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11 私は一向に構わんッ

 



 ついに俺達の学校生活が始まった。えーっと何年ぶりの学生生活だろう………前世での歯科技工士の専門学校以来だから、もう数十年ぶりの学校だよ。でも実は楽しみと不安では、やや不安の方が優勢。人見知りやコミュ障にとって新学期ってのは気が重いんだ……。新しい友達、出来るだろうか。


 水鏡の儀式を受けた今年7歳になるオルトレットの子供たちは、およそ300人だそうで。つまりそれはだいたいの新入生の人数ですよ。しかしながら貴族は基本的に自宅で勉強するので学校には来ない場合も多いそうだ。金があるってイイよね。これが王都なら王立の貴族学校があるらしいですわ。

 俺はてっきり学校は街にひとつかと思ったら、東西南北で4つの学校に分けられているんだって。そして7歳で入学し15歳まで通うので最上級は9年生。ちなみに俺の姉のエミリーが今年、その最上級生なんです。来年には卒業なんですよ。そうそう、俺達の通う学校の一学年がだいたい70人ちょいで総勢600人強だから俺が日本で通ってた小学校より規模は大きいな。

 想像以上に建物は大きいし立派だが授業内容は日本人の大人からすると寺子屋に近い……寺子屋に通ったことはないからテキトーなこと言ってますけども。

 内容は初歩的だし(それに俺達3人は既に5年生レベルまで予習してる)昼には授業終了する。ちなみに給食は無し。そんなこんなで日本の学校に比べると、かなりささやかではあるけれど、むしろこの文明レベルで庶民も含めて大規模な教育をしてること自体が驚異的なのかもしれない。

 更に王都には大学に相当する王立の学園があって、そこでは結構な高等教育をしてるそうだ。まぁ一次産業が多いこの街で微分積分やってもしょうがないだろうしな。以上、この国の教育についての報告を終わります。


「3人とも同じクラスで良かったね!」

「僕が叔父様にそう頼んだんだよ。アレクとセシルが居ないんじゃ学校に来た意味がないじゃないか」

「……クリス、そういうのはほどほどにしようね」


 普段あまり我侭を言わない子だから、たま~にこういうことを言っても公爵さんもどうにかしちゃうんだろうね。中身がおっさんとしては、この王子も正しく導いてやらなければ…!ええ、常識人の俺が!

 本来貴族は学校には来ない場合が殆どなので、入学式も割と簡素なものだった。予想と違ってクリスが入学生代表として挨拶することもなかったよ。残念ながらテンプレ、ならず。多分だけどね、先生達は王子をお迎えして光栄だ!と思うより困惑してるほうが大きいんじゃないだろうか。碌に用意もしてないのに王族に学校内をウロウロされたら正直言って迷惑だよな。





「御機嫌よう、クリストファー殿下」


 入学式も無事に終わって俺達の教室で待機していると、身なりの良い男の子がクリスに挨拶に来たようだ。右足を引いて左腕をお腹の前にして、まるで映画でみたような貴族の挨拶をしてみせた。少ないとは聞いていたけど、この学校にも居るんだな、貴族。7歳児では逆に滑稽な感じにしか見えないけども。


「ああ、ワレン。ジュリアの誕生会以来だね、久しぶり。君もここに通うのか」

「驚きました。まさか殿下がこのような学校に通われるとは……殿下の慧眼には常々感服しておりますが」

「こいつらが通うからね、紹介するよ。アレクとセシルだ」

「はじめまして、よろしくお願いします」


 ……おい、セシルも声に出して挨拶しろよ。ニコッと笑顔で誤魔化すんじゃありません。お前ね、かわいいだけで世間を渡っていけると思うなよ。たまに渡っていけちゃう人もいますけど。渡るどころが昇りつめちゃう人もいますけども。


「……………では殿下、ご機嫌麗しゅう」


 もはや痛快というべきか。鮮やかに無視されたな。いかにも貴族らしくてむしろホッとするね。例えば、邪魔だ貴様ら!と突っかかって来られたら、それはそれで面白いけど……やっぱり困るわ、面倒臭い。


「彼はワレン・メデリックと言ってね、ジョルジュ・メデリック伯爵の3男だよ。パーティで時々会うんだけど……いつもはもっと愛想がいいのになぁ」


 それはね、その時その場には俺達が居ないからだよ。庶民相手にわざわざ愛想をふりまくような真似する貴族は少ないんじゃないかな。少なくとも彼はそういうタイプではなさそうだ。そして俺とセシルもそんなタイプを相手に愛想をふりまくような真似はしない。だって面倒くさいから。


