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32 え~~…犯人はあなたです~…。

 


 セシルがなんだか……すごいんです。


 昨日も飯を食って、すぐ寝たはずなのに今朝は徹夜明けの漫画家みたいな顔してたし。いや、徹夜明けの漫画家は見たことないけれども。徹夜明けじゃなくても、そもそも漫画家を見たことないわ。前世で自分の徹夜明けの顔は嫌になるほど見たけども。まぁ、それはいいんだけどな……そんなセシルは土色の顔色でフラフラになりながらも最後まで本日のノルマを走りきっていた。何があった。怖い夢でも見たんだろうか。


「ねぇ、お父さん。セシル……あの子、学校で何かあったのかしら」

「勘弁してくれ。俺は会社で疲れてるんだ。家の事は母さんに任せるって言っただろ?」

「もうそんな事ばっかり言って……子供の事は全部あたしに押し付けるんだからっ!」

「明日も朝から会議なんだ!もう寝させてくれよ…」

「酷い…!」





「………何をやってるんだ、君達は」


 ノリの良い王子と家庭崩壊の序章コントです。小さい頃の3人でやってたおままごとで、たまにこの設定をぶち込んだものだ。2人には本当にもの凄く不評だったが、俺は結構好きなんよ。こう……ドロドロの愛憎劇。

 ああ、このお父さんとの結婚生活も限界かもしれない。離婚となったらセシルはどちらに付いてきてくれるかしら。あ、もしかしてルーも役が欲しいのかな?俺の不倫相手でもやる?


「いらない。しかし、随分と余裕があるんだなぁ……もう少し厳しくしてあげようか」


 大丈夫です。

 充分に厳しくて、つら過ぎて現実逃避してるだけなんだから…ね?


「お父さんお母さん、ケンカはやめてっ」


 セシル…なんて良い子!抑揚ゼロの棒読みだけど。


「別れたとしても母さんはボクが養うよ。ニートでも主婦でも好きなことしたらいいよ」


 セシル、それ母さんに言ってるの?アレクに言ってない?なんだか妙に心にグサグサ刺さるよ?そういえば、以前ルーにもニート・ヒモでも可って言われたしセシルにも昔、将来の面倒を見てあげるって言われたことあるわ。モテて嬉しいが………何故、俺はそんなダメ男な設定なんですか。前世でもニートの経験なんて無いっすよ?歯科技工士の専門学校を卒業してからも普通に就職活動もして真面目に勤務してたんだよ。経験を積んでからは独立して自営で頑張ってたし。これでも一応経営者だったんですよ?





 今更ながら俺達の状況を説明すると、今日は旅立ってから7日目である。


 この辺りがオルトレットと俺達が目指す王都の中間地点だろうか。ついに後半戦突入。でも日々の内容は大差ないよ。相変わらず、走って魔物を発見したら戦って解体する。魔物はゴブリンたまにオークとかで、そんな滅茶苦茶強いものでもない。街道は多少逸れてるけど所詮は馬車で走れる道を行ってるからね。これで破天荒にめっさ強い魔物が出たら、この国の治安的にも色々と問題だ。

 代わりとばかりに日々、魔人との組手・模擬戦は手厳しくなってる。クリス強化合宿の意味合いが濃かったはずなんだが、セシルも何故かハードモードになっていた。じゃあ俺だけはぬるま湯で、と言うわけにもいきますまい。自然と俺もハードモード突入。どうしてこうなった。

 今も、どーでもいい会話しつつも走ってるのは俺です。インターバル走というのか、緩急付けて走ってます。走ってるというか……全力ダッシュですね!


