2 命はね、大事に使えば死ぬまで使えるのよ
あ……ありのまま今起こった事を話すぜ!
結論から言うと、俺は生まれ変わっていた。な……何を言っているのかわからねーと思うが、俺も何が起こったのかわからなかった……まぁ、これを読んでる皆さんにはよ〜く御存じの展開かもしれませんが。だとしても、もう少し俺の戯言に付き合って欲しい。このまま茶番を続けさせて欲しいの。
これが輪廻転生なのか…?違うよな。俺が知ってる輪廻転生ってこんなんじゃないよ。いや、こんな転生があっても良いけどもう少し説明が欲しい。もっとこう、美しいお姉さま的な神様に出迎えて欲しい。出来れば冷たいウェルカムドリンクの一杯も用意してくれると嬉しい。そして柔らかくて座り心地の良い席に案内してもらって、自分の死に様のリプレイからスタートして新しく生まれ変わった世界について詳細に優しく手取り足取り教えて欲しい。ついでにデータのセーブとロードもあるなら説明して欲しいしステータスのオープンなども教えてくれるとありがたい。もちろんそんなものはある訳も無く、つくづくベタな展開もあったもんだよな。俺だってさ、こんな場面で文句は言いたくないけれど少しは捻ろうぜ、運命の神様よ。今更な展開だし俺の扱いが雑にも程がある。もう少し……こう…なんとかならなかったもんかね。企業努力が足りんのと違う?
……いや、やっぱり変な事はしなくてよいです。
くれるもんは貰う主義なんだ。病気以外。
そんな風に考えてる俺は今現在、新しい人生で3歳も半ばになっていた。まだ少しふわふわした寝ぼけてる感はあるが、最近になってようやく人並みにマトモで充分な思考が出来ている。おそらく魂がおっさんで何故か前世の記憶が残っていたとしても、産まれた直後は身体が赤ちゃんだから脳神経系や感覚器が未発達なので碌に機能してなかったってことなんだろう……かな?多分ね。長い寝起きもあったもんだよ。実際ね、産まれてすぐは訳が分からなくて、ひたすら大混乱だったよ。中身が大人であっても新生児なんてね、ほとんど何も見えない・あまり聞こえない・碌に考えも纏まらない状態だからね。そんな状態から少しずつ成長して、周りがぼんやり見える・なんとか聞こえるけれど、まだ思考もあまり集中出来ない1歳2歳を経て、ようやく3歳となった今。まだ成長中とはいえ見る聞くに関しては既に前世以上だなぁ。前世と違って眼鏡が無くてもはっきりくっきり見える世界が美しいぜ…!今世の身体はずいぶん高スペックなんだろうか。そうだといいな。前世の身体がポンコツ過ぎたとは思いたくないぞ。
改めて今の状況を確認しよう。まだ慌てる時間じゃない。というか充分にもう慌てた。実際、慌てふためいてこの3年を過ごしたと言ってもいい。あれはあれで逆にリアルな赤ちゃんを演じれたのじゃないかな。
さて3歳児の情報収集能力なんざ、たかが知れてるがそれでも判明したこともあるよ。
確実なことからいうと、ここは日本じゃない。後述するが多分地球でもない…かもしんない。何という世界で何という国なのかすら分からんが、穏やかな気候の海辺の街だ。街並みは日本と違って石造りやレンガ造りが多い。もちろん木も使ってあるがテレビで見たヨーロッパの古い街並みに似てる……それも割と田舎の方のな。多分な。あんなに綺麗でもないか。街並みって言うけど、俺が見える範囲内の話。なんせ3歳児の行動範囲内ですよ?案外、数百メートルも進んだら和風建築や近代建築が立ち並んでる可能性も……いや言ってみただけです。
それからね、言葉は全く知らない言語だ。外国語なんて元々英語くらいしか知らんけどさ。その英語の知識もたかが知れている。もっと海外旅行とか行ってりゃ良かったかな?オーストラリア台湾サイパンくらいしか行ってないわ。