「ボクは好きじゃないね、あーゆーヤツは」

「良いヤツじゃないか、クリスのためにわざわざ庶民の学校に通ってくださるんだぞ?」

「僕が頼んだわけじゃないよ」


 そりゃそうだろうけども。王子の御学友って響きが欲しかったんじゃないの?もっと仲良くもなりたいだろうしさ。まぁでも俺達には関係ないし知ったこっちゃないわな。


「今更だけど、もうクリスは身体弱くもないし王都の学校へ行ってもよかったんじゃない?」

「ゴホッゴホッ。まだ咳がよく出るし無理じゃないかな。それともアレクは僕が王都へ行ったほうが良かったのか?」

「………いや、一緒が嬉しいんだけどさ」


 わざわざしょうもない小芝居をしてくれる王子は世界中を探しても、そうそう居ないだろうしね。そんな感じでワレン襲来の後も、たわいもない雑談をしていると、俺達の担任の先生がやってきた。


「はい、お待たせ!わたしが君たちの担任のイリナです。これから、よろしくね」

「「「「よろしくおねがいします!!!」」」


 イリナ先生は恰幅の良い、豪快な笑顔のおばさん先生だ。なんか頼もしいね。そして子供たちの挨拶が元気で微笑ましいなぁ。ふとしたことで、おっさん視点が蘇る。いかんいかん、俺はこれから皆んなと一緒に学生生活を送らなきゃいけないんだ。

 ここでの授業の内容は読み書きと算術、簡単な地理や歴史、ちょっとした体育、それと初歩の天文学や極初歩の魔法についてを5年で学ぶ。この5年間は週休3日だ。しかも午前のみ。楽勝だよ。

 その後の4年は言わば専門課程かな。将来の就職に向けての職業訓練の意味合いが強くなる。そして俺達3人は5年生までの勉強はもう予習してあるので、俺達の今後の課題は主に身体作りがメインになるかな。

 俺とセシルはそれだけだが、クリスは色々と帝王学も学ぶことになる。将来どっかの領主になるかもしんないしね。もしかしたら国王になる可能性だってあるのかもしれない。


「というわけで、これからは体力づくりに毎日、海まで行って砂浜をランニングしようかと思うんだ」

「どういうわけなのかさっぱりわからないけど、アレクがそういうならボクもやるよ」

「海か……僕はあんまり行ったことないな」


 砂浜でのランニング、いわゆるビーチランニングは身体への負荷も少ないし非常に効果的だったはずだ。しかも夕飯のおかずも採れるかもしれないしね。

 天気が良ければ彼女と2人で手を繋いで走るのも楽しいだろう………いや、本当に楽しいんだろうか。痛い2人だと思われないだろうか。なんとなくのイメージは浮かぶけど……あーゆうのはどういうタイミングで走り出すんだろう。そしてどういうタイミングで止まるんだろう。2人でハァハァ言って終わりなのか。楽しいの?それ。やったことないからわかんないや。


「クリスは……走ってくるのが難しかったら馬で来るのは?俺達も乗馬の練習をするように言われてるんだ」


 最近になって俺もセシルも仔馬をあてがわれた。騎士の子らしく仔馬を世話して育てて、乗りこなせという事だそうだ。馬に乗ってたらどうかわからんけど、王子様が街中をランニングしてたら色々差しさわりがありそうだよな……大丈夫かな。確実に周りは相当びっくりするだろうよ。庶民の学校に来てるんだから今更かなぁ。一応、普段は王子だけに学校まで馬車で通学してるみたいだよ。


「乗馬か!うん、練習してみるよ。それからセシル、今日もモルガン先生の授業だよ。アレクは今日の昼からは何するんだい?」

「うん、ちょっと色々と教えてくれる師匠が見つかってね。今日も教えてもらってくるよ。そのうち2人にも紹介するよ……紹介出来るかな?うーん、多分出来るんじゃないかな」

「………今日もバカなの?」


 うるさい。こちらにも色々と事情があるんだよ。新しい師匠は……危険人物じゃないと思うんだけど、客観的に見てアレが危険人物じゃなかったら誰が危険なんだ、と言われそうな人なんだもん。

 そりゃね、そんなことないよ!って反論したいけど、日々色んな方法で惨殺されてますからね…俺が。頼りない弁護人で申し訳ありません。ここからなんとか逆転するよ。逆転する裁判シリーズは全部クリアしてるからね!


















