39 幸運は雨と共に
結局、誠に遺憾ながらセクスィーイベントが起きることもなく冒険者となっての初日は終わり、夜が明けて2日目を迎えた。今日は朝から雨模様だ。
まぁいい。俺は雨も嫌いじゃない。むしろ好きと言ってもいいだろう。農家じゃないのに農家レベルに雨が好きな男だ。幸運は雨と共にやってくる、という言葉も俺は好きなんですよ。
朝早くからルーとセシルはもうギルドの資料室へと出かけていった。見送る2人は全然似てないが、それでも仲良く歩く後ろ姿はまるで仲の良い姉妹のようだ……実際には男女なんですけどね。
さて、そろそろ俺も事務総長シロウ・キリヤマとの面会に向かわねば。もちろん、アポなしでそう簡単に会えるとはいくまいが。行かなきゃアポも取れないもんな。
そこまで考えて、ようやく俺は気付いたわけだ。
……どこにいるんだろう、事務総長って。
事務総長っていうくらいだから……やっぱり事務所にいるの?なんの事務所だ。芸能事務所か。法律事務所か。探偵事務所か。
俺はどこに行ったらいいんでしょうか。
誰に聞いたらいいんでしょうか。
すげえ、一歩も歩いてないのに迷子になったよ!
我ながら、こういう所が知力を下げてるのかもしれない………どうしよう?そうだ、国の偉いさんの居場所は国の偉いさんに聞こう。知らないことは知ってる人に聞くべし。うん、王城だな。王城ならクリスが居るかもしれないし執事のフランツさんでもいいや、多分誰かが居るだろう。誰でもいいから偉い人を見つけて聞こう。偉い人の扱い方が間違ってる、と俺も思う。
こういう雨の日は、こっちの世界でも僅かではあるが傘が使われてたりする。傘より圧倒的に多いのは外套というかレインコートというのか、そういうのを被ってる人が殆どだ。もちろん傘も令和の日本での傘とは雲泥の差ですよ?コンビニのビニール傘でも、今ここにあれば無双出来るんじゃないかな。うん、ようやく異世界で現代知識無双だ。まぁ傘なんで作れないけどさ。
俺は雨は好きだけど傘は嫌いなんだよ。日本でも、ちょっとやそっと程度の雨と距離なら傘は差さなかった。だって、たかが水じゃないですか。でも、今日は偉い人を訪問するんですよねぇ。ビショビショに濡れた状態で偉い人に推参なんてダメだろう。しょうがない、傘を買わないとな。
「おぉ、アレクシス君じゃないか!今日はこんな所でどうした?」
王城の近くの道で徒歩の俺に馬車の中から声を掛けてくれたのは昨日も会ったマティアス王子だった。偶然ですね!今日も声でけーな!それに傘を差してたのに、よく俺がわかったなぁこの人。さて、これも雨が幸運を運んできてくれたのかな。それとも……?
