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113 観の目強く、見の目弱く

 


「あの、副団長殿。我々はどの順番で戦うのでしょうか?」


 コソコソっと移動して、エリック副団長殿に直談判してみた。あのね、忘れていませんか、俺達のこと。ここにいるよ。そばにいるね。


「ああ?あのなぁ、貴様達が相手だろうとラウルシュタイン側は手加減などしてくれんのだぞ。我ら第一騎士団の精鋭でも苦戦しておるというのに、貴様達如きでは五体無事のまま帰ることも保証出来ん。貴様達は見習いと言うことにしてあるから、大人しく見学していろ」


 顔が怖いが、やっぱりこの副団長は良い人だと思うんだ。多分。言い方はさておき、ですが。

 どこの誰だかわからない小僧と小娘を出すのを恥と思ったのかもしれない。やろうと思えば俺達を捨て駒にすることくらいは出来ただろうに、出さないんだって。それに逆らってまで出してください!と訴えるほど俺はやる気がある方じゃないのでね。内心、ラッキー♪と思ってるよ。ちなみに副団長、俺の隣に居るのは小娘じゃないですよ!こっちも小僧だよ!




「俺達は戦わなくていいんだってさ」

「えー……楽しみにしてたのにー」


 セシルの元に戻って、副団長の言葉を伝えると戦乙女(ヴァルキリー)は不満そうだった。本当に血の気が多いよね、お前は。そんな不満にほっぺを膨らませているセシルをよそに、訓練所中央ではユーゴさんが激戦を繰り広げていた。算数で計算するなら、あの2人目を倒すのはルシアス側の8人目のはずなのに。

 だけど6人目のユーゴさんは、互角以上の戦いを繰り広げていた。すげぇ!そんなに女の子を紹介して欲しかったのか…!必死だ。ユーゴさんだけ気迫が違う。その気迫が相手との腕の差をカバーしているのだろうか。

 そして、相手はユーゴさんが3人目の対戦相手となる。流石に多少の疲労もあるのだろう、これは…ユーゴさんが押しているんじゃないか?そんなにか。そんなに女の子を紹介して欲しいのか。騎士ってモテそうなのになぁ。騎士がモテるのを基本とするならば、やはりユーゴさんに問題があるのか……あるんだろうなぁ。いや、間違いなくある。あることを俺は知っている。


「おおおおオオおおぉ!!!」


 普段のユーゴさんからは想像出来ないような怒声と気迫と共にラウルシュタイン2人目の騎士の胴を打った。マジか!本当に勝ちやがった!あの野郎、どんだけ女の子を紹介して欲しいんだよ!

 意地を見せたのか、それとも見せたのはスケベ根性なのか……多分後者の方だよね。見事な金星を上げたユーゴさんは勢いに乗ってラウルシュタインの3人目相手にも善戦した。再び格上相手に拮抗して長い時間打ち合っていた……が最後には力尽きた。残念、無念。

 このラウルシュタイン側の3人目は、なんとかユーゴさんに勝ったには勝ったけど、もう既に疲労困憊の様子でユーゴさんの次に出てきた7人目の騎士にあっさりと倒された。これはユーゴさんが実質2人倒したと言っても過言じゃないんじゃない?過言か、そうか。


「凄かったですよ、ユーゴさん。見直しました!」

「……今まで俺をどう思ってやがったんだ、お前は」


 それは聞かない方が良いんじゃないですかね。


 その間にも模擬戦は進む。我が国側は……うん、頑張ったんだろうね。結果的にはラウルシュタイン側の4人目の騎士が最後まで戦い抜いた。いやぁ、本当にお強い。当然の結果としてラウルシュタイン側の勝利だ。もう圧勝だよね。


 え?アレと俺達が戦ったら?

 あの、お強い騎士達と?

 

 クリスの視察はどうでも良いけど……師匠が見てるんだぜ?