 俺も俺なりの理由で強くなりたいのですよ。

 人生を幸せに生きるには色々と努力も必要なんですよ。






 さて、王都までの行程も半分を超えた。しかし、行けども行けども平野が続いていて…代わり映えのしない景色だ。山岳じゃないのはありがたいけども。日本も南北には大きな国だったけど、この国も大きそうだな。その向こうには外国もあるんだろう。いつか国も飛び出せる日がくるのかな。

 見晴らしの良い場所に出たら、定期的に休憩もしてるよ。これは俺達の為の休憩じゃなく、馬が休まないといけないからですね。俺達より馬の方が扱いが人道的なんだよ。これが生類憐みの令なのか。

 さぁ、お馬様以下の俺が偉いお馬様達を水場まで連れて行ってやるぞ。他のみんなは馬車の周りで休憩中です。季節外れと言うべきか、今日も昼間は風が無くて少々暖かいのが嬉しい。

 











 水場には、先客が居た。


「やぁ、珍しいな。ちょっと待ってくれ、すぐに場所をあけるから」


 そこに居たのは、白髪交じりのおじさんと少し髪が薄くなった目付きの悪いおじさん、そして…鎧を来て剣を佩いた若い剣士………おい、武装しとるやないか!


「大丈夫だ、こいつは我々の護衛の冒険者だよ。ダルセル、お前ももう少しこっちに寄ってやれ」

「すみません、ありがとうございます」


 冒険者だって!こういう仕事もするんだな。いわゆる護衛任務か。一瞬、小ざっぱりした盗賊かと思ったぜ。とりあえず、場所を空けて貰ったんだから馬達に水を飲ませないとな。ほーら、お馬様達、水飲んでこーい。


「えーっと。君も商人……なのかな?随分若そうだが」

「いえ、まだ学校を卒業したばっかりで……旅の者です」


 な~にが旅の者です、だよ。偉そうに。せっかく話しかけてくれているんだから愛想良くしろよ。……おっさん相手に愛想良くしてどうする気なのか知らないけど。そして君も、と言うからにはおじさん達は商人なんだろう。


「そうか。この道を通るなんて行商人にしては珍しいと思ったんだ」


 うん、俺達はわざわざ魔物がなるべく多く出現する道を走っているからね。本当に、あの師匠はどうかしてるわ。でも、行商人が通るのも珍しい道を通るおじさん達は何者なんすか?


「あなた達は商人、なんですよね?」


 目つきの悪いおじさんは俺に返事することもなく黙々と、そして次から次へと馬に水を飲ませてから奥の馬車の方へ連れていく。こっちの愛想の良い、白髪交じりのおじさんがボスなんだろうか。


「ああ、私達はこのままドーニアンまで行くんだよ」


 知らん。どこだ、ドーニアン。多分、この辺の村か町なんだろうね。


「君は…いや、君達か。君達はどこまで行くんた?」

「えーと、確か今日はスタンロザという町まで行く予定ですよ」


 言ってから気がついた。王子の今後の予定を何処の馬の骨ともわからないおじさんに教えてどーする!?バカか俺は!このおじさんが悪い人ではありませんように!


「奇遇だな、私達はスタンロザから来たんだ。あ、名乗ってなかったな。私の名はガエル。お察しの通り、行商人さ」


 そう言って、おじさんは顔をくしゃくしゃにして笑った。多分、悪い人じゃないと思うんだけどな…。


「アレクシスです」


 更に下手な事を言って、これ以上情報を漏らさないようにしないとな。警戒。油断しない。


「そんなに、緊張するなよぉ。別に取って食いやしないさ」


 そう言ってガエルさんはニカッと笑うけど、あんまり人見知りに無理を言わないでくれ。商人らしく人あしらいが上手そうだなぁ。俺が馬達を水を飲ませて馬車の方へ戻ろうとすると、何故かガエルさんも世間話をしながら付いてきた。この強引さ、流石は商人。


「おぉ、皆さんがアレクシスの仲間か。みんな若いなー!」


 ジャンさんというお父さんも居ますけどね。そして1000年以上生きているルーが居るから、俺達一行の平均年齢は軽く100歳を超えているので決して若い連中ばかりでもない。そんなの見ても分かんない話だけどね。


