38 ステータスを鑑定してみよう
冒険者ギルドの2階の資料室は、1階以上に閑散としていて殆ど誰も居なかった。勝手なイメージかもしれないが確かに冒険者達の手には、本より剣の方がよく似合う。そして資料室の入り口には地球の図書館で言う所の司書であろう妙齢の女性が座っていた。
「初めてのご利用ですか?冒険者カードの提示をお願いします」
「はい」
「利用料として1日500G頂きます。資料の外部持ち出しは禁止。貸し出しも行っていません。もしも本に傷をつけたり汚した場合は、別途、損傷に応じた弁償金を頂きます。筆記用具が必要なら、こちらで販売もします」
何度も繰り返して言っているのだろう、無機質で流暢な説明が続いた。だが私に筆記用具は必要ない。目にしたものは全て記憶出来るのだから。
まず、何から調べようか……アレクの言うように今の私は浦島太郎状態だからね。とりあえず歴史と地理、かな。司書さんに資料のある書架の場所を聞いて、適当に何冊かを手に取った。
よぉし、封印されていた1000年を一気に学んでやるぞっ。
本を読み出してしばらくすると階下で、なにか大きな音がした………十中八九、アレクとセシルが何かしたのだろう。それとも、何かされたのかな。あの子達は、何をしても……いや何もしてなくてもトラブル体質だからなぁ。ちょっとやそっとの降りかかる火の粉は払えるように鍛えてあるつもりだけど、怪我してないかな?
私は読んでいた歴史書を閉じて、小さな溜息と共にアレクとセシルの状態を探る。………うん、大丈夫。2人とも怪我はしていないようだ。それに近くに彼等を傷つけられるような強者の気配は感じられない。ならば放置決定。再び歴史書を開いて、さっきの続きを読み始める。かつてメルヴィルが建国に尽力したオリスティのその後を追ってみた。私も一時期住んでいた国なので少々気になる。
ほぉ~……残念ながら現在では既に滅んだ国のようだけど、それでもあれから随分と長く栄えたようだ。やはりメルヴィルが建国の礎になっただけはある。
流石は私のメルヴィルだなぁ。
少し誇らしげな気持ちで、更に夢中になって読み進めた。
「ルー、クリスも来たから冒険者登録を済ませたよ。そろそろ初めての依頼をやってみようぜ!」
アレクが呼びに来て、私は漸く時間の経過に気付いた。読み終えた本を元の場所に戻して資料室を出る。忘れずに、すぐに黒龍帝の鎧に着替えた。私も自分が異性の目に少々魅力的に映ることは自覚している………自分で言うのも恥ずかしいけど。多少の防衛策は講じないと私がトラブルを呼び寄せては師としての立場が無くなるからね。
トラブルと言えば……さっきの物音はなんだったんだろう?
