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23  あれ、髪切った?


 控え室は空気も悪いし、とセシルと一緒に観覧席の方にやって来た。誰が空気を悪くしたんだよ!と言われても……誰が、と言うならレナード君じゃねーの?言いたい放題だったじゃないのさ。自己紹介乙とか、そんなの俺には聞こえないし聞きたくない。

 それより本日の個人戦に集中だ。ここまで順調に試合は消化してるけど、セシルの出番は一回戦の最後の方だからまだ時間がある。気分転換に他のみんなの試合見物でもしましょうか。


「あそこにアレクを置いとくと精神的に疲れるよ……」


 ごめんて。ワザとじゃないんだって。マジでマジで。ちょっとお祭り気分で舞い上がってるだけなんですよ。こういう学校行事的なイベントは久々過ぎてハイになってるだけなの。


「それにしても……ウチが弱いのか相手が強いのか、全然勝てないね」


 それは両方じゃないかな。ウチは弱くて、ベルカーンは強い。やはり戦前の予想通りですよ。今も目の前で、なすすべもなく2本連取されて我が校の選手が敗退した。どんまい。


「このままだと、本当にベルカーンに勝てるのアレクとボクだけかもしれないね」

「ワレン君も勝つだろうな。多分」

「ワレンが?そんなに強かったっけ?」

「うん、昔はスキル頼りで剣も碌に振ってなかったんだろうけど……この4年で俺達3人を除いたら一番伸びたのはワレン君だよ」

「………意外にちゃんとワレンを評価するんだね。嫌いじゃないの?」

「え?ワレンをか?うーん……難しいところだなぁ。もちろん好きではないよ、別に。でもそれほど嫌いでもないな。ごく一部だけど尊敬してる部分もあるしさ」

「ワレンのどこを!?尊敬??本気で言ってる?アイツのどこを?」


 うん、さすがにそこまで驚くとワレン君に失礼じゃないだろうか。さっき控え室でやらかしまくった俺がいうのもなんですが。本人に聞かれたら気を悪くするぜ?


「だってさ、この10年近くクリスと少しでも仲良くなろうと諦めずに日々努力してるんだよ。アレはアレですごい根性だぜ」

「………あぁ、そういうことね。そう言われてみると少しアレクと似てるとこがあるんだね」


 げ。止めてよ。別に嫌いじゃないけど似てるとは言われたくないわ……そんな話をしていると、ちょうど話題のワレン君が入場してきたところだった。

 おぉ……流石は貴族だぜ。一際、豪華で派手な鎧が誰よりも目立っている。そして意外にも、本当に意外だったけど明らかにワレンが緊張している。傲岸不遜系キャラだから観客なんざ野菜か石ころか、程度にしか見てないんじゃないかと思ってたのに。意外とかわいいところもあるじゃないか。


「頑張れぇ~~!ワレンくぅ~~ん!」


 その緊張っぷりが可哀相で思わず声援を送ってしまった。俺は前世でも、出場は面倒だけど応援は割と好きだったんだよね。見てるだけ、と言う立場は気楽で良いよね。そんなこと言ってると、いつか見てるだけしか出来ない辛い場面がやってくるかもしれないが。

 俺の声援が聞こえたのか、ワレンが馬上からキッとこちらの方を睨んできやがった。よしっ、いつもの苦虫噛み潰しフェイスだ。ホッと一安心。どうやら緊張より俺への忌々しさが勝ったようだ。そうそう、君にはそういう顔がよく似合う。


 そして試合が始まった。

 確かにベルカーンの連中は強い。

 ワレンの相手も決して雑魚ではなかった。


 だけど、ほらね。

 ワレンの敵じゃあ、なかっただろ?

