20 月が綺麗ですね
翌日の朝、クリスとセシルと3人で神殿に行ってみるとボリスさんは既に居て作業を始めていた。でも、お弟子さん達の姿は見えない。ドキュメント番組ではないが、ベテラン冒険者の朝は早い………んだろう。多分。
「うむ、スマン。まだわからんのだわ」
ボリスさんは申し訳無さそうにそう言うのだけど、しかしこちらも彼を責められない。その顔を見れば遊んでた訳じゃないのがわかるからだ。むしろ憔悴しきっていて、少しは休んでくださいと言いたくなるよ。チ〇ビタかリポDとか飲む?タウリンは効くぜぇ?ここには無いけど。
お弟子さんたちは旅の疲れもあって、ダウンして既に宿で寝込んでるそうだ。
「大先輩は強大な魔力を持ってるようだからな、それを封じているのなら封印の装置とは別に大きな魔力源がありそうなもんだが……見つからん。うん、アレクシスが言ってたように封印ってのは普通、外から施すもんだから外部にあると思うよ?しかしなぁ………スマン、もう少し時間をくれ」
「その装置や魔力源とは大きなモノなのですか?僕らも探してみます」
「王子、装置の方は大きいとも限らないのですよ。結局のところは特定の個人を外に出られなくするだけの単純な魔力回路ですからね、ほんの小さなものかもしれない。いや、そうであっても動力源の魔力はどこから……」
悩めるボリスさんは、なんかブツブツと一人で熟考モードに入ってしまった。
なんだか前世での徹夜仕事明けの自分を見るようで……うん、無理せず頑張りましょうね!本音を言うと、ルーさんが外に出られるか否かの瀬戸際なんで死ぬまで働け!無理しろ!とケツを蹴飛ばしたいけども。
さて……封印の装置か。一体何を探せばいいのやら、答え不明の宝探しかぁ。確かに先の見えない話だが探すしかない。まず俺が怪しいと思うのは、あの入り口の壁かなぁ。そう、あの魔方陣のある壁。
この壁、魔方陣を完成させていないと迷宮には入れない。この世界とあの迷宮を隔てている、壁だ。この魔方陣……もしかしたら違う組み合わせで何かが起こらないだろうか?
これは単純な3次魔方陣で、一番最初に来た時に最初から上の段真ん中に1、右の下に4があったから答えをそのまま当て嵌めたけど、正解の組み合わせは全部で8パターンある。
他の組み合わせで……あるんじゃないの?
新しい扉が開くとかさぁ!
………結果、ダメでした。
正解の組み合わせにすると、どのパターンでもいつものように迷宮に入れるだけだった。そりゃそうか……。
「ボリスさん。いっそ、この壁を破壊したらなんとかなりませんかね?」
「ダメだ。この壁は言わば転移装置であって物理的に壁として、この神殿と迷宮を隔ててるわけじゃない。下手に破壊すると二度と迷宮に入れなくなる可能性もある」
それは困る。大いに困るよ。却下だな。誰だ、安易に壊そうなんて考える奴は!バカか!バカは黙ってろ!
結局、画期的なアイデアを思いつく筈もなく、この日は全員で夕方まで神殿をしらみつぶしに探索しまくった。長年ここに通ってるが、神殿の方をキチンと見たのは今日が初めてかもしれない。俺にとっては、大切な宝物を包む大きな段ボールか包み紙程度のものでしかないからね。
丁寧に隅々まで、色々探してみたが……何も見つからない。もしかしたら既に目の前にあるのに気が付いてないだけなのか…!?
クソッ…!