「ああー……あれか。テンプレだよ、テンプレ。もう済んだから良いんだ」
なるほど。悲しいかな、それで大体何があったかがわかってしまった。まぁ2人に怪我がないのなら、いいか。アレクに続いて一階に降りると、依頼掲示板の前ではセシルとクリスが依頼内容を吟味していた。私も冒険者としては新人だから最初は簡単なのがいいなー……。
「今の時期は新人が多いから定期的に新人冒険者向けの講習会ってのがあるらしいんだわ。それを受けてからの方が良いんだろうけど、次回の講習会は明後日らしいんだよね。でも早く依頼をやってみたいじゃん!」
学校の卒業直後は冒険者も増える時期だそうだ。
私達は強さと言う一点では問題無いだろうが冒険者には冒険者の流儀があり、やり方がある。その点に関しては私も含めて全くの素人だ。しょうがないでしょ……だいたい、私の居た時代には冒険者なんていなかったんだもん。だから、この講習会は本当に大事。何事も基礎を疎かにしてはいけません。
なのに講習を受ける前に依頼なんて……一応、年長者として私は止めるべきなのだろうか。でも、本音をいえば私もワクワクしてるのだ。いつだってどこだって、アレクと一緒なら私は楽しいんだよ。
「どれにするー?」
「荷物運び……家屋の掃除……街の便利屋みたいだな。あ、最初はコレだろ!薬草採取!」
「えー、ゴブリン討伐はー?」
「なんでセシルはそんなに血の気が多いかな……あのな、冒険者ってのはな、最初は薬草採取から始まるもんなんだよ。それがお約束であり浪漫なんだよ、浪漫」
アレクは浪漫が好きだなぁ。それは構わないんだけど……私に迫るときも、もう少しロマンチックにして欲しい。それなら私も……って、勿論そんなことは言えないけど。
「ミシェルさーん、この各種薬草採取ってのはどれを幾つほど持ってきたらいいの?」
「アタシを指名するだなんて変わった子だねぇ…普通は若い子を指名するもんだよ?ああ、お嬢ちゃんがいるからか……で、なに?薬草?そうだねぇ…これ!これが一束だよ。だいたい10本で一束。一束からでも買い取るけど、これを少なくても10束以上で依頼達成、これで1500G。常時依頼だから普通は何かのついでに提出したりするんだよ」
魔神の私が薬草採取、か。前代未聞だろうなぁ。
いや、もちろんやりますよ?頑張ります。
「どこで取れるの?」
「最初はみんな西の森で採ってくるのが多いねぇ。あそこは魔物も殆ど出ないし色々な薬草のほかに毒消しとか生薬の材料が多いんだよ……ってアンタねぇ、アタシが暇だからいいけど本来は自分で調べるんだよ、こういうのは!」
おそらくこのパーティでそういった知識担当は私になるんだろうな。すみません、これからは事前に調べておきます。その目的地の西の森まで、王都の西門から出て5kmほどのようだ。早くしないと日が暮れてしまう。
……そうか、走ればいいんだ。
「王都に着いたら走らなくてもいいと思ってたのに~……」
「言うな、アレク。僕らはまだまだ修行中だぞ」
「ボクは強くなれるなら大歓迎だよ」
今日も3人で仲良く走っている。想像以上に基礎体力の底上げは出来ているようだ。地球のトレーニング理論って凄い。その理論をちゃんと実践出来てるかどうかはわからないけども。
ちなみに、私はアレクの馬に騎乗して更にセシルの馬を曳いています……これは楽してるわけじゃないんだよ?私まで一緒に走っても意味無いし。これは役割分担ってものです。そして歩けば1時間以上かかる筈の西の森も、彼らが走ればすぐだった。
「この辺だよな、西の森。しかしアレだな。一応薬草を調べたし見せて貰ったけど………全然わかんないわ、どれが薬草だ?」
うん。知識担当の私、頑張れ!くじけるな!間違いなく今後もずっとこうだぞ。そうだった……見る前に飛べ!の精神で生きているんだった、私の想い人は。
「これだ。この葉の形と色をよく見て覚えなさい」
「よくわかるねぇ……さすがルーだ」
「鑑定すれば間違えようがないからね」
もっと言うと私はこの世の全ての魔眼を超える神眼持ちだ。わざわざ鑑定のスキルを使う必要もない。
「えっ。鑑定って、あるの?」
そりゃ……あるよ。君がよく言う、お約束じゃないか。それより手を動かしなさい。口より手を、ですよ。
「ん~……?師匠、これは?これであってる?」
「それであってるよ。根の上の部分で切って……はいこれで採取、と」
本来、薬草は根付きの方が薬効も保存状態も良くなる。しかし根ごと採取しちゃうと根絶の恐れアリ、ということで西の森での採取は根は残すことが推奨されているそうだ。それでも天然物は栽培されたものより随分薬効が高いということで、一部には薬草採取だけで生活する冒険者もいるそうだよ。
そう言いながらも私も薬草採取なんて初めての体験なだけに、あまり自信はない。いっそ竜を倒す方が経験もあるし気も楽なんだけどな。
「レティシア先生、これで合ってますか?」
「はい、それで正解。これで……一束完成だね」
10本で一束と言うのなら、10束だと100本の薬草を採取しなくちゃというわけだ。それで1人分の依頼がクリア。全員分となると400本か……頑張らないとだね。
「なぁ、薬草採取勝負ってどうよ?1本は1本でしょうが」
急に真剣な顔して、何を言い出すかと思えば……。
そんなにお酒を飲みたいの?
