28 バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇよ
多分、これで第一部完。
非常にムカムカしたし腑に落ちないが一応、相手方の親に挨拶をしたわけだ。我ながら本当にとんだ御挨拶でしたけども。たとえ、その相手ってのが俺の方が先に知ってた顔だったとしても。俺のぶん殴りたいランキング終身名誉1位になっていたとしても。結婚します、とかは一切何も言ってないけども。挨拶っつーか顔見せか?だから俺と御老公は元々顔見知りなんだってば。
なにわともあれ、だ。次は俺の両親を彼女に紹介する番だろう。結婚てのは、個人だけじゃなく両家も関係するものだしな。……まぁ俺は前世でも未経験なので、偉そうなことは言えないんですが。前世の結婚した友達が言っていた事とか、うっすらと記憶に残るゼク○ィが頼りだ。頼むぞ、谷口。信じてるぞ、森下。もしあいつらが俺に変なことを教えていたのなら、何としてでも日本に戻ってあいつらをグーで殴ろう。
「……私、変じゃないだろうか」
変じゃない。今日も貴女は素敵に破格に美しい。むしろ綺麗なドレスを着ているので美しさが倍増していると言ってもいい。ただし、少々浮いて見えるのも事実だ。
我が家は貴族の住むような豪邸ではないからなぁ。そういうレベルじゃないにしても、この街でいうなら良い方だと思う。控えめに見ても中の上くらいの家庭だと思うんだ。さすが、騎士団の副団長だよな。パパってすごい!昼間のパパは漢だぜ。
にもかかわらず、それでも掃き溜めに鶴、とか泥中の蓮なんて言葉を連想しちゃうんだよな。それも今回に限っては、鶴もしくは蓮側にも大いに問題があるんじゃないかと思う。
しっかりドレスアップして、どうみても貴族の……いや王家の姫君だぜ、こりゃ。確かに先日、王家の一員になっちゃったからな。リアルに王家の姫なんだよなぁ。うちの親に会うという事で気合を入れてめかし込んできてくれたのは良いけど乙姫さんに初体面した浦島太郎でも、ここまで見惚れないと思うわ。俺にとっては眼福だけど、うちの両親にここまでは必要無いよ……!
もちろん徒歩でこんなお姫様を連れてくるのは無理だ。そんなの暴挙だろ。シンデレラだってカボチャの馬車で移動してたのに。だもんで大公邸から馬車で来たんだが……これは御老公の差し金か、随分と豪華な馬車を用意されたもんだ。もしや嫌がらせか?とも思ったけど大公が持ってる馬車だもんな、そりゃ豪華に決まってるか。もういい。考えても始まらん。さっさと家に入ってもらおう。
ささ、姫様。お手をどうぞ。
「リュシオール殿!よくおいでに…なら…………」
馬車が到着した音に、勢い良く笑顔で出迎えに来てくれたのはいいが……うん、固まる気持ちはわかるぜ、パパン。父さんにとっては、リュシオールってのは最近になって急に現われた大公の後ろに控えている謎の黒騎士くらいの認識だったからな。今日それを我が家に招待するって言っても、ヒュドラを単騎で討ち取った凄腕が来るってワクワクしてたもんな。それは決して間違いではないんだけど……頭の中の情報と目から入った情報が一致しなくて混乱しているんだね。
面白そうだから、父の誤解は解かずに放置しておいたんだ。
はい、ドッキリだ~いせ~いこぉ~。
カメラはあそことあそこだよ。
「ほら、あなた。早く中に入ってもらわないと」
さすが、固まっている父と違って母は冷静だ。
なんとも我が家を象徴するような光景だね。
「……あ、そうだな。ささ、こちらへどうぞ」
なんとか再起動したけど、期待通りにテンパってくれて面白いぞパパン。でも、そこまで緊張しなくてもいいんじゃないかな。
「し、失礼しましゅ!」
噛んだ。
もう1人テンパってた人が居た。あのね、貴女が積極的にウチの両親にご挨拶したい、て言い出したんでしょうが。これも映画かマンガかドラマの影響なんだろうか。意外とミーハーなんだよな、ルーは。ガッチガチに緊張しててウケルwww
本来なら俺もこんなのは緊張する方なんだけど、今は周りが俺以上にガチガチなので緊張したくても出来ないような状況。ホラホラ、はやくぅ♪とルーを急かしてたら
「アレク、あんまり私を虐めないでくれ……」
ちょっと涙目で言われた。
ごめんごめん。あまりにかわいくて。
なんなの、このカワイイ生き物。
改めて姫の手を取り、我が家へと導く。
小さな手がちょっと震えてるじゃないか。
大丈夫だよ。
うちの父と母は掛け値なしに良い人達なんだ。
