26 ぎゃふん
「……結局どこのどちらさんだったのか聞くの忘れてたな。まぁ誰でもいいか」
殺傷力の低い武器で攻撃した分、回数でカバーしてみました。結果、ヤツの顔と言わず胴体と言わず、ぼっこぼこに叩いてしまった。もうあまり原型を留めていない、かな。生きてるんだろうか……それとも遂に殺っちゃったか。緊急時だしどっちでもいいか。
セシルが近くに居る以上、こんな不審者は行動不能にするしかないからね。積極的に殺したくはないけど不審者相手にに容赦は出来ないんだわ。後で誰かにコイツの身柄を預けよう。そのときに死体だったらごめんね。
「へぇ……イボンを倒せるような騎士がオルトレットにいるとはね。まだ少年じゃないか」
突然、背後から甲高い声の男から話しかけられた。ビックリしたぁ!誰だか知らないが……ニチャついたような嫌な声だ。また不審者か。不審者の密度が高い。とりあえずセシルを俺の背中に隠さないと。次から次へと……今度は誰?お巡りさん、今度はこっちです!
「どちらさん?あなたも敵ですか?」
聞きながら気づいた。コイツもさっきの水戸黄門一味の最後の一人だな。いや、コイツらは水戸黄門じゃないけども。
「イボンが生き残ろうが死のうがどうでもいいとして……僕のかわいいグレイトオーガ達を苛めてくれたのは許せないなぁ」
僕の、だと?こいつ?こいつが……この魔物、グレイトオーガ達を呼び出した召喚士なの?なぁ、なんで誰も名乗ってくれないの?俺聞いたよね?どちらさんって。確かに俺も名乗ってはないけども。言おうよ。コミュニケーションの基本じゃん。分かり合おうよ、人類。別に減るもんじゃないしさぁ……でもそう言ってる俺も、この人には名前を聞かれたとしても教えたくないな。なにかが減りそう。心の中の大切なゲージが半減しそう。
いかにも、な感じの黒マントで長髪長身痩躯の……中二病の病原体みたいな人なんだもん。そしてニチャアとしか表現しようのない嫌な笑顔。出会って数秒で俺がドン引きするレベルの不審者はヤバい。
テロリストだのなんだのを差し置いて、それ以前にこいつ絶対にヤベー奴でしょ。絶対友達いねーよ。友達に誕生日を祝ってもらったこと無さそう。同窓会は誘いの葉書さえも届いてないレベル。修学旅行の班決めでも残った連中を先生に集められて、しかもそのメンバーの中でも班長には選ばれない。それどころか班行動でどこ行く?って聞かれても意見は言えない。そのくせ、ここにしようかと決まったらおもくそ文句を言う……しかも心の中で。家ではお母さんには超強気。最強の内弁慶。そんな感じ。
「だーかーら、どちらさんですか?」
「僕かい?僕は闇の召喚士、オーギュスタン。ああ、僕が全てのオーギョドリュフュアア!!」
ああ、いい感じで中二病な台詞だったのにな。哀れな闇の召喚士は黒い大剣で横からぶん殴られて、聞いたことも無い声を出して……うわ…腕が曲がっちゃいけない方向にぐにゃってなってる……ぴくぴくしてるよ……いろんな所からいろんな体液が出てる。ダメ!セシル、見ちゃいけません。これは18禁…いや24禁でもええわ。このビジュアルを克明に伝える語彙と表現力が俺に無くて良かったわ。これは昭和初期でも放送禁止だろ。冒頭にグロ注意って書かれるヤツだわ。
「無事か。アレク、セシル」
ルーさんが助けに来てくれた。漆黒の鎧モードだと本当に問答無用に情けも容赦もないっすね。もう少し待ってくれたら、この人は色々と秘密をベラベラ喋りそうだったんだが……しょうがない、お互い運が無かったね♪ドンマイ、切り替えていこう。闇の召喚士さんは切り替えるというか、電源が切れそうになってますけども。
「ええ。大丈夫です」
「でも師匠、ちょっとやりすぎ…かも」
「ごめん。ヒュドラと闘ってきたからちょっとテンションが上がってたんだよ。コレがアレクを攻撃しようとしてるように見えたから叩いちゃったけど……問題なかったよね?」
「大丈夫っす。キチンと敵ですよ、こいつ」
多分な。そうじゃなくても殴られてもおかしくないレベルの変人です。殴って問題無いというか見つけ次第殴るべきクレイジーな不審者です。それと俺、そんなクレイジーに攻撃されかけてたのか。気づかなかったよぅ。それにしても……ヒュドラってなによ?