まぁいいよ、受けましょう。
「ゴールは4人の依頼クリアとなる400本!採った本数が多い方が勝ちな!」
私の想い人は時々、子供だ。転生して当時の記憶を無くしているがメルヴィルの頃から元々がそういう人だった。自分で身体年齢に引っ張られてるな、と言ってるが怪しいものだ。うん、そういう部分も私はかわいいし愛おしいと想ってます。
薬草採取……要するに草刈りだから地味だよね。
でも薬草採取は地味だけど重要な依頼らしいよ。
当然ながら依頼に必要な装備を用意し場所を調べないといけない。それからターゲットへの知識が必要となる。そして迅速で丁寧な仕事が求められる。冒険者としての基本が詰まっている……らしいのだけど、地味は地味だ。
地味なんだけど……意外と楽しいな。私は実は内職系魔神なのかな?そんな系統でいいのか、私。遠い昔、魔王と呼ばれた事もある私なのに。
でも確かにアレクやセシルの服の繕い物や掃除も嫌いじゃないし、料理だって大好きだ。お父様にお茶の淹れ方も褒められた。実は家庭菜園にも興味はあるし……おぉ案外家庭的じゃないか、私。将来は主婦系魔神か。そんな系統も悪くないんじゃないかな。
そんな考え事をしながらも、のんびり作業。
神眼で表示される薬草を刈り集めていく。
これで220本、約2人分だ。
過半数以上に採ったから今回の薬草採取勝負に勝つには充分かな。
「それはどうかな?」
おお~、アレクもいっぱい採ったね!すごいすごい♪
でも私の方が多いんじゃない?
「だから、それは早計だって。なんてたってこっちは……3人掛かりだからね!」
3人分の薬草がこんもりとなっていた。ドヤ顔のアレクとは対照的にクリスとセシルは無表情に束に分けている。ごめんね、私の旦那様がこんなのでごめんね。
「合計で260本だ。3人掛かりでも勝ちは勝ち……でどうでしょうかダメでしょうか」
最後、ちょっとへたれた。まぁ…確かに3人掛かりはダメとも言ってなかった。う~~ん……しょうがないね。アレクにそんな顔されちゃ、私は勝てないや。
君はわかってるのかな。
君は私に夢中かもしれないけど、私はそれ以上に君に夢中なことに。
「やったぜ、これで初依頼クリアだよ!皆で祝杯をあげよう!」
私だって本音はお酒を飲みたいのだ。甘いもの同様にお酒も大好きなの。1000年ぶりのお酒は楽しみだな。それもアレクと一緒に飲めるのだから最高だよ。でも飲み過ぎには注意してもらわないと。
あぁ、忘れてない?
