24 あきらめたらそこで試合終了ですよ
二日目、本日も爽やかな晴天。
今朝もオルトレットの街はお祭り状態ですよ。学校対抗戦が予想以上に盛り上がったせいもあると思う、少しは。なんてったって毎年相手にボッコボコに負けるのが常だったのに地元がワンツーフィニッシュしたしね。万年一回戦負けだった野球部が、いきなり甲子園出場して更に優勝候補相手に勝っちゃったくらいのテンション。
本来なら今年も、そんなことが起こる筈はなかった。なかったんだけど、たまたま今年は魔人の弟子が参加しちゃったんだ。そうそうあることでもないし、たまにはいいんじゃないですかね。
港には、この時期だけの風物詩でもある、なんというのかなガレオン船?ていうの?ああいう感じの大きな船が何艇も泊まってる。普段はあまり見かけないから、少々物々しいけど壮観だよねぇ。俺には大航海な時代のゲームくらいしか知識ないからさ。あの船に何人くらい乗れるのか、どこから来てどこまでいけるのかわからない。いつか、俺達もああいう船に乗って海を渡る日も来るんだろうか。
はぁ~……それにしても、あれらの船のほとんどが大公目当てに挨拶に来てるかと思うと…あのジジイも本当に只者じゃないんだな。まぁ俺にとっては只のロリコンスケベジジイなんですけども。大の甘党のロリコンスケベジジイの扱いを少しは改めた方が良いのかな……いや無理だな、諦めよう。この世界で一番、俺がぶん殴りたい人物ランキング1位を何年もキープしてきたし。今年から邪神が1位に躍り出たけども、そろそろ御老公は殿堂入りでもいいかもな。
今朝も普段と同様に海までセシルと2人で日課であるランニングをした後、のんびりと闘技場に向かっている。その道中、何人も…本当に何人もの街の人々に話しかけられるので、だんだんウンザリしてきたよ。そりゃね、今まで弱小の街として長年小馬鹿にされていたのが、逆に相手をボッコボコにした訳ですからね。朝から酔っ払いが……お前ら、よくやった!でかした!と我が街のにわかヒーローとして持て囃してくれる。
それは良い。気持ちはよくわかるしさ。最初は面映ゆいというか照れ臭いというか嬉しさが勝ってたけども。それも次から次へと連続すると………酒臭ぇんだよ!ちきしょう、朝から皆さんご機嫌だな!昨日から一晩中飲んでたの?実に羨ましい。そんなん俺かて飲みたいわ!有言実行で圧勝してお褒めの言葉も頂いて、俺も昨日は祝杯も挙げたかったよ!
あぁ。今日の団体戦が無かったらな……ほら、僕って基本的に真面目だから。試合前日に酒を飲んだくれたりはしないのさ。そもそも、まだこの世界に来てから酒、飲んでないな……もう16歳だし、そろそろ少しくらいはいいよね?
この街で一般的な酒はワイン、エール…まぁビールだよね。それとリンゴ酒的な果実の酒。個人的には日本酒が欲しいが……果たしてあるんだろうか、この世界に。日本酒どころか、この街には米が無いんだけど……どこかに米どころ的な地域があるといいんだけどなぁ。
はっ…!そうだよ、今日も勝ったらそれこそ祝杯を挙げてもいいんじゃないだろうか……いいねぇ!ルーさんと一緒に初めて呑むお酒。差しつ差されつ………染まる頬。漂う色気。いつしか2人の距離も縮まって……いいじゃないか!いいじゃないか!!そしてそのままベッドに「アレク!」
「はい、呼んだ?」
「出てる。声が」
「………どの辺から?」
「今日も勝ったら祝杯を挙げてもいいんじゃないだろうか、て辺りからだよ」
「…………もう少し早く止めてほしかったよ」
「ボクは結構早めに何度も呼んだよ」
恥ずかしい。ただでさえ今朝は世間から注目を集めてたのに、街中で欲望を垂れ流してるやないか。もう僕、お嫁に行けない。
闘技場に着くと、賑やかな慌しい雰囲気だったのが一瞬静かになった。何よ。やめてよ、そういうの。いじめ?そういうの気にするタイプだからね、俺は。下手すると今日の夜、眠れなくなるよ。まぁ嘘ですけども。
「早く控え室いこうよ。ほら、アレク。早く!」
急かさないでよぅ、遅刻したわけでもないのにさ。今日はチーム戦でもあるので、オルトレットとベルカーンで控え室は完全に別に分かれている。そうじゃないと作戦会議も出来ないもんね。脳筋一家の出身としては、作戦もなにも全員片っ端から薙ぎ倒すでいいんじゃないかと思ってる。
「おお、我らが戦乙女と狂獣がようやく来たな」
「あ、セルジュ先生。おはようございます………なんですか、それは」