「すまないけれど話はあとだ。もうここは大丈夫だろうけど念の為、これを2人に渡しておくね」
そういって渡されたのは、俺にはガエ・アッサル。黄金の槍だ。
セシルにはハーティアの弓と矢。
「安全が確認されるまで、2人共互いに離れないように!ピクシー、この2人を護ってね」
その言葉と共に俺達の周囲に羽根の生えた小さな女の子が……あら可愛い。ディ○ニーに出てきそうな妖精ですね。どっちかっつーと俺達がこのピクシーを護りたくなりますよ。いやいや、俺はロリコンじゃないから。
「私はクリス達の所へ戻る。くれぐれも危険なことはしないように!」
そう言い残してルーさんは特別観覧席の方へ駆け出した。道すがら、残っていた最後のグレイトオーガを2体、一刀両断…いや寸断か。バラバラにしていった。知ってたけど、やっぱりめちゃくちゃ強ぇのな。危険……今、目の前で危険が排除されちゃったよ。武器はもらったけど、それを使うまでも無く俺達の危機は終わった。さてと……これからどうしよっかな。
「いやぁ、御変わりなく結構ですな!ヴァリート殿下。儂はあれから地獄のような日々を生きてきたと言うのに…!」
「自業自得だろう。魔物の密輸など極刑に決まっておる!その上、逃げた魔物が王子を襲ったのだぞ?本来なら伯爵家取り潰しの上、お前自身も処刑されていた所だ。貴様の命があっただけでも温情だろうが!」
「やかましぃいい!歴史ある我がクレマン家が儂のせいで没落などと……許されるわけがあるかああアァっ!」
ああ、そうか。
どこかで聞いた名だと思ったら……クレマン伯爵。僕達が子供の時に襲われたブラッドウルフ……あれを密輸して逃がしてしまった、あの伯爵だったのか。あの時、アレクがブラッドウルフを倒してくれなかったら僕もセシルも、あの日あの時に死んでいたはずだ。その後は処罰されたとは聞いていたけど。それを逆恨みして?
そんな事で、こんな大変なことをしでかしたというのか…!?気でも触れたのか?今、ここから見えるだけでも大勢の人が魔物に襲われているというのに!
「やれぃ、グレイトオーガ!こいつらを地獄に落とせぇええええ!!」
グレイトオーガ……恐らくはオーガの上位種。僕達が先生に体験させてもらったノーマルのオーガより更に大きく、全身が赤味を帯びている。そのグレイトオーガに護衛の騎士が剣を持って立ち向かった。しばらく攻防を繰り返したがグレイトオーガの槌を胴に喰らって勇敢な騎士は吹き飛ばされた。うめいているから生きてはいるんだろうが、あの様子ではもう戦闘不能だろう。
装備もノーマルのオーガと比べて質が良さそうだな。だとしても、思い通りにはさせない。僕達にとってオーガなら手慣れた魔物だ。僕の剣も護る剣になるんだ、あの日あの時のアレクのように。
「叔父様、御祖父様、お下がりください。《豪炎弾》!」
火球より速く破壊力がある魔法を連続して放った。これならオーガの上位種であろうと無視できないはずだ。直撃と同時に咆哮のような悲鳴があがった。右肩と右膝を撃ったがダメージは?やったか?