 もし、戦うと言うならば無様な戦いは出来まいて。




「残りは37人、か」


 セシルと半分ずつにするなら、一人当たり18人かな。そりゃ滅茶苦茶な数字だよ。その半分だったとしても大変そうだ。


 でもどうですか、副団長殿。

 俺達にやらせてみませんか。


「バカ野郎、これ以上殿下の前で恥を晒せるか!」


 ……バカって言う奴がバカなんですよ。これ以上の恥はもう無いと思うけどな。ユーゴさんがカッコ良いとこ見せてくれたから、俺もちょっとだけ熱くなったみたいだ。ええ、だからって副団長殿には逆らいませんよ。逆らう理由も無い。俺は協調性が高い自信があるの。和をもって貴しとなす。言われたことには従って大人しくしていよう。

 最後に再び、全員でクリスに敬礼。ほとんど全員が見てただけで終わったラウルシュタイン第三騎士団はそのまま整然と退場した。


 一方のルシアス王国側は全員がボロボロだ。

 先輩方、ドンマイっ!

 おかげ様で、結果的に楽な仕事でした。



 視察していたクリストファー殿下からエリック副団長、そして騎士団の面々に労いの言葉をかけている。特にユーゴさんは名指しで褒められていた。本日の敢闘賞だね。女の子を紹介するだけであれだけ出来るなら、結婚相手を紹介出来たら空でも飛んでくれるかもな。クリスの締めのトークも終わったし、さぁ!帰ろう、と思ったら。


「アレクシス、セシルの両名はそこに残れ」


 クリスが上の観覧席から命令してきた。

 えー、ここに?残るの?嫌な予感がする。


 そしてルシアス王国第一騎士団の連中も退場して俺とセシルだけが残された。何だろう……前世から居残りって嫌な思い出しか無いんだよなぁ。今日は怒られる理由はないよね?だって戦ってないし。何にもしてないんだもん………もしかして何もしなかったことで怒られるパターンか?それはでも!俺達は出番がもらえなかっただけなのに!

 昔から様々な理由で怒られ続けているから疑心暗鬼になってしまうよね。ドキドキしながらセシルと2人で待機していると、クリス達が訓練場内に降りてきた。クリスだけじゃない、ルーも居るしクロードも……賢者達どころかクゥムまで居る。クリスの近衛騎士隊全員集合ですね。


「せっかくの訓練場だからね。この帝都についてからあんまり時間も無かったし、今日はしっかり身体を動かしておこうよ」

 

 良かった。てっきり怒られるのかと思ってからほっとした。怒られる理由……バレてないだけで身に覚えはあるからね。本当に良かった。


「2人とも、さっきは戦えなくて消化不良でしょう?私が相手するから思う存分かかってきなさい」


 全然すっきり消化していますよ、本日も快便だ。わかってるよ、そう言うことじゃない。俺達に拒否なんて選択肢、ある訳ないのだ。


「ディア、クレア、ティナはクロードに見てもらいなさい」


 生徒が増えたが先生も増えた。

 クロードが加わったのは偶然だけどタイミングが良かったね。


「ママ~、アタシは何したらいいの?」


 もうクゥムにとってルーはママで刷り込まれてしまった。ママじゃないんだよ、と言ってもあんな小さな子に「ママはママじゃないの……?」って涙目で言われたら、誰も勝てない。


「クゥムは……怪我しないように皆を応援しててね」

「はいっ!」


 適材適所だ。


 そして俺達は、俺とクリスとセシルのいつもの3人で魔神に挑むよ。あ、今は魔神が2人居るんだった。かわいい方の魔神だ。まぁ……一部にはクロードの方がかわいいと言い出すようなクマ系のお兄さん達もいるかもしれないしね。何と言っても世界は広いから。

 さて。我が隊にはクロードと聖女ティナという、死人でも生き返らせそうな治癒魔法使い2人が仲間に加わった。それはつまり、ルーの攻撃の激化を意味していてね……今まではそれなりに手加減してくれていたのよ、当然ながら。なるべく怪我しないギリギリ程度で抑えてくれていたの。その手加減のレベルが先日から即死しないギリギリ程度まで一気に引き上げられた。


「さぁ、覚悟は出来た?」


 その魅了するような妖艶な笑顔。凄絶な美しさと同時に久しぶりに、立っているだけで背筋が寒くなる感覚も思い出した。おいおい、ここは不死の迷宮じゃないんだぞぉ……覚悟?さっき急に腹痛です!って早退しちゃったよ。もう有給休暇は残ってないのに必死だよな。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇










