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109 信じる者は救われる

 


 朝から城を出て、ルーとセシルと共にラウルシュタインの帝都セルトラーナを歩いてみた。今日も天気が良くて気持ちいいな。それにしても、ここは本当に大きな街だな!僅かな時間で確信した、俺1人なら確実に迷子になる。しかし今日は対策として聖女に簡単な地図を描いてもらった。この地図とセシルが居れば、なんとかなるだろう。あ、地図はマッハでセシルに取られました。お前が見ても意味がない!ですって。うん、これには反論出来なかった。完全に論破された。少し泣いた。


「まずは……冒険者ギルド、だな」


 そう何度もテンプレは要らない。俺達も新しい冒険者ギルドに入るたびに火の粉が降りかかって楽しいはずもないのですよ。無事グリフォン素材が売れたら、それだけで良いんだ。そんなに多くを求めてないから。

 そういう訳で俺達は冒険者ギルドを目指して歩いている……んだけど遠いな!街がデカいから距離があるんだね。多分30分くらい歩いて漸く辿り着きましたよ、帝都セルトラーナの冒険者ギルド。こりゃルシアス王国の王都のギルドよりも立派で大きいなぁ。なんか少し悔しい気もするけど、大きければ良いってもんじゃないぞ。こう……硬さとか角度も大事だよね。ナニの話?


 ギルドの大きな扉を開けて中に入ると……中の構造は他所と似たようなものだった。そりゃ多少のレイアウトは違うけど……基本的にやってることは一緒だもんね。少しでもテンプレ回避の為にセシルには深めに帽子を被せたし、ルーには漆黒の鎧を着てもらってる。クゥムはいつも通りだけど……大人しくしてようね。子供連れなんてどうしても目立つけど絡まれるよりマシだろ。






「素材の買取をお願いしたいのですが」


 帝都だけに多くの冒険者がギルド内にひしめいている。それらの間をすり抜けて辿り着いた一番近くのカウンターに居たのは若い男性だった。都会だけに洗練されたカッコいいおにーさんだ。流石は俺、早くもおっさんパラダイス復活だな。全然嬉しくねぇよ。


「はい、何を持ってこられました?」

「グリフォンの素材を。そして結構量があります」


 そう言いながら、俺のC級ギルドカードを提出。頼むぞ、すんなりと買い取ってくれ。量はかなり多い……正確に数えては居ないけど、だいたい30~40体くらいだろうか。


「グリフォンを?君達が?」


 予想通り、全力で不審な顔をされた。まぁな。ガキみたいなC級冒険者がグリフォンの素材を持ってきたなんてジョークかな?と思う気持ちはわかる。この場に王都のギルマスが居たとしたら、既に怒鳴られてるかもしれない。それはそれで理不尽な話だ。


「疑う気持ちはわかりますのでね、奥で現物を確認してください」


 素材買取カウンターは、それなりの大きさがある台になってるけど乗り切らない程の量があれば、奥の倉庫に移動して出す。どこにそんなもん持ってるんだ!と言われそうだけど、この世界には魔法の鞄(マジックバッグ)って便利なものがあるんだよ。現在では失伝したとされる収納魔法が付与された古代文明の遺産。つまりはアイテムボックスだ。おおきなふくろ、と言っても良いかな。俺達の場合は、その失伝された筈の収納魔法を使うので少し事情が違うけどな。


「はぁ……では、こちらからどうぞ」


 そう言いながらも、彼の顔はまるっきり俺を疑っている。不信感丸出し。その気持ちはわかるけど客商売としては如何なものだろうか。若いしまだ経験が浅いのかもしれない。

 奥の倉庫へ向かって全員で並んで進む。グリフォンは俺とルーの収納魔法の中なので、本来ならセシル達まで来る必要は無いんだけど……こいつとクゥムだけを放置したら絶対に何かやらかす。やらかさなくてもトラブルが向こうからダッシュでやって来る。だからトラブル防止の為に奥へ皆んな一緒に行く訳ですわ。今回はテンプレ対策、完璧でしょう?