君達は帰りも走るんだよ。
頑張れ、かわいいかわいい私の弟子達。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほい、全部で48束だね。おめでとう、全員依頼ノルマ達成だよ。アンタ達、早いねぇ」
早くも俺達の担当のような扱いになったミシェルさんが薬草を清算してくれた。合計で9600G。今日、宿泊する予定の『メレスの黄昏亭』が一人1泊3000Gなことを考えると……そんなに悪くない稼ぎなんだろうか。
まぁ今日は飲んじゃうけどね!そうとなったら、どこで飲もうか。冒険者ギルド内でも酒は飲めるけど、もう人も増えてきてて、また妙なヤツに絡まれたら面倒だからな。また他人とはいえ玉を潰されるのは見たくない。こっちまでヒュンってなるもん。
というわけで、メレスの黄昏亭で祝杯を挙げることとした。セシルの聞き込みの結果、料理が抜群に美味しいのはメレスの黄昏亭なんだそうだ。
そのメレスの黄昏亭は宿ではあるが、一階はなんというか大衆居酒屋の雰囲気だ。既に大勢の人で賑わってる。これが全員宿泊客とも思えないので、飲み食いにだけ来てる人も多いのだろう。つまりは、この店は美味いって証拠だよな!これは本当に大事だよ。
「とりあえず、生。いやビール4つ。それとテキトーにおススメを持ってきてください」
雑に注文した。だって日本と違ってタブレットどころかメニュー表もないんだもん。どんな料理があるのかわかんないんだよ。最初は様子見だ。
「ビールか……初めて飲むなぁ」
クリスはパーティーによく参加してるから、羨ましいことに既に飲酒経験があるよ。まぁ貴族だけに飲んだのはワインばっかりらしいけど。
「はいよ、ビール4つね!」
女将さんが素早く持ってきてくれた。うん、予想通りの常温ビールだな。これはこれで美味しいらしいが、やっぱり日本人にはキンキンに冷えたビールですよ。そこでルーに頼んで氷魔法で冷やしてもらった。よし、キンキンに冷えてやがるっ……!!ありがえてぇ…!
「今日はお疲れ様でした!乾杯!」
前世以来だから17年振りかな?ビールで乾杯!
うん、やっぱ日本のビールとは随分違うね。
少し甘くて酸っぱいが十分に美味いよ!かぁーっ!
「うぇ〜……アレク、これ苦いよぉ〜…」
無理に飲むこたぁないが、ビールには慣れも必要だと思う。セシルには早かったかな?俺も最初はビール嫌いだったもん。おぉ、クリスはイケるね。気に入った?
「冷やしてもらったせいか、かなり飲みやすいね!僕は結構好きかな」
おお、まさかこの世界に来て飲み友が増えるとはな。王子をしょっちゅう飲みに誘うわけにもいかんが、たまにならいいよね!
「……冷やして飲むのは私も初めてだ、確かに美味しいな。すみません、おかわりください!」
1000年の禁酒明けは、さぞ美味しいでしょう。もっと飲め飲め。ちなみに今もルーは仮面を付けてるよ。飲み食い出来る用に顔の上半分だけを隠すピエロのような仮面を出してきた。用意がいいなオイ。
あ、でも聞きたいことあったんだ。
「ねぇ、鑑定でステータスとかわかるの?」
「………知りたいの?」
そりゃ……知りたいよな?
成績か健康診断の結果発表みたいで怖い気もするけど。
「何?ステータスって」
「簡単に言うと、自分の能力や強さを数字化したもの、かな?」
「あー……子供の頃、アレクが言ってたやつだ。レティシア師匠は、それがわかるの?」
「……わかるよ。でもね、君たち自身に教えていいものか悩んでる。数字化することによって自分の中に限界を作ってしまわないかが怖いんだ。ステータスなんて、あくまでも目安に過ぎないのに成長の妨げになりかねない……言っておくけど、既に君達は平均を大きく上回る強さを持ってるよ」
なるほど、それが今まで言ってくれなかった理由か。言いたい事はわからんでもない…が成長には現状把握・分析も必要だと思うよ!