ああ、ルーさんに報告に行くのが辛い。
期待させておいて今日はダメでした、だなんて言いたくないよ。
『すみません、明日こそは必ず……』
今でも、ルーさんと2人きりのときは日本語で話してるんだ。今となってはそんなに必要でもないけど、これは俺達2人だけの約束みたいなもんだよ。
『そうか……そんな顔をしないの。君が頑張ってくれているのは私もわかっている、ありがとう。………アレク、それはそれとしてだ。昨日も今日も修行が出来なかったでしょう。今から課外授業をしてあげよう』
『課外授業……なんかエッチな響きですが』
『勝手に変なものを響かせるな!バカか君は!?……私のストレス解消に付き合えと言っているの!』
『もうちょっと他に平和で穏やかなストレス解消法はないんですか。ああ、もう……ちょっと待っててください。外にまだセシルとクリスがいるんで両親に言付けしてきます。どうせなら明日の分まで、朝までやりましょう。俺のストレス解消に付き合ってもらいますよ!』
今生で初めて女性と一夜を過ごすというのに、やることが色気の無いこと鬼の如くだな。もう少し……こう、あるだろう!色気とか!エロスとか!魅惑のささやきとか!スキンシップとか!あってもいいんじゃないの?もう俺も思春期だぞ。股間もそれなりにボーボーだぞ!?
しかし現実は非情だ。
今日も目の前に立つのは、恐怖の象徴でしかない漆黒の全身鎧。そして、その手には黄金の槍ガエ・アッサル。色気なんざ微塵もねぇよ。あるのは恐怖、そして絶望感。逃げるコマンドを実装すべきだ。とんずらでも可。
黒と黄金は……想像以上に見栄えするねぇ。未だに、ほんの少しでも緊張を緩めたら足は震えてチビって腰を抜かしてしまいそうになる。俺よりも圧倒的に強い相手が、本気の殺意を込めて殺しに来るんだよ?そして、この迷宮での死の苦しみを思えば……毎回逃げ出したいくらいだ。逃げ出したところで、そこに俺の幸せは無いんだろうけどさ。多分ね。
なけなしの勇気を振り絞って相対する漆黒の魔人を見据えながら、静かに全身に魔力を巡らせる。これは俺流の身体強化スキルみたいなものだよ。理論はさっぱりわからないけど、俺の解釈で言うと魔力ってのは願いや想いを形として実現させる力、なんだ。……ごめんなさい、なんとなくそう思っただけなんです。これ以上の言語化は無理です。
根拠…? 理論的な拠り所?のことですか? そんなもの、ウチにはないよ…。
実際、魔力は炎だの風だの攻撃手段にもなるし、怪我を癒す力にもなる。そして……こうやって身体能力を大幅に上昇させることも出来る。予想なんだけど、身体強化のスキルはコレを全自動でやってくれてるんじゃないかな。そして俺は……一切のスキルを持たない俺は全てを手動でやるしかない。
何度もルーさんに憑依してもらってスキルを、そして魔法を体感して得た俺なりの結論がある。
この世界の全てのスキルは、訓練次第で習得することが出来る。
元歯科技工士の……元職人である俺は、その結論に至った。そうだよ、スキルってのは文字通り全て技術なんだよ。それは技法であり技能と言ってもいいのかも。そして、技術っては常にヒトからヒトへと伝承されていくモノだ。つまり学習できるのだよ。ヒトの真の偉大さは歴史を、知識を、そして技術を紡ぐことにある……と思う。たまに天才による独創的な神業があったりもするけれど、ヒトはそれすらも解析して技術体系に取り込んだりもする。
ヒトの力って本当にすごいんだよ。そして只の人間であるこの俺は、この世界では殆どのヒトがやっていないだろう試みをしてきた。
何年もスキルを、技術として極限まで解析して学習して応用して自分に取り込んできた。日々の死線上の集中力でもって、自己流のスキルと魔法を手に入れたのだよ。何も与えてくれなかったこの世界から無理矢理、奪い取ったと言ってもいい。
この世界が俺に何もくれないのなら、勝手に貰っていく。
全てを。
スキルだなんだと洒落臭ぇ。大概の事はだな、歯ぁ食いしばって頭と身体を使って全力で頑張ってどうにかするんだよ。どんな世界でも、いつの時代でも、どんな相手であっても、大人も子供も、男も女も、それ以外の人も。
自惚れでもなく、今の俺は結構……強いよ。
その結果。