「今日はセシル嬢は一緒じゃないのか?……ゴホン。そもそもだが君とセシル嬢はどういった関係かね?」
別に泳がせたいわけでもないけれど……真実ってのはなかなか言えなかったりもするもんだ。言える?セシルは男の子ですよ、って。だってこの人マジだぜ、多分。このキラキラした目に、あなたは言えますか?あなたって誰だよ。いや俺だって鬼じゃないんだ。昨日知り合ったばっかりだけど、明らかにセシルに恋をしてる人に……言えやしない、言えやしないよ。
もし言うにしても、それは俺以外の誰かの仕事だろう。
そして俺以外の皆もそう思ってるんだろう。
「セシルは幼馴染ですよ。ええ、恋人ではないです」
「そうか!そうかそうか!ちなみに昨日はあの後、俺のことは何か言ってなかったか?イイ男とかカッコよかったとか素敵とか惚れたとか抱いて!とか」
なんだろうな……あまり他人を見てるような気がしない。王子なのにバカの匂いがプンプンする。多分、ステータスを見ればこの人も知力が低そうだよなぁ。そういう意味では親しみが持てる、と言えなくもない。この国の国民としては、ほんのりと危機感を覚えるが。クリス、そしてルシアン王子には色々な意味で頑張ってもらいたい。次男は恐らく頼りになんねーぞ。
「どうでしょうね、昨日は新人登録してから薬草採取して無我夢中だったんで……」
「もう登録は済んだのか。パーティはどうした?セシル嬢は俺の『白き新星』に入らないだろうか…」
どこまでも諦めない人だなぁ……ストーカーにはならないよう気をつけてもらいたいものだ。
「俺達でパーティを作りましたんで勧誘はご勘弁を。それはそうとマティアス殿下、シロウ・キリヤマと言う方をご存知ですか?」
「うん?確か……聞いたことあるぞ。事務方の……うん、いつぞや会った事があるはずだ。そいつがどうした?」
「野暮用でそのシロウさんに面会したいんですよ。どこにいるかわかりませんかね?」
「そりゃあラスティン宮殿じゃないか?事務方なら」
なるほど、知らん。
それは国会議事堂みたいなもんだろうか。それとも霞ヶ関?あー、こういうのも知力を下げてるのかもしれないなぁ。よし、面会が終わったら本当に勉強しにいこう。さすがの俺もちょっとヤバいと思った。我ながら知的レベルが低すぎる!
「何度もすみません。そのラスティン宮殿はどこにあるんですか?」
「そうか、君はラスブールは初めてなんだったな。ほれ、あそこの青い屋根が見えるか。あれだ」
割と……近くだな。ありがたい。それにしても本当に、この王子は兄貴肌の良い人だな。まだクリス襲撃犯の黒幕容疑者ではあるんだけど、願わくばマティアス王子が犯人とは違いますように。この人が悪い奴ってのは、あんまり想像が出来ない。
「俺も教えてくれ、セシル嬢は今日はどこで何してるんだ?あと、好みのタイプとか喜ばれるプレゼントとか知らないか?」
「セシルはギルドの資料室で師匠と勉強中ですよ。好みのタイプとかは知らないっすねー」
セシルの好みのタイプ……マジで知らないわ。そもそも、それは男なのか女なのか。俺も聞いてみたい気もするけど聞くのが怖いな。
「自主勉強中か。流石はセシル嬢だな!しかしそれでは邪魔は出来んな……仕方ない。今日は諦めよう!アレクシス君、また冒険者ギルドで会うこともあるだろう。さらばだ!」
そう言ってマティアス王子を乗せた馬車は雨の中を颯爽と去っていった。うん、悪い人じゃないんだけどなぁ……なんとなく、セシル頑張れよと思った。
ラスティン宮殿は宮殿というだけあって、これもまたデカい建物だった。王城とどっちがデカイんだろうな。高さは圧倒的に王城だが。城と宮殿の違いもよくわからん俺が考えても時間の無駄ですね。つくづく無知は罪だな。それにしても本当にデカ過ぎで、どこが入り口なのかもわかんないな…アレか?宮殿の建物沿いに歩いていくと大きな門と、雨の中だが2人の門兵ぽい人が立っていた。
「すみません、ワタクシはアレクシス・シルヴァと申します。事務総長のシロウ・キリヤマさんに面会をお願いしたいのですが……これはクリストファー王子からの紹介状です」
丁寧に挨拶したつもりだが門兵さんは目に見えて迷惑そうな顔をした。わかる、その気持ちはよくわかりますよ。多分、こんな風にアポもなく現れる怪しい面会客なんてそうそう居ないだろうからね。そして恐らくこの門兵さんは、あくまで警護役であってこんな用件の中継ぎ役じゃないのだと思うんだよ。でも、申し訳ないが頼みます。
本来なら俺みたいな怪しい男なんて門前払い間違いなし、なんだろうけど俺には王子の紹介状があるからね。無碍にはできまいて。
「あー……しょうがないな。ちょっと取り次いでみるから、そこで待て」
背の高いほうの門兵さんが面倒だな、といわんばかりの表情を隠さず中に入っていった。ありがたいね。第一関門突破、かな。一応、クリスの紹介状以外にメモも一枚添付しておいた。多分、興味を持ってもらえるんじゃないかと思うんだけどな。
そのまま雨の中を15分ほど待っていると、先ほどの背の高い門兵さんが戻ってきた。面倒くさそうな表情はさっきとかわらない。果たして結果は…!?