「じゃあ、出しますよ」


 C級冒険者が寝言をほざきやがって。出せるもんなら出してみろよ……とか言いそうな顔してる。待ってろよ、出してやるからさ。まずは、とりあえずの2体。


「こ、こ、こ、これは……!?」


 鶏か。


「ですから、グリフォン」


 いつもと違って素材の状態は最高、とまではいかない。流石に伝説レベルの幻獣だけあって素材を痛めずに倒すのは無理だった。とりあえず倒すのに全力だったので、俺達もそこまでの余裕が無かったんだよ。それでも今はまだ出してないけど最後の方に倒した個体は割と状態が良いと思うよ。


「だ、誰か!ギルドマスターを呼んできてくださいっ!」


 急に慌ただしくなってきましたよ。だから最初からグリフォンの素材を持ってきたと言ってるのに。そしてそのまま待たされること、10分くらい?

 また王都のギルマスのようなハゲマッチョが来るのかと思ったら……やって来たのはギルマスと呼ぶには若い感じの男性だった。いかにも魔法使い、という感じのローブを纏った……耳の尖った男性。もしかしてエルフなんだろうか。だとしたら、見た目よりずっと年配なのかもしれない。


「これは本当にグリフォン…!?この子達が?」

「彼らは、そう言っていますけど…」


 なんでもいいから早く買い取ってくれ。

 俺達の貴重な休暇が消えていくじゃないか。


「えーと、アレクシス君だったか。んん?」


 やって来たギルマスが熱い眼差しを俺に向けている。もしかして……そういう趣味?好みのタイプだ、とか言い出さないでよ。俺、婚約者が居ますので。居たとしても構わないで食っちまうタイプなのかな?それはそれで困る。


「なるほど、君達がね……わかった。確かに君達ならグリフォンを倒すのも不可能ではないだろうね」

「それはどういう意味ですか?」

「そのままの意味さ。そうだな、少し私の部屋で話そうか」


 なんで。


 俺達は素材を買い取って貰いに来ただけでギルドマスターとお話する理由が無い…………無いんだけど、わざわざギルドと敵対したい訳でもないからね。話そうか、ってのは提案ですか?それとも命令なのかな?

 どちらにしても、だ。普通に考えたらC級冒険者がグリフォンを狩ってきたなんて疑わしい話なのに、俺達なら不可能じゃないとあっさり言い切った理由が気になる。もしかして………鑑定スキル持ちなのかな?


「その前に、手持ちのグリフォンを全部出していいですか?そちらのお兄さんには量があるとお伝えしましたが」

「まだあるのか?すごいな…!解体の必要もあるからね、頼むよ」


 では遠慮なく。帝都の冒険者ギルドの解体所が広くて良かった。ルーと2人で収納していたグリフォンを全部出すとトータルで43体だった。そのうち希少種だろう黒いグリフォンが1体。それらを全部並べると……壮観ですね!これを全部解体するのか……大変ですな!頑張って、ギルドの解体職人達!








「どうやって、あれだけの数を……倒したと言うのも異常だし、あの量が入る魔法の鞄(マジックバッグ)の方も異常だ」


 帝都のギルドマスター、 リヒャルト・フォン・ヒンデスと名乗るエルフは、もう一度信じられん、と繰り返した。信じる者は救われる、ですよ。聖書の言葉はこの世界には伝わってませんか?

 今の俺達はギルドマスターの部屋に移動して、ご丁寧に紅茶を出してもらっている。流石は大都市のギルマスだ、良い香りの紅茶を飲んでますね。

 この世界に流通している魔法の鞄(マジックバッグ)もピンキリらしい。旅行鞄程度のもあれば、馬車数十台分は入るような物もあるんだって。俺とルーは、魔法の鞄(マジックバッグ)を使ってるように見せて収納魔法に納めているだけだからね。しかし、それをこのギルマスに説明する義理は無い。


「それより、何故です?何故、俺達ならグリフォンを倒せると納得してくれたのですか?」

「ああ、それか。説明が必要かな?」


 必要かと言われたら、必ずしもは要らない。素材を買い取って貰えたらそれだけで十分ではある。ただ、もし俺達を鑑定したと言うならば……少々気になる点はあるが。素直にパッと話しなさいよ、めんどくせぇ奴だな。


「お察しの通り、私は鑑定が使える」


 ああ、やっぱり。意外とあっさり言うんですね。聞いといてなんですが、そういうのって黙ってた方が良いんじゃないですか。そりゃ鑑定って、された側から言うなら気分の良い事ではないよ。特に俺の場合、黙っていて欲しい秘密があるのでね。他の人には内緒にしてくださいね。


