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33 絶対に笑ってはいけない尋問24時

 


 翌朝は、2人が馬上で1人がランニングするというローテーションが再開されたよ。少しはこんな環境に慣れたのか、それともこの状況を諦めたのか、もしくは俺達に体力がついてきたのか。初日ほど大変でもなくなってきた。昨日、休養日だったせい……なのかもしれない。単純に疲労が抜けて身体が軽いだけなのかな。

 ルーのご要望によって、本日もなるべく頻繁に魔物が出現するだろう道をチョイスして移動してますよ。そして期待通りに何度もゴブリンとの戦闘を繰り返していた。もうさぁ、口笛を吹いちゃえよ。匂い袋とかそういうアイテムを使っちゃえよ。それとも黄金の爪を盗んでみるか。


「師匠、あっちに魔物が……ゴブリン多数!人もいます!襲ってる!クリス、いくよ!」


 今日何度目かの魔物との遭遇。しかも今度は人を襲っているらしい。そして今、俺が走ってます。現在アレクシスが走ってます。一行の最後尾を走ってます。ええ。前衛は今、一団の最後尾を己の足で走っているのです。そして中衛と後衛が騎馬で駆けて行きましたよ。俺には「いくよ!」とも声かけずに行きましたよ。ちょっと寂しいぞ。


 また追いつけと?あれを追い越せと?

 槍を持って?かわいい顔して?


「頑張れ♪君なら出来る!」


 くそぅ。惚れた弱みだな。師匠が出来ると宣言したからには、弟子は実現させる義務がある……あるのかな?あるんだろうな。まぁ、他に選択肢は無いわな!


 さぁ頑張ってくれ、俺の肺と心臓!

 ここはカッコつけるトコだぞ!





「助太刀します!」


 クリスがそう叫ぶのと同時に、商人らしき人々を襲っていたゴブリンの群れにセシルが矢を放つ。


 流石に先制の一撃までは無理だったわ。それでも、なんとかクリスと並ぶくらいの位置まで、全速力で駆けに駆けてカールの槍を振るった。頑張ってるでしょ?もっと皆、俺を褒めてくれてええんやで?

 結構多いな……10数体のゴブリンの群れ。今までに遭遇した中でも最大の群れだな。それでも慣れもあって、もはやゴブリン程度では何体集まろうと俺達の敵じゃないぞ。ものの数分で文字通りに蹴散らした。文章では伝わらないだろうけど、ちゃんと今日もゴブリンは臭いぞ。何を食ったらこんな臭いがするんだろう。

 ゴブリンに襲われていたのは3人の男性だったけど、とりあえずは全員無事のようだ。被害がどの程度か知らないけど生きてこそ、である。


「怪我はありませんか!?」


 あー、こういうときクリスが居てくれて本当に良かったわー。こういうコミュニケーションを任せられるのありがたいわー。一家に一台欲しい男だよ、君は。俺なら「あの、怪我……だい…スか……」みたいにモゴモゴ言うのがオチだもん。


「あ、ああ……ありがとう。大丈夫、ちょっと打たれたが大した事は無いよ。君達は一体……?あ、失礼。我々はタルブからスタンロザまで荷を運んでいたんだ」


 タルブはどこか知らないけど、スタンロザは昨日の俺達の宿泊地だった町だ。おそらく、この3人は行商人なんだろうね。馬車に色々な荷を積み込んである。この辺りは魔物が多数出現する地域らしいので通る人は稀なのだ。こんな風に他の誰かに助けられるなんてラッキー以外の何者でもない。運の良い人達だねぇ。


「それは災難でしたね。我々は旅のものです。何か、手伝えることはありませんか?」

「それはありがたい……我々はなんとか無事だったんだが、馬が怪我をしたようでね……誠に申し訳ないが近くの村まで移動するのを手伝ってもらえないだろうか?もちろん、謝礼は用意する!」


 ホントだ。2頭の馬で馬車を引いてたようだけど、そのうちの1頭はどこかを切られたのか、脚を少し引きずってる。痛そう。お馬さん可哀相。


 騎士の家でも農家でも商家でも、馬は大事な財産だ。日本で馬には縁のない日々を生きた俺からすると、この世界の人々はびっくりするくらいに馬を大事にしてたりする。自家用車なんてもんじゃないね。スマホとエアコンと車が合体したような存在かな。はぁ?我ながら意味がわからん。それはさておいても、一時期はダビスタにハマってた俺もお馬さんは大事にしたい。


「セシル、いいかい?」

「ボクは構わないよ。師匠もボク達で決めろって言うさ」


 クリス君。俺は?俺の意見は…?俺、走ってここまで来たんやで……?今も息も荒くて会話に参加できないレベルなんやで…?こんなにも頑張ってるんやで?