「まだ聞いてないか。ベルカーンの生徒だちが君らをそう呼んでたよ。昨日の試合は相当衝撃だったようだ」
戦乙女と狂獣、だってさ。わかってるさ、俺に戦乙女要素ないもんね。わかるよ、狂獣の方なんだろう。あのなぁ……騎士にはならないつもりだけど、騎士見習いぞ?我、騎士の子ぞ?狂獣はないだろう、狂獣は。俺は狂ってもないし獣でもない。ちょっと人見知りの純情好青年だよ。
「戦乙女…なんでボクが戦乙女なんだよぅ……」
それに関してはナイスネーミングだと思ったよ。確かに知らない人が普通に見ればセシルは女の子にしか見えないもんなぁ。でも良いじゃないか、狂獣よりだいぶマシだろうよ。文句言うんじゃありません。
「諦めろ。連中は昨日、君がそのバカを懇々と説教してるのを見てるんだ。その後に、あの戦いぶりを見たら僕でもそう思う」
居たのかワレン君……君、知らないだろうけどな。その子、その戦乙女て呼ばれてる子ね、男の子なんだよ。あと、立て板に水の如く俺のことをバカ呼ばわりしましたね?一応、昨日の個人戦優勝者だぞ。一番の功労者と言っていいんじゃないかな?
それにしても、これで納得がいった。さっきの闘技場の周りにはベルカーンの生徒が多かったから、俺達を見て静まり返ったんだね。”ベルカーンの連中がオルトレットの名を聞くだけで震えるあがるような勝利”か。昨日のうちに達成してたのかもしれないな。………震え上がらせてるのは主にセシルなのかもしれないけど。
「はい、みんな注目。集団戦のルールを確認するぞ」
皆の前に立って説明するセルジュ先生。今日も魅せる髪型だなぁ。そのセルジュ先生の説明によると、集団戦では個人戦と違って馬から落ちたら即失格、というわけでもない。馬から落ちたやつを降参させて捕虜にしたら良し。時間制限があるので、終了時間になって最終的に捕虜の多いほうが勝ちだ。模擬戦っつーか、まさしく小規模な模擬戦争なんだね。
「作戦は……皆で相談して考えてみてくれ。基本的には教師は口出ししない約束だ」
自主性を重んじているのか、面倒なのか。それとも、その両方か。
作戦ねぇ……俺が提案するなら一騎駆けか、全員で総攻撃ですよ。バカには防御は考えられない。わっかんねぇよ、こんな大人数での戦闘とか。ファイ○ーエムブレムとかオウガ〇トルとか、その手のゲームはあんまりやってないんだ。シミュレーションゲームがこの場合に役に立つのかどうかすらもさっぱりわからん。やっぱり得手不得手というのがあるんですよ。
「先生、ベルカーンの最強君とナンバー2君は出ますか?」
「なに?誰のことを言っているんだ???」
「多分、オリヴァーとレナードのことを言ってます」
ナイスフォローだ、セシル。えらいな、ちゃんと相手の名前も覚えてるんだ。道もすぐ覚えるし、こいつは記憶力が良いんだろうな。俺も記憶力は悪くないんだよ。ただ覚える気がないだけでね……。
「彼らの怪我は一応治癒できたらしいが、今日の参加は無理らしいな。まだベッドから動けないらしい」
「ならば、大した奴は残ってないんですね。なら、どうとでもなりそうですが…ここはワレン君に作戦立案してもらおうと思いますがどうでしょうか。上手く指揮もしてくれそうですし」
「出来もしない作戦立案をしようとしない姿勢は評価してやるが……何故僕なんだ?」
「昨日、俺とセシルが力でベルカーンを圧倒した。今日は頭で奴らを圧倒するんだ。オルトレットの頭脳は任せたぞ」
質問の答えにはなっていない。まさか、この中でもワレン君が一番悪巧みが上手そうだから、とは言えないじゃないですか。俺にも言わない方が良いという判断くらいは出来る。何故とかごちゃごちゃ言わずにやらんかい。
「そ、そうか……ワレン、任せていいか?」
「先生の指示とあらば、従いますよ。狂獣には無理でしょうし」
失礼な……でも確かに俺に作戦とか指揮とか無理ぽ。
クリスが居れば指揮を任せるんだけどな。
居ないものはしょうがない。
ここは適材適所でしょう。
「とはいっても作戦はシンプルだ。アレクシスとセシル君が相手を崩して攻め立てる。残ったものは守りを固めて、落馬した者を捕虜とする。基本は4人一組だ」
良かった。本当にシンプルだ。これ以上の文字数で言われたら覚えきれないかもしれない。助かった、バカがバレずに済んだ。これは流石にバレたら恥ずかしいからな。この作戦なら、さっさとベルカーン陣営に突っ込んでしまえば周りは全て敵だ。そこで思う存分暴れてしまえば良い………………………あれ?この発想、狂獣そのものじゃないか?