『ルーさんはここにずっと居て、普段暇じゃないですか?』


 学校終わりに寄り道をして本日3度目の昇天……というか地獄落ちから戻って、俺は大の字になってダウンしていた。やっぱコレ、全く慣れないわ。この先もずっと慣れないだろう。まだ発狂してない俺、凄い。

 

『暇に決まっているだろう……それでも、お前のお陰でずいぶん退屈が紛れて感謝している。日本の小説やマンガにアニメ、ドラマや映画の情報も頂いたからな』


 俺の魂とリンクした際に前世での俺の記憶全てが彼女にダウンロードされたらしい。そして俺が覚えてないことでも、俺が前世において見聞きしたことの全てが解るそうだ。便利だなオイ。そして意外とインドア趣味を楽しんでいるんですね。ここから出られない以上、インドアになるしかないんだけどさ。


 今は、三谷〇喜作品がマイブームらしい。

 先日も古畑任〇郎がいかにカッコいいか、を力説された。知らんがな。


『読書家だったのは良いが……もう少しアニメ以外も映画を観ておいて欲しかった…!』


 そんなにか。そんなに悔やむところなのか。良いじゃないか、ジャパニーズアニメは面白いんだぞ。ちなみに休憩中は俺の強い希望により鎧は脱いでもらっているよ。だって、せめて休憩中くらいは美少女を見て癒されたいじゃないですか!文句あっか!斬られる覚悟で直訴したら、彼女は案外すんなりと俺の希望を聞いてくれた。それでも、日々俺を殺してる相手だから少し怖いんだよなぁ……。


『すぐにとは言いませんから、俺の友達をここに連れてきても良いですか?』

『クリストファー王子とセシル・ベルナールのことか』

『はい、親友なんです』

『ふむ…まぁ構わんが。私の事をなんと説明する気だ?』

『さて………なんと説明しましょうねぇ…』

『そのテキトーさを見ると、記憶を失っていてもお前はメルヴィルなんだなとつくづく思うよ……はぁ』


 うん、なんというか、その、ごめん。

 魔人に溜息をつかせてしまった。

 どうやら、俺の性格はメルヴィルそのままらしい。


『もうひとつだけ、お願いというか相談いいですか?』

『役に立てるかどうかはわからないが、言ってみろ』

『まだ先の話なんですけどね、俺は将来どんな職業につこうかなと』

『……オリスティのこと、調べてきたか?』

『???はい、モルガン先生に聞きました。およそ1000年前に存在していた王国だと言ってました』

『そうか、あれから1000年も経っていたのか……そしてお前は1000年間ここに閉じこもっていた私に現在のこの国での職業について、聞くのだな?』

『あ、いえ、その、一般論で結構です』

『無理を言うヤツだな。お前も1000年後の世界の一般論、言えるものなら言ってみろ』

『………怒ってます?』

『呆れてはいるよ。そうだ、私をここから出してくれたら何の職業に就こうが食うには困らないぞ。ヒモでもニートでも無職でも、私は一向に構わない。一生お前の面倒をみてやろう』


 何それプロポーズですか。自分で言っておいて、後から意味がわかって耳まで真っ赤になるの止めてください。思ってた以上にかわいい人だなオイ!


『……休憩は終わりだ』


 今日はこの後、4回地獄に落ちた。情け容赦なく落とされた。半分は彼女の照れ隠しじゃないかと思うんだが、こんなにかわいくない照れ隠しでは俺は萌えられない。

 もっと、こう……あるだろう!手と手が触れあって恥じらうとか、ポッとほのかに頬を染める展開とか。俺の血で真っ赤に染めなくていいんだよ。




















「ここを触ってみ。中に入れるから」


 2日後、早速2人を連れてきた。


 2日後はすぐ、だろうか。見解の分かれるところかもしれないが1日空けたからセーフだろ?説明?新しい師匠を紹介するとしか言ってないよ。だって、なんて説明するのさ。メンドクセーじゃん。なんとかなるんじゃない?そして本来は俺しか入れないこの迷宮も、今日は2人も中に入られるようルーさんに入場制限を少し解除して貰ったんだ。流石はダンジョンマスター。