国内旅行派なんだよ、俺。国内旅行は良いよぉ。両替もパスポートも要らないし言葉もほぼ通じる。日本ならコンビニはどこにでもあるし、どこ行っても飯は美味いし景色も綺麗で温泉も豊富。それに治安も抜群に良い。しかも日本国内だって水の中に咲く花、とか日本唯一の砂漠、とか浪漫のある場所がいっぱいなんだから。
まぁ、そんな事など今はどうでもいい。
贔屓目で日本では一般的やや平均以下程度の語学力の俺ですが、それでも徐々に聴覚が発達するにつれて毎日言葉を聞いてりゃ多少は覚えてくる。語学を覚えるにはネイティブとの会話、これ大事。最強。
さて、この時点で知り得た情報でも日本じゃないというには十分なんだけど、更に周囲の人がどうみても日本人じゃないんですよ。どこかヨーロッパの田舎にでも生まれたのかな?とでも思ってたけど、更に車が無いし家電製品が無い。窓ガラスもほとんど無い。少なくとも俺の行動範囲には。
それにうちの新しい父親、職業が騎士らしいぜ?さすがにそんな国や地域、いまどきまだあるの?とも考えたが……あるかもしれないしなぁ。令和の時代にも確かどこかの国には騎士団があった気がする。いやしかし……などと生まれ変わりと過去へタイムスリップの併せ技なのかと思い始めた矢先だった。
俺は魔法を見た。
今世の母親が、魔法で火を点けて湯を沸かしたのだ。ヘソで茶を沸かすような話でしょ?今ちょっと上手いこと言ったかな?言ってないか。
詳しく聞き取れなかったが、『――……―――』と不思議なナニカを唱えると母の指先が仄かに光り出し竈の薪に向かって小さな光球を飛ばした。次の瞬間、薪は着火材でも入れたの?ってくらい盛大に燃え出した。
そりゃ衝撃でしたよ。びっくりしすぎて微動だに出来なかったね。マジックか?トリックか?とも考えたけど、その割には母、俺にリアクションを求めてこないし。訳わからんから見なかったことにしたが、次の日もその次の日も連日、母は火をつけて見せた。見せた……って言うか、母は単純に日々の炊事をしていただけだよ。
「それは…なに?なんで、もえるの?」
分からない事は聞く。
これ大事。もちろん聞いたからって望む答えが得られるとは限らないが。
「危ないから近づかないようにね。今のは魔法だよー」
幼い俺を抱っこして火から遠ざけながら、新しい母はキチンと教えてくれた。本当に魔法なのか!?いや、3歳児相手の念入りでしつこいドッキリなのかもしれん。このタイミングで息子へのドッキリに意味も意図もわからないが、無いとは言い切れまい。母の指を掴んでみるが……普通の指だ。トリックがわからん…!
「どうやったらできるの?もう一回やって!」
しょうがない子ねと言わんばかりの苦笑いをしつつ、母は再びナニカを詠唱してくれた。
再度、母の指先が淡く仄かに光り、小さな炎の玉をゆっくり打ち出した。竈の中で燃えている薪が再び小さく爆ぜた。えー、これマジのやつ?本物?本物にしか見えんが…まだ信じられない。だって科学の世界の子だったし、俺。いきなり、ヒャッホーイ!魔法だ魔法だー!とはならないよ。まだ。そう簡単には壮大なドッキリ説を捨てられないよ。
「危ないからね。あっちでお姉ちゃんと遊んでてね」
そう言って聖母のように優しく微笑んでくれる母を見て、この優しそうな人が我が子にそんな壮大なドッキリを仕掛けるだろうか、と思った。反語でそう思った。いやあり得ないだろ。
俺の仮説、ドッキリ説はもはや虫の息ではあったが、一応心の隅にそっと置いておこう。とりあえず保留だ。
「…………以上の状況証拠により、ここは地球じゃない。ここは異世界なのかもしれない!」
「……話が長いし何を言ってるのか、わかんない」
目の前で長々と持論を展開したが、セシルに一刀両断された。
すまん、俺の持論…!