「アレク、そちらは?」

「この人はガエルさん。行商人らしいよ」

「ああ、何でも取り扱うウィンテール商会でございます。以後、お見知り置きを」


 気がついてないだろうけど今、おじさんが挨拶しているのは王子なんだぜ。なかなか商人が王族に挨拶する機会もないだろうにな。ラッキーだね、ガエルさん。


「いや、割と魔物も出現するこの街道に俺たち以外の行商人は珍しいと思ってね。新たな競争相手の出現かと思って、恐る恐る偵察にきたんだよ」


 そう言って、また顔をくしゃくしゃにして笑うガエルさん。正直なのか本気なのか冗談なのか全くわかんねぇ。案外、本音なんじゃないかという気もする。それでも実際に俺達を見れば、その疑惑も吹っ飛ぶんじゃないですかね。デカい馬車ではあるけれど、荷物はそんなにだし。


「僕達は、たまたま通りかかっただけですよ」

「そうみたいだな。だからこそ逆に……心配だ。見たところ、子供と女の子ばっかりで……この辺りは魔物も出るんだぞ?」


 さて、セシルは子供とカウントされたのか女の子としてカウントされたのか気になる所だ。そして魔物が出るからこそ、この道を選んだとも言いにくい。でも急に真剣な顔になって心配されると少々申し訳ないような気もする。多分、この人は優しい人なんだろうね。


「こう見えても、元騎士見習いでそこそこ鍛えてありますから」

「そうか。まぁでも、本当に気を付けるんだよ」


 なんとなく、この人は行商人としては2流なのかもと思った。失礼ながら。だって人が好さそうだし。これは偏見かな?偏見だろうな。


「それからな、赤い毛の大きな猪を見つけたらすぐ逃げた方がいいぞ」

「赤い…大猪ですか。そんなに危険なんですか?」

「そうなんだ。狂暴な魔物でな。その上、肉には毒があって食えたもんじゃない。害獣だ、害獣」


 それはもしかしてレッドボアの事か。なんだか……急に行商人っぽくなってきたぞ。うん、急に胡散臭く見えてきた。これも偏見かな?偏見だろうな。


「わかりました。見つけたら遠巻きに倒すようにします」

「ああー、それは止めた方がいいな。危険だ。殺すとな、コイツは周囲に毒をまき散らすんだ。もし見つけたら私達に教えてくれ。私達はそれ用に訓練されているプロだ」


 どういうプロだよ。どうも設定が強引だな!

 教えるってスマホもない世界でどうやって。狼煙でも上げるんですか。


「行商人なんですよね?」

「そうだ、行商人で且つ害獣退治のプロなんだよ」


 よく、こんな強引なトークを繰り広げてしてやったりの顔が出来るもんだな。確かにレッド・ボアの肉は美味しかったから独占したい気持ちはよくわかるぜ。今もルーの収納魔法の中にレッド・ボアの肉が2体分が丸々残っていることを知ったら驚くだろうな。ちょっと面白くなってきた。色んな意味で微笑ましいおっさんだよね。


「そうなんですね。勉強になりました。ところでガエルさんは魔物の素材の買い取りもやってたりしますか?」

「そりゃ、もちろん。何でも取り扱うウィンテール商会だからね!」

「じゃあコレなんて買い取ってもらえますかね?」


 取り出したるは、レッド・ボアの皮。それも一番デカいヤツだ。

 面白そうだからルーにコソッと出してもらったんだよ。


「あー……!肉!コイツの肉は…?」

「えっ、食えるんですか?毒は大丈夫なんですか?」

「それは………我々はプロだからな。きちんと処理する技術があるんだよ」


 だから、なんのプロなんですか。苦しい。苦しいぞ、ガエルさん。


「まだ、その設定で頑張ってみます?」

「…………無理かな?」

「厳しいっすね」

「イケると思ったんだがなぁ」


 そう言って、再びくしゃくしゃな顔で笑った。俺もつられて笑ってしまった。多分、この人は行商人としては2流なんだろうな。偏見かな?偏見だな。


 でも俺は、この正直な行商人のおじさんが好きになったよ。久しぶりに大いに笑かしてもらいました。ちなみにレッド・ボアの皮は1万(ガル)で本当に買い取ってくれた。これは俺達が初めて自分達で戦って稼いだお金だ。大切にしよう。