「総長が会われるそうだ。中に入って待て。武器は持ってないな?」
魔法が使える世界でどれだけ意味があるのか知らないが、門兵さん達にボディチェックを受けた。そういえばボディチェックなんて前世も含めて初めてだな。昨日、クリスの父さんに会うときも無かったなぁ……今更ながら、いいのか王城。俺が言うのもなんだが、俺なんてどこぞの馬の骨なんだからな。セキュリティチェックを改善した方がいいと思うぞ。
チェックを受けてから中へ入ると……ここはどういう部屋なんだろうか、応接室と言うんだろうか、そういう部屋に通された。まぁね、人の仕事中に勝手に押しかけて待たされても文句は言えまい。会ってくれるだけでも本当に感謝だ。どうせ今日は朝から夜まで予定は無いんだから。トコトン待つよ。
しばらくすると、お茶を持った女性が現れた。ブロンドの髪の長い美人のお姉さん。まさか、この人がシロウさんじゃないよな…?全然日本人には見えないけど。もしこの人がシロウさんだとするならば、ご両親に斬新な名前を付けられたんですね…!異世界のキラキラネームですか?
「総長はただいま手が放せませんので、もうしばらくお待ちください。それと総長より伝言がございます」
やっぱり違った。そりゃそうだ。事務総長がいきなり来た不審人物にお茶を持ってこないよ。持ってくるかもしれないけど、もし持ってきたとしたら俺が注意するわ。そんな不審人物が待たされて文句言う資格なんざありましょうか。もちろん待つよ~。流石に10時間待てと言われたら日を改めるかもしれないけど。それよか伝言てなによ。お姉さんは俺に小さなメモを手渡してきた。
そのメモには漢字で、本物?と書いてある。
おお…!漢字だ!こっちこそ言いたいわ。本物だ!ここには間違いなく本物の日本人が居るぞ!ポツンと一軒……じゃなく異世界にポツンと1人だな。
「はい、本物ですとお伝えください」
必死で興奮を抑えて、冷静に返事した。いきなりでシロウさんがびっくりする気持ちはわかる。事前連絡なしで本当にすみません。いい歳の社会人がやることじゃない。あー、これまた今更だけど手紙を先に書けばよかったと思いついたわ。紙が貴重な世界に染まりすぎたのかも。いや、日本でも手紙は書いてないな……年賀状も途中で止めたし。雑でテキトーな性格が災いしてるね。
それにしても暇だ。どちゃくそ暇だ。
さっきの女性が現れてから1時間以上……時計見てないからわかんないけど2時間近く経過したんじゃないだろうか。勝手に来ておいて文句は言えないけど、文句を言いたくなる程の待ち時間になってきたぞ。居眠りしようにも朝だから眠くないし。あまりに退屈で、暇を持て余した神々の気持ちで待っていると再びドアがノックされた。
「お待たせいたしました。それでは、ご案内いたします」
おお、さっきのお姉さん。本当に待ちわびましたよ。スマホでもありゃ暇も潰せたんだろうけどなー。
お姉さんに連れられて部屋を出て、帰りはどうすればいいんだろう?と思うほどに何度か廊下を曲がり、ようやく目的地であろう部屋に到着したようだ。外観も大きかったが内部も相応に大きい建物だねぇ、流石は宮殿。そしてお姉さんのノックに、部屋の中から年配男性の返事が聞こえた。
「失礼致します…っ!」
中へ入って一瞬、思わず息を飲み込んだ。
そこにいたのは、グレイヘアだが紛うことなき見慣れた日本人!……まぁアジア人であることは間違いない。50歳……いやもう少し上の年齢かな?典型的な日本の中年男性が居た。おぉ……懐かし〜〜!!