「うわぁああ!!……なに、ここ?」

「大きな声を出すなよクリス……俺がびっくりしたよ」

「ごめん。でもなんだよここ……どうやって入ったんだ?どうやって出れるんだよ!?」

「大丈夫だってば。ここの壁を触ると外に戻るよ」

「アレクは本当に変なことばっかりしてるんだね」

「うるさいぞ。こっちだよ。ルーさん、来ましたよー!」


 いつもの部屋にまで来ると、漆黒のフルプレートアーマーモードのルーさんが屹立していた。……なんだろう、これはこの人にとっての正装なんだろうか。これは歓迎のつもりなんだろうか。だとしたら弟子として間違っていますよと言うべきなんだろうか……非常に悩ましい。


「「ひっ!!」」


 漆黒の鎧を見て2人が小さく悲鳴を上げた。まぁ……確かにウェルカム、という見た目ではないからな。俺も実はまだ、少し怖い。


「クリストファー王子、セシル・ベルナールよ。ようこそ。この迷宮(ダンジョン)のダンジョンマスター、リュシオールだ」

「はじめまして、リュシオール殿。ルシアス王国王子、クリストファー・デュ・ラフォルグです」

「セシル・ドゥ・ベルナールです」


 2人とも礼儀正しくぺこりと頭を下げた。大丈夫、怖いビジュアルをしてるけど、お前達を取って食いはしないはずだ………俺は出会ったあの日、このくらいの時間が経過した頃にはバラバラ死体になってたけど。


「歓迎したいが、生憎ここにはティーセットもないのでね」

「あ、じゃあ良かったら今度お持ちしますよ。好きな茶葉の銘柄はありますか?」

「なっ、本当かっ!?……うむ、茶葉は任せる。いつでも来なさい」


 おいダンジョンマスター……簡単に買収されんなよ。秒で陥落してるじゃん。知らんかった……この人、紅茶好きだったのか。まぁ中身の美少女モードなら、さもありなんという感じだが今は漆黒の野獣モードだからな。


「2人も知っての通りアレクシスにはスキルが無い。その代わりとして、スキルが無くても強くなれるように私が修行をしているんだ」

「そんなこと出来るんですか?あの、信じても大丈夫ですか?」

「セシル、この人はこう見えても信じられる人だよ」

「アレクシス、問われているのは私だ。セシル、会っていきなり私を信じるのは難しいだろうが、君がそうであるように私もアレクシスの絶対の味方だ。これまでもこれから先も、ずっとな」




『………お前、2人になんて説明したんだ』


 日本語で、しかも小声でルーさんがささやいて来た。やっぱりそこは気になりますぅ?なりますよね、でも聞かないて欲しい。


「いや~……ははは」


 殆ど何も言ってないと今更言えない。

 笑って誤魔化しておこう。


『……プラス1だ』


 またお仕置きの回数が増えた。

 解せぬ。


「せっかく来たのだから君達にも稽古をつけてあげよう。クリストファー王子、君は剣を使うのか」

「はい、アレクに言われたので持って来ました!」

「その場で振ってみなさい」


 俺達は練習用の木剣を使っているけれど、王子であるクリスは子供用に短い鉄剣を使っている。その分重いけど身体強化スキル持ちには問題ない。何度か素振りするクリスを見て、ルーさんは2度3度と剣の握り方、構え方について少しずつ修整と助言を行う。

 俺が見ててもさっぱり分からんが明らかに素振りの音が、剣の速さが変化してきた。このわずかな時間で、剣を練習している少年から経験の浅い剣士へと進化したようだ。


「おお…!アレク、この方はすごいぞ!」


 知ってるよ。良い所も意外とかわいい所も、そして想像以上に恐ろしい所もな。最近は日がな一日アニメかドラマか映画を脳内再生して観てることも知ってる。意外と面倒見の良い事は今、知った。


「次はセシル。君は弓を使うのだったね」

「はいっ。お願いします!」


 クリスへの指導を見たせいか、素直だ。セシルが。あのセシルが。どうやって用意したのか知らないが即席の的を壁に置いてセシルに10本ほどの矢で射抜かせてみる。ここは結構広い部屋だが……そうだな、距離はせいぜい20mくらいかな。次いで、クリスにやったと同様に構えの修整と助言しながらの10射。なんか……セシルも急に様になってきた。

 最初は的に当たる矢も何本かあるかな、程度だったのが回を追うごとに精度が上がっていって、最後の10射はその全ての矢がほぼ的の中央に集中した。しかも射るのがずいぶんと早くなったぞ。


