表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/216

35 行動力と決断力のあるバカ達

  


 王都正門の検問所っていうのかね、そこで俺達は書類に署名したり手続きを進めていますよ。ほら、俺達は初めてだから。初体験だから。この辺はベテランのジャンさんが同行しててもキチンと手続きするよ。一度通過しちゃえば次からは割と簡単に通過できるよ、とジャンさんが教えてくれた。そのためには身分証が必要になるらしいけど。どこで発行してもらえるんだろう、身分証。つーか、この期に及んで持ってないのかよ身分証。オルトレットで旅立つ前に発行してもらうべきじゃないのか。まぁいいか。本来ならいいわけないんだけど、まぁいいさ。


 ああ、係員のあなた。今、目の前で署名してるのが王子だと知ったらさぞ驚くだろうなぁ。カメラが回ってるわけでもないのにドッキリかモニタリングになってるな。一応、積荷もチェックされたが殆ど何も載せていない。ほとんどの荷物はルーの収納魔法に収めているからね。

 列に並んで待つのも手続きも結構な時間がかかったけど、我々に問題があるはずもなく……少々違う意味で色々な問題のある一行ではあるんだけども……いよいよ王都の門を通過した。


 俺達の目の前に、王都ラスブールの街並みが広がる。

 おぉ…!確かに人が多い!めちゃくちゃ多いな!こりゃ大都市だぁ!


「ようやく着いたねー、この街でクリスは生まれたんだぁ…」


 セシルもザ・おのぼりさんって感じでキョロキョロしてる。多分、俺も周りから見たら同じようなもんだろう。いや~賑やかな街ってそれだけで面白そうだよね!


「では、本当に……私は先に行きますからね?」


 ジャンさんはここから別行動だ。先触れとして、クリス到着を知らせて王城でも出迎えの準備をしてもらわにゃいけないということだそうだ。

 この辺、庶民とは違うよな。黙っていきなり王城へ行って、ただいまー!と言うわけにもいかんのだそうだ。面倒臭いのな。まだクリス襲撃の黒幕が判明してないからホイホイと王城へ行くのは怖い気もするが、もし罠があったら食い破るしかないね。頭を使うよりはそっちの方がやりやすい気がする。


「さてと……」


 何はともあれ、ついに目的地に到着だ。まだ日も高い。ぶらぶら街を見物しながら王城まで歩いて行こうか……ってよく考えたら不安なメンバーだな。


 この王都生まれだが虚弱で王城から碌に出たこともなくて、更に5歳で王都を離れ10年ぶりに帰ってきた王子。


 1000年の間、迷宮(ダンジョン)に閉じ込められて浦島太郎状態、知ってる世界はルシアス王国建国以前の魔人。


 方向感覚は抜群ではあるが故郷であるオルトレットからは初めての遠出であり、リアル純粋おのぼりさんの幼馴染。



 ………頼りねぇ~~~!

 揃いも揃って頼りに出来ないメンバーだ。


 そりゃね、俺も初めての街だけどさ、ほら前世の経験もあるし。旅慣れてるし思慮深いし。日本人だった時には海外旅行だって行ってたんだから。この場を取り仕切って、このボンクラ共を導くのは俺しかあるまい。


「俺に任せろ」

「僕に任せてくれ」

「ボクに任せて」

「私に任せなさい」


 ………何故だ。なんでこんなに無駄に行動力と決断力のあるバカばっかりが集まったんだろうね。最後に頼りになるのは、やはり自分しかいない。俺が頑張るしかない。このバカ3人と言い合ってもしょうがないので揃って街の様子を見ながら歩きだすことにした。


 どーせ、最終目的地のバカでかい王城は嫌でも目に入るくらいだしね。








「アレク、あれが冒険者ギルドなんだって」


 セシルが街の人から聞いたのか、教えてくれた。


 ほほぅ……あれが、と言っても少し遠い。目的地の一つだし寄って行きたいけど登録手続きとか時間がかかりそうだからな。今日は場所だけでも覚えておいて、また後日行こうな。大丈夫だ、セシルが場所を覚える。他力本願、俺の好きな言葉だよ。俺も頑張って覚えてみるつもりだけど……多分無理。ぐるっと周りを見ても同じように賑やかな通りで既にどっちから来たのかも怪しい。うん?ルーもキョロキョロ周りを見てるけど、何を探しているんだろう。