「その私から見れば、君達がグリフォンを倒すと言うのは容易ではないしても不可能ではない。若いのに素晴らしい強さだね」


 実際、手強かったよ。最初のグリフォンでは俺の自爆とはいえ拳の骨が折れたもん。アレは痛かった…。それにしても俺達のステータスを見た、と言うならルーのステータスで度肝を抜かれて欲しいな。あ、魔神はステータスを偽造してる、とも言ってた。このギルマスからはどう見えているんだろうね。


「不可能ではないのはわかるが……あの尋常じゃない数は私の理解を超えている。一体どうやって?」

「説明が必要ですか?」

「いや、個人的な好奇心だよ」


 この人の鑑定の程度ってどんなものなんだろう。どこまで解るのかな。前に一度、憑依してもらってルーの鑑定を体験したときは頭が痛くなりそうな情報量だった。詳細過ぎて逆にサッパリわからん!てなもんだ。

 このリヒャルトさんの場合はどうだろう。ここまでの会話からすると……ステータスの数値がわかるのはほぼ確実。そして、多分スキルの有無もわかる、と思う。多分。


「心配していただかなくても、この2人はとっくに知ってますよ」


 セシルとクリスにはスキルが無い事を両親の次に教えたよ。


「それは君のスキルのことを、かな?」


 まぁね、隠すほどのものでもない。

 そして、隠すようなものが無いんだよ!

 はいはい、俺なんてどうせスキル無しですよ!


「恥ずかしいんで、人には言わないでくださいね」


 ホント、それだけ。戦略的にどうこうな話じゃないよ。みんなが携帯ゲームを持ってるのに俺だけ持ってないとか、そんな程度の話。或いはみんな自転車移動なのに、必死で走ってついていく昭和の貧乏な家の子みたいな。ああ、やっぱり俺ってかわいそう。


「本当に?いや、私も無闇矢鱈に鑑定してる訳でもないが……それでも初めて見たからね」


 そうなんだ。本当にこの世界の人間は何かしらのスキルを持って生まれてくるんですね。俺の場合は少々複雑で特殊な人生を送ってますので。でも、これでも楽しく幸せに毎日を生きてますよ!ビバ、人生!


「そして…そんな君がグリフォンをどうやって倒したのか。しかもあれほどの数を…」


 そう言われましても……今回は1人で倒した訳でもないしなぁ。今度、どこかでグリフォンに遭遇したらソロに挑戦してみたいね。そのくらい強くなれたらいいね。


「その詳しい説明はしませんが、なんなら実演をしましょうか。手頃な相手を連れてきてくれるなら、俺達の武威を示しますよ」


 こんなの嘘だよ。ハッタリ。なんで素材を売りに来て戦わないといけないんだよ。なんでもかんでも暴力で解決は良くないぞぉ。なんでもいいから俺は早く終わらせて街ブラしたいんだ。


「いや、結構だよ。今はあれほどのグリフォンを倒せるような者の相手を務まる腕利きが居ないんだ」


 ハッタリ成功。たまには強気に出てみるもんですね。内心では、よかったぁあああ!!!よっしゃあああ!!!と思ってるけど、ポーカーフェイスを心掛けよう。読心とかじゃなくステータス鑑定が相手で良かった。一方でクゥムは大人のつまらない話に飽きて、セシルに抱っこされて昼寝してる。子供には退屈な話だったね。


「あれだけの量だと解体にも少し時間が掛かるからね。その間に難易度の高い依頼に取り掛かってもらえると助かるよ」


 うむ、クリスの護衛任務があるから依頼までは無理だな。クロード1人でなんとかやらせてみようか?いや、1人だと危ない。もちろんクロード自身は大丈夫だろうけど、なんとなく、この国が危険に晒される気がする。

 

「善処します。グリフォンの解体はどれくらいかかりますか?それと解体した肉と魔石は売らずに、こちらで引き取っても良いでしょうか?」


 グリフォンの肉は食う予定だ。中々美味しいらしいし。うちの女性陣(セシル含む)は食欲旺盛だから。そして魔石はクゥムの外出の為にも必要だ。


「肉は構わないが、魔石はいくつかでも融通してもらえないかな?グリフォンクラスの魔石なら需要が非常に高いんだ」


 まぁ魔石には不自由してないから、いいか。じゃあ半分は買い取って貰うことにしよう。それでいいですか?