 貴重なオルトレット側の一勝だ。



















「アレク、確かに…これは少し緊張するね。ああ、弓が使えたら絶対勝てるのになぁ……」

「違うね、弓が使えなくてもセシルが圧勝する。間違いなく」


 だから俺の心配は相手の……誰だっけ?名前はもう忘れたけど彼を殺さないかってことだけなんだって。間もなく合図と共にセシルが闘技場へと入場していった。それを見届けた俺は急いで闘技場内が良く見える場所に行かなきゃ。対戦相手……えーと、もう誰だったか顔もよく覚えてないが確か自称ナンバー2君だ。頑張れ…頑張ってくれよ!ナンバー2君!少なくとも、俺が観戦に間に合うまでは!彼の実力の程は知らないが、あれだけ自信満々だったんだからな……あ、ダメだ。闘技場内から大きな歓声が聞こえてきた。


「……続行不可能だ!担架急げ!」


 俺がかろうじて見れたのは、既に声も無く運ばれていくナンバー2君の姿だった。ほらぁ~……やっぱり秒殺じゃん。応援してたのに……ナンバー2君、死んでないみたいだから、まぁ良いか。それよりセシルの晴れ姿が見られなかった…くそぅ。あのベルカーンのボンクラめ。そんなことで、どうやって全国に名を轟かせるつもりだったんだ!?そもそも俺にすら届いていないのに。もう少し時間を稼げ!ああ、この世界にも動画撮影があればなぁ…!

 しかしセシルの勝利を祝福してる間もなく、今度は俺の出番ですよ。俺の2回戦の相手は……えーと、オリバー君だっけ?それは昭和の昔に話題になったチンパンジーだったか。まぁいいや。最強君だ。ミスター最強。

 そのミスター最強は、世紀末覇王を彷彿させる巨軀の男だった。とてもじゃないが俺達と同い年とは思えない、分厚い筋肉と重厚な雰囲気の老け顔兄さん。額の傷が厨二病のようで……コレはコレでアガる。いやいや、これで騎士見習い、て。父兄の間違いじゃなくて?男塾三号生の一人!と言われても納得してしまいそうな風貌だね。


「聞いたぞ。貴様、随分な世間知らずらしいな。この俺が世界の広さを教えてやる…!」


 おい!!

 このチンパンジー………喋るぞ!?


 大丈夫、俺も今回は実際には口には出してないよ。ちゃんと反省して学習したんだ。俺だって無意味に彼を煽りたいわけじゃない。今日は馬上槍試合であって、口喧嘩の大会じゃないんだから。でも挑発するまでもなく最強君の青筋はピッキピキ。まだ若いからいいんだろうけど、将来そんなに怒ったら切れるぞ、血管。

 そんな彼だが誰から何をどう聞いたのか知らないけど、親切にも無知な俺に色々と教えてくれるらしい。世界の広さは知らないけど多分世界最強の魔人なら、よく知ってるよ。何度も俺を殺してくれた相手だ。美人で優しくて、甘い物が大好きだぞ。


「おい、審判!アレはいいのか!?」

「審判先生、お気になさらず」

「……いいんだね?ホントに?知らんぞ!はじめっ!!」


 最強君がご立腹なのには、ちゃんと理由がある。俺が素手だからだ……いや、俺も考えたんだよ!?平穏無事に、このトーナメントを終える。そして、圧勝する。両方やらなくちゃあいけないってのが辛いところだな。ああ、もう覚悟は出来てるよ。

 俺なりの結論として、槍は危ない。あれは危険。死んじゃう。模擬戦用に穂先を多少丸めてあっても、あんな武器は危険だ。子供にこんなもん渡すなんて!マスコミが騒ぐよ。PTAはなにしてる?

 そういう訳で、今回の俺は素手だ。素敵な手、と書いて素手。素手で相手を殴り飛ばすとか引きずり落とせば、死なないと思うんだ!…たぶん。これもバカが熟考した結果だ。

 チラッと特別観覧席の方を見たら、御老公はめっちゃ笑ってた。あの年のM-1決勝戦かというレベルで腹を抱えて笑ってた。うん。やっぱりいつの日か、あのジジイはブン殴ろう。

 クリスは少し心配そうにしてる。そしてルーさんは……ちょっと困ったような顔で笑っていた。多分、ほんの少し心配の気持ちが残ってるんだろうか。だったらそれは俺の修行不足だよな。もっと笑っててよ。

 