「だってアレクは、なんだかんだ文句言うくせに結局こういう頼みごと、断らないじゃないか」


 そりゃあ、時間と体力と金に余裕があればしてやらんこともないけどさ。そしてお前は今の俺が余裕あるように見えるのか。だったら早急に眼鏡を開発する必要があるぞ。それとも、この世界には既にあるんだろうか、眼鏡。


「さぁ、早く終わらせよう」


 クリスとセシルは素早く作業に入る。

 俺の扱いが雑すぎる。

 せめて文句くらいは言わせてほしいのに!

 もう!しょうがない王子だぜ。


「ありがとう。私はセルジャンといいましてこの辺りで行商人をやっているんだよ。こちらの2人はブロワーズとアルノエ。申し訳ないが、よろしく」


 お互いに自己紹介をしながら、近くの村へ向かうことになった。昨日といい、行商人に縁があるぜ……というか街道を行き来している人々なんて殆どが行商人だよ。普通の人は滅多に遠出も旅行もしない。だから俺達も産まれて以来、碌に街の外にも出てなかったんだ。まだまだ色々な意味で余裕のない世界ってことなんだろうか。江戸時代の町人だって、もっとアクティブじゃないかな?

 あー、でもお陰で走らずに済んでいる。結局後で走らなきゃいけないんだけど、それでも休憩できる。助かった。今のうちに回復しよう。


「君達は随分若いみたいだけど、どこへ行く途中なんだい?」


 セルジャンさんは笑顔とヒゲが似合う気さくそうなひとだ。さすが商人、て感じ。昨日のガエルさんとは少し違うタイプだけどな。なんかオシャンティーな感じ。わかる?わかんねーよな?俺もわからなくなったわ。でもでも、ウチのクリスも感じの良さでは負けませんよ?


「ええ、卒業を機に僕たちは大きな街まで。冒険者になろうと思いましてね」

「道理で強いわけだなぁ。我々もゴブリン程度なら慣れたもんなんだけどね……さっきは油断してしまってねぇ」


 世間話をしながら、森の中の道をゆっくりのんびり進む。急ぐと怪我したお馬さんがかわいそうだもんな。今日もいい天気だ。まだ少し冷えるけど緑の木々が映えるねぇ。キラキラと木漏れ日が綺麗だな~。

 あー、最初から最後までこんなペースで旅できると思ってたんだけどな。のんびり観光と食い倒れな旅を期待してた。それが随分と過酷な旅になったもんだ。甘かった。あの師匠は修行ではドSだ。願わくばベッドの中ではドMであってほしいが……。


「セルジャンさん達はベテラン商人って感じですけど、それでも油断しちゃうこともあるんですね」

「いやぁ、お恥ずかしい。大丈夫、大丈夫と思いながらしちゃうもんだよねぇ、油断って。君達も」






 突然。


 まるで、あの日の闘技場で魔物が召喚されたときのように。俺にはスキルは無いけど、それでも広くない範囲なら気配を察知出来るようになったはずなのに。そもそもの気配察知スキル持ちのセシルも驚きを隠していない。全く、なんの前兆もなく。


 俺達の周囲を、明らかに非友好的な雰囲気の連中が包囲していた。


 黒い装備に黒い仮面。我々、怪しいですよーとこれ以上無いレベルでアピールしている。敵か?敵なんだろうな。これが我らの村の歓迎の装束なんです、というなら今日をもって改めた方がいい、歓迎の方法を。間違いなく客がドン引きするよ。現に俺達は引いてますよ。


 何人?10人?いやもっと、20人はいるか?


「――君達も、油断しちゃったねぇ」


 セルジャンさん……アンタ、そういう顔も出来たんですか。お客さんの前ではしない方がいいね、その醜悪な笑顔………もしもアンタが本当に行商人ならさ。帰っちゃうよ、お客さん。現に俺達も帰りたいもん。


 セルジャンは積荷から曲刀……あれはシャムシールっていうんだっけ?を取り出した。そんなのも取り扱いしてるんですねー。もしかして、アンタも何でも取り扱うウィンテール商会の所属なのかな?だったらレッド・ボアの肉で引き下がってくれないだろうか。


 合図もなく……あるいはセルジャンがその刀を取り出すのが合図だったのか、奴らは一斉に動き出した。声も無く周囲に展開して……実に良く訓練されているんだろうな。しかし残念だったね、俺達には最強の保護者が居るんだ。


「油断ではなく、眼中に無いんだ。お前たち程度は」


 禍々しい漆黒の鎧が静かに、そして庇う様に俺達の前に降り立った。その手には黒く輝く大剣。全身黒装備の連中を前にして奴らのボスにしか見えない漆黒の魔人は、しかし絶対の味方だ。