試合開始が近づいてきて続々とオルトレット側、ベルカーン側の学生達が騎馬で闘技場入りしてくる。昨日、個人戦をするには広い闘技場だなと思ったら、これは集団戦用に広かったんだねぇ。今回はこちらの人数に会わせて14人対14人だが、これだけでも騎馬隊って感じで迫力あるよね。
「セシル~……早く終わらせて祝杯を挙げようよ」
「それは今朝、聞いたよ。他の恥ずかしい台詞のついでに」
それは忘れてください。それよりも、相手は14人だろう?目標は……そうだな10分かな。いや5分だ。さっさと終わらせるために、やれることは全部やろう。主に俺の八つ当たりのために。そして楽しみな祝杯のために。我らの勝利の為に、あのワレンが全ての作戦を考えてくれた。やっぱり嫌がらせをさせたら彼は一流だ。
まずは。
「――ぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!!!」
雄叫びだ。
ワレンは言った。心を攻めろ、戦意を挫け。最初に声で攻撃しろ、と。いかに基本的な戦闘力が高くても、やる気を失なってしまえば烏合の衆だ。まず、声で心を攻める。セシルも声を合わせてくれた。どうやらベルカーンの連中は俺とセシルを恐れているらしい。だったら、その恐怖心を更に煽るのだ。煽って僅かな火種も燎原の火となって全てを焼き尽くせ。
「「おおオオオおおおおおおおおおおおおぉぉ!!!!」」
我らオルトレットの他の学生もつられて雄叫びを上げる。
「「「「「「「「おおおおおおおおおオオオオォォぉ――!!!!」」」」」」」
ベルカーンの連中が俺達の声に圧倒され一歩引く。大声は相手に恐怖を与える。大声を出すことによって、自分達の緊張感を麻痺させる。更に我々に一体感をもたらす。他にも声を出すことで数パーセントだけど筋力アップするシャウト効果ってのもあったりするそうだけど……昔インターネットでチラッと見ただけなのでよく覚えてない。それらの効果を知ってか知らずか、意外と理論的だなワレン君。
そして更にワレンは言った。声で攻めた時点でベルカーンの連中は既にして恐怖している。戦乙女と狂獣の存在を恐れている。だから、思う存分威圧してやれ。
それで戦う前に全てが終わるだろう、と。諦めたらそこで試合終了ですよってのは正しい。自分達が負けたと思った時、それが敗北なのだ。
その作戦通りにセシルが先頭に立って、ベルカーンに宣告した。
「ベルカーンの皆様方よ。本日は昨日の遊びとは異なる、我らオルトレット騎士の本領をお見せ致しましょう。何卒、死んで下さるな。御存知かもしれませぬが、なにせ……こちらの狂獣は上手く手加減が出来ませぬ」
イイね。戦乙女が美少女のツラで、あえて丁寧に言うと尚更、酷薄に聞こえる。ちなみにワレンにバカがバレるといけないから俺は喋るなと言われた。余計な事は言うな、だとよ。
うん、よし。
やっぱり後であいつは殴ろう。
「は、はじめっ!」
主審が叫んだ。
始まるのは最早、試合じゃない。――蹂躙だ。
その地響きのような轟音がどこかで鳴り響いたのは、集団戦の終盤も終盤。俺がベルカーンの最後の1人を落馬させて、降参させたのとほぼ同時だった。
「今の……何?」
聞いても、そりゃ誰も答えられない。俺も返事を期待した訳じゃないよ。独り言みたいなもんだ。スマホでもあれば、何か速報が無いか見るんだけどな。うん、あの音だよ。あれは花火……じゃないよね。何かが崩落?もしくは爆発したみたいな感じ。
「そこまでっ!オルトレット側の勝利だ!」
闘技場の観客席から、昨日以上の大歓声が上がった。最前列のおじさん達は観客席から落ちそうなくらい盛り上がっている。昨日は、まさかの勝利だった。今まで碌に勝ったこともないオルトレットの騎士見習いが予想外の優勝と準優勝。信じられないという戸惑いと驚きと興奮の歓声だった。