相手が悪かったようだ。モンスターボールに戻れ。
このセシルはうちのお隣さんの子供で、俺と同い年の幼馴染だ。まだ3歳児であるにもかかわらず記憶持ち転生者である俺とそれなりに会話が出来る程に優秀だ。この子こそ天才児じゃなかろうか。
しかも、この子がめっちゃかわいいんだ。日本でいうなら千年に1人と言われたアイドルに似てる気がする。俺はロリコンじゃないけど、こんな子と幼馴染として仲良く出来るなら転生万歳だよな。大事な事だからもう一回言っておこうか、俺はロリコンじゃないけども……多分な。
「つまりな、この世界はいわゆるナーロッパかもしれないんだ…!」
じゃなきゃこんなかわいい幼馴染、居ないだろ。居てくれて嬉しいけど、そんな都合の良い展開ある?小市民な俺としては、幸せ過ぎて怖い。後で盛大な反作用がありそうでさぁ……。
「……やっぱり何を言ってるか、全然わかんない」
そこは「な、なんだってー!」とか言おうよ。いいんだよ。分かる人にはこれで分かる。ラノベはそんなに量は読んでないが、歯科技工士の仕事しながらの深夜アニメでそういう系もいっぱい観たしな。あー、でも死に際というか死後というかのタイミングで神様とか会ってないなぁ?こういうのはチートなスキルとかステータスとか貰えたりするんじゃないのか?
んー、なんか死んだときに誰かに会った……というか誰かを見たような気がするけど覚えてない。アレが神様か?会話したっけかなぁ?わからん。とりあえず、転生モノにおけるチートの基本は鑑定だ。そう、どんな世界でも何より大事なのは情報だ。ステータスを見るとか鑑定が基本でしょ。あれ、鑑定ってここじゃなんて言うんだろ?日本語でも可?
『鑑定!』
セシルに向かって日本語で唱えてみた……が何も見えない。俺の目の前で怪訝な顔してるセシルが見えるだけだ。
『ステータスオープン!』
『解析!』
『分析!』
色々と試してみるがやっぱり何もわからない。
いや、わかることがひとつだけあった。
セシルがめっちゃ不機嫌になっとる。
幼児が全力で不満をあぴーるしとるわ。
「つまんない!バカになったの…?」
言うな……俺だって薄っすら自覚してるんだから。
幼児のくせに哀れむな。
頼むから我に返らせないでほしい。
もう少し俺を泳がせて?夢を見させて?
『Analyze!』
「……今日のアレクは変なことばっか言ってるからもう帰る!」
しつこい俺に不満を爆発させたセシルはとっとと自宅方面に帰っていった。今まで俺たちが居たのは、うちの庭の端に作った公然の秘密な、秘密基地だ。ここで遊ぶのが最近のセシルのマイブームなのですよ。まぁハッキリ言うとね、幾ら今の自分の肉体が3歳児であってもね。子供と長時間、秘密基地でごっこ遊びってのは少々キツイものがある。でもな、幼児にも幼児なりの社会性って大事だよ。友達は大切に、だ。前世で姪っ子甥っ子と全力で遊んでた経験がモノを言うぜ。そんな大切にすべき幼馴染は機嫌を損ねて帰っちゃったが……明日、全力で機嫌を取ろう。
今更ですが、今世で俺の名前はアレクシス・エル・シルヴァ。
この街で領主の護衛騎士を勤める父レオンと母ブリジットの4番目の子として生まれた。12歳年上の兄レスリーと10歳上の兄ジェロム、そして8歳上の姉エミリーがいる。何故か俺だけやや年齢差があるのが少し気になるが……4年前に何か急にムラムラきたのか?父よ。
まぁ母、まだ若いしな。父で前世の俺より少し若いくらい。多分40歳前後かな?そんで母は見た目は20歳前後でも通用するんじゃないかな、多分30歳くらいか?しかも、かなりの美人だし父よ、やったな。でかしたな、と言ってやりたい。父は……贔屓目に言えば結構濃い顔で実に男らしい風貌をしている。美女と野獣と言ったらかわいそうだが、それでも高嶺の花を射止めたなとは言っていいだろう。本当に父にしては上出来の部類だよ。
割と子沢山なだけに夫婦仲は良いし、兄姉たちもまだそんなに一緒の時間を過ごしてはいないが優しくて面倒見が良いし。新しい家族に恵まれたのは間違いない。それに裕福なのかと聞かれたなら……少なくとも貧しくはないんだろうね?まだ自分の家とセシルの家しか行った事ないけど両家とも部屋のインテリアは質素ではあるが清潔にしてある。