リビングで、父と母に向かい合わせに並んで座る。なんか……面談か面接みたいな雰囲気だな。不思議な緊張感が溢れている。
「お父様お母様、本日は、お忙しい中で時間を作っていただきましてありがとうございます。私はレティシア・リュシオールと申します」
「いえいえ、御丁寧に……アレクシスの父、第1騎士団副長のレオンです。」
「母のブリジットです」
息子のアレクシスです、と続けて言いそうになった。誰に自己紹介する気だ。ここに居る全員が俺のことは知っているのに。父とルーの緊張が伝播してきて、椅子に座ったら徐々に俺もヤバくなってきた。
だってぇ……こんなん、あんまり経験してこなかったもん。いや、実は前世でも一回だけ結婚の挨拶ってしたことが有ったんだけど……その後、破局してなぁ。苦い思い出だ。縁起でもない、今ここで思い出すことじゃないな。
「リュシオール殿は…その、あの黒い鎧の……?」
「はい、それは私ですね。今は大公陛下の元に御世話になっております」
「あのヒュドラを単騎で倒された、というのは本当ですか?失礼ながら……その、そんなお強いようには…」
「ヒュドラは毒が厄介ですものね。街中でしたので周囲に撒き散らさないように少々苦労しました。あの時は……お父様もカークス相手に見事な活躍をされていましたね」
「ああ、あの3つ首の。お父様も……いや、俺も部下や市民に怪我させないように必死でね。若い頃にもう少し小型だったがミノタウロスと闘った経験が生きました」
「そうでしたか。ミノタウロスと……もしや、お父様はカンダクスに行かれた事があるのですか?」
「わかりますか!俺も昔は………」
褒められたせいか鼻の下を伸ばして、父の若い頃の長い武勇伝を語り出した。それはそれで俺も初耳な話ばっかりだった。うん、この父にも歴史あり、なんだなぁ。それにしてもルーは容易く、しかも完全に父のハートを掴んだな。相変わらず、チョロいぜパパン。
「……その時、妻と出会いましてな。俺の一目惚れでね」
なんだかんだで、父と母の馴れ初めエピソードまで聞きだしたよ。息子としては……なんというか知りたくなかったような恥ずかしいような。意外と王道のラブストーリーを歩んでたのね。やるじゃん親父。大冒険して、美人をゲットして、騎士として出世もして……よく考えたらすげえな。アンタ、立派な主人公キャラだよ!
「はい、わかります。お母様、お美しいですものね」
「いえいえ、あたしはそんな立派なもんじゃ……お茶、新しいのお持ちしましょうね」
「お母様、私もお手伝いします」
「そんなそんな、お客さまに…」
「そんなこと言わずに、是非させてください。お願いします」
そんな、あらあらそんなの応酬をしながら母とルーはキッチンに消えた。お手伝いのナターシャさんが居たらお茶汲みの手間もなかっただろうが、エミリー姉さんが嫁に出たくらいの時期でナターシャさんは引退となったんですわ。なんせ兄2人や姉が家を出て、我が家は3人住みになったからね。そんなに手もかからなくなったんだ。多分、俺が家を出たら父さん母さんはレスリー兄さん一家と同居するんじゃないかな。
「おい……聞いてないぞ」
「ヒュドラを倒した勇者でしょうが」
「あんな綺麗な子が……信じられん。お前、もしかして…あの子とそういうつもりか」
そういうってどういう意味だよ。そりゃ、あんなこともこんなこともしたいけど。するつもりだけど。父親から放送禁止用語とか聞きたくないぞ。地球もこの世界も、自動で会話にピーは入らないんだからな。入ってくれたら俺はどれだけ問題を起こさずに済むのやら。
「……父さんと母さんほど、美女と野獣でもないだろ?」
「お前は確かに母さん似かもしれんが、それでも……本当にあの子と?信じられん」
「息子を信じましょうよ、そこは」
「お前だから、尚更信じられないんだが」
うむ。よく考えたら俺も信じられない気がしてきた。これって長い夢かもしれん。目を覚ましたら……ブラッドウルフに襲われた直後とか?それともコンビニ内で車の下敷きになってるとか?だとしたら長過ぎるだろ、夢が。古典的にほっぺをつねってみたが、ちゃんと痛かった。よし、大丈夫だ。
そんな男同士の内緒話をしてると、クスクス笑いながら女性陣も戻ってきた。あっちはあっちで女同士の内緒話をしていたのかもしれない。どんな話をしていたのか聞いてみたいが、聞くのが怖い。
皆の前に、再び暖かい紅茶が置かれて一瞬、静寂に包まれた。いわゆる、天使が通った状態だ。いかん、この状態が続くと更に何も言えなくなってしまいそうだ。ええい!見る前に飛べ!