ダメか!グレイトオーガは一度地に片膝をついたが、血のような赤い目で僕を確認し、再び襲い掛かってきた。
「《極灼炎槍》!」
今度は丸太ほどの灼熱の槍がグレイトオーガの腹を打ち抜く。火炎魔法は熱量が違うぞ!……これを喰らってもまだ動くのか!?だったら、これで止めだ!僕がグレイトオーガに向けて剣を振りかざした瞬間。
「だ、誰だ若造がぁあああ!儂の邪魔をするなぁああ!お前から死ねぇえええええ!!」
クレマン伯爵が懐から小さな魔道具を取り出した。あぁ、世界がゆっくりに見える。先生との修行で極稀に辿り着いた境地………アレクが言っていた、ゾーンに僕も入ったようだ。ということは僕は死にかけている?
なるほど、クレマン伯爵が取り出した小さな杖のような魔導具で氷弾を撃ったのか。アレは確か……連発は出来ない代物ではあるものの、その代わり不相応な高出力の魔法が放てる非合法な魔導具だ。この国では製造も所持も禁止の品のはずだけど……それを隠し持って来たようだ。
僕はグレイトオーガに向かって剣を振り下ろしている瞬間だ。氷弾を認識は出来ているが、この位置この体勢では……ダメだ、避けられない!死ぬ?僕はここで死ぬのか!?先生…!リシュオール先生…!!
「殿下っ!危ないッ!!」
その言葉と同時に、僕と氷弾の間に信じられない速さでソレが割って入った。
結果、僕の命は救われた。
一度目は幼少期に領主館で、アレクによって。
二度目は今ここで……すぐそこに僕の代わりに横たわり血を流し続けている、ワレンを犠牲にして。
「……ク、クソガキがぁあ!邪魔をするなとぉお!!」
クレマンがもう一つ隠し持っていた魔導具を取り出して構えた。こいつは……本当に狂っている!ここで止めなければ!しかし剣を握り直した僕の前に、大きな黒い影が立つ。
「すまない、遅くなった。クリス王子、もう大丈夫だ。………そんなモノを君が相手にしてはいけない。ソレには価値が無い」
あぁ、先生!もう大丈夫だ。
危機は過ぎ去ったんだ。
「貴様の如き愚物が私のかわいいかわいい弟子に話しかけるな。これ以上、穢すな」
「き…きぃ…貴様ぁ…こ、こ…!」
「もう喋るな、外道が………その身を恥じて死ね」
先生の黒い大剣が伯爵の魔道具を持った右腕ごと、斬り上げた。僕の命を2度、危機にさらしてくれたクレマン元伯爵…!腹立たしいけど先生の言うとおり、こいつなんて、もうどうでもいい。僕は大丈夫だ。あの時も今回も僕は傷ひとつ無かったのだから。でも、あの時アレクは瀕死の重傷を負った。そして今、ワレンが再び……!クソッ…なにが護る剣だ!?僕は今も昔も護られているだけじゃないか!
「先生!ワレン…ワレンが……!」
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ええい、どこから観客席に上がるんだここは。どういう造りになっているんだ!出てこい、責任者!もう少しわかりやすい構造に出来なかったのか!もっとこう……標識とか場内地図を増やすべきではなかろうか。大事なんだよ、ホスピタリティ。おもてなしの精神だよ。
「アレク、いいからボクの後についてきて!」
う、うん…なんかまた俺が迷子になってたみたいな空気じゃない?違うんですよ、俺はこの会場は初めてだからね?…まぁセシルもそうなんだけどさ。そんなセシルの背中を追って、通路に戻って……扉を開けて……今度は階段を登って。なんでセシルは道が分かるんだろう?これもセンスなの?
もう召喚されたグレイトオーガは全て片付いた。片付いたはずだ。あのよくわからん2人も捕縛されたし、さっきのお爺ちゃんを確保で終わりだろう?終わりのはずだと思いながら、クリス達の元を目指す。
観客席に出ると、もう人はまばら。殆どの観客は既に避難したらしい。クリス達は……居た、あそこだ、特別観覧席。要するにVIPルームですね。部屋じゃないけど。む、ルーさんが……いない?