以前は魔人相手に瞬殺秒殺される日々だったのが10年近い修行の成果で、今では自分でも驚くほど打ち合うことが出来るようになった。勿論ルーさんを討ち取るには至らないが、それでも一撃入れるくらいなら…!つーか、この黒いフルプレートアーマー、どんな硬さだよ!もう子供の頃から何度と無くカール爺さんによって修理・新製してもらった歴代の槍、どれ一つとして未だに擦り傷すら付けられたものがない。この事実を知ったらあのカール爺さんですら凹みそうだ。
ちなみに今の槍は皆朱の槍Mk-Ⅲと呼んでいる。赤いだけ?いや通常の3倍の速さが出るんだよ、多分。ひたすらにルーさんの攻撃を避けて、かわして、槍を繰り出して。ほとんど未来予知に近いほどの見切りで火花が飛び散る激戦を繰り広げた……が。
『まだ、甘い』
ルーさんの振るう黄金の槍を俺の胸に受けてしまった。クッ……無念!今日、何度目かの死出の旅路に出発だ。偉そうに、強くなったと思っても相手が相手だから結果は大差無いんだよなぁ……。
蘇った後も壁にもたれかかって座ったまま、しばらく動けなくなった。幼い頃の予想通り、この迷宮での死には慣れるってことがない。そして今ならわかるけど、死なんて慣れちゃいけないんだよな。おかげ様で未だかつて一度たりとも「まぁいいか」と諦めたことがない。毎日、毎回全力で死に物狂いで足掻いて藻掻いて、ですよ。そりゃそうでしょ。そう簡単に死んでたまるかよ!人生って多分、そんなもんですよ。
ふぅ~……朝から動き詰めだったから、流石に疲れたわ。
『少し、休憩しようか』
鎧を脱いで、ルーさんが俺の横に座り込んだ。近い。近いよ、近すぎるよ……嬉しいけど。さっきまで激しく動いていたのはずなのに、不思議と良い匂いがする。あ~素敵。好き好き。今日も大好き。
『本当に、君は強くなったね』
『たった今、ほとんど手も足も出させずに圧勝しといて嫌味ですか?』
『いや、本当にそう思ってるんだよ。今ので24,589回。君がここで死んで蘇った回数だ』
『そんなに!?まぁ10年近く毎日何度もやってますからねぇ…』
『よく、頑張ったね』
『もう終わりみたいに言わないでください。俺はルーさんに勝つまで続けますよ』
だから、そんな悲しそうな顔で笑わないでよ。
貴女であっても、そんな顔は見たくない。
俺は本気で勝つつもりだよ?
たとえ世界最強の魔人が相手であっても。
『――もう、無理なのかもしれない』
そういって、ルーさんが俺の肩に頭をのせてきた。ヤダ、照れるじゃないの。ついさっきも俺を殺した相手なのに……何年も毎日見てきた人なのに。こんなに密着するとドキドキする………つくづく初心だよな。かわいいよな、俺。
『ごめんね、君が私の為に頑張ってくれてるのに……絶対言わないでおこうと決めていたのに…』
何をだよ。いや、そうじゃない。決めたなら言わないでおこうよ。なぁ。言うなよ。頼むから、それだけは言わないでください。
『もう心が折れそうなんだ。私はもう、二度とここから出られ『言うな!』
それだけは言っちゃいけない。諦める貴女なんて見たくない。貴女らしくないじゃないか、いつものように凛として居てくれよ。
『それ以上、言うな。泣くな……!大丈夫だ。絶対に、ここから出す。絶対だ。俺は前世でもな、絶対って言葉は使わないんだ。でもな、今は違うぞ。約束する。絶対に、ここから出す!だから……大丈夫なんだよ』
『……ありがとう』
『もしだよ?絶対にそんなことはあり得ないけど、それでも万が一、億…いや兆、京、無量大数に一にでもここから出せなかったら、そのときは俺がここにずっと居りゃ済む話なんだよ』
無量大数て。おまえのかーちゃんでーべーそレベルに小学生語じゃん。何十年ぶりに口に出したわ。生まれ変わっても覚えてるもんだね。もっと他に覚えることがあっただろうにねぇ……ホントに。
『そうか、君はずっと私と一緒に居てくれるのか。じゃあ……元気出てきた』
そういって嬉しそうに笑うこの人は、本当に綺麗な人だなぁ……。
『ねぇルーさん。キスしていいかい?』
『……ダメ。今はまだダメ。私をここから外に出してくれたなら……いいよ。君と私の約束だ』
まいったな。
そんなご褒美を用意されたら、今以上に頑張るしかないよな。
約束だぞ!忘れんなよ!