それに食事も結構不自由なく食べさせてもらってる。海が近いせいか肉は滅多に出ないが魚料理はほぼ毎日出るし。元日本人として、更に魚料理好きとしてもコレはありがたい。後はこれで米があればな……さすがに出てくるのはパンだ。それも日本の甘くて柔らかいパンじゃなく硬派な本格パンだ。3歳児にはまだちょっと厳しい固さだな。俺は幼児用にパン粥にしてもらったりオートミール的なものを頂いたりしてる。これ以上の贅沢は求むまいよ。
さて庭に一人で取り残されてしまった俺である。さて、セシルとの遊びが予定外に早く終わってしまったので夕飯にもまだ時間がある。時間を有効活用するために次に何をするかだけど……そうだな、まずは人生の方向性を決めねば。
つまり今後どう生きるか、だ。
幸い恵まれた生活環境の家庭に生まれたのだ。
そんなプランを考える程度の余裕が、今の俺にはある。
前世でよっぽど徳を積んだのかな?あんまり記憶にないけどな。それとも前前世で聖人だったのかな?そうだとしたら前世も幸せではあったが……出来れば結婚くらいはさせて欲しかった。
時を戻そう、いや話を戻そう。恵まれた現在の状況ではあるけどやっぱ出来ることなら日本に帰りたいよな……だって日本は飯も美味いし娯楽もふんだんにある。何より家族と友が居た。プラモやゲームの貴重なコレクションやハードディスク内を含めここには書けないような秘蔵のコレクションもあった。時間の経過がどうなってるか分からんが帰れるものなら……やっぱり日本に帰りたい。
これが異世界転移なら可能かもしれない。
来られたなら戻るのも多分アリな筈だ。
理論的でもなんでもない楽観的観測だが。
ただ、俺の場合死んでるんだよな。死んでから、この世界に生まれ変わってる。ここが本当に異世界だとして、この世界の住人になってるってことだ。死んだことで日本というか地球というか向こうの世界と縁が切れた……ような気がする。行けないとも断言は出来ないが行けないのが当然という気がする。
理論的でもなんでもない悲観的観測だが。
そもそも手段も条件も可能かどうかすらわからんのだし、もしここが地球だったとしても3歳児に異国行きは難題だ。とりあえず日本帰還は保留だな。そうなると……ざっくりとした俺の人生プランは幸せに生きて思う存分長生きして満足の中に死ぬ、もの凄く大雑把だけど当面はコレでいこう。いや、当たり前やんと言う勿れ。
誰しもが望む当たり前の話ではあるけれどさ、前世では出来てないんだからね?前世の死に様なんてトラウマになっとるわ。二度と死にたくねぇよ。
いつか何処かで誰かが言ってたな。
『命はね、大事に使えば死ぬまで使えるんだよ』
本当、そう思うよ。
命は大事にしよう。
今度は長生きしよう。
長寿で後悔の少ない人生が良いよね。
前世も幸せだったが、アレやっときゃ良かったコレしなきゃ良かった事はある。特にやっておけば良かったはダメだ。やらかした後悔は時と共に薄れていくが、やっておけばの後悔は時が経つにつれて凝り固まる。せっかくのリスタートなんだから有効に活用しよう。
さて、幸せになるためにも今度の人生はどう生きようかな~。まだ情報が少なすぎて具体的に将来○○○になろう!とか決断も出来ないなぁ。4番目に生まれた三男坊が家の跡継ぎってのも少し無理があるだろうし。歯科技工士の技術が残ってるなら細工師なんてのもあるかもな。
とりあえず情報収集しながら、ステータスは見えないけども文武両道にパラメーターを上げて色々な選択肢を増やそうじゃないの。ゴールデンエイジもこれからなんだ、一流アスリートだって夢じゃないかもしれん。強くてニューゲーム、とまではいかなくても知識は大人のまま子供になるってこれはこれで最高じゃないか。
人生はね、大体の事は頑張った方が楽しい。
うん、ちょっと燃えてきたぞ。
よぉし、やるか。
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
是非とも感想、レビュー、ブクマ、評価、頂ければこれに勝る幸せは御座いません
(人>ω•*)お願いします。