 8日目。


 今日はようやくのリフレッシュデーとなりました。休養ですよ!休養!トレーニングには休養も大事ですから。運動・栄養・休養、大事。その割には休養は少ない目な気がするが。貴重な休日を堪能しようよ。

 そうは言っても移動はする。馬も少しでも休めるように、今日はゆっくり進むし距離も短い予定なんだそうだ。長距離の旅においては、やっぱりお馬様大事なんだねぇ。




「なんだかんだ言って、アレクって頑張るよね。なんで?」


 セシルと馬車の近くをのんびり騎馬で併走していたら、ずいぶんな質問された。この幼馴染は俺に対してどんなイメージを持っているんだろう。どこでニート=俺みたいになってるんの?俺は本当に真面目なんだよ?仕事は迅速丁寧。期限厳守。正確無比。


「なんでって……そりゃ強くなりたいからだよ。だって死にたくないもん」

「それだけ?なにか目標と言うか……目的はあるの?」

「もちろん、あるさ。現実的な目的が一つ。夢みたいな目的が一つ。荒唐無稽なのが一つ」

「聞いてもいい?」


 うん?いいけど、今日は結構グイグイくるね。


「まずはルーと一緒に世界を見て回りたい、だな。この世界の未知を色々探求して、更に美味いものを食いたい」

「それが現実的な方?じゃあ、夢みたいな方は?」

「これは……誰にも言うなよ?不老長寿を探したいんだ。ほら、前にルーは魔人だって言っただろ。あの人は不老だからさ、俺も長生きしないと……あの人が淋しがるだろう?その方法が世界のどこかにはあるかもしれない」

「……魔人、ねぇ。じゃあ荒唐無稽な目的は何?」


 何、このアンケート。この後で俺はツボか絵画でも買わされるんだろうか。ラッセ〇か。〇ッセンを買わせたいのか。手持ちが無いんですが。嫌だよ身体で払わされるのは。


「それは当てが無さ過ぎる話だから、今はパス。御伽噺レベルだからな。でも少しでも見込みを見つけたら、セシルには言うかもしれない」

「ふぅ~ん……へぇ…そうなんだ。ボクにも内緒なんだ」

「誰にも言ってないって事だよ。なんだよ…セシルは何か目的あんのかよぅ」

「うん、出来たよ。ボクにも夢みたいな目的が。アレクには……ボクも今は内緒。ボクはボクのために頑張るよ。もちろん、アレクの探し物も手伝うからね?」

「お、おぅ…ありがとう。俺も手伝えることがあったら言ってくれ」


 そうか。セシルにも目的が出来たのか。ずっと、子供の頃から一緒で。俺が冒険者になろうとしたら、じゃあ一緒になるよと言ってたセシルが。自分のために頑張るんだって。正直言って、巣立たれたかのようでほんのちょっぴり淋しい気もする。まぁ実際は、すぐそこいるし今後も一緒だろうけどな。


 なんだか、セシルが大人になったようで少し嬉しいのも本当ですよ。久々におっさん視点でそんな事を考えてしまった。え?ずっとおっさんだって?俺、そういう事を言う人、好きじゃないなぁ……。












◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇










 今日は休養日で、アレクもセシルもリラックスしているようだ。僕は馬車の中から、ぼんやりと併走する彼らを見ていた。何かよく聞こえないが2人は楽しそうに話をしてるようだ。何年も見てきた、見慣れた光景でもある。

 ここまで色々あったけど、まさか王都へ戻る日がくるとは………本来、これは王子として喜ばしいことなんだろう。しかし、かれこれ10年以上をオルトレットで過ごして街に愛着もある。そして何より愛着のある人が増えすぎた。いっそ断ろうかとすら考えたが、まさかそんなことが出来るはずもない。


 それが、アレクがレティシア先生の封印を解除したことで状況が変わった。アレクにレティシア先生を残したまま、王都に一緒に来てくれと言っても絶対に無理だっただろう。それが先生も自由になった今。まさか皆が一緒に王都に来てくれるとは。アレクやセシル、レティシア先生が一緒なのは本当に嬉しいが………それでも気は重い。まさか、僕に婚約者が用意されるなんて。