そして今日は、勝ってくれるかもしれないという期待に応えての勝利だ。昨日の結果はマグレでやっぱり勝てるはずがないよという諦めと、もしかしたら今日も勝ってくれるんじゃないかという期待が混ざり合って弾けたような大歓声。俺達、騎士コース14人も喜びを爆発させた。
どうだ、平和の街の騎士見習いも捨てたもんじゃないだろう?個人戦の優勝も嬉しかったけど、集団戦での勝利ってのは、また別の嬉しさがあるもんだね。これは、今夜の酒は美味しく呑めそうですなぁ。ルーさんにお酌してもらったりしてさぁ!今夜は帰さないぞ?なんて言ったりしてさぁ!たまらない夜になりそうですね!
しかし、そんな妄想は本日2度目の轟音で掻き消された。いてつくはどう?
大興奮だった観客席の人々も不安と混乱の入り混じったどよめきに変わった。さっきからの、あの音は何?優勝を祝う祝砲としては音がデカくない?
「学生の諸君は、中央に集まりなさい!馬から降りて!早く!」
審判先生が叫ぶので、オルトレットとベルカーンの全員が不安げな表情なまま集められた。なにかが、起こってる。なんだろう。地震……でもないしな。とりあえず、ルーさんは無事か?
観覧席でも人々が少し慌ただしくなっていた。ルーさんは…ここから見る分には大丈夫そうだ。心配なのか、ルーさんがクリスの肩を抱いている。おい、クリス。ずるいぞ。羨ましいから代わってくれ。というか護られるな。お前が彼女を護れ。あっ、お前が肩を抱けと言ってるんじゃないぞ。そんなことしたら、今からそこへ殴りに行くからな。昨日の優勝者かつ今日のMVPが王族襲撃で即逮捕されちゃうぞ。
とりあえず学生達は闘技場中央に集められたけど情報が全く入ってこないので、もどかしい。残念ではあるが大会優勝の気分は既に吹っ飛んだ。明らかに、何か異常事態が発生している……んだと思う。
でも、どこで何が起こってるのか全くわからないってのは不安だ。どれだけ不安であっても、ただの騎士見習いごときが優先的に情報をもらえるわけもなく、俺達はベルカーンの連中も含めて全員が闘技場中央に待機中だ。何を待つのかもわからんが、ただでさえ人が多い闘技場だもの。VIPもいるから少しでも混乱は避けないとね。まぁ既に混乱しつつあるけど。
「セシル。例えば精霊魔法で状況を探るとか、出来るか?」
「やったことないけど、聞いて見るよ。お願いシルフ……さっきから何が起こってるの?」
出来るのか!?マジっすか!すごいな、精霊魔法。思いつきで言ってみたけど、そうことも出来るんだね。便利だよね、精霊魔法。よくわからんけど精霊を使役するのかな?
「これは……………港?港の方で……何か起こってるみたいだよ。火の手が上がってる」
なんだよそれ。事故か?アレか、今朝見たガレオン船が爆発でもしてるのか。それとも、あのガレオン船が街を侵略でも始めましたか。全くわからん。それを知ってか知らずか、観客席の人々も少しずつだが更に慌しくなってきた。パニックムービーでしか見たことないような光景が広がりつつある。これが映画なら今の時点でオープニングから何分後の場面だろ。まだ序盤か?大会は終わったのに?
「なにかが、暴れてるよ………港で…何……?こいつらは…魔物?」
魔物ってなんすか。この街で?魔物が出ない平和の街オルトレットだぞ、ここ。ウッソだろオイ…?
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
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