「君がアレクシス・シルヴァかね?私がシロウ・キリヤマだ。ああ、アナベル君。君は席を外してくれ。うん、大丈夫だ」
会った瞬間に大丈夫だといわれても、あの、その。俺が言う事じゃないが、王族の紹介状があるとしてもいいんですか。もちろん危害を加えるつもりは一切無いですけどね?キリヤマさん、無防備宣言都市だなオイ。
さっきまで案内してくれたブロンドのお姉さん……アナベルさんが退室するのを待って、俺は日本語で会話を始めた。
『いやぁ本当に突然押しかけまして申し訳ありません、キリヤマさん。僕は元の名は春日井信也といいます』
『ほ、本当に本物の日本人か!?ああ、失礼。見た目がこちらの人なんで嘘なんじゃないかと思いましたよ。改めまして私は桐山士郎と申します』
うん、俺はこっちの世界での母から産まれてるから見た目は完全に現地人だよ。一応、黒っぽい髪だけど肌の色も日本人とは少し違うよ。
『僕は日本で一旦死んで、この世界に前世での記憶を持ったまま産まれてますんで。キリヤマさんは……日本人のままですか?』
『何があったのやら記憶がハッキリしないんですけど、気がついたら……この世界に居たんですよ。ええ、日本人のままで。最初は本当にビックリしたし、色々と苦労もしました』
しみじみとそう語るキリヤマさんは、確かに見れば見るほど懐かしい日本人のままだった。俺も少しは日本人的な外見なら、今の俺と同じように喜んでもらえたのかな。しょうがない話とはいえ、ほんの少しだけ申し訳ない気もした。そうか、転生じゃなく転移のパターンで異世界に突然放り込まれたのか、それでも今では国家の要職に付いてるんだからキリヤマさんは相当に優秀な人なんだろうな。
何十年ぶりの日本語での会話にキリヤマさんも興奮しているようだ。少しこの国の言葉の訛りが入って妙なアクセントになったりしてるのは御愛嬌だろう、何も言うまい。それは望んでこの世界に来たわけじゃないキリヤマさんにとっては悲しい現実だろうしね。
『聞きたい事はいっぱいあるのに……頭がまとまらないな。えーと、カスガイさんは何年生まれですか?そして何年にこちらに?』
『僕は昭和55年生まれです、めちゃオッサンでしたよ。死んだのは…こっちに来たのは令和2年ですね。今のアレクシスとしては17歳になりますが』
『おお、近いですね、僕は昭和54年生まれですよ。えーと、レイワってなんです?もしかして平成の次の元号?!』
『知りませんか?2019年の5月から元号は令和になったんですよ。キリヤマさんは何年にこっちへ?』
「僕は2008年……つまり平成20年にこっちにきました。うっわー、平成が終わったんだ…』
『ってことは、この世界に来て30年近くになるんですか?』
『もうそれくらいになりますかねぇ。カスガイさんはご出身は?僕は名古屋生まれで18歳からは東京の調布市に住んでました』
『マジすか。僕は生まれは奈良で育ちは名古屋ですよ。結構ニアミスしてるかもですね。千種区に住んでました』
『うはー…まさか千種区って言葉をここで聞くとは……僕は守山区でしたよ』
同じ日本人だけでなく同年代で地元も一緒かよ。道理で時々アクセントが名古屋っぽいなと思ったんだ。まさか高校まで一緒とか……とまで思ったが、それはさすがに別だった。その後も残してきた家族や地元のローカルな話からテレビやマンガの話にまで話題は多岐に及んだ。
キリヤマさんは日本では、あの液晶で有名だった家電メーカー勤務だったそうだ。目の付け所が違うんでしょうね。多分。
『それにしてもキリヤマさん、上上下下左右左右BAにはビックリしましたよ。お陰で日本人がいるって確信出来ましたけどね』