居た、もう鎧を脱いでしゃがみ込んでいるようだ。大丈夫?もう全部終わったの?
「クリス~、状況は?」
「アレク!ワレンが……!」
ワレン君がどうしたのよ。叫ぶクリスの視線の先に、血に塗れたワレンが横たわっていた。そしてルーさんが、必死に彼の心臓マッサージをしていた。俺の頭の中が真っ白になった。何がどうしてこうなった!?
「治癒魔法師は!?」
「もうやった。傷は塞がっている」
御老公が、今までに聞いたことがないような冷徹な声でそう言った。あ、確かに治癒魔法師アルセンさんが後ろにいたわ。じゃあ、なんで?そう聞きたかったけど、そんな質問はあとでいい。俺が状況を理解する必要はない。今は動け。
「ちょっと、どいて!」
気道確保……既にされている。
救急救命の基本だ。AEDは?ある訳ねぇ!
「ルーさん!」
「ああ!」
慣れたもので阿吽の呼吸だ。俺が大きく2回、ワレンの鼻をつまんで口から息を吹き込む。ここは躊躇する場面じゃないけど、それでもこれがファーストキスじゃなくて良かったわ。
すかさず、ルーさんが胸を30回圧迫。それを何度も繰り返す。人工呼吸はそんなに効果も期待できないらしいんだけどさ。感染のリスクもあるしね。わかってるさ、でもな。
わかってる。わかってるんだ。
こいつ、友達なんだ。助けてあげて!
本当は、そうルーさんに言いたい。そしたらルーさんが、君はいつもいつも無理難題ばかり言うんだな、とか言いながら苦笑いをしてくれて、最終的には結局なんとかしてくれるんだ。無敵の、どんな願いも3つと言わず叶えてくれる皆んなが大好きな優しい魔人なんだよ。
わかってる。
ルーさんにとって会ったこともないワレンが、そこまで大切なはずもない。それでも俺やクリスが悲しむってだけで、無敵のルーさんが必死になってくれている。あのルーさんが、初めて見るような……まるで泣きそうな必死の表情で心臓マッサージを続けてる意味。
わかってるんだ。
もう彼女にも、それしか出来ないのだと。
「リュシオール嬢、もういい。もう、その辺にしよう」
「いや、まだ!あと…もう少しだけ……!」
まだ必死に続けるルーさんに、御老公が優しく……本当に優しく語りかけた。結構長い付き合いだけど、御老公にそんな優しい声が出せるなんて知らなかった。隣で聞いている俺の方が涙ぐみそうだったよ。
「……彼の魂は既に旅立った。残念だが、この世界には天に召された者を再び蘇らせるような蘇生魔法など存在しないのだ。以て瞑すべしではないか」
本当に蘇生魔法が無いのかどうか、俺は知らない。ありえない事なんて、ありえないらしいから世界中を探せば何処かにはあるのかもしれない。今、ここに無ければなんの意味もないけれども。まさか嫌でも蘇生してしまう不死の迷宮から出てきて、今ここで蘇生が必要になるなんてな。
「もう……少しだけ……」
そう言いながらも、ルーさんの手がゆっくりと止まった。
もういいんだよ。
思わず、人目も憚らず彼女を抱きしめた。
ありがとう。俺の友達のために。
頑張ってくれてありがとう。
ワレンは、死んだんだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
3つ首の巨人カークス1体。
ノーマルのオーガ6体。
それからヒュドラ1体。
更に、グレイトオーガが16体。
元伯爵程度が用意できていい戦力じゃない。どこから調達したのか?どこかの国家の関与も疑われてるらしい。これらは、もはや軍勢というレベルの戦力だそうだ。本来、オルトレット程度なら楽に壊滅できるだろう戦力なんだってさ。
そんなのはどうでもいい。どこから用意した、誰が用意したなんて俺にとっては知ったこっちゃない。街の人々にとっては、そんな規模の魔物に襲われたのに僅か数名の死者で済んだことは僥倖といっていいんだろう。