「父さん母さん、時期は未定だけどそう遠くないうちに、この人と結婚しようと思います」
「それは…うん、おめでとう。2人ともおめでとう。だが、まだお前は就職もしてないし、そもそも王都に行くんじゃなかったのか?」
「王都へは彼女も一緒に行くんだ。仕事の方も大丈夫」
……根拠はないけどね!結構な世間知らずではあるが、何度も生まれ変わって人生のキャリアは長いし。最悪、ヒモでも大丈夫だよと彼女は言ってくれてるけども。そこは何をやったとしても、彼女を食わせていくくらいは稼ぐつもりだよ。そんな彼女は、実は食事や睡眠すら必要な訳ではない魔人ですけども。
「レティシアさん、おめでとうございます。この子を……アレクをよろしくお願いしますね」
「私の方こそ、不束者ですがよろしくお願い致します」
これで晴れて両親公認の婚約者となった。だからって何が変わるわけでなく……でも意外と大事なのよ、こういうのが。多分な。
ド緊張で始まった顔合わせを笑顔で終えて、再び無駄に豪華な馬車に乗ってルーを大公邸まで送っていく。いかにもアオハルっぽく馬に二人乗りでも良かったが、こんな姫様を乗せて俺が馬を走らせていたら誘拐と間違われて通報されかねない。俺なら通報するね。事情は署で聞くわ。事案発生だ。
『良いものだね、日本の風習も。ちょっと緊張したけど』
ちょっと?あれがちょっとだと?ちょっとの概念に大きな差があるぞ。アナタ最初ガッチガチでしたよ?手と足が一緒に出るレベルで緊張してましたよ。マンガか!と思ったわ。やり遂げた!て顔してガッツポーズしてますけども。フンス!じゃないよ。
『日本と言うか、地球の風習だけど……もうひとつあるんだ』
『なに?結納もするの?』
うむ。それは日本の伝統儀式だ。最近では日本でもやってる家は少ないんじゃないかな。それより、地球でのプロポーズと言えばコレだろう。俺が知らないだけで、この世界でも似たようなことをしているかもしれないけど。
馬車の馭者のおじさんにお願いして少々遠回りをして、街外れの海が見える丘に寄ってもらった。残念ながら、夜景の見えるレストランではないけども。ルーが待っていてくれた、この海辺の街で。そして俺の新しい生まれ故郷で伝えておきたかったんだ。
約束通り。
婚約指輪の入ったケースをパカッと開けて片膝ついて。
『ルー、好きです。あなたを愛しています。僕と結婚してください』
親の挨拶を済ませてからでは順番が違うけど。
ほら、一応迷宮から出した時点でプロポーズはしたし!
……違うな、あの時はよく考えたら俺がプロポーズされたんだよな。
良いんだ、今ここでちゃんとしたから。
王道でしょうが。ベタでしょうが。
『………はい。喜んで』
その黄金の瞳を潤ませて、イエスと答えてくれた彼女は本当に美しかった。いや~………これは答えがわかってても怖いもんだねぇ。出来ればスッと答えていただきたい。それでも、俺はようやく前前世から望んだ返事を貰えた。
『左手を出して』
『こう?』
そう言って婚約指輪を彼女の薬指にはめた。クリスに頼んで、ファンタジーお約束のミスリルを極少量だが手に入れたんだ。それを材料としてカール爺さんの炉を借りて婚約指輪を自作した。石は、俺がこの世界で最初に倒して手に入れたブラッドウルフの魔石を加工したよ。
いやね、歯科技工士からアクセサリー職人に転職ってのも実際にある話なんだわ。扱ってる材料とか作業は結構近いから。その昔、俺も彼女にプレゼントを自作してたからね。知り合いからティファ○ーの指輪とか借りてきて、それを型とって鋳造して研磨して。負担は金属代だけなのに大喜びされて、あれも役得っていうんだろうか。
いや、今はそんなこといいか。
『綺麗…嬉しい……!そして、初めて私に好きって言ってくれたね』
実はそうなんだよ。言ってなかったんだよ。スマン。漱石先生は異議を唱えてくれるかもしれないが。異説もあるしな。
『メルヴィルの頃からだぞ。待たせすぎじゃないの?』
ゴメンよ。でも嬉し泣きをしてくれてるから、なんとか許されたと思っていいんだろうか。確かに1000年は、待たせすぎたね。