「マドレリアの本店はどこかなぁ……?」


 甘党の副党首としては、そっちが気になるんだね。ルーはちゃんとオルトレット支店の店長から本店への紹介状を貰ってきたそうだ。どうせ貴女は入り浸ることになるだろうから、先に挨拶していこうか。多分、俺も通うはずだし。それに少しお腹も減ったから美味しいケーキを食べたい。

 そんな訳で街の人に店の場所を聞きながらマドレリア本店へ向かった。なんのことはない、場所は冒険者ギルドからすぐそこの場所だった。そこにあったのはケーキ屋さん、なんてかわいい店じゃない。まるで宝石でも売ってそうな外観だ。

 到着した本店のお菓子は……なるほど、これは庶民にはそうそう手が出せない値段だね。オルトレットでも安くはなかったけど、物価が違うのか更にお高い。それでも、お客さんの入りは悪くない。皆さん貴族なのか金持ちなのか…人気店というのは間違いないんだね。

 ルーが近くに居た店員さんに紹介状を渡して店長へと言付けしたら、ガタイの良いパティシエがすぐにやってきた。早い。ちゃんと仕事してたのか?


「貴女が…!よく来てくれました!お待ちしておりましたよ。私が店長のラファエル・マドアスです」


 たっぷりと髭をたくわえた濃い顔だ。しかもプロレスラーのような巨躯に眼光鋭そうで……多分腕の良い職人なんだろうな。それにしてもケーキを作るのに、その屈強そうな身体は必要なんだろうか……って、おい!店長だからって、いきなりルーをハグするんじゃないよ。俺だってしたいのに。返せ、減るだろうが。


「貴女が考案されたケーキはどれも今では売れ筋ですよ。本当なら今日、今からでもウチの専属になって厨房に入って頂きたいくらいだ」

「光栄です。私も毎日食べたいくらいマドレリアのお菓子が大好きですから、お手伝い出来ることがあれば是非」


 2人とも実に良い笑顔でガッチリ握手。楽しそうで何より。こうしてルーは晴れて王都でもマドレリアのアドバイザー就任となった。趣味と実益を兼ねてるなー……甘党の天職じゃん。

 それにしても、シックな感じのスィーツのお店ですねぇ。日本で見たスィーツのお店と同じような違うような……よく考えたら、そもそもスィーツの店、そんなに行ってないわ。おっさんには中々入りにくかったんだよ。

 早速ここでマドレリア本店で、この国最高のスィーツを食べたいな、と思ったけど……これはイートインって感じの店内じゃないですね。


「マドレリアは王都でも初の販売専門店でね。食べたいのなら隣のレストランへどうぞ、そこでうちのケーキを提供してますよ」


 このラファエル店長の言葉で、道草の延長が決定した。スマン、ジャンさん。少々到着が遅くなります。そのまま全員でお隣のレストランになだれ込んで、ケーキを注文だ。


「私は、エクレアとミルフィーユ」

「ボクも同じものを」


 君ら迷いが無いのな。しかもケーキを2個頼むとは本気だな……もしかしてセシルも新たに甘党党員になる気か。甘党の幹部候補生だね。


「僕もミルフィーユにしようかな」

「じゃあ俺はガレット・デ・ロワ……ください」


 俺もミルフィーユは好きなんだけどさ。あれって食べにくいよなぁ……倒して食えばいいんだっけ?ケーキ食べるのに難易度が高いってのはどういうことだよ……やっぱりミルフィーユとは仲良くできない。ミルフィーユカツとかミルフィーユ鍋の方が親しみがあるよね。ミルクレープならもっと好きなんだけどなぁ。あれなら一枚ずつ剝がして食べても柔らかくて美味しいし。


「そうか、ミルクレープも良いね。今度、早速ラファエル店長に提案してみよう」


 俺も十分甘党の党員の資格は満たしそうだ。

 まぁ党首があのジジイなら入党はしないけど。



 しばらく待つと、紅茶と共にケーキがテーブルに届いた。確かに……人気というだけあって美味いな!オルトレットの支店のケーキも、もちろん美味しかったけど流石は本店。正直に言うと俺レベルでは微細な味の違いはわからないけども、美味しい気がする。いや、俺の舌は分かってる。このケーキは間違いなく美味しい!