その死者に関わりが無かったら、だが。
「アレク、行こう」
家でぼんやりしていると、喪服のセシルが呼びに来た。この世界でも喪服は黒なんだよな。俺もそれを身につけて通い慣れた神殿に向かう。実に久しぶりの神殿だ。ルーさんの封印が解けて以来、俺達が神殿に行く理由はもう無くなったって言うのにな。まさか、こんな理由で行くことになろうとは……そういえばいつだったか、神殿の前でアイツと遭遇したことがあったなぁ。あれはワレンが俺を待ち伏せしてたんだったか。なんだかなぁ……。
本日は事件の被災者全員の集団葬儀だ。その中でもワレンは貴族の子弟なので一際地位も高いし、何より今回の彼は王子の命を救って亡くなった英雄だ。なので彼だけ中央に一段高くして棺がある。
親族は最前列にいるが、俺達は遠くから眺めるのみだ。御老公や公爵、クリス達も黒い服で一番前に参列している。ちなみにルーさんは、やはり黒い喪服で御老公の後ろに参列している。今の彼女は大公の客人って立ち位置だからね。喪服の美人ってのは……不謹慎だけど物憂げで妙にセクシーだ。セクシーなんだけど、流石に今日だけはその魅力もどこか上滑りしていくような、そんな気がする。
神官長から、長い長い祈祷と彼らが如何に神と皆に愛されていたかが語られていた。特に王族を護って死んだワレンの勇姿を讃えて騎士たるものの鑑である、と惜しみない賛辞が贈られた。あの日の時点ではワレンは騎士見習いであったが、本日の彼は騎士として……英雄として埋葬されるのだ。
神殿での祈祷の後、全ての棺は墓地に運ばれる。この世界、この国での風習は全く知らないが、一つだけ注文させてもらった。墓地に運ぶ際に、王家の馬車でクリスと一緒に行ってやってはくれないかと頼んでみたんだ。異例というか変な依頼だったのかもしれないが、御老公は一言「わかった」と言うのみだった。
俺も大した考えなんて、ないよ。多分、その方がワレンは喜びそうだな、と思っただけだ。アイツはクリスが好きだったからさ。大した意味なんて本当に無いんだよ。
街の片隅の墓地に移動して、順番に埋葬されてゆく。ああ、日本と違って火葬しないんだなー。再び長い時間をかけて最後の祈りと別れが終わり、人々は三々五々に帰って行った。「帰ろうか」とセシルに言われたが、今日だけは先に帰ってもらった。
誰も居なくなった夕方の墓地で1人、ワレンの墓の前に立ってみた。
なんとなく、こんなときに煙草が吸えたらな、と思った。地球では歴史的にどうだったか覚えてないが、この世界にも既に煙草はある。フィルターが無いから吸えばきついだろうけどさ。まぁカッコつけたいだけで前世の日本でも吸ったことないんだけどね。
「………死ぬこたぁないでしょうよ」
決してヤツと仲が良かったわけじゃない。むしろ悪い方だったよな。お互い好きじゃなかった………特に向こうはね。でもさ、死んで欲しいと思ったこともないよ。
ああ、なんだかなぁ。
王子の身代わりになって死ぬ、か。
見事に騎士の本懐を遂げたよなぁ。
スゲーよ。お前、立派だよ。全くもって天晴れだよ。
命は大事だ。俺は絶対に死にたくないと思っている。全ては生きてこそだ。でもな、そう思ってる俺も1000年前にはワレンと同じ事してるんだよなぁ。うん、大切な人の為なら命も投げ出しちゃうよな。わかる、よくわかるよ。本来の意味とかけ離れてしまうんだろうけど、これが使命だったんだよな。うん、これが俺達の命の使い方だったんだよな。
別に命を粗末にした訳じゃない。命よりも大切なものが、護りたい人が、あっただけなんだよ。なぁ、ワレン。どうせ今も後悔はしてないんだろう?俺達は命を上手く……いや自分が満足出来る様に使っただけなんだよな。