『ゲーム好きだったんで……漢字があるしアルファベットもあるし大体の年齢も伝わるかな、って思いまして。カスガイさんも王子の紹介状に、犯人はヤス、てメモを貼り付けてくれたじゃないですか。これは完全に日本人が来た!って興奮しましたよ。なのに顔を見たら若いし肌の色も違うしで……本当に焦りました』
犯人はヤス。古いけど日本一有名なネタバレのひとつだ。日本一有名な隠しコマンドの返信としてはふさわしいんじゃないだろうか。
『いいともやこち亀が終わるって……平成って激動な時代だったんだなぁ…』
確かに平成も激動だったが、やっぱりそこに食いつくんですね。それ以外にもキリヤマさんが知らない日本の話をした。
Sマップも解散したよ。
東日本で原発事故を伴う大震災があったよ。
東京でオリンピックやることになったよ。
でも世界的にパンデミックが起こってオリンピックは延期になったんだ。
あのバカ殿も亡くなりましたよ。
……なんだか盛大にネタバレしちゃって申し訳ない気もするね。
『まいったなぁ、頭が付いていけませんよ。あれからそんなに時間がたったんだなぁ…』
一段落したところで、キリヤマさんは椅子に背を預けて天を仰いだ。
気持ちわかりますよ、とは断じて言えない。そりゃわかる部分もあるけれども、似たような境遇かもしれないけれども。所詮は似て非なる、だもの。キリヤマさんの気持ちはキリヤマさんだけのものだ。俺だって令和3年以降の話を聞いたら……どう思うんだろうな。
『……カスガイさんは今、幸せですか?』
『アレクシスとして十分に幸せに楽しく生きてますよ。キリヤマさんはどうです?』
『幸せ、なんでしょうね。こっちで結婚もして子供も出来て、国家の重職にもある』
結婚してるんだ!子供もいるんだ!よく考えたら俺にはソレを驚く筋合いもないんだけど、でも驚いた。キリヤマさんの人生も波乱万丈だな。待て、外伝か。
しかしキリヤマさんの表情は、幸せそうではあるが満足している人のそれとは、違う。やっぱり、そうなんだろうねぇ。
『………日本に帰りたいんですね』
『そりゃそうでしょう!いきなりこんな世界に飛ばされて!俺が何をしたって言うんだッ!』
俺は……前前世の記憶は残ってないけど元々この世界の人間だ。帰ってきた、人間だ。そして生まれ変わった以上はこの世界の所属だ。それに加えて不本意ではあるけれど地球では既に死んでいる。色々と諦めのような納得をしたもんさ。そんな俺でも日本に戻りたい気持ちは、ある。
生粋の日本人であるキリヤマさんはひとしおだろう。納得なんざ出来るはずもない。してたまるかよ。
『カスガイさん……今は冒険者やってるんでしたっけ。魔物と戦いました?』
『はい、ぼちぼちとですけど…?』
いきなり、何の話ですか?
『確か冒険者ギルドには常時依頼でゴブリン討伐もありましたよね。不思議に思いませんでした?』
何を?いや不思議だらけの世界なんだもん。
どこから不思議に思ったら良いのやら、ですよ。
ツッコミどころが多すぎるんですよ、この世界。
ウッソだろオイ…?って何回言ったことか。
言い出したらキリが無いっすよ。
『カスガイさんの今の名前、アレクシス。それってアレクサンダー大王由来じゃないですか?クリストファー王子だってそうだ、これってキリスト由来でしょう。そしてゴブリンだのオークだのドラゴンだの、どこのRPGだと思いませんでした?』
それは思った。他にもドワーフだのエルフだの(エルフはまだ見てないが)知ってるー!って思ったよ。《最後の幻想》でも《竜を探求する物語》でもみたみたー!的な。うん、お約束なのかなーって。今日ここに至るまでも色々なテンプレいっぱいでしたよ。
『まぁね、名前はまだ良いんですよ。過去にも我々のように地球から来た人間が居たんでしょう。それより問題は、この世界にゴブリンやドラゴンが実在することですよ』
問題って。別に困るような事でもないでしょ。ま、困ると言えば困る存在かもしれないけど、何故それを言うのかな……?