「互いに死角を補いなって、倒すより倒されないことを意識しなさい。そして……人を殺す覚悟をしなさい」


 師匠の指示に従って、俺達は互いの背中を任せる。そして、大きく深呼吸を一発。殺す覚悟と…殺される覚悟の両方を決めた。今までも何度も何度も言われてきたことだ。ああ、今日がその日だってだけさ。

 もちろん殺したいわけじゃない。むしろ殺したくないよ。だが相手の力量もわからない、今。俺達に手加減するほどの自惚れはない。殺したくない、が理由で殺されてあげるわけにもいかないからね。ここは、もう地球でも平和な日本でもないのだから。俺は何としてでも死にたくないんだよ。そしてどこの誰にも、俺の後ろに居る大切な2人を傷付ける事も許さない。その為には躊躇わない。うん、殺す。


 この謎の敵。最初は盗賊なのかとも思ったけど個人の技量は結構高い。ベルカーンの騎士見習い達と比較してもかなり上、とみて間違いないだろう。そうはいっても俺達を討ち取ろうというのなら見積もりが甘い。甘過ぎる。インドが誇る世界一甘いお菓子レベルに甘い。もちろん俺は食べたことはないけど。


 守りに徹した俺たち3人が互いを守りながらも数人を撃退したところで、その間にルーは残りの全てを無力化していた。動けなくしたんじゃないよ、黄泉路に送り出したんだ。この魔人、敵には容赦無し。


「こ、こ…こんな馬鹿な……!」


 俺達の前に居た、最後の黒装備の男が後ずさりする。逃げる気かな?捕まえて背後関係を聞き出さなきゃだな。しかしその1人は、懐から…試験管?のようなものを取り出して、へし折った…と同時にそいつの身体が爆発した。な…!?


 俺の理解が追いつく前に、辺りに倒れていた黒装備の奴らも次々と誘爆したかのように爆散していく。


「《岩塊障壁》」


 ルーが素早く俺達の周囲に岩の壁を作り守ってくれた。どうやら奴らの爆発は最後の攻撃と言う以上に証拠隠滅が主目的のようで、周りへの破壊力は左程でもないようだった……けど危なかったな。最後は人間爆弾かよ。クレイジーにも程がある。

 うわぁ…血臭が……セシルが風を起こして換気した…まぁ外だけどな、ここ。辺り一面も血に染まっている。後からここを通る人、さぞびっくりするだろうなぁ。将来的に怪談の現場になりそう。タイトルは血に染まる森、なんてな。ちなみにジャンさんと馬車は戦闘開始と同時に避難していて人間爆弾からも無事でした。うむ、ナイス逃げ足。


 それにしても何なのよ……理由もわからず襲われて最後は自爆も厭わないって。こりゃ盗賊じゃないよねぇ。殺す覚悟うんぬんのレベルじゃないなぁ。いったいどんな覚悟……使命感なのか。俺に言わせりゃ狂人でしかないけども。

 そんな状況で、セルジャン達は黒い装備を着ていなかったせいなのか、爆発せず無事だった。無事と言っても、ブロワーズとアルノエは既に事切れてるし、セルジャン自身も腹に矢を受けたまま気を失っている。あ、全然無事じゃなかったわ。命を狙われて忌々しいこと極まりないが、今ここで死なれても困る。もしかしたら尋問が出来るかもしれないから、セルジャンたちの馬車に遺体ともども放り込んで先を急ぐことにした。

 ここがどこなのかも分からないけど、ジャンさんが本来の予定ルートにナビゲートしてくれる。スマホも地図も無いのにスゲーよな。何気にジャンさん、優秀。ただ1人、王子の旅に同行を許されただけはある。




 途中、手頃な木陰を見つけたので、そこでセルジャンの尋問をすることになった。そもそも本名なんだろうか。やっぱり偽名なのかな。どっちでもいいか。


「おい、起きろ。セルジャン」


 (うな)されているが、中々目を覚まさない。一応最低限の止血はしてあるんけどな。ほっときゃそのうち死んじゃうだろう。


「水でもぶっかけてみるか」


 もちろん、貴重な飲み水をそんなことに使えない。少し歩いたところにあった池から水を汲んできたよ。少し泥臭いが、セルジャンの立場で文句も出ないだろう。その水を汲んで戻ってきてから、あ……水魔法でやればよかったな、と気づいた。

 もちろん恥ずかしいから口にはしない。真剣な顔してバレないようにしとこう………クソッ!みんな心の中では、こいつ何してるんだろう、とか思ってるんじゃないのか?いかん、バカがバレる。緊迫した雰囲気なのにぶち壊しじゃないか?急に絶対に笑ってはいけない尋問24時が始まったみたいになってきた。皆、真剣な顔してるが内心どう思ってるかわかったもんじゃないぜ。本当は俺の心の声が聞こえてるんだろ!?笑ってるんじゃないのか!?全部わかってるんだぞ!