『あんなに小さな子供だったのに……いつの間にか私より背が大きくなって、腕も太くなって……もう男の人になっちゃったね』
『男子三日会わざれば刮目して見よ、ですよ』
『毎日会ってるけどね』
『ショタ属性無いんだったら、そろそろアリなんじゃないですか?俺』
『うーん…男は40歳を超えてから、が私の持論だから。君は……まだスタートラインかなぁ』
なんなんだ、その変な持論は。捨ててしまえ、そんな持論。そういえば、この人の理想のヒーローは古○任三郎だったな。この枯れ専め。あと何年待てばいいんだよ。俺の中身は40歳オーバーなんだからアリと言っちゃえよ。
『レースに参加してるなら上等ですよ。最後には俺が勝ちますんで』
『うん、頑張って勝ってくれ………キスはまだダメだけどハグならしても、いいよ』
してもいいよって、して欲しいんでしょう?
遠慮なくぎゅっとハグするけど。
待ってました!の勢いでハグしますけども。
思えば、ルーさんにこんなに触れるのって初めてだな。
こんなに……華奢な人だったんだ。
俺、この人のことをまだ何も知らないんだな。
ああ、幸せ。
ずっとこうしていたい。
『君の……心臓の音が聞こえる』
『ルーさん、そういえばルーさんをここに封じ込めたヤツの話って聞いたっけ?』
『………言ってない』
『どこのどいつなの?』
『邪神。邪な神。絶対悪の神。自分でそう言っていた』
『なんすか、ソレ。痛いキャラですね、どういうヤツなんですか?』
『本人が言うには別の世界を食い尽くして、この世界へやってきた神だそうだよ』
『会話したんですか!?』
『そりゃ私も無言でここに押し込められた訳ではないからね……多少のコンタクトはあったよ。この世の全てに絶望を齎して、それを喰らう。そういう存在なんだそうだ』
『悪趣味な……なんでルーさんを殺さなかったんでしょうね?』
『絶望させるためなんじゃないの?殺したら絶望することも出来ないからね』
痛い性格な上に嫌なヤツだね。不死の迷宮に閉じ込めて永遠に絶望だけを供給しろってか。俺はそういう奴とは仲良くなれそうにないね!そもそも仲良くなりたくねぇよ。
そうか、しかし邪神とやらに封印されたのか………うーんうーん、なんだろうな。この話を聞いて今、俺は何に引っかかってるんだろうな。1000年以上前に、邪神にルーさんは封印された。そこに生まれ変わった俺がやってきた。そして今に至る。うん。なんだろうな、ちょっと……なにか引っかかってる感じ。
ほら、よくある推理モノのドラマなら全体の7割くらいの時間が経過した感じ?なにかを閃きそうな予感。そしてなにも閃かないもどかしさ。あー、近くのモブキャラが日常での何気ない一言でも言ってくれないかな。そしたら「……今、なんて言った?」なんてわざとらしく聞き直してさ。「それだッ!」なんて言って外へ飛び出すわけだよ。おい、どこに行くんだ。そしてモブキャラなんて居ないよ、今はここに2人だけなのよ。