 あー……ケーキとか甘いものを、それも美味しいものを食べるとなんだか眠くなるよね。旅の終わりで気も緩んでるのかも。ウトウトしちゃうよね。でも、これ以上待たせるとジャンさんの胃に穴を開けてしまいそうになるから、そろそろ行こうか。












◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











 迷惑ついでに、ラファエル店長に頼み込んでマドレリアの控室を借りて着替えもさせてもらった。いよいよ登城するのに旅姿のままというのも……かなり汚れてるし。ここはクリスの晴れ舞台でもあるし。みっともない真似は出来ん。

 正装に着替えたとしても、どっちみち徒歩だからカッコつかないなーと思ってたら、城の手前でジャンさんが馬車で待機しててくれた。先触れは済ませて、ここで待っててくれたそうだ。待たせてごめんなさい。馬車に乗ればこれで見栄えは大丈夫だと思う。まぁ、あくまで見栄えだけだ。こういうドタバタの内幕は見ないで。

 出発の時のように、俺とセシルは馬に乗って馬車に並走していく。馬車の中にはクリスとルー。馬車同士が楽にすれ違える程の広い、そして綺麗な石畳の道が城門まで続いていく。


 王城に近づいて見ると、より一層……迫力がすごい。


 日本の城とは趣が違うなー。日本の城なら結構見て回ったんだよ。現存十二天守も全て制覇して、百名城を廻ってる途中で残念ながら俺の人生が終わったんだよなぁ……なんとかリトライはできないもんかねぇ。











「少し、緊張してきたな…」


 意外だ。クリスでもそんなこと言うんだな。パッと見は完璧超人なのに。俺は幼馴染だから色々とコイツの弱点も知ってるけど。くすぐりに弱いとか、苦いの苦手だとか。


「大丈夫だ、いざとなったらこの4人でこの城……というかこの国を武力制圧出来るから。俺達は4人で一個師団以上の戦力だ。本来なら緊張して警戒するのは、この城の方だよ」


 その場合、こちらの戦力の99.9%はルー頼みだけどさ。可能か不可能かでいうなら……可能だろうな。俺が頼んだら、魔人は容易くこの国を落としてくれる。むしろ落としてからの後始末の方が大変だろう。


「はははっ、僕は家に帰るんであって戦争しにきたんじゃないんだよ?アレクらしいな、おかげて緊張が吹っ飛んだよ」


 それは結構。城を吹っ飛ばすよりは随分良い。だから……ホントにしないよね?とか真剣な顔で確認しないでくれ。君は俺をなんだと思ってるんだ。軽い冗談じゃないですか。俺だって必要がなきゃしないよ……多分。

 防衛上というよりは美観上、といった感じの堀を渡って王城正面門へ到着。ちなみに俺とセシルは騎乗してるんだけど、このままでいいんだろうか。馬車がいいなら大丈夫かな。もし誰かに注意されたら降りよう。


 立派な制服を着た門番の兵隊さんが敬礼してくれた。もちろん、それはクリスに対してではあるけど、ちょっとだけ気分いいね。まるで偉くなったような気分。

 中に入ると……庭が広い。緑の芝生と真っ白な城のコントラストが綺麗だなぁ。なんとなく、オルトレットの領主館に似てる気がする。逆か。多分、公爵さんがここを真似て領主館を作ったんだろうなぁ。実家を模した訳だ。


 そんな友達の実家とは思えない光景を見ながらエントランスへ。おおー!ずらっと並んだメイドさん達と執事がお出迎えだぁ。いよいよ王子の帰還っぽくなってきたな!


「おかえりなさいませ、クリストファー様」


 そう言ってくれたのは、ホワイトヘアに口髭のお爺さん執事だ。子供の頃のクリスを知ってるのかな。もしかしてセバスチャンか?ついにセバスチャンが登場するのか?待ってました!