「ありがとうございます師匠……!」


 待て、彼女は俺の師匠だよ。信じられん、あのセシルが素直に自らルーさんを師匠と呼んでいる。なんだよ、指導者に向いてないって言う割には2人にはめちゃ的確に教えてるじゃん。指南スキルのせいかもしれないが、2人のハートがっつり掴んでますやん。騙されんな、その人結構ヤンデレ気味なとこあるぞ。あと意外とポンコツだぞ。


「お前にはスキルがないからな。地道にやるしかないだろう」

「……わかってますよ。最後は俺ですね。いつも通りでいいんですか?」

『良いわけないだろう。この子達にお前の死を見せる気か?』

『じゃあどうするんです?』


『死ぬな』


 そのシンプルにして非情な言葉と同時に、普段とさほど変わらない斬撃が頭上から襲い掛かってきた。俺にスキルが無いとしても、もう少し言葉で具体的に教え導いてもいいんじゃないですかね?あのミスターでも擬音で指導してくれるんだけどな?

 この人が本気を出したら、その動きは俺がゾーンに入っていたとしても視認困難だ。それがかろうじてでも見えるってことは、今も確実に手加減はしてくれてるんだが……最近になって少しわかったことがある。

 多分、よく見ちゃダメなんだ。なんと言っていいのか分からないけれど、一点を集中してみるとそれ以外が目に入らなくなる。小手先を見るより全体を見る、って感じだろうか。大剣の、しかもこんな高速の斬撃を受けたら自慢のげいぼるぐⅡごとバッサリだよ。必死に避けて、かわして、大剣の腹の部分に当てて軌道をずらして。こんなの打ち込む余裕なんてありゃしねぇよ。








「なぁ、アレクは……あれで本当にスキルが無いのか?僕ならさっきの右薙ぎで斬られてるよ」

「ボクは最初の袈裟切りで終わりかな……まるで別人みたいに良くなってるね」


 2人がそんなことを言ってるとか俺は知る由もない。無我夢中に必死な俺は、げいぼるぐⅡを弾かれて首元に大剣を突きつけられたところで寸止めされた。これは……今日だけのサービスですか。いや十分に死地を味わいましたが。


「アレク!すごく強くなってるじゃないか!」

「うん、ボクも見直したよ!ちょっとだけカッコよかった」


 そぉお?まっっったく強くなった実感が無いわ。いやマジで。ルーさんに稽古つけてもらい始めて、今日で一ヶ月くらいか。その一か月で何度死んだことか。既に300回は優に超えている。今日はでも、初めて死なずに帰れそうだ。ちょっとラッキーだな。なにか良いことあるかも。


「今日はここまでにしよう。このダンジョンは本来、外部からの立ち入りは禁止にしてあるが君達2人なら、いつでも入ることが出来る様にしておこう……アレクシス。お前は少し残りなさい」


 ヤダ。

 ……もちろん口に出しては言わないけど。

 俺に拒否権がないことくらい知ってるもん。


「じゃあボクらは先に行くよ?また明日ね」


 まだ行かないでぇ~~~俺の命の為に。俺は笑顔で手を振りながらも心の中で叫ぶが、もちろん2人には届かない。そして音も無く2人は神殿に戻っていった。俺の命綱が、今切れた。


『さて、楽しい楽しいプラス1の時間だな』

『あの!そうだ、2人にはリュシオールって呼ばせるんですか』

『そのことか。私の名は最愛の人から贈られた大切な名だ。お前以外には呼んで欲しくないだけだ』


 俺だけが呼んでいいのか、ちょっとキュンとした。急に魔人の意外な乙女部分を見せてきましたよ。いや確かに見た目だけなら美しい乙女でしかないんだけども。普段の行動がさぁ……。


『俺が、メルヴィルが名付け親って……ルーさんは俺の娘になるの?』

『そんな訳あるか!父娘では結婚出来ないだろうが!』


 いや、俺も覚えてないから知りませんよ。

 顔を真っ赤にして怒られても、困る。


『……プラス2だな』


 しまった。時間稼ぎが裏目に出た。

 つくづく後悔は先にも役にも立たないもんだなぁ……。


拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。


この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!


是非とも感想、レビュー、ブクマ、評価を頂ければこれに勝る幸せは御座いません(人>ω•*)お願いします。

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