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18 知らない人が聞いたら、まさかと思うじゃないですか


「なぁ、1000年さん。君の男性ホルモンと女性ホルモンは本当にどうなってるの?」

「誰が1000年さんだよ。ボクはそんな名前じゃないし、その男性ナントカや女性ナントカ……ニホンの言葉で言われてもさっぱり意味がわからないんだってば」


 確かにその通りだ。だが、16歳になっても相変わらず美少女にしか見えないセシルを目の前にしてこう思った俺も、そんなに間違ってないと思うんだよなぁ。なんでこの子はヒゲやスネ毛が生えないの?これも異世界だからなのか?だとしたら……素晴らしいぞ異世界。御褒美にお小遣いをあげたいくらいだ。実に良い仕事をするじゃないか。今後もこの調子でお願いしたいです。


「それよりさ、本当に卒業したら冒険者になって旅立つつもりなの?」

「今更何を言ってるんだ!俺は、あの人の封印を解きたいんだよ。この世界のどこにヒントがあるかもわかんないけど、じっとしてるだけなんて御免被るよ」




 現在。


 俺達は3人とも16歳、既に学校での最終学年になったよ。世間的には学生兼騎士見習いってとこです。騎士コースの殆どのみんなはこのまま従騎士として本格的に騎士への道を歩むことになる。つまりレスリー兄さんルートだ。

 

「僕も2人に付いていきたいんだけどなぁ……」


 クリスは卒業したら王都へ行くことになった。元々健康に不安があったからこの街に療養に来ていたんだけど、この10年で健康面での不安は無くなったからね。そもそも彼は第3王子ですから十分、王位継承もありうるし、こんな風に田舎でフラフラしてて良い身分じゃないのです。それでなくてもケーキを買ってこいとか、紅茶の茶葉を持ってこいとか王子をパシリにしちゃダメなんだよ、本来。そして健康になった第3王子は王都の……日本で言う大学に相当する学園に通わされるらしい。

 腕っぷしだけでも生きていけそうな世界で勉強尽くしだなんて地獄だよな。俺なら聞いただけでうんざりだけど本人は涼しい顔で、その黄金色の髪をかき上げてやがる。なに、その気障な仕草。熱でもあんの?頭が痛いの?どっちかっつーと見てる俺の頭が痛くなりそうだよ。

 クリスも……更に背が大きくなったんだよなぁ。綺麗な髪や顔だけじゃなくて脚が長いんだよな。なんかずるくない?ずるいよね?意味もなく蹴りたくなるわぁ。蹴りたい背中、ってコイツの背中の事なのかもしれないな。


「なぁ……なんか封印を解く方法、知らない?王家秘伝の方法とかないかなぁ?」

「そんなの、聞いたこともないよ。御祖父様に聞いてみたらどうだ?」

「あの人に聞きたくないから、お前に聞いてるんだろぉ~……」

「ボクが聞いてあげようか?後でお爺ちゃんとこ行く予定だし。なんてったって賢狼様だよ、何か知ってそうじゃない」


 セシルはセシルで、いつまでもパパ活を続けやがって。もはや案件じゃないのか。法の整備が待たれる。あの爺さんのどこがそんなに面白いんだと思うけど、これは嫉妬なんでしょうか。


「それさぁ……アレクは前からよく封印の話をしてるけど、そもそも封印ってなんの封印?」

「んん?何を今更……だからルーさんの封印だよ。あの人はあの迷宮(ダンジョン)に封印されていて外に出られないんだよ。外に出るには封印を解除しなきゃダメなんだ」

「はぁ?お前…!そんな大事なこと、もっと早く言えよ!僕は先生はダンジョンマスターだから、あそこから出ないものだとばっかり……」

「あれ、クリスには言ってなかったっけ?ごめん……そういうわけで封印に詳しい人、居ないかなぁ?」


 そう言うと、クリスは目を閉じて集中しだした。コイツが考え事をする時のクセと言っていい。頼むぞ、クリス脳。素敵な案を出してくれ!