 


「いい加減、目を覚ませ」


 水をぶっかけて、同時にルーが威圧スキルを発動する。びっくりして近くにいる俺達も思わず仰け反ってしまった。それほどの迫力だったんだよ。

 えー、今後もし夫婦喧嘩をしたらコレを使われるかもしれないの?ヤベーな。かかあ天下待ったなしだな!その威圧のせいか水のせいか、セルジャンが微かに目を開けた。やっと意識が回復したようだ。


「狙いはなんだ。誰に頼まれた」


 簡潔な問いだ。そしてその返答は重要だ。俺にとっては2重の意味で。襲撃の目的と真犯人はもちろん最重要だ。


 そして、もしセルジャンが黙秘や認否が出来るなら…………将来、俺達の夫婦喧嘩の展開にも光明が差す。いや、何もしてないっすよ。何もしないっすよ、将来的にも。ええ。でも、なんとなく頑張れ、セルジャン!とも思った……わかってくれるでしょう?この気持ち。


「………」


 無言。これは…どうだ?抗ってはいるのか?威圧されても黙秘はできるのか?それとも恐怖で声も出ないのか?黙ってちゃ分からんだろうが!


「アレク……どう思う?」


 クリスが声を潜めて話しかけてきた。どう思うも何も、今の俺は夫婦喧嘩における威圧スキルの有用性についてしか興味が無いぞ。俺にとって、それこそが最重要課題なんだ。


「恐ろしい威圧だな。何も言わないのは……何も知らないから?」


 そういやクリスも威圧スキルを持ってたな……今後はあんまりコイツを怒らせないようにしておこう。そんなに怒る奴じゃないけど……それでも何回か怒らせてる俺ってすごいな。いや、庶民が王子を何度も怒らせてるってスゲーというか……ヤベーよ。


「ルシアンかマティアスかだけでも言え」


 ルーが更に厳しく問うとセルジャンは地面を見つめたまま、ほんの少し目を大きく見開いた。何それ。ルシアンて。誰よマティアスて。むむ。まさか、ここへ来て…ふルー畑警部補が降臨か?いや任三郎は威圧しないよ!笑顔で犯人を追い詰めるんだよ!


 それに対してセルジャン何も返答しない。

 そのまま肩を震わせながら、何かぶつぶつ言いだした。


「おい…おい!よせ!」


 ルーがそう叫ぶが早いか、セルジャンの身体が大きく跳ねて、次の瞬間には驚くほど大量の吐血をした。

 あれか?奥歯に薬を仕込んどいた的なノリか?捕まった忍者かよ…!威圧から逃れるにはここまでしないとダメなの?詰みじゃん。威圧された時点で白旗を揚げてサライを歌いながらゴロンとしてお腹を見せるしかないのか。いや、怒らせるようなことはしてないし、するつもりもないけどさ。まぁでも、この先に何が起こるかわかんないでしょ?

 


 「アレクシス君、今日の帰りにちょっと付き合いたまえ」

 「え、なんすか?部長」

 「例の取引先の社長を接待だ。キャバクラいくぞ。君も来たまえ」

 「部長!僕には家で愛する妻が待って……そうですね、仕事じゃ仕方ありませんね。どの店に行くんですか、この前の店に行きましょうよ!ほら、めちゃくちゃ可愛い子が居たじゃないですか!」


 ………なんて展開もあるかもしれないじゃない。知らんけど。ほら、接待でキャバクラってよくあるらしいじゃないの。接待したこともされたことも無いから知らんけど。

 今は関係ないか。目の前で敵とは言え、血塗れで死んでいるのに俺も暇な事を考えているなぁ……少々…いやかなり壊れているのかも。疲れているのか。いやいや、話と時を戻そう。


「自分の体内で攻性魔法を暴走させたようだ。すまない、尋問は私も不慣れで…」


 そんなまさかの方法まで防ぐのは難しいだろう。しょうがない。

 最後の最後で、セルジャンの覚悟が俺達を上回ったんだ。


「ここで考えていてもしょうがない、先を急ごう。それとアレク、仕事であってもキャバクラはダメです。許しません」


 ………あれぇ、また口に出してましたかね。

 ダメですか、そうですか。そりゃそうですよね。知ってた。



拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。

この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!

是非とも感想、レビュー、ブックマーク、評価を頂ければこれに勝る幸せは御座いません。

(人>ω•*)お願いします。

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