだろ、覚悟しとこう。自業自得だもんな。


「いや、そんなに怒ってはねーよ……後で反省はしてもらうがな。今のお前はすごく臭いからこっち来んなって言いたいだけだ」


 申し訳ないです。反省してます……え、俺臭いの?


「おい、アルファスを出してくれ……アレクシス、罰としてな、お前は巣穴の中に入って、これを全部燻して来い。そんで、もう一匹の女王蟻を引きずり出せ。他のみんなは討伐証明と素材・魔石の回収だ。残骸は最後にまとめて燃やすから一箇所に集めろよ」


 そうだ、さっきのが新女王蟻ならこの巣本来の女王蟻もいるんだった。それを引き摺り出す為にも受け取ったアルファスを持って、5メートルほど巣穴の中へ入った。ここでいいか。『血塗れの火炎(ブラッディフレイム)』が持ってきてくれた乾燥したアルファスを下に敷いて、さっき採取した新鮮なやつを上に乗せて……はい、着火。

 自分で毒の煙を吸ってはバカが過ぎる。少し巣穴の入り口まで戻ってゆる~く風魔法で奥に向かって送風だ。頑張って一番奥まで浸透してくれ毒の煙よ~。気分はうちわでパタパタ扇いでる感じ。





「そうだ、セシル……そうそう、そこにナイフを入れて筋を切るんだ。そうすると……ほら、こうやって簡単に甲殻が外せるだろ?魔石は、ほれ。ここだ」

「ジャメルさん、教え方が上手だねっ。タダのえっちなお兄さんじゃないんだね」

「バカヤロウ、男はみんなスケベなんだよ」


 俺の背後ではみんなが少し楽しげにトークしながら解体をしている。いいな。ちなみにラージアントの討伐証明は触覚だそうだ。セシルとクリスが先輩方ときゃっきゃ言いながら作業している。言わば向こうは花形部署だ。やり甲斐もあるし実に楽しそうだよな。

 でも俺は一人で巣穴の奥へ送風を続けないと。うん、地味だ。淋しい。こっちは窓際部署って感じがする。仕事してるから当然だけど、誰もこっちに来ないし。花形部署の向こうでは時折、大きな魔石が採れたらしく歓声もあがる。なんというか、仲間はずれ感がすごい。俺。一応リーダーなんだけどな……なるほど、これは確かに罰だな。しばらくして、持って来たアルファスは全て燃え尽きた。しかしまだ女王蟻は出てこない。


「おい、アレクシス。こっちへ来いよ」


 花形部署からお呼びがかかった。ついに栄転か。はい、喜んで!と居酒屋の店員並に駆けつけてみたが、外ではもう蟻達は全部解体され、その残骸を燃やしてる最中だった。


「だから臭いんだよ。頼むからそこで止まってくれ。多分な、もう少ししたら女王蟻が出てくる。心配すんな、殆ど死にかけで出てくるはずだ。それでもお前の匂いに怒り狂って襲い掛かるだろうから、お前は囮としてそこで待機だ」


 鼻はだいぶ前から麻痺して機能してない。想像以上に臭いんだよラージアントって。そして今の俺も相当に臭いらしい。そんなに?俺……そんなに臭い?一歩だけルーに近寄ったら、一歩下がられた。マジで?


「……全部終わったら消臭するから、あと少し頑張って」


 うわぁ……そんなに?私の年収、低すぎ…?今日、好きな人に臭すぎて避けられました。ショックだわ。全身にラージアントの体液を浴びてるんだろうか……思いっきり接近戦してたからな。

 ショックを引きずりながら、再び巣穴の近くに戻ってしばらく待っていると巣穴の奥底からずりずりと這いずるように、ゆっくりと女王蟻が出てきた。これも大きい。最初の女王蟻よりも少し大きい気がする。本来なら最初の若い女王蟻よりも強いのかもしれないが、毒のおかげで弱ってるようだ。見えないけど多分、既に体力ゲージは赤い。

 それでも女王は俺を見ると、その大きな顎を鳴らして威嚇してきた。怒りをそのまま、更に加速して俺に向かって襲い掛かってきた。今まで倒してきた大蟻は全てコイツの子供達ってことだからな、その気持ちはわからんでもない。

 口からいかにも酸、って感じの液体を放ってきた。蟻だけに蟻酸とかそういうのだろうか。しかし、遅い。毒のせいだろうかゾーンに入るまでもなく、鈍重としか言えない動きだ。クリスの放った火炎魔法を真正面から食らって仰け反ったところを頭部を切り落として終わり。


 最後はあっけなかったな。

 毒って本当にすごい。

 この女王蟻の解体だけは俺も参加できました。

 皆はまだ近寄ってくれませんけど。

 少し離れたところからジャメルさんの指示で解体する。

 俺、苛められてない?

 あっ、ちょっと泣きそう。

 仲間はずれ感が、すごいよ。






「よし、みんな疲れてるだろうが帰りは休憩無しで一気に帰るぞ。出来れば暗くなるまでに戻りたい」

 

 最後に、お説教代わりとして頭にアルバンさんからの拳骨一発を貰って終わった。痛ったぁ……ありがとうございます!反省してます!今度からは気をつけます!

 200匹を超えるという数のラージアントの素材だが、俺達の分はルーの収納魔法で収納してもらったし『血塗れの火炎(ブラッディフレイム)』は大容量の魔法の鞄(マジックバッグ)に入れていた。それ自体が相当な値打ち物だそうで、このために財産をほとんど使ってしまったので彼らは馬を所有できてないんだって。確かに魔法の鞄(マジックバッグ)はめちゃくちゃ便利だもんな。

 ちゃっちゃと帰り支度を済ませた俺達は、アルバンさんの号令で王都に向かって出発した。乗馬中、自分の腕の匂いを何度も確認してみる。まだ嗅覚が麻痺してるから全くわかんねぇ。


「もう臭くない?大丈夫?」

「さっき消臭魔法を使ったでしょう?気になるの?」


 そりゃあ、今もルーに密着してるからさ。臭いと申し訳ないじゃないの。さっき避けられたことをまだ気にしているんだよ。おもむろにルーが俺の腕に鼻を当てて深呼吸した。


「うん、いつものアレクの匂い……いや無臭だな。消臭しすぎたかな…?」


 無臭結構。

 それでも王都に戻ったら皆で風呂へ行こう。

 綺麗さっぱりしようじゃないか。


「私はアレクの匂い、好きなんだけどな…」


 俺だってルーの匂い、好きだよ。

 だから2人で乗馬って最高。

 密着できるし思う存分クンカクンカできるもん。

 当然やりすぎると腹に肘の一撃食らう、諸刃の剣だ。

 でもやっちゃうだろう?それが男だろう?


 今後もなるべく2人で馬に乗れる依頼を優先的に探してみようと思った。そして肘の一撃に耐えられるよう腹筋も鍛えようと思った。


拙い作品ですが読んでくださり、ありがとうございます。

この作品を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!

是非とも感想、レビュー、ブックマーク、評価を頂ければこれに勝る幸せは御座いません

(人>ω•*)お願いします。


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