 そう思うと、だんだん腹がたってきた。おい、チンパン!何をオマエ如きが勝手に青筋立ててやがる…!お前が怒ってる場合か?違うだろう、俺がお前に怒ってるんだよ!コノヤロウ……てめぇのせいでルーさんが心配そうにしてるじゃねぇか…!これは許されざる大罪だ。死んで……いや、死なずに償え。


「くらえいっっ!!!」


 うん、コイツは力自慢か!魔法も撃たずに、一気に加速して正面から槍を突き出してきた。しかし遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い!!!一回戦の相手より随分マシだけど、そんなスピードでは魔人はおろか、ブラッドウルフの相手すら務まるものかっ!

 突いてきた槍を、余裕を持って下から拳でかちあげた。しょーりゅーけん!もしくは、たいがーあぱかっ!そして、がら空きになったチンパンジーの土手っ腹に、背中まで打ち抜く気持ちで感謝の正拳突きハイっ!激しく鎧と肉と骨を叩く音が響いて、最強君は背後の壁まで吹き飛んだ。


「救護班!!!おい指示を待つな!見りゃわかるだろ、担架だ担架!急いで!」














「はい、アレク。ここに正座!」

「はい……あの、すみませんでした」

「殺さないように、そおっと、て言ってたのアレクでしょ!?言ってることとやってることが全然違うじゃない!」

「はい……反省してます」

「オリヴァー、死んでないけどギリだよ!?違う子だったら逝ってたよ!?」

「はい、仰るとおりでございます……」

「やる気あんの?無いなら帰っていいんだけど?」

「……あります」

「は?聞こえない。声が小さくて聞こえないよ!」

「やる気、あります!……頑張ります」

「じゃあ、さっきのオリヴァーのときはどうだったの?やる気なかったの?」

「いや、あったんですけど……無我夢中で……その……」

「モゴモゴ言ってちゃ聞こえないってば!!」

「すみませんっ!やる気ありましたっ!!」

「やる気あって、あれじゃダメじゃん!全然出来てないじゃん!出来ないならそう言いなよ!」



「セシル君。もう少し声のボリュームを落としてだな……」

「ワレンは黙ってて。アレクはね、甘えすぎなんだよ!運良く、だよ!運良くオリヴァーが死なないでいてくれただけなんだからね!」


 このセシルの説教は3回戦が終わってからも再開して結局5回戦開始前まで継続された。もちろん、その間も俺はずっと正座。半泣きになりながら正座。足が痺れた、と呟いたら「あぁ!?」の一言で却下されました。むしろグリグリと足を踏まれました。うん、お好きな人には堪らないプレイですね、これ有料プレイ?俺は無料でも勘弁して欲しい。


 前世も含めて間違いなく人生で一番怒られた………。大会中に……トーナメントの最中に、異世界でこんなに怒られることってある?ってくらい怒られた。美少女(…まぁ外見はな)であっても、ここまで怒られたら御褒美でもなんでもないからね。遠くから見ていたベルカーンの皆さんもドン引きしてたよ。もう最後はあのワレン君が俺を庇ってくれたからね。あのワレンがだよ?そして俺の背中をぽんぽんとしてくれたからね。その優しさに再び泣きそうになってたもん。

 そうは言っても泣いてる暇はない。5回戦ってのは準決勝であって、俺は半べそかきながらも戦った。なんとか勝ったけど次はもう決勝だからね。ちなみにワレン君は残念ながら3回戦敗退だ。いや、よくやったと思うよ。大健闘だろう。俺は説教中だったので、どんな勝負だったのか見てないけど。


 そして決勝の相手は当然のようにセシル。当然ながら全て危なげなく、余裕でここまで勝利を収めた。今回は弓は無いが、なんせセシルは騎乗スキル持ちであり更に魔人の弟子だ。直前までの俺との練習試合で勝率は、ほぼ五分五分、ややセシルが勝ち越しってところかな。ただ、練習と本番ってのは勝手が全然違ったりする。果たして今回はどうなるか。

 







 大歓声の中、闘技場に入場し中央でセシルと相対する。まさかの展開だろうな、最弱の街オルトレットの2人がベルカーンの連中を全て倒して決勝戦に残るなんて。街の人々が誰一人予想すらしなかった結果だ。