『だから、あんまり……私を虐めないで。嬉し過ぎて驚き過ぎて、心臓が止まりそうだよ』
『あなたは青が好きな人だったから、青の宝石にしてみたよ』
『覚えてくれてた……?メルヴィルの記憶が戻ったの!?』
うん?いや……なんとなく、そんな気がしただけなんだわ。俺の中にまだメルヴィルの記憶が少しはあるんだろうか。あるのかもしれない。
『すごく嬉しい。どうしよう……私、死んでもいいわってこんな気持ちなんだね』
そう言って、今までで一番の笑顔を見せてくれた。
この笑顔を護る為に生きていこう。
2人で生きていこう。
それと、死ぬのは頼むから勘弁して。
俺達はこれからなんだから。
スタートラインに今から立つんだ。
バカヤロー、まだ始まっちゃいねぇんだよ。
◇◆◇◆◇◆◇◆
もうすぐ、俺達はこの街を離れることになる。16年もの間、一つの街から出ないってよく考えたらすごい話だよな。こういう中世か近世か分からん時代背景なら普通かもしれんけど。前世なら…まぁ中学生くらいまで世界が狭いのは普通か。それでも、親に色々と家族旅行は連れて行ってもらっていたからな。それに修学旅行もあったし。それを思うと自動車・電車ってのは本当に偉大だ。せっかく世界は広いのだから、有効に使わないとね。
あんまり声を大にして、こういうことを言ってると1000年迷宮引き籠りさんが怒るから、ほどほどにしておこう。怒ったら怒ったでかわいいんだけどさ。
ただし旅立つと言いながらも、俺の場合は大切な人達と一緒に行くんだから卒業感の乏しい旅立ちだ。それでも親兄弟から、そして世話になった人達から旅立つのは少し寂しいもんだよ………大公を除く。
もう明日、この街を旅立つという日。セシルと共にカール爺さんの所に、最後の槍と弓矢を受け取りに行った。いつもの倍以上の時間をかけて丁寧に製作してくれた。本当に爺さんの最高傑作の完成だ。
「お前から預かっていた金だけじゃ足りんかった。残りは……出世払いにしといてやる」
ありがたい。そして申し訳ない。しかしこれで、クリスが入れ歯作製で大公からせしめてくれた大金も全て使い切ったな。あとは、自慢の頭と身体を使ってなんとかするさ。
カール爺さんから手渡された最後の槍は、2メートル弱程度の黒い槍。短槍の部類かな。どきどきするような大きめの銀色の穂先は、竜の鱗でも貫けそうだ。何度も何度も槍を作って貰っただけあって、俺の手に実に良く馴染む。まるで吸い付くようだ。間違いなくこれは爺さんの最高傑作。ならば、これはカールの槍と呼ぶしかないだろう。
「王都に、この槍の整備してくれる腕の良い鍛冶屋さんを知ってる?爺さん級の鍛冶屋」
「バカヤロウ。俺レベルがいるわけねぇだろう。俺は世界一だぞ」
笑わない。カール爺さんなりの冗談のつもりかもしれないが俺とセシルは笑わない。この爺さんが本当に世界一かどうかは知らないが、平和の街オルトレットに似つかわしくない破格に腕の良い鍛冶屋なのは間違いない。
少なくとも俺とセシルは、この爺さんの世界一に票を投じるよ。腕が良い分、愛想は控えめですけどね。控えめというか、ブラック無糖って感じ。目指せ微糖。
「俺程じゃないが、困ったらルディ……ルディ・ガルトナーの所へ行け。他よりは大分マシだろうよ」
「お爺ちゃん、ボクも大事に使うよ、この弓矢。また来るから元気でね!」
「………おう。お前らもな」
お、微糖入ったか?ミルク入れない限りはブラックだかんな。最後の最後にブラック微糖か。いや、最後じゃないな。残金を払いに来なきゃいけない。忘れないようにしないと。
「ありがとう。じゃあ爺さん、ちょっと外の世界に行って来るわ。また来るよ」
多分、親以外で一番長く世話になった大人に別れを告げた。
多分、親以外で一番好きな大人でもあるんだろうな。
カール爺さんから武器を受け取った後は、セシルと2人でのんびりとオルトレットの街を見て歩いていた。近所の顔見知りのおばちゃんに挨拶したりして、見慣れた素朴で美しい街を歩く。本当に良い街だよ、この故郷は。そのまま海まで行って2人でしばらく飽きるまで波を見ていた。次に海を見るのは、いつになるんだろうね。