 わかってる。これも王家の者の責務であり役割の一部だ。いやしかし。僕の心には……僕自身にもわからないモヤモヤがある。なんなんだよ、これは。僕はなにが納得出来ていないんだよ。





「レティシア先生は、王都ではどこに住まれる予定ですか?」

「そうだなぁ……アレク達次第だが、手頃な宿でも探すことになるんじゃないかな……あるよね?宿」

「ありますあります!勿論ありますけど……王城へ来てみては?」

「あるよね!良かった、私の知識はかなり古いから自信がなくて……はい?王城?」


 先生は本当に色々なことを知ってるし教えてくれるが、1000年間も迷宮(ダンジョン)に閉じ込められていたせいか、たま~に変なことを言い出すことがある。そういう所も僕は素敵だと思うんだけど……。


「王城なら部屋なんていくらでもありますよ。それに先生は御祖父様の娘となったのですから、僕の叔母になるわけですよね?なら権利がある……というより王城に滞在する義務があるのでは!?」


 すごく早口になってしまった。

 ああ、先生も唖然としているではないか。


「なるほど……しかしクリス、お父様がいらっしゃれば話は違うかもしれないが私1人が、それもアレク達を連れて行ったところで王家の皆様の混乱の元でしょう。それに……冒険者稼業に王城は申し訳ないがやっぱり不便だと思う」


 うう、無理を言って先生を困らせてしまった。

 何か別の話題を…!何か…ないか!?


「あの!レティシア先生はどんな人が好きですか!?」

「うん?クリスがそういうことを聞くとは意外だね。それは一般的にか?それとも恋愛対象かな?」

「え…あ……では恋愛対象でオネガイシマス…」


 自分から言い出したけど、顔から火が出そうだ。

 唐突に何を言ってるんだ僕は…!

 でも、教えてくれるんですね。

 ちょっと意外だった。


「メルヴィル・クロゥ」


 ん?誰ですかそれは。僕の知らない人?


「私の理想の男性だ。私の最愛の人で、命の恩人でもある……1000年前に死んだけどね」

「それは、ご愁傷様です…そんな人が……いたんですか」


 少しショックだ。先生にそんな人が居たなんて。でも1000年前に亡くなった方なんだ。それにホッとする自分が、なんだか嫌になる。


「欠点も多い男だったが……秘密主義で自分勝手で思いつきで行動して大雑把で大バカで私の意思なんて無視して……あぁ、思い出すと未だに腹が立ってくる」

「でも、好きだったんですね」

「それはもちろん。誰よりも勇気と知恵があって私に次々と新しい光景を見せてくれた。この上なく優しくて私の居場所となって包み込んでくれた……こんなこと、本人には言えないな」


 そういって楽しそうに微笑む先生は、まさに恋する少女のようで……この人がこんな風に笑うのか。初めて見るその表情にときめくし、なんだか悔しいな。僕じゃ、この微笑みは与えられないんだろうか。


「言いたくても、1000年前に亡くなった人には言いようがありませんよ」

「………まぁ、そうだね。それでも、これは私と君だけの秘密だよ」


 秘密か。先生と僕だけの秘密。たわいも無い話だけど、こんなことでも少し嬉しい。


「メルヴィルを除くなら……歳上だな。実際の年齢じゃないぞ。見た目だ」


 先生より歳上って1000歳越えの人間は世界中どこを探したって居ませんよ。あ、エルフなら居るかもしれない…!エルフはもの凄く長寿だと聞くし。いやしかし歳上だと僕は条件外なのか!?


「アレクやクリスは……ギリギリだな。本来は全然ダメだけど、君達は私にとって特別だからね」


 特別。僕も特別らしい。

 特別なのは……先生ですよ。


「他には!?」

「他は……勇気のある、とびきり優秀な人だ。今のところ一番近いのは……お父様だな」

 

 まさか御祖父様がライバルになるなんて…!