 誰一人、は言い過ぎか……きっと特別観覧席で観ている3人は、この展開を予想してくれていただろう。あの3人なら確信していた、の方が正しいかも。しかしその3人でも、この決勝の結果は予想出来ないだろうな。

 ホームで、更に我らが子供達の大躍進。観客の歓声は、まさに最高潮だ。セシルも俺もこの決勝はフル装備だ。フルって言っても俺は槍を持っただけで盾は持ってないけど。セシルは素手で勝てる相手じゃないからな。


 そして審判先生の指示により、公爵や大公に一礼する。正確に言うと俺達の場合は、その横に座るルーさんに……我らが師匠に一礼だな。


 一番弟子と二番弟子。

 師匠の前で無様な試合は出来まいて。






「本気、出すよ」


 セシルが静かに……でもよく通る声で言った。もう準優勝以上は決定的だし、俺達同士で本気でやる必要ある?と考えなかった訳ではない。既に結果は出した以上、あとはお祭りじゃないですか、怪我したら元も子もない。ガツンとぶつかって、ある程度盛り上げたら後は流れで終わらせるのもアリじゃない?

 ………ナイんだよ。幼少期以来、俺はセシルを相手にして手加減したことがない。一度でも手加減すれば俺はセシルの信頼を全て失うだろう。この先もセシルの親友であり続けたいと思うのならば、こちらも本気で応えるしかない。そうでなくても本気のコイツ相手に手加減なんてしてたら即死しかねない。そして俺は死にたくはないんだよ。



「本気、出してよ」


 もう一度、セシルが呟いた。

 もちろんだ。


 だいたいな、お前が手加減して勝てるような可愛げのある相手かよ。見た目を裏切りすぎてるぞ。でも返事する余裕はもうない。目の前に居るのは本日最強の相手なんだ。集中だ、集中しろ。初手から全開でぶつかるぞ。


「はじめっ!」

「《風槍》」


 いきなりの魔法。一回戦の彼を思い出すな。まぁ……思い出す相手の顔や名前も覚えてないんだけども。しかし放たれた魔法の早さも大きさも威力も全然違う。さすがはセシル、本物だ。そして風の魔法の利点は見え難いってことだと思うんだよなぁ。避けるなら大きく避けないと、避けたつもりが…ってことになる。


「《風塊防壁》」


 しかし、ここは敢えて避けず。避けたら更に攻勢かけられる。セシル相手に受けに回ったらやられる。風には風で打ち消してみた。

 どうだ、セシル。魔法なら勝てると思うなよ?…と思ったら魔法ラッシュ!威力を落としての低位風魔法を連打してきた。一回戦で見せたように槍に魔力を纏わせて、逸らしてかわす。多い多い多い!どんだけ撃つんだよ。ほんとに詠唱してんか!?避けるだけで必死だよ!


「シルフよ、お願い…!」


 え?今、何て言った?俺の理解が及ぶ前に小さな竜巻が目の前に起こった。これは……多分、精霊魔法。こんなのも使えるようになってたのねー!どうしよう?風には土か?ええい、悩んでる場合か!


「《岩塊障壁》」


 目の前で、ものすごい轟音が響いた。おいおいおい……風が岩を砕くかね。ウソだろオイ…!しかし相殺してくれたと言うのなら、これはチャンスだ。防戦一方だったが、ここで距離を詰めないと勝機は見出せないな。まだ岩の破片が周囲を舞っているが、ごめんよ、ディープ!でも頼むよ!ここで間合いにさえ入れば。


「はッ!」


 短く息を吐きながらセシルが鋭い槍の突きを続けざまに繰り出してきた。槍使いである俺から見ても早く強い素晴らしい突きだ。セシルが本気出すと言う言葉に偽りなし。


 が、しかし。


 今の俺がゾーンに入れば、その突きすら止まって見える。毎回とまではいかないが、調子が良ければルーさんの攻撃ですら見切れるようになってきたからね。あの人が相手の場合、仮に見切って攻撃してもあの鎧を貫く攻撃手段がないんだけどさ。