 魔神の辞書には『容赦』という単語は載ってない。俺は載せて欲しいんだけど毎回、編集長が却下するのですよ。今日も口から魂が出るレベルにまでボコボコにされて、ようやく解放された。

 俺達もガールズも迷宮(ダンジョン)で修行して腕を上げたつもりだったんだけど……また振り出しに戻る、なのか。


「君達は一年前と比べて何倍も強くなっているんだよ」


 クロードと聖女ティナに治癒してもらっている俺達に、ルーはそう言って慰めてくれるけど……一億と比べて100が300になったとて、それは誤差の範囲よな。いや、追い上げてる追い上げてる。その差、残り僅か99999700だよ。ここはポジティブシンキングやで。

 スパルタ王レオニダスは300人で100万のペルシア軍に立ち向かったそうだしな。……あ、100万じゃなく一億って言っちゃってたか。しかもスパルタ王って負けてるし。


 剣聖達もクロードに散々に揉まれたようだったけど大きな怪我は無さそう。クロードは基本的に女性に優しいからね。………これが男相手ならどうなんだろうな?そういえばセシルは前にクロードと手合わせしたんだよね?ガールズも全員経験済みのはずだ。クリスは……コイツも未経験な筈だよね。俺もまだ未経験なんだよ。どどどどど童貞ちゃうわ!


 確かに、ルーは相変わらず遥かな高みに居る。


 この妹に追いつく為には……この兄の協力が必要なのかもな。男子三日会わざれば刮目してみよ。何かのきっかけがあれば俺達だって化けるかもよ?努力は割とやってる方だと思うし。そうじゃなくても俺達だけ仲間外れってのも嫌だよな。もちろん負けるのも嫌だけど。それでも男の子ならやるべきだろう?俺達は挑む者なのだ。





「さて、と。身体は治してもらったし、まだ時間はあるみたいだし……俺はやるけど、クリスはどうする?」

「足を引っ張んなよ」


 うるせえな。お前の足は長いし掴まりやすそうだろうが。それに更に伸びるかもしれないだろ。その時は俺に感謝しろ。あ、俺の足はもう十分に長いから引っ張んなよ。さぁ、いこうか。


「クロード、ちょっと胸を貸してもらえるかな?」

「アレクシス、あなたが望むなら何度でも」


 男だけど、この爽やかな笑顔にはキュンとしちゃうね。魔神に何度も挑めるほどの余裕が今の俺達にあるのかな。そんなことを考える余裕も要らないか。




「いざ、勝負」


 ついさっき、3人がかりで妹の方に臨死体験させられたばかりなのに。その妹と互角と言う兄に、たった2人で挑むだなんてな。無謀だよな。でも少し心躍るんだよ。やっぱりバカだからなのかな。


 槍使いの俺はクロードの左側に回って、剣のクリスは右に展開。クロードは盾持ちでもあるし、更に強者なので最初は受けて立ってくれるようだ。だったら……初手は魔法だ。


「《氷柱陣》」


 クロードの足元から氷柱が林立する。俺は詠唱の必要が無いしルーと比較しても威力はさておき魔法の出が早い。クロードと言えど、そう簡単には避けられないはずだ。こんなのダメージなんて期待してないよ。ただ、クロードの動きを少しでも封じたいだけだ。ほんの少しでも足止め出来たら、今度はクリスの番だぞ。