「俺は、知りたい。もっと成長する為に」
「ボクも教えてください。強くなる為に」
「僕もお願いします。皆の力となる為に」
ルーがやれやれと言わんばかりの溜息をついた。
この人こそ、俺達の頼みなら断らないもんなぁ。
「例えば……ほら、あそこのテーブルの赤髪の若い男。チラッと聞こえたけどE級の冒険者らしいよ。そんな彼のステータスは…」
【レベル:8】
【筋力:98】
【体力:105】
【敏捷:77】
【知力:65】
【魔力:59】
【器用:63】
「……こんな感じ。今日、何人か冒険者をチェックしてみたけど、あのくらいの年齢の冒険者なら平均的な数字じゃないかな。すみません、ブランデーをください」
説明しながら流れるように酒を注文した。意外と酒豪ですか?届いたブランデーに自分で小さな氷塊を作ってロックにして楽しそうに飲み始めた……まぁいいけど、ほどほどにな。
「誰から知りたい?後悔はしないね?」
「ハイ!ボクからお願いします!」
しまった、ルーの飲みっぷりに見惚れて出遅れた。
【レベル:3】
【筋力:119】
【体力:136】
【敏捷:235】
【知力:218】
【魔力:206】
【器用:198】
「セシルはこうだよ。あ、2人に見せても良かった?」
「大丈夫。ボクは2人に秘密はないもん。スキルも教えてるし」
え、さっきの若い男と比較して……凄くない?これ。桁が違うじゃん。レベルこそ低いけどステータスはめちゃくちゃ高いじゃん。
「セシルは元々頭の良い子だったからね。筋力をもう少し伸ばしたいなぁ…」
「レティシア先生、次は僕をお願いします」
【レベル:3】
【筋力:179】
【体力:145】
【敏捷:167】
【知力:225】
【魔力:195】
【器用:187】
「クリスは3人の中で一番欠点が無いねー。頭が良いし身体強化のスキルがあるから更に実戦では強力なんだよ。すいませーん!ブランデー、ボトルでください」
すげぇ。クリスのステータスがすごいんだけど、それはそれとしてルーが飲みっぷりもすごくない?ボトルで飲むの?ボトルあるの?そっちに気をとられるわ。
そんで最後に俺のステータスは?
【レベル:4】
【筋力:217】
【体力:205】
【敏捷:327】
【知力:112】
【魔力:155】
【器用:207】
……おおう。なかなか強いけどちょっと脳筋だな。これはシルヴァ家の血なんだろうか。自分でも意外なんだけど、3人の中でも一番器用なのは前世の影響だろうか。
「もう少し知力を伸ばしたいのに、君は本当に勉強しないからね。何か、ご褒美でもあげたら勉強するのかなぁ……」
ご褒美は是非いただきたいけど……それより貴女、酔ってるね?久々で飲みすぎてるね?もう少し水を飲みなさい、水を。
事前に言われた通り、どうやら俺達は3人とも想像以上に強くなっていたみたいだ。自惚れるまではいかないけど……少しは自信を持っても良いのかな。
「色々聞きたい事はあるんですけど、レティシア先生自身はどのくらいの強さなんですか?」
「んー私?私は……強いよー?」
【レベル:1278】
【筋力:195520】
【体力:246250】
【敏捷:265782】
【知力:216922】
【魔力:357594】
【器用:283946】
………バグってるやん。全部桁が違うやん。
そりゃ3人掛かりでも勝てないはずだよ。
こんなんから1本取るとか無理ゲー。
レベルに上限ないのか、この世界。
このステータス相手に夫婦喧嘩したらぷちって潰されるぞ…!
「どう?私、強いでしょう?アレク、惚れ直した?」
直すまでもなく惚れ続けてるけど、余りの強さに若干引いたわ。ホントに単騎でこの国を落とせるね!やめて、ほっぺたつんつんしないで。ステータスを聞いたら止めるのも怖い。
「……なんだかんだ言って一番俺達の心を折ったのが師匠のステータスとはな。それでお前ら大丈夫?挫けてやる気を無くしてないか?」
「いや」
「全然?」
そうだよな。この恐ろしく強い師匠が鍛えてくれてるんだ、燃えなきゃダメでしょ!出藍之誉だよ。青は藍より出でて藍よりも青しってやつだ。弟子の本分は師を超えてこそ、ですよ……超えられるかなぁ、このステータス。現状から100倍にしても届かないんですが。
レベルの方の話も聞いてみたいが……この師匠は完全に酔っ払いモードだから今度にしようか。
「まぁ…上には上が居るって事で今後も努力を続けような。そんでクリスは明後日の新人講習会は来れそう?」
「あぁ、なんとか時間を作るよ」
「明日はなにしようか。クリスは来られないんでしょ?ボク達だけで依頼やるの?」
「明日ね、俺ちょっと1人で行きたいトコあるんですわ。今のうちに」
「分かった。君はえっちな店に行きたいんだね?」
違いますよ。行かねぇよ?