「ありがとう、ただいま」

「覚えておいでですか、幼い頃も御世話させて頂いたフランツです。御立派になられましたな……」

「覚えてる、また世話になるよ。それと彼らは僕の客人なので、部屋を用意してもらえるかな?」


 ここで俺達も馬から下りた。ディープも預けていいよね?城の中に連れて行くわけにもいかんしな。クリスに続いてルーが馬車から降りると、流石にベテランのお爺さん執事も戸惑っていた。


「こちらの方も……?」


 なんせ黒鎧バージョンだからな。逆にスムーズに対応された方が怖いわ。王城の執事の懐はそこまで広くなくて良い。


「こちらは僕の武術の先生で、今回は僕の護衛もお願いしたんだ」


 言い訳として苦しいだろうか。クリス王子は帰ってきたけど無防備じゃないんだぜ?というアピールのつもりでもあったんだけど……やっぱり無理があったかな。それでもベテラン執事は立ち直るのも早かった。


「失礼いたしました。それでは友人様方の部屋を御用意いたしますので、こちらで御休憩をどうぞ。クリストファー様は先にお着替えなさいますか?」

「後でいいよ。皆とお茶でもいただこうか」





 案内された部屋を見て、ポカーンと口を開けてしまった。ただでさえ、初めての友達の家って妙に緊張したりするのにさ。なによ、このどこを見ても豪華絢爛としか言えない家具調度品。ふかふかのカーペット。さぞお高いんでしょうね!どれか適当に壷の一つくらい、貰っていってもバレないんじゃないかな。この壷一個でも売れたら数年くらい遊んで暮らせそうだ。まるでお城やないか!……そうだね、お城だったわ。


 これで寛いでくれって無理があるだろう。

 俺は庶民なんだよ。落ち着かないなぁ…!




「なんで君はそんなに硬くなってるの?ほら紅茶、美味しいよ?」


 ルーはずっと大公邸で過ごしてたから、こういう雰囲気というか部屋の様子にも慣れたもんかもしれないけどさぁ……メイドさんが消えたらすぐに鎧を脱いで寛いでやがる。俺はどうにも小市民気質が抜けていないな……そんな自分が好きだけど。


「べ、別に硬くなってねーし。ふにゃふにゃだし!」


 男はな、見栄を張る生き物なんだよ。ふにゃふにゃと言うのも……いやいや、いざと言うときはカッチカチですけどね?是非、今後に期待していただきたい。特に夜に。ベッドの中で。


「明日には、早速冒険者ギルドに行くんだね?」

「そうしようと思う。宿も探さないといけないし」

「僕としては、皆がここに住んでくれてもいいんだけどね」


 それは……気ぃ使うわ。ありがたいけど。本音を言うならば、クリスと一緒に居たいのは山々ですが。申し訳ないが王城を見縊ってました。えぐい。豪華すぎる。これでは寛げない。多分ストレスでハゲるか胃に穴が開くと思う…って誰がハゲやねん!ハゲてないわ!まだ!


 不意に扉がノックされた。

 クリスの返事で入ってきたのは、執事のフランツさん。

 ここにもセバスチャンは居なかったようだ。


「お湯が用意出来ておりますので、浴場で旅の汗を流されてはどうでしょう?」


 いいっすね!それはありがたい。領主館のお風呂も見事だったけど、ここは国のトップが住む城だからね。すっごいお風呂があるに違いない。

 まず、俺とクリスで入ることになった。護衛も兼ねて。ちょっと無理があるかな?でも本当に護衛でもあるし、一応友人と紹介されてるからね。


 流石にセシルは……理論上は一緒に入れば良いんだけど一人で入りたいそうだ。うん、こちらとしても助かる。色々とサービスとしてはアリかもしれないけど…そんなに需要があるのかどうかも知らないし。


 ルーはフランツさんのノックと同時に、素早く再び黒鎧モードに戻っていたが、お風呂の誘惑には勝てなかったようだ。

 フランツさんに女湯を希望して再び戸惑わせていた。流石のベテラン執事フランツさんも鎧姿のルーを二度見してた。今日はフランツさんの人生史上有数の戸惑った一日だろう。














「流石に広いし豪華だねー、お城の風呂って」

「ここは僕も初めて入るんだ」


 うん、広くて豪華な銭湯として経営していけるな、これなら。本当に経営するなら個々に鏡と蛇口が欲しいな……とか、出来ればサウナも欲しいなぁ……とか、いらんことを考えてしまう。

 それにしても、ようやく披露できたサービスショットが野郎ってな。申し訳ない。逆に一部の人には待ってました!だったりしてな。いやいや、違うだろう、色々と。せめて王子のあんな姿こんな姿を披露させてくれ。もっとポーズとらせようか?いらん?ですよね。