「助かるよ。解体はそうだなぁ……頑張って2日。今日と明日でなんとか終わらせる。明後日以降にもう一度来てくれ」


 無理を言ってすみませんね。

 よろしくお願いします。

 そろそろ、この部屋を辞することにしよう。

 明後日以降に、またお会いしましょう。












◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇











「用事、終了!あとは遊ぶだけだっ!」


 予想通りと言うべきなのか、グリフォン関係の用事を終わらせるのに少し時間がかかった。でも、俺達の休暇はこれからだぜ!


「おなかすいたー」

「ボクもお腹ペコペコだよ」


 セシル&クゥムは、まず美味いモノを食べたいらしい。俺もそれに異論は無い。確か、冒険者ギルドの近くにある美味しい店をクレアから聞いてきたんだ。


「大地の女神亭、だったかな。この辺りにあるらしいから行ってみよう」


 当然、スマホのナビも無いので場所を聞き込み。道行く人々の中でも優しそうな人を探して聞く。例によってセシルがこういうのも得意なんだ。俺がやったら緊張してアワアワ言って不審者として通報されるのがオチなのに。今も幼女を連れて歩いているので通報されないか心配してるくらいですよ。


「ここだ。すみませーん!」


 親切な人々に教えてもらって辿り着いた『大地の女神亭』は街の大衆食堂って感じの小さな、でも小綺麗な店だった。意外だが剣聖もこういう庶民的な店に行くんだな……いや、剣を握らなければ彼女も普通の女の子ってことだろう。剣を握らなくても、あの美貌と巨乳は普通じゃないけどな。


「いらっしゃいませー!」


 女性の声が響いた。


 俺は既にこの世界について訓練されている。ふと入った料理屋でかわいい店員さんが出てきてくれる様な展開は俺には訪れない。もう分かってるんだ。いいんだ、パトラッシュ。僕はもう疲れたよ…。


「大丈夫かい?ここへ座んな」


 その店員さんが席を用意してくれた。逞しそうな肝っ玉母ちゃん、と言った風情の店員さん。


 ほらな。

 誰に言ってるのか分からないけど、ほらな。

 良いんだ、ルーが傍に居てくれるだけで俺の幸せゲージはMAXだから。


 そんな不毛なことを考えているうちに、テーブルには注文した料理が並んでいた。この国の料理の特徴はソーセージ!ジャガイモ!チーズ!と言えばいいのかな。ここまでの旅の途中で出会った街の料理長に教えてもらった事なんだけどね、国が広いだけあって保存性が大事なんだって。新鮮な野菜、というよりはピクルスとかザウアークラウトみたいな漬物も多い。


「「「いただきまーす」」」


 チーズがたっぷりあるのでセシルはそれだけでご機嫌。ジャガイモは蒸してあるのが山となっている。これにチーズやバターをかけて食べると……めちゃくちゃ美味しいな!ソーセージにじゃがバターでビールが欲しくなりますね!昼間なのにな!周りを見ると、昼間からビールを飲んでる連中だって少なくない。でも、ここは我慢だ。

 それにしても中世か近世風ヨーロッパ的な世界なのにジャガイモはあるんだね。確かジャガイモって……トマトもそうだけど南米原産じゃなかったっけ?ここは地球じゃないから、そんなの関係ねぇのかも。オッパッピー。


 しかし、ジャガイモとビールがあるならアレだろ。


「フライドポテトが食いたいな」

「なに?それ」


 街中を歩いていた時に屋台も覗いてみたけどフライドポテトは無かった。油が貴重なんだろうか?


「うん、このイモを細く切って油で揚げた料理だよ。ビールにもめちゃくちゃ合うんだ。病みつきになるぞぉ」


 ビールと聞いてセシルの目の色が変わる。いや、精霊を降ろした訳でもないのに色を変えるな。


「食べたいっ!師匠ぉ、作ってぇ〜!」

「ママっ!アタシも食べたい〜!」


 俺だって食べたいよ。ついでに、あのピロリピロリピロリの音も久しぶりに聴いてみたいわぁ。ジャンクな味って中毒性あるよね。それからクゥム。ママじゃないぞ。まだこの人はママじゃないんだぞ。