行ったら貴女、怒るでしょう?俺に自殺願望はないよ。
だから、ほっぺつんつんやめよう?
ほら、冷たい水を飲んで。酔いを覚まそうよ。
「ほら、ちょっと前に話したろ?王都に日本人が居るかもしれない話。あれに会って来ようと思ってさ」かね
「あー…!それで僕に紹介状を書けって言ってた訳か。ほんと王子をこき使うよね。持って来たよ、はい」
ありがとう。なんせ相手は事務総長って地位に居るらしいから庶民じゃ簡単には会ってもらえなさそうだったからね。アポなしだから紹介状があっても会えないかもしれないけどさ。
あと、俺はお前はこき使うけど普通の王子にはちゃんと接するぞ。多分。普通の王子ってのがどんなのか知らんけど。
「じゃあボクは何しようかな…」
「セシルは私と一緒にあの資料室で勉強しましょう。強いだけじゃ良い冒険者にはなれないぞ」
すごくキリッと喋ってるが、今のルーは俺が膝枕してやってる。起きろ師匠。少しは酔いは覚めたのか。そうだな、面会が終わったら俺も勉強しようかな………何気に知力が一番低いんだもん。これじゃ俺がバカみたいじゃないですか。そりゃ気にしますよ。
「そろそろお開きにしよう。クリスは明後日に冒険者ギルドで待ち合わせな」
「クリス、今朝も言ったが万が一の場合は精霊を通じて私を呼べ。必ず助けに行く」
キリッとカッコいい台詞を言ってるが、今度は俺がルーをおんぶしている。え?もし今夜呼ばれたら俺がおんぶして走るの?それは絵にならないなぁ…。
そんなこんなで、迎えに来てもらった馬車に乗るクリスと別れて俺達は宿の2階の部屋に入った。宿で飲むと酔い潰れても安心ですな。個室もあるけど、節約の意味もあって3人部屋を用意してもらった。部屋の中は想像以上に清潔だが、さほど広くはない。まぁ安宿なんでこんなもんだろう。
それでも、俺が大阪の西成区で泊まったホテルよりは随分マシだ。あれは酷かった……1泊2,000円の安さに釣られたせいだ。だってね、3畳くらいの狭い個室だったけど外部のライブ感がすげえの。防音という概念がない。壁がめちゃ薄い。あれ?俺は部屋に入って扉を閉じたよね?って確認するほどに、外の音がガンガン聞こえてくる。部屋の前の廊下を誰かが歩いたら、まるで枕元を歩いているかのように感じるんだよ。今ならARかな?くらいに思うだろうが……あの時は一晩中、ほとんど寝られなかったなぁ。アレに比べたら、この部屋は十分にデラックスだ。
「じゃあ、ボクはこのベッドにするね」
フッ、無邪気な奴はお気楽でいいぜ……俺なんてルーをどこに寝かせて自分がどこに寝るかの戦略で頭がいっぱいだなのに。だって今夜こそ素敵な夜になるかもしれないんだから。
「なりません。私はこのベッドに寝るから。変なことするな?」
えー。フリか?押すなよ押すなよ、か?
「えーじゃないの。本当にフリでもない。セシルがいるのに、その……出来る訳ないでしょう!?」
まぁ……それは確かにそうかも。よし、頑張ろう。仕事を頑張ろう。そうか個室になればいいんだな。今のはセシルが居なきゃOK,と解釈していいはずだ。そうに違いない。頑張って個室に泊まれるくらい稼ぐんだ。
今、俺のモチベーション凄いですよ。
拙い作品ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この作品を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
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(人>ω•*)お願いします。