「クリスのお父さんには、いつ挨拶出来そう?それには俺達は行かなくていいんだろう?」

「そうだね。今日の公務が終わり次第、時間を取ってくれるみたいだ。僕としては皆にも来て欲しいけど流石におかしいよね」


 どうだろう。そんなにおかしくはないかもしれない。来いと言われたら行くけど……親子の再会に俺達の存在は不純物だろう。そうでなくても、王さんに会いたくはないわー。王さんじゃなくても、友達のお父さんに会う理由ないわー。

 あ、でも泊めてもらうならご挨拶くらいしとこうかな。すみませんね、お父さんくらいは言うよ。


「……兄さん達は、いつ会えるかわらないんだ」

「そっかー。まぁ容疑の段階だけどツラぐらい見ときたかったなー」

「おいおい、僕より格上の、この国の後継者達なんだから滅多な事は言わないでくれ」


 努力はしてみるけどさぁ……。


 お前を害する者なら、滅多な事を言うだけでは終わらないかもしれない。もちろん、そんなことをクリス相手でも口にはしない。確証があるなら、それなりの対処が必要になるかもしれない。それなりの対処ってのは……そりゃ物理的に排除ですよ、もちろん。

 どこに排除って……そりゃ天国へ行くか地獄へ行くかは俺も知らない。でも、そうことだ。俺は最悪、ルーを連れてこの国を出ればいいんだからね。王族殺害の指名手配を受けてもなんとかなるだろうし。

 あと、俺も忘れてたけどお前もこの国の後継者候補の1人だからね。偉いさんなんだぞ、お前も。よし、綺麗になった。次は俺の背中も流してくれ、偉いさん。オラ、もっとしっかり力を入れてやらんかい!


「何にしてもだ、お前に時間が出来たら遊びに行こうな!」


 偉いさんに背中を洗わせながら言う台詞じゃないな。


「アレクは本当に変わらないなぁ。いっそ兄さんが早く王位を継いでくれたら……僕もどこへでも行けるのかもしれないな」


 おいおい、王の死を示唆する今の台詞こそNGだろうよ。でも……悪くないな、そのプラン。やはり悪巧みは風呂の中でするに限るねぇ。
















 風呂を上がって俺達はセシルと交代だ。


 あの広い風呂を1人で独占、てのもずいぶん贅沢な話だよな。これが旅行先のホテルならこのまま食事して寝たいところだけど、そうもいかない。ルーがお風呂から出てくるとほぼ同時に、ついにクリスにお呼びがかかった。

 

 いよいよ、父である王との対面だ。


 メインイベントだな!うん、カメラが行くべき場所だとは思う。思うけど、俺が一緒に行ってみ?君、誰やって言われるで?そりゃ関西弁で言われるわ。王さんも俺を二度見するわ。

 ルーだけでも一緒に、という話も出たが親である王と会うのに護衛てな。親子の対面に護衛を連れて行くのは、やっぱ変だなと言うことで、クリス1人で行くことになった。頑張ってこい!


 助かった…もう偉い人との挨拶は勘弁して欲しい。

 逆に王さんをクリアしたら怖いものナシかもしれんけどな。









 さて、どうしたものかな。

 今、俺は重大な決断を迫られている。


「そんなに心配そうな顔をしないで。大丈夫だ、王城内で万一クリスが襲われれば王族内の争いが露になる」


 そんなバカを兄の王子達がやるはすがないってか。

 そうかもしれん。そうじゃないのかもしれん。

 でも、俺の悩みはそうではない。

 クリスには申し訳ないが、そんな心配はしていない。

 もっと重要で深刻な悩みなんだよ。


「俺だけ最近ハグしてもらってない」


 ……………………。

 あ、天使が通った。


「…………我慢しなさい」

「今、せっかく久々に2人きりなのに」

「私だって我慢してるんだから君も我慢しなさい」


 ……なんで?我慢する理由は?今、この部屋には他に誰も居ないし良いじゃん。ていうか我慢してくれてたのか。かわいい師匠だな。


 じゃあ、しょうがないな。今夜は諦めるかと思ったら、ルーがツツツと近寄ってきた。殴られる!と覚悟していると……ぎゅっとしてくれました。お風呂上りだけに良い匂いがしました。控えめに言って、もう最高ですよね。