そんなことより考えろ、考えろ。もっと自分のレベルを下げて、その邪神の……邪な下衆の考えを読むんだ。最低のカス野郎の発想、性悪の卑劣な奴の発想を想像しろ。もっと残酷な、絶望の手段を考えろ。例えば封印の解除には大切な人の血や心臓が必要とか?いや、多分違う……と思う。おそらく答えをわかってさえいたら、極々簡単に解除できる……そんな気がするんだ。この程度で、こんな些細なことで……長い長い間、封じられていたのか!!と思わせるような。ふざけてんのか!!と怒鳴りたくなるような、まるで俺達を馬鹿にしているかのような、嘲笑うかのような……そんな最低な方法。そう、邪悪な2段階の罠。もし見つけ出して解除に成功した時すら、今まで俺達は何をしていたんだ……と後悔して、もう一度絶望を引き起こさせるような。
うん、そうだよな。
なんで俺達は迷宮の外を探していたんだろう。
俺自身が言っていたように封印されてるのは……この迷宮じゃなく、この人なんだよ。俺もクリスもセシルも、なんだったら御老公だってこの迷宮には出入り出来たじゃないか。封印……この迷宮に封印が施されているんじゃない。
封印されているのは、あくまでもルー・リュシオールその人なんだ。
まだ思いついた……いや思い出したことがある。この世界にはスキルがある。そのスキルってのは魂の力の顕現だそうだ。なんか、やたら魂ってワードが出てくるよな。そして俺、アレクシス・エル・シルヴァとルー・リュシオ―ルは半ば共通の魂を持つ存在らしい。これは前前世の死に際において俺の魂を彼女に分け与えた結果だそうで。なのにでも、俺はこの迷宮を普通に出入り出来る。そしてルー・リュシオ―ルは外に出ることが出来ない。
あー!なんつーか頭が悪いせいで上手く説明出来ないけど、ボリスさんの言っていた装置……つまり封印はルーさんの魂を識別している訳ではないんじゃないか?じゃあ、肉体の方を識別してるのか……?誰が?いやここには俺達以外、誰も居ない。DNAでも鑑定してるってか?急に21世紀の地球になってきたな。そんな訳あるかい!この神殿、基本的に石や土や水しかないよ。まさか顔認証やら虹彩認証や指紋認証でもないだろうよ。なのに、どうやってこの人を認識して封じている?何が言いたいかって?………もしかして装置が設置されてるのは、このダンジョンでも神殿でもなく。
この人自身……?
『……あのね、いくら私でもそう強くぎゅっとされると、ちょっと苦しいよ?』
『あ、すみません!ごめんなさい。今、考え事してました』
『この私を抱きながら考え事をするとは……君はホントに勇者だと思うよ。プラス3だ』
多い。お仕置きの数が、多い。
くそぅ、これも邪神のせいだ!更に恨むぞ。
でも、たった今閃いた考えが止まらない。
なんだか、勝手に手が動く。
『ちょっとすみません』
そういってルーさんの頭を両手に抱いた。
頭も小さいなぁ。そして彼女と目が合った。
この人はホントに綺麗な瞳してるな。
『なに……?』
……………あった。
これか。
彼女の左耳の後ろに……柔らかく長い髪の毛の中に、俺の小指に不自然に引っかかるモノがあった。痛くないように、そぉっとソレを取り出すと………数センチ程の針のようなものが。その針のお尻には豆粒ほどの燃えているような赤い石が付いてる。
ボリスさん。封印の魔力源、そりゃ……見つからないはずだよ。この恐ろしく強い魔人を封じる為には絶対に必要なはずの、巨大な魔力源。見つからないというか、最初から目の前にあったと言うべきか。
ここにあった。
いや、ここに居た。
ずっとすぐ近く、俺達の目の前に居たのだ。
この人が……魔人が自分の膨大な魔力で自分自身を封じ込めていた訳だ。
この皮肉さ。
ほんっと根性悪いヤツだな、邪神!