「う~ん……………やっぱり御祖父様に聞いてみよう?アレクが昔、僕に言ったんだよ。御祖父様が知らなかったとしても、知ってる人を知ってるかもしれないじゃないか」

「そうだけど……でもやっぱり気が重いなぁ。未だに苦手なんだよなぁ御老公は…」

「先生の封印を解くのと、その苦手とどっちを取るんだい?」


 ……ぐぬぬ。言うねぇ第3王子。ああ、確かに如何な苦難であろうとも選択の余地など無かったんだった。ルーさんの為には不惜身命だ。やるさ!やってやるさ!













「珍しいな、アレクシスが俺に顔を見せるのは。社交儀礼の授業以外ではここに近寄らんのに」

「御尊顔を拝し奉り光栄の極みに存じます…」

「口上は良いけど、その嫌そうな顔を止めろって言っただろうが。だから宮廷作法の成績が悪いんだぞ、お前は。どうした?また俺に喧嘩を売りにきたのか?」

「知らない人が聞いたら、まさかと思うじゃないですか」

「知ってる人が聞いたら、またかと思うだろうよ」


 チッ……上手いこと言うんじゃないよ。


 ああ、相手がアナタじゃなけりゃなぁ。嫌いじゃない。俺は決してこの爺さんが嫌いなわけじゃないけど、何というか天敵感があるんだよね。雰囲気が。もう雰囲気がダメなんだわ。まさに苦手。厳しいことで有名だった学校の先生に会うような感じだろうか。なんでこのジジイはこんなんなんだよ!………でも今日はそうも言ってられない。

 社交儀礼の授業では植物になった気持ちで大人しくしているんだけど、嫌々やってる感が滲み出てるようだった。俺もそれは、なんとなく自覚してる。俺も講師が御老公じゃなかったら、もう少し前向きに、ちゃんと素直に授業を受けるのになぁ。そんな俺の代わりにワレン君が社交儀礼の授業では無双。完璧。俺へ対するあのドヤ顔ったら。毎回授業後にはツヤツヤになってたわ。いや、そんなことはどうでもいい。


 時を戻そう、いや話を元に戻そう。


「陛下にお伺いしたいことがございます。とある場所の封印を解きたいんですが……お知恵を拝借したく推参しました」

「ボクからもお願いします、お爺ちゃん」

「セシルに言われちゃ断れんなぁ。さて封印を解く、なぁ……。アレクシスよ、よく考えてみろ。封印てのは普通は手紙など開封されてないことを証明するものがそうだが、簡単に解けるものなんだ」


 まぁ……確かに一番良く見る封印は手紙でしょうね。

 ゲームや映画みたいな伝説の封印なんて、そうそう身の回りにはないよ。


「お前の言う封印はそうじゃないんだろう?おそらく……物か場所だか知らんが、ソレを二度と使えない様に施してあるもので、そういう場合では解く方法なんぞ無いのが普通だ」

「方法は……無い…?」

「持て余したものは廃棄してしまえば済む話だが、そうも出来ない物、場所を封印する訳だ。それを解く方法なんて用意する意味がないだろ」

「いや、でも!ではどうすれば?なんとしてでも解放したいのです」

「例外もあるだろうが………基本的には封印っての解くものじゃない。破壊するものだ。もし鍵や解除方法があるなら、そりゃ封印じゃなく厳重な保管だろうよ」

「破壊…封印を、破壊する……」


 なるほど。ただのロリコンスケベ爺じゃなかったんだな。少しは知識のあるロリコンスケベ爺だわ。ええ、ロリコンスケベの評価は今後何があっても揺らぎませんよ。


「でも具体的には、何を破壊したらいいんでしょう?」

「そりゃ俺にもわからんよ。現物を見てないしな。とある場所ってどこのことだ?この街でそんな封印なんて俺でも聞いたことがないんだが」

「お爺ちゃん、神殿の地下の迷宮(ダンジョン)の封印を解きたいの。その迷宮(ダンジョン)の中のダンジョンマスターを助け出したいんです」


 途端に御老公から好々爺の笑みが消えて、久しぶりに賢狼の顔を見せた。俺が苦手……というか一番怖い顔だ。なんか深層心理まで見抜かれてそうで……ジジイめ、なんかスキルでも使ってるんじゃねぇの?