「―…―《極灼炎砲》」


 クリスの手加減無しの最大火力。

 やったか!?と言いたいけど我慢我慢。

 どうせ効いてない。


 だから俺達は手も足も止めない。一気にクロードとの距離を詰めて、全力最速での突き。なんだか必殺技が欲しくなる瞬間だ。俺の突きとほぼ同時にクリスも聖剣で斬りかかる。

 連撃ってのは、相手を確実に仕留めるように一発一発に殺意をもって放つものだそうだ。えぇ、クロード相手に殺意なんて…………いや時々殺意を抱いているわ、色々と女の子絡みで。それを思い出すと確かに放つ攻撃の鋭さが増す気がする。しかし、その殺意を込めた連撃はクリスの剣を含めても全て避けられている。中距離の俺と近距離のクリスの同時攻撃をこうも見事に避けるかね。たまに避けきれない攻撃は、槍や剣の側面を弾いて躱している。なるほどな、こうやって戦ってみるとやっぱりクロードも魔神なんだと痛感するよ。本来はクロードのこの動きは攻防一体なんだろうね。避ける動きが、そのまま攻撃の形になって……無駄の無い話だよな。手加減してくれているのかクロードからの攻撃は控えめだ。こういう無駄のない動きも経験なのかねぇ。クロードの方からほとんど打ってこないのは……流石にちょっと悔しいな。とは言え、たまに反撃として、まるで大砲みたいな拳が飛んでくる。確かにクロードの拳は有象無象の剣より何倍も恐ろしい。だからって、ここでクロードから離れてしまっては勝ち目無いぞ。わかってるよな、クリス。



 当たらないなら当たるまで打つ。

 避けられない速さで、もしくは避けられない位置から打つ。

 追いつけ、魔神の速さに。

 集中力が高まってクロードの動きでさえも、ゆっくりに見えてくる。


 「観の目」を強く、「見の目」を弱く、遠い所を近いように見、近い所を遠いように見る……なんて言ったのは宮本武蔵だそうだ。俺、五輪書なんて読んだっけ…?そんな日本の大剣豪の話を異世界の魔神に教えてもらった。わかるようなわからんような話だけど、自分なりの解釈で見てみよう、観の目ってヤツで。俺の場合、勘の目かもしれんね。ただし俺の勘は当たらないんだよなぁ…。


「むっ…!?」


 ほんの少し。


 穂先がクロードの服を掠めた。

 そう、クロードは鎧すら身につけていない。

 不満に思う勿れ、実際俺達の攻撃は彼に殆ど触れてすらいないのだから。


 クロードだけじゃない、クリスの動きも捉えられるようになってきた。次の瞬間クリスが右の逆袈裟斬りを放つ、はずだ。ならばクロードはこう避けるだろうから……その避ける先を突く。ああ、クロードにつられて俺達の速さもドンドン上がってるぞ。


 もう少し…!

 あと少し……!

 ああ、めちゃくちゃ楽しくなってきたコレ!


 あ……余計な雑念が頭に浮かんだ。浮かんでしまった。それと同時に鳩尾に大きな鉄球をぶつけられたようなイメージ。いや、イメージでは貫通してるわ。胴体に大きな穴が出来た……そんな気がした。


「集中が乱れましたな」


 そのクロードの言葉は、全部は俺に聞こえていなかった。後でセシルに聞いたら俺のボディにはクロードの右拳が、そしてクリスには左足の蹴りが鳩尾に刺さっていたそうだ。これで死ななかった俺達に乾杯。完敗に乾杯だ、ちくしょうめ!

 ああ、無念。魔神と戦う度に自分の強さの上限が上がる実感があるけれども、それでもその差が中々縮まらないなぁ。簡単には天に手は届かないってことか。

















「アレクをあんなに強く殴るなんて、お前は死刑だ、死刑」


 腹に大砲を撃ち込まれたような一撃を貰ったけれど、そのお陰でルーの膝枕で休憩することが出来ていた。ああ、最高だ。柔らかくて治癒魔法より癒される〜♪これはこれで嬉しいけれど、クロードと戦う前に貴女に重体の域までズタボロにされた件はノーカンなんですか?久々にワレンに挨拶してきちゃったぜ?

 それでもクロードに治して貰えるのは実にありがたい。今まで以上に不死の迷宮に近いレベルで修行が出来るぞ。……痛いのは嫌だけど、効率は格段に上がる。神殺しに至るにはまだまだ実力が足りないのだ。

 怪我は治して貰えたけど、グッタリと疲れた。今回の旅に出て以来、ちょっと怠けてた……つもりはないけどラウルシュタイン帝国に入国してから動けていなかったからな。少しスッキリした思いだ。


 今夜はよく眠れそう。

 色々と許されるなら、このままルーの膝枕で眠りたい。


次回は20日(水)の更新予定で頑張ってみます。

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