『そりゃあ今言った様に昔、地球から来た人が………あれ…?』
『そうなんですよ!我々の知識にはあるけど地球には居ないモノがこの世界には、いる。これはおかしいんですよ!』
そう言って興奮したキリヤマさんは既に冷たくなったお茶をグッと飲んだ。そして改めて語り出す。
『だからね……これは逆。過去に地球の誰かがこの世界に伝えたんじゃない、この世界のゴブリンだのドラゴンだのが、地球に伝わった…!』
なるほど。地球には居ない生物がこの世界には居るのだから。しかも地球と共通の認識があって、現物がここにあるのなら……この世界発信だと。
するってぇと何かい、お前さん。
あなたが言いたいのは……!
『この世界から地球へ行った者がいる………!』
『そうとしか考えられない。他にも僕は現物を見てないけどエクスカリバーとかカラドボルグとか………物語やゲームで見たような武器がこの世界には存在するらしいですよ』
あー……そういえば、俺の親友の王子は聖剣デュランダルを持ってるわ。聞いたことあるあるー!って思ってたけど。あれが本物のモノホンか!?あれをモデルにしてたゲームで遊んでた訳か!?今度、ちょっとだけでも貸してもらお…。
『問題は、どうやって……ですね』
『僕もね、それを調べたかったんですよ。しかし残念ながら僕には自分でそれを調べるだけの力がなかった…この世界に放り込まれたときに色々と有用なスキルを得たようなんですがね……残念ながら事務的なスキルばっかりで』
え。キリヤマさん、チートスキルを授かったの?俺無いのに。ズルい。良いなぁ。羨ましいぜ。なんかキリヤマさんとの間に溝が出来た気がした。仲良くなれたと思ってたのに、一線を引かれたような。まぁ嘘ですけど。
『出来ることなら、自分で世界を廻って帰る方法を探したかった…!』
そう言って目を赤くして涙を浮かべる精神年齢同世代のおっさんは………茶化せないよねぇ。ここでね、やればいいじゃん、と突き放すのも簡単だけどさ。俺にやれてもキリヤマさんがやれるとは限らない。人は人、我は我。逆に俺には出来ないけどキリヤマさんには出来る事なんて山ほどあるはずだ。帰る方法か……俺にそれを探す依頼もしたいのだろう。でもそれを口にしないのは……この人の優しさなのかな。それとも、ズルさなのかもな。
『……まだ僕は雲を掴んだことはないんでね。きっと、とは言えないですけど』
ルーなら、あの封印解除は雲を掴んだと言ってくれるかもしれないけどな。あの人は俺に甘いからね。
『探してきますよ、地球へ行く方法。世界のどこかにあるとわかっただけでも今日は収穫がありました』
有り得ない御伽噺レベルの荒唐無稽な話と思っていたが……可能性ゼロの話じゃないとわかっただけでも良し。僅かでも見込みがあるなら、あとはハッスルするだけさ。
『まだ新人冒険者なんでね、申し訳ないが少々気長に待ってください』
『そうですか、やはりカスガイさんも帰りたいですよね!ええ、待ちます!待ちますよ……頑張ってください!』
まぁ……俺の場合は帰るんじゃないけどね。
それをキリヤマさんに説明する必要もない。
でも行きたいのは、行きたい。
正確に言うと連れて行きたい。
あの人を、日本へ。
『その方法が見つからなくても、またいつでも遊びに来てください。久しぶりに日本語で話が出来て嬉しかったです。他にも平成20年以降の話を教えてくださいよ』
そう言って俺とキリヤマさんの初会合は終わった。
実に有意義な時間でしたな。
帰りは、行きに案内してくれたアナベルさんが今度は出口まで案内してくれたので、迷子になることもなかったよ。地味に助かったぜ。あの展開でキリヤマさんと硬い握手までして別れたのに、すぐに出口どこですか?とか聞きに戻れないよ。
外に出ると、もう雨はすっかり上がっていた。うん、やはり俺は雨が嫌いじゃない。傘は別として、ですが。
今回も、雨は想像以上の幸運を運んできてくれたようだ。
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
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