迷宮(ダンジョン)だと?この街にか。有史以来、この街に迷宮(ダンジョン)は無いはずだが」


 ありゃ。言わないほうが良かったかな?セシルが不安そうに俺を見る。大丈夫だ、俺達如きの秘密なんてセシルが言わなくても、どーせすぐ丸裸にされるよ。こんな…本当にどうしようもないロリコンスケベ爺で、忌々しいクソジジイであろうとも、ちゃんと王をやってたみたいだし。


「俺が子供の頃に神殿の地下で見つけたんです。問題ありましたかね…?」

「ん?う~ん…迷宮(ダンジョン)てのは基本的に冒険者ギルドの管理下に置かれてるからな。危険な面もあるが有益でもあるし。普通は新規の迷宮(ダンジョン)が発見されたとしたら冒険者ギルドに話がいって可能な限り探索して問題がなければ、そのまま管理されるんだが…」

「俺にとって、いや俺達にとって大切なのはダンジョンマスターだけです。その人を解放出来るなら迷宮(ダンジョン)は冒険者ギルドでも国でも、誰が管理してもらって構いません!」

「クリス、お前もその迷宮(ダンジョン)のことは知っているのか?入ったことは?」

「はい、もう何年も通っています。全く危険はありませんよ?」

「それはお前が判断することではない……………そうだな、俺が懇意にしてる冒険者を派遣してもらおう。そいつに迷宮(ダンジョン)を探索して、ついでにその封印とやらも調査してもらうか。そのダンジョンマスターは……人、なのか?会話や交渉は出来る相手か?」

「リュシオール先生は優しいし信頼できる方ですよ。以前、御祖父様の入れ歯の作製にも多大な協力を頂きました」

「それも思惑があってなのかもしれん。ああ、別に疑っている訳じゃないぞ。そういう可能性も忘れてはいかんという話だ。特にクリス、お前はそういう判断が出来なくてはならん。為政者は特にな」


 これも御老公が正しい。確かに正論なんだろうさ。でも御老公はダンジョンマスターであるルーさんを知らないが、俺達は……俺は知っている。あの人がそんなことするはずがないのを知っている。


 俺ならするかもしれない。

 でもあの人なら、しない。

 俺は自分より、あの人を信頼しているからね。

 だから、正論であっても看過できない。


「逆にその冒険者は信頼出来る方なんですか?もし、そのダンジョンマスターを害するようならば……例えアナタを敵に回すことがあったとしても、俺は戦いますよ」


 これは嘘じゃない。例えこの国が敵に回っても………絶対無いとわかってはいるがセシルやクリスが敵に回っても、だ。 俺の人生は、前前世以来全てあの人の為にあるのだから。


「アレク!……言いすぎ」

「お前な…もう小僧じゃないんだから余計なことは思ったとしても言うな。世の中ではな、嘘がつけないのは決して長所ではないぞ。俺はお前を知ってるからまだいいが、他の貴族に同じようにすれば本当に首が飛ぶぞ」


 ごもっとも。


 悔しいが、これも全くその通りだ。嘘をつかない嘘をつけない、っていうのは多くの場合、美点じゃない。要するに優しさが足りないってことだ。嘘つきになりたくない自分が一番かわいいってだけのことなんだよ。最優先するべきなのは俺の考えや感情じゃなかったのに。


 ……お言葉、かたじけのうございます。これは間違いなく俺が悪いから素直に御老公に頭を下げた。すみません、ごめんなさい。


「そうか、ダンジョンマスターは女か。しかも……惚れているのか。お前、セシルを泣かせたらタダじゃおかんぞ」


 もうバレてるー!なんでだろう?

 俺ってそんなに単純?

 そんなにわかりやすいのかな?











            ◇◆◇




 







『そういうことで、迷宮(ダンジョン)に詳しいというベテランの冒険者が来てくれることになりました』


 私は魔神ではあるが、全知全能には程遠い存在だ。1000年を超えて生きていることにはなるが人生の95%以上はこの迷宮(ダンジョン)の中で過ごしている。むしろ無知と言ったほうがいい。ベテランと呼ばれる者の知識には、大いに期待したい。