 でも確かに、御祖父様は僕が知る限り最も優秀な人だ。

 

「私は多分、1000年後の今でも世界屈指の強さだと思う。でも、実はね……ものすごく臆病なんだよ。真の勇気を持つ者は誰であろうとも無条件で尊敬する。それが不老長寿を探そうっていうバカでもあってもね。これも秘密だよ?」


 勇気、か。僕にあるのか?

 先生が臆病なら僕なんて…。


「……今更ながら恥ずかしくなってきた。本当の本当に絶対、秘密だからね!さぁ、ここまで私が喋ったのだから、クリストファー王子の好みの女性も教えてもらえるのでしょうね?」

「僕は……僕の理想は歳上の強い女性ですね。それでいて優しい人なんです」

「ほほぅ…気が強い、なら貴族の姫君にも多そうだけどね。君にも王都で素敵な人が見つかると、いいね」



 もう見つけてます、とは言えない。


 もし今、それを言えたら僕の運命は変わるんだろうか。僕達の関係は変わらないんだろうか。今の僕に足りないのは蛮勇だろうか?勇気なんだろうか?世の中は分からない事だらけだ。













  ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆












 楽しい楽しい休養の日はあっという間に過ぎ去った。出来るものならタイムトラベルして今朝に戻りたい。休養って言っても半日は馬上に居たので、それなりにぐったりだ。

 しかしながら休養の日であっても組手は行われる。休養の意味とは何ぞや。多分、1000年前の休養ってこういう意味なんだろうさ……って1000年前の人々が怒るぞ。当然のように、今日も1本を取るには至らなかった。この調子では酒が飲めるようになるのはいつになるやら。


 夕飯は、今では恒例の風景だが今日もジャンさんの両手に花だ。一度、ルーにくっつき過ぎじゃないのか、とクレーム入れたら


「妬くな」


 シンプルな返事を頂いた。妬くわ。おもくそ妬くわ、そんなもん。今、ジャンさんが死んだら俺が第一容疑者確実なレベルで妬くわ。なんならダイイングメッセージにアレク、まで書かれるわ。

 いや、それより地下の大金庫室に閉じ込められたジャンさんが白紙の紙を握り締めて、もう片手にはペンを持って死んでてくれてもいいな。そうそう、嵐の夜に洋館で。そんで、ふルー畑任三郎が雨宿りにやってくるわけだ。そう、あの音楽と共にな。


 そこには第一発見者の俺。そして被害者のジャンさん。嵐の夜に洋館に男が二人きりというだけで十分猟奇的だよな!御免被るシチュエーションだ。だが、既に事件は起こっているのだ。何故、殺されたジャンさんは白紙の紙を握り締めていたのか。何故、犯人の名前も何も書かなかったのか。


 色々調べあげたふルー畑警部補(まだ第一話だからね)が言うわけだ。


「え~~……ジャンさんを殺した犯人はあなたですぅ~……いつから?初めから疑ってました~~……」


 そこまで話したらルーが、ふルー畑警部補…!私がやる!と興奮しだした。落ち着きなさい、チョロインめ。この世界において推理小説はまだないのか既にあるのか知らないが、魔人は随分ミステリーがお気に入りのようだ。ちなみに俺が個人的に古畑任○郎の最高傑作のひとつ、と認定している第一話。中森○菜演じる犯人は後に裁判で無罪になっているらしい。それはそれで良かったと思うけど、真犯人でもあるし……ホントに良いんだろうか。

 この辺の見解をふルー畑さんに聞いてみたら、どこから用意したのか黒いジャケットを着て「最後の最後は、ハッピーエンドです。んふふふ~~♪」とおでこに手を当てていた。全く似てない。微塵も似てないが、こんなに上機嫌な人にそんなこと言えやしない。


 「事件が起こったら私を呼べ」


 そう言って、ふルー畑さんは女子部屋に戻っていった。物騒なことを言わないでください。変なフラグを立てるな。平和が一番。事件なんて、面白い行商人の一行に出会う程度で十分だ。


 十分だと思ったんだけどね……。



拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。


この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!


是非とも感想、レビュー、ブックマーク、評価を頂ければこれに勝る幸せは御座いません。

(人>ω•*)お願いします。

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