なんだ、もしかして意外と気が合ったんじゃないか?俺達は。
多分、ワレンにそう言ったらいつものように苦虫をたっぷり噛み潰したような、スゲー嫌そうな顔するんだろうな。バカヤロウ、俺も同じくらい嫌そうな顔してやるからな。俺だって、お前なんか最初から好きじゃなかったよ。ガキのくせに偉そうにしやがって、何様のつもりだよ。
……でもな、そんなに嫌いでもなかったよ。
「ぎゃふん」
本当に見事な生き様であり、見事な死に様だ。
なんだか俺の中に敗北感がある。
そんな時はこう言うしかないだろ。
ちぇっ。なろう小説の主人公は勝ちっぱなしじゃないのかよ。大した努力もせずに勝って嫌味な相手にざまぁしてチート能力で無双して勝ち続けて女の子にモテまくって、笑いっぱなしの人生だと思ってたのにな。最後の最後に思い切り、ワレンにぎゃふんと言わされたよ。完全にまいった、だ。勝ち逃げは………ズルイよなぁ。
「……風邪、ひくよ」
日が暮れ始めるまでの随分長い時間、そのまま独りで居たらルーさんが後ろからコートを掛けてくれた。なんでここに居ること、わかったのかな。でも、なにも言わなくてもルーさんはわかってくれるという気もした。
「前世も含めて、初めて友達に先に死なれたよ」
前世では、先に死んだ側だもんね。
あいつらにも悪いことしたなぁ。
今でもみんなは元気だろうか。俺は元気だよ。
「そうだね」
「ワレンには申し訳ないけど、ワレンの死であってもこれだけ淋しいのにルーさんに先に死なれたらと思うと……こりゃ耐えられないね。アムブロシアでの自分の死には何万回でも耐えられたのになぁ」
「フフッ、君は1000年前にそれを私にしたんだよ?」
「あー……そうだな。そうなんだよな。そりゃ久々に顔を見るなり一刀両断にしたくなるわ」
「そうだよ。私は悪くないでしょう?」
「今更だけど、ごめんなさい。何でも言うことを聞くので許してください」
でも、もし。
再び俺の命でルーさんの命が救えるというのなら、次も必ず同じ事をする。ああ、躊躇わずに何度でもするさ。そしてまた生まれ変わって……また怒られるのかな。また怒られるんだろうな。ま、しょうがないわな。何度死んでもバカは治らないんだよ。実証済みだ。
「もう怒って、ないよ………でも願い事は、叶えてもらおうかな」
「どんな願い事?俺に出来ることじゃないとダメだよ?」
「さん、て付けないで」
「……んん??どういうこと?」
「君は私をルーさん、て呼ぶでしょう?それがイヤだ。昔みたいに名前を呼んでください」
急に乙女チックなことを言い出すんだな。しかしそれは…意外とそれは………難易度高いな。めちゃ照れる。恥ずかしい。だって出会ってから10年、歳上の綺麗なお姉さんなんだよ?いきなり呼び捨てはハードル高いって!
「うん?どうしたのかな~?」
何よ、その御老公みたいな笑顔は。
一緒に住んでるから似てきたんじゃないの?
あのジジイから悪い影響、受けてるんじゃないの?
「ルー」
「はい、なんでしょう」
「ワレン君が怒ってるだろうから、もう帰ろうか」
俺だって自分の墓の目の前でイチャイチャされたら、それが例えクリスであったとしても怒るわ。火葬されてないことを良いことに即日蘇って殴りに行くわ。ウォーキングな死人じゃなくも走って殴りに行くわ。ヤーヤー言いながら、これからみんなで殴りに行くわ。
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
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