『そうか。それはいつ頃になるんだって?』

『向こうの相手の都合もありますからね、おそらくは1~2ヶ月先じゃないかと言ってました』

『それにしても封印を破壊する、か……とは言っても何を破壊すれば良いものやら』

『あんまり……というか何も無いですもんね、この迷宮(ダンジョン)。あれはどうですか?ダンジョンコア。破壊したら迷宮自体が崩壊したりする、アレ』

『あるにはあるが……ダンジョンコアも再生するんだ。この迷宮(ダンジョン)では』

『マジすか。この迷宮(ダンジョン)って破壊不可なの?そんなんアリ?』

『私も最初はここを脱出しようと、色々試みたからね』

『確かに封印が内部から破壊出来ちゃ意味ないですもんね。ということは外部にあるのか…?』

『外部では私には手も足も出ないな……君に期待するとしよう。頼んだよ、私の勇者様』

『勇者って柄でもないですけどね』






 そんなこと無いよ。

 君は本当に勇気がある。

 少なくとも、誰よりも臆病な私に比べれば。


 私はもう長い間アレクが封印の話題について触れてくれなくなったので正直、忘れてしまったのかと思っていた。でも私から言い出すのは怖かったんだ。


 ごめんね、アレク。


 私はね、君が思うよりずっと、弱くて臆病で我儘なんだよ。君には誰よりも何よりも、感謝しきれないくらい感謝している。もうこれ以上を望むのが罰当たりなくらいに。


 でも、淋しいよ淋しいんだよ。

 もっと君と一緒に居たいんだよ。

 ずっと君と一緒に居たいんだよ。


 しかし、もし私がこの淋しさを言葉にしてしまっては前前世の君の命を犠牲にしてくれた行いを、今も毎日にように逢いに来てくれる君の想いを、穢してしまうことになる。


 それだけは絶対にしてはいけない。それをしてしまっては……私はもう、私を許せない。私よ、冷静であれ。気丈に振舞うのだ。焦燥感が胸のうちから溢れ出しそうだ……私はどこまで頑張れるだろうか。本当は今すぐしゃがみこんで泣き出したいくらいなんだよ。


 「封印を解く方法は知らないけど、知ってる人を知っていたら済む話なんだ。だから冒険者になって世界を回って封印を解く方法を探してくるよ。ちょっと待たせるかもしれないけど、ごめんね」


 そういって申し訳なさそうに君は謝るけど。

 どうして……君が謝るのかな。

 私の封印のこと、覚えてくれていたんだ。

 それだけで私は嬉しかったんだよ。

 まさに夢見心地だった。

 私の大好きな人は、私の痛みを覚えていてくれた。


 そして冒険者になるって言い出したこと。

 あれは私の為だったんだ……!

 君は私の為に人生を決めてくれたんだね。

 天から…神界から降りてきた私だけど、嬉しくて天にも昇りそうだよ。


 ダメだ…我ながら、私って単純だ。チョロい。

 もしかしたら、私は今が幸せの絶頂なのかもしれない。

 あー、顔が真っ赤になりそう。

 嬉しくて嬉しくて、顔が笑ってしまうのを我慢出来ない…!

 ちゃんと仕事してね、無表情(ポーカーフェイス)

 まさか政治や交渉の場以外でこのスキルが役立つ日が来るとは…。


  例えドラゴンの王であろうと伝説の神獣であろうと、私の前に立ちはだかるモノと戦うというであれば全てを灰塵に帰す自信があるけれど……もう私はアレクが相手なら勝てそうにないね。この世界でただ一人の私の天敵だ。


 彼はこの10年近い修行で大きく力を伸ばした。当の本人がどう感じているかは知らないけれど、人間としては破格の強さになりつつある。私の想像をも遥かに超えて等比級数的に成長した。良き友に恵まれ可愛いパートナーも居て(……同性だけど)、いわゆるリア充だよね。



 私はこんなにも淋しい思いをしているというのに……そして君の一言、君の一挙手一投足で一喜一憂しているというのに。ずるい。私も君と一緒が良いのに!


 そう思うとアレクには何の落ち度もないけど、お仕置きをプラス1しちゃおう。知ってた?アレク………私はね、我儘なんだよ。たまの八つ当たりごと、私の全てを受け止めて欲しいな。



拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。

この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!

是非とも感想、レビュー、ブックマーク、評価を頂ければこれに勝る幸せは御座いません(人>ω•*)お願いします。


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