「最後に行きたい場所が神殿って、アレクは本当にアレクだね」
どういう意味かな。いやね、海から帰る途中、なんとなくワレンの葬儀以来行ってない神殿のことを思い出したんだ。いや、俺は神社とか好きなのよ、割と。前世では御朱印を集めようかと思ってたくらいに。まぁ結局、集めなかったけど。なんとなく最後にここの神さんにお参りしとこうと思ってさ。
約10年。不真面目な神官よりも長く熱心に神殿に通ったが、一度も挨拶してなかったからね。いつも横目に見ていた神像に手を合わせ………あ。
正しいお祈りの仕方、知らないわ。なんとなくセシルのやる様子を盗み見て、事なきを得た。門前の小僧、習わぬ経を読むは残念ながら俺には当て嵌らなかったようですわ。俺達は門前じゃなく地下に居たからなぁ。10年近く神殿に通ってこれでは神さんにも申し訳ないが、これで心残りは無くなった。
まぁオルトレットに心残りを思い出したら、また戻ってくるさ。別に二度と来られない場所じゃないんだから。
ほんの少し期待していたが、神さんに手を合わせても改めて神に会えるとか未知の力を授かることもなかった。チッ……サービスが甘い。そろそろバージョンアップしてもええんちゃうの?ここらで大型アップデート、必要じゃないか?もうすぐ故郷編が終わって王都編が始まるのにさ。ええ、運営にクレームつけたいわ。謝罪の言葉と共に一万ジェムだの10連ガチャ券だの、よこしやがれっての。
◇◆◇
旅立ちの日は、いつも以上に良い天気だった。やはり旅立ちは蒼天にかぎる。いつものように早起きして父と母、そして兄と姉に笑顔で別れを告げた。今日まで育ててくれてありがとう。近いうちに、また会おうぜ。
旅立つ俺の荷物は着替えと槍くらいだ。愛馬ディープに乗って領主館へ向かう。横には同じく馬上のセシル。何百回と領主館まで通った道はいつもの光景だけど、もうこの道を通って家に帰ることはない。いつまでも続くと思っていた、心穏やかに過ごしてきた故郷での日々は今日で終わる。最後にこの街の光景を目に焼き付けとこう。
旅の出発は領主館からだ。クリスの馬車と合流してから出発だよ。俺達は王子の護衛も兼ねてるからね。むしろ、俺達だけで良いのかと思うけど。あの魔人がいれば十分か。
そして到着してみれば、その魔人ルーは御老公に最後のお別れ中だった。新しいケーキのレシピはマドレリア本店に渡すので、時間差でこちらでも味わえるだろう……とかなんとか、そんな甘党らしい会話もしてる。実に結束の強い党だね。どっちかっつーと甘糖の方があってるのかもしれん。
あっ、最後にハグしてやがる。
コラ!おいジジイ!調子に乗るなよ!
割って入りたいが……そこまで野暮は止めておこう。
「では叔父様、叔母様、御祖父様。クリストファー、行ってまいります!」
「ああ、元気でな。まぁ近いうちに俺も王都に行くこともあるだろうから、また会おう」
えー。来るの?来なくていいのに?アナタ静養目的でこの街に来てたのに。残念ながら俺が入れ歯を作って以来、食欲も戻って元気になっちゃったからなぁ……この街に来た時より明らかに若返って見えるもん。失敗だったかもな、入れ歯製作。
「クリス、セシル。そしてレティシア。アレクシスの手綱は引き締めておけよ。コイツは絶対なにかしでかすからな」
確定かよ。失敬な。
失敗だったな、入れ歯製作。
ああ、大失敗だ。入れ歯の出来は良いのにね。
「お爺ちゃん、大丈夫。もう覚悟してる」
おい、セシル。生まれたときからの幼馴染よ。
もう少しオブラートに包んでくれる?
苦味がすっごいよ。
アウェーだわー。
生まれ故郷だけどアウェーだわ。
うん、王都に期待しよう。アーバンシティが俺には似合うはずだ。
「よぉし、行こうか」
行ってくるぜ、生まれ故郷よ。そして愛する人々よ。
さぁ待ってろよ、大都会。
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
是非とも感想、レビュー、ブックマーク、評価を頂ければこれに勝る幸せは御座いません。
(人>ω•*)お願いします。