 時が止まった世界……ではないけど超スローモーションの世界の中、セシルの突きをすり抜けるようにして躱しつつセシルの腕の下に素早く、尚且つゆっくりと槍を入れていく。

 突くじゃない、入れるだ。いやらしい意味じゃないぞ、念のため。そのまま、槍でセシルの身体を……持ち上げる!少しでもこいつの腰を浮かせればいいのさ、後は……悪いな、全力で蹴落とす!だからセシル相手に手加減してる余裕はないんだってば。セシルは蹴った俺が驚くほどの距離を吹っ飛んでゆく。


 傍から見てたら今の攻防、どんな感じだったんだろうか。結果的には、ほんの数秒の攻防だったはず。魔法を撃ち合った2人がぶつかった次の瞬間には、セシルが馬上から蹴落とされたって感じかな。


「アレクシス、1本!」


 再び大歓声が轟く中……ダメだ!まだ集中を切るな。まだ勝ってない。まだ終わってない。確かな手応えあり……この場合は足応えか。今のは、かなりのダメージを与えたはずだ。まず間違いなく骨の一本や二本はへし折っただろう。しかし、セシルは既に自分の足で立ち上がって、恐ろしいほどの眼差しで俺をじっと見据えて荒くなった呼吸を整えている。口の中を切ったのか、口元に赤い血が見え

 しかし気力が萎えたようには見えない。まだ心が折れてない。凛としたその表情は、闘っている相手である俺ですら息を呑む程に恐ろしくも美しいと思ってしまった。


 見た目に騙されるな。


 アレも確かに、危険な獣だ。

 手負であっても気力が充分なセシルは俺を倒しうる牙を持つ。


 本気のセシルを目の前にしてわかる。

 こいつは今まで戦ったどんな魔物よりも恐ろしい。


 例えどんなダメージがあったとしても、だ。
















「2本目、はじめ!」


「《奔流》!」

 

 今度はいきなりの水魔法を放ってきた。

 文字通りの奔流が俺の正面から襲ってきた。た。

 かわせるか、こんなもん!バカか!限度を知らんのか!


「《獄炎障壁》」


 今度は、水には炎で対抗してみた。奔流と超高熱の炎の壁。それらが小規模な水蒸気爆発を起こした。いやいや、観客もどよめく程のスゲー爆発だよ。小規模な、で片付けんな俺。こんなもん、ほぼ事故でしょ。

 しかし、ある程度は予測していた俺はディープを水蒸気の煙幕の中に突っ込ませた。毎度毎度スマン、ディープ。前も見えない息も出来ないような、さっきより酷い状況だがここが踏ん張りどころなんだ!辺りに立ち込める水蒸気のせいでセシルの姿は見えないけど、セシルには気配察知のスキルもある。俺の位置は既におおよそ掴まれている筈だ。


 でもな。


 俺もルーさんに憑依して教えて貰った結果、気配察知のコツを掴みつつあるのだよ。それだけじゃない。気流感知・熱源感知・振動感知等等。今、俺が使えるスキルの力、全部使わせてもらいます。これらの情報を分析・総合すれば……セシルの位置・姿勢までもわかる。

 おお!?最初に居ると予想していたのとは全く逆の場所から、声も出さずに槍を突いてきた。俺に声から位置を悟られないように、だろうか……徹底してるなぁ。

 総合的に感知していなけりゃ危なかった……が、このチャンスは逃さない。さっきは後ろに蹴落としたから、警戒してるんだろう。逆に突いてきた槍を掴んで引いてみた。ほんのわずかに重心を前寄りにしていたから、今度はセシルを俺のほうに引っこ抜いてみた。


 軽いよなぁ。

 コイツは……ちっちゃいなぁ。

 こんな小さな身体で、よくぞここまで闘ったよ。


 そのまま抱っこの状態からセシルが暴れ出す前に、さっさと下に降ろす。基礎体力に関しては、小さい頃から俺達2人で鍛えてたからね。それは今でも続けてる。お陰でワンデイトーナメントなのに最後まで身体は動いてくれたよな。この、俺より随分小さな身体で。しかも不得意な近接戦で……大したヤツだよ。俺はそんな不利な状況下で、ここまで戦えるんだろうか。