「ごめん、私の方が我慢の限界だった………でも、はい!終わり!」


 天国にいるようでした。

 何なの、この可愛い生き物。

 すっごく柔らかかったです。

 すっごく良い匂いがしました。

 ………父さん、母さん。

 新天地でも僕は頑張れそうです。


「おかわりタイムはないんでしょうか?」

「……許可したら君は朝まで離れない気がするからダメだ」


 気がするじゃなく、間違いなくそうする。まぁ離れないというかハグだけに留まらないだろうから、ダメで正解だろう。友人の実家でピンクな展開はマズい。なけなしの理性でそれはわかってるけど我慢するのも困難なんだ。思春期なめんなよ。


「ただいまー。あれ、クリスは?」

「おう、おかえり。早かったな、もう一回入って来たらどうだ?」


 ビックリしたぁ!悪いことしてたわけじゃないけど、心臓がバクバクしてる。あー、おかわりタイム諦めてよかった!親しき仲でもドアはノックしましょうよ、セシルさん。

 人生万事塞翁が馬。今初めて噛み締める言葉だよ。ちなみに俺が数ある名言や諺で最も好きな言葉は、腹八分目だ。これほど応用が利いて、しかも実用的で役に立つ言葉はそうそう無い。俺が中々実践できないことも含めて素晴らしい言葉だ。今もその言葉を噛み締めているよ。人生、何事も腹八分目。


「お風呂は気持ちいいけど、そんなに何度も入ったらのぼせちゃうよぉ。クリスは?」

「感動の親子対面にいったよ」


 本来なら、心配する場面じゃないんだけどなぁ。

 身体が弱かったとはいえ遠方に送った父。

 もしかしたら暗殺者を送り込んだかもしれない兄。


 それぞれの事情は知らないし憶測も多いんだけど俺はハッキリ言って好きじゃないね、王家の人間は。つくづく王子ってのも大変だよなぁ。俺なら絶対にやりたくないね。しかし。今はそれより、だ。明日のことを考えよう。


「じゃあ、明日はどうする?予定通り冒険者ギルド行ってからの宿探しでいい?」

「うん、明日もここに泊めてもらうわけにもいかんだろ」


 セルジャン達の馬車を売り払った金が結構ある。それで結構お高い宿でも数泊くらいなら泊まれるだろうが、収入が無いのに豪遊はだめだ。ある程度の余裕は大事。お金の余裕は気持ちの余裕だ。


「ボクはどこでもいいけど、お風呂がある宿がいいなーっ」


 そんな宿、高いに決まってるじゃないの。だめっ!

 いや、俺だってお風呂付きが良いけど予算の問題がね?


「ルーは……本当に今更だけどいいのかい?冒険者で」


 日本には役不足って言葉がある。このおっそろしく強い魔人にとって冒険者ってのは役が不足しすぎじゃないだろうか。F1ドライバーに荷物の宅配させるような……一流料亭の板前にカップ麺のお湯を注がせるような……使い方を間違ってませんか感がある。


「私は君の半身だ。これから何をやるにもしても一緒に決まってる。それに私も私で探したいものがあるんだ。その点で冒険者というのは好都合なんだよ」

「何を探すの?伝説の剣とか鎧とか?」


 そんな剣や鎧があったとしても今、ルーが持ってる装備を上回るとは思えないけどさ。何で出来てるのよアレ。大剣も黒鎧にも、これまでに僅かな刃毀れも傷付いたトコも見たことが無い。


「探しているのは場所だ。メルヴィルの研究所へ行きたい」


 へぇ。前前世の俺の……研究所、ですか。いったい何を研究していたのやら。そこへ行ったら俺も何か思い出すかな。だったら一度、行ってみたいよな。


 お、扉がノックされた。

 クリスが戻ってきたのかな。


「失礼いたします。陛下から御友人様方も一緒に食事を、と仰っていらっしゃいまして…」


 違った、執事のハインツさんだった。

 えー、マジすか。

 来いと言われたら行く、なんて冗談なのに。

 拒否権は……無いよねぇ~。

 クリスお前なにを言ったんだよぉ~…。

 一応でも着替えてきて良かったわ。

 ああ、王さんと飯を食うなんて嫌だ嫌だ…。

 何の罰ゲームだよ、これは。


拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。

この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!

是非とも感想、レビュー、ブックマーク、評価を頂ければこれに勝る幸せは御座いません

(人>ω•*)お願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