お見事だよ。
ついに見つけたけど嬉しさより腹立たしさの方が勝ってるわ。
『あった…ありましたよ!封印の鍵!』
『…………本当に?これが……?」
クソッ!せっかくのチャンス?だし、もっと彼女の全身をくまなく探すつもりだったけど、予想外に一番最初の髪の中に発見してしまったじゃねーか。この際なので全身を脱がせて、もっと恥ずかしい部分もあんな所もこんな所も見せてもらって触るつもりだったのに!目で指で鼻で、五感をフル活用して楽しむ……いや探すつもりだったのに!つっかえ……どこまでも気の利かない奴だよ、邪神め。お前、マジで使えねぇのな。ホントお前にはガッカリだよ。君さぁ……そういうとこだよ!まんまと俺が心底絶望しそうになったわ!サービス精神がカケラも無いのか。ホントに死ね。いつか必ず殺す。
『君は……君は、本当に私の勇者様になっちゃったんだな』
『ルーさん、嬉しいときは笑うもんだよ。泣いちゃ……ダメだよ』
『君はいつもいつも、私に無理難題を言うんだね?』
美人は泣いても絵になるが、俺は彼女の泣き顔がみたくてやってたんじゃない。俺の大好きな笑顔を見せてください。そして、一緒に外の世界に行こうじゃないか。
ああ、立ち上がろうにも今日も修行をしすぎて全身バッキバキだ。早くも筋肉痛キター!ほら、せっかくの良い場面なのに全身筋肉痛やないか。カッコつかないなぁ。師匠、少し修行が厳しすぎるんじゃないかい?でも、ここは気力を振り絞って全力でカッコをつけようぜ。
『さて、お姫様。オルトレットの街を御案内しますので、こちらに御手を』
『よろしく頼みましてよ、セバスチャン』
まぁ執事といえばセバスチャンだよな。見たことも会ったこともないけど。ルーさんの涙を拭って、彼女の右手を手にとってゆっくりと歩き出した。
俺が毎日、これまで何度も通り抜けている、魔方陣の壁。
そしてルーさんは今まで一度も出たことがない、魔方陣の壁。
その目の前に2人で立つ。
ルーさんの手がかすかに震えてるのがわかる。
大丈夫、きっと大丈夫だ。
俺達は、もう大丈夫なんだ。
彼女の手を繋いだまま、暗い迷宮の中から壁に手を触れた。目の前は真っ暗なままだ。どうやら、まだ世界は夜らしい。外に出た俺の左手には、確かに大切な人のぬくもりを感じている。俺はもう、この手を離さない。
『ああ、月が綺麗ですね』
神殿の外に出てみると出迎えてくれた銀色に輝く満月を見て、思わず呟いた。この世界の月は地球で見ていた月よりかなり大きく、その分明るい。彼女と見る月は本当に綺麗だ。もちろん、それを見ている彼女は月以上に世界一綺麗だよ。
『私、死んでもいいわ』
縁起でもない!でも、そう言われて思いだした。えーっと確か夏目漱石と二葉亭四迷だったっけ。I love youの翻訳として有名な話だが諸説あり。
死んでも、はよくないぞ。
もう俺達は死んでも大丈夫な世界には戻らないよ。
この世界で、2人で生きていくんだ。
1000年ぶりの月の光を浴びながら、ルーさんは優雅にカーテシーを披露してくれた。月下のそれは初めて出会った時以上に痺れる程に美しくて、まるで素敵な夢を見ているようだった。
『アレクシス・エル・シルヴァ様。1000年の古よりお慕い申しておりました。どうかこのルーを末永く貴方様のお傍に置いて、かわいがってくださいませ』
返事の代わりに彼女を抱き寄せて、俺達は初めてのキスをした。
流石にバカでも、今夜の約束くらい覚えてるぜ。
約束は、早くも果たされた。
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
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