 いつか……そんな時が来たとき、俺はこいつみたいになれるだろうか。

 


「1本!!それまで!勝者、アレクシス!」




 今日一番の大歓声の中、ようやく一息ついた。ふぅ~……傍から見たら短期決戦だったろうけど、決勝だけで心底疲れたぁ。うん、めちゃくちゃ疲れたよ。


「俺の出し惜しみ無しの100%。強かっただろ?」

「うん、強かったよ。やっぱりアレクは強かった。ボクの本気に勝ってくれてありがとう。嬉しいし……あー、でもやっぱり悔しいなぁ!」


 ホントは、ゾーンは使わないつもりだったけどさ。

 無理だったわ。

 全力は出したと言うか、無理矢理出さされた。


 悔しい、か。負けて猶セシルの心は折れず。

 すごいのはお前なんだよ。


 やっぱりお前も俺の誇りだ。













 そのまま表彰式となった。3位決定戦とかやらないんだな。ちなみに賞金もない。栄誉のみ、だ。これは学校行事だしね。会場の入場料とかで稼いだんちゃうの?と思ったが、それらはベルカーンの連中の遠征費に当てられるそうだ。遠くから来てもらったんだしね、経費だよね。


 最後に領主ヴァリート公爵殿下よりお言葉を頂く。そういや最近、会ってませんでしたね公爵殿下。あれ、髪切った?

 そのまま公爵さんに長々と褒めて貰った後に、色々と予定外ではあるけど御老公に向いて右膝ついて拝礼した。あんなエロジジイに礼なんてムカっ腹だけど、こういう時こそ、あのジジイには役に立ってもらわないとな。


「大公陛下、御要望にお応えできましたでしょうか」


 公爵さんを含めて周りは何事?と思ってるかもしれんがしょうがない。ホントに圧勝しちゃったから、このままじゃ俺とセシルにおもいっきり貴族だの騎士団から勧誘が来るかもしれないじゃないですか。いや多分、来ると思う。2人して破格の強さを見せつけたし。だもんで、先に俺達は既に大公に唾つけられてますよ、とアピールだ。なんかジジイの唾とか臭そうだなぁ…。


「ああ、満足だ。流石は俺の自慢の懐刀2本だな。見事だったぞ」


 御老公は、すぐに俺の意図を汲んでくれた。誰がお前の懐刀やねん!ハゲ!アホ!と思うけど我慢だ。まぁ……たとえ大公といえど、本当にその下につく気はないよ。それより、ここからが本当のメインイベントだ。そのままの体勢で俺の、俺だけの主賓に勝利を報告する。


『今日の勝利は、貴女に捧げるものです』


 これは日本語だが、伝えたいのはただ一人だけなので問題無い。その一人は日本語にも堪能だからね。


『ありがとう。ふふ……惚れ直しましたよ』


 そう言って、我らの師は優しく笑ってくれた。公爵大公の両方からのお褒めの言葉より、この一言が嬉しいよ!見たか、あの笑顔!あの人に喜んで貰えただろうか、カッコ良かっただろうか。あの笑顔のためなら何でもしちゃうな、俺。



 そのまま退場して、今日は終わり。一堂、解散。出来れば優勝祝賀会でも開催したいけど、まだだ。まだ明日がある。明日は団体戦の方だ。うちは14人なので、向こうも人数合わせて選抜メンバーを出してくる予定らしいよ。29人全員でかかってきてくれても良かったけど……流石に公平さに欠けるということで。


 今日はベルカーンとの対戦ではほとんど疲労もなかったけど……一番はセシルのお説教が堪えた。それと同じくらいセシルとの決勝戦も疲れた。


 いつもより早く寝よう……今日もいい夢見ようぜ。




拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。


この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!


是非とも感想、レビュー、ブックマーク、評価を頂ければこれに勝る幸せは御座いません(人>ω•*)お願いします。


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