「はいはい。今度ね、今度。後で材料を買いに行きましょう」


 だとするとジャガイモを大量に買わないとな。そうだ、種芋も手に入れよう。前にメーヌの迷宮でも一応ジャガイモは手に入れたけどカレーや肉じゃがで全部食べちゃった。大国の首都の市場なら美味しいのが大量に手に入りそうじゃん。ジャガイモがいっぱいあれば……ポテトサラダにハッシュドポテト、肉じゃがにコロッケ。俺の大好きなビシソワーズも。カレーに入れても美味しいけど痛みやすくなるので好みが分かれるところだ。ちなみに俺はカレーには入れない派。でもルーは入れる派。あっ、ポテトチップスも忘れちゃいけない。夢が広がりんぐ!どこの世界であっても買い物って楽しいよね!


「オバちゃん!このイモ、美味しいですねぇ。これはどこの市場へ行けば買えるんですか?」


 美味いものを食わせる店なら市場にも詳しいだろう。そして知らない事は知っている人に聞くべし、である。


「アンタ達、セルトラーナは初めてかい?買い物をしたいならサイーオン市場だよ。なんせ世界一の市場って言われてるんだからね。あそこで手に入らないモノはないよ!」


 大衆食堂のオバちゃんらしく、大きな声で豪快な笑い声と共に教えてくれた。世界一の市場ですか。あのな、オバちゃん。俺達も一応外国との取引も盛んな港街の出身で、今はルシアス王国の首都に住んでるんだぜ?その上、前世では築地市場やアメ横だって行ったことあるし。あ……豊洲新市場は行ってないけど。ちょっとやそっとの市場では驚かないぜ?










 そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。


 半端ねぇ広さ。おそらくは数キロ四方。そしてコロナ前の東京レベルに人が溢れている。既に時刻は昼を過ぎているから、これでもピークは過ぎている筈だろうに……これがサイーオン市場か。俺はルシアス王国とラウルシュタイン帝国しか知らないけど……なるほど、これは確かに世界一なのかもしれない。


「クゥム、迷子にならないように私の手を離さないでね」

「はいっ!ママ!」

「アレクも手を繋いで貰った方が良いんじゃない?迷子になるよ」


 だから。俺は別に方向音痴キャラじゃありませんから。確かに人は多いけどさ、俺がルーを見失う訳が無いでしょうが。バカにするんじゃないよ。










 そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。


 秒で迷子になった。

 嘘、正確には数分。


 だってさ、見たことない品や野菜、フルーツがいっぱい!いや正しく言うなら見たことはあった。この新しい人生、新しい世界でこれまでに見たことがなかったバナナとかマンゴーとかスイカとかがあったんだよ!その味を知ってるだけに衝撃なんですよ。これは……間違いなく米もあるぞ。それだけじゃない、他にも色々な物が手に入りそうだ。


 そんなことを考えながら俺は立ち尽くしていた。

 迷子の鉄則、そこを動くな。

 大丈夫、俺は冷静だ。

 冷静で慎重な大人なのだ。


 冷静に、でもちょっと半泣きになりながら立ち尽くしていると、すぐにセシルに見つけてもらえた。ほらな、迷子は動くな。迷子対策として俺もクゥムと手を繋ぐことのなった。ルーと3人で夫婦みたいでしょ。ほーら、クゥム。ブランコだぞー。


「アレク!あれを見て!大豆があるよっ!」

「なにぃ!?」


 魔神が珍しく大きな声を出していた。


 今まで結構な体験や出来事があったけど、彼女がここまで興奮することは滅多に無かったのに。大豆でそこまで……とも思ったけど、実は俺も大興奮だよ。まさか大豆があろうとは!これも、この世界の言葉で正しく言うならばワイスと呼ばれているらしい。でも大豆ったら大豆だ。確か……うっすらとした記憶だけど地球ではヨーロッパに大豆ってかなり最近に伝わったはず。日本の幕末とかそんな時代じゃなかったかな。まぁ、それはどうでもいいや。大事なのは目の前に大豆があるという事実である。

 大豆があれば……豆腐が出来る。その前段階として豆乳も。豆乳に熱を加えたら湯葉。麹菌なども手に入れたらついに味噌や醤油も作れる!さらに納豆菌があれば納豆も出来ちゃうぞ。あ、モヤシも作れちゃうね。成熟前に採ったら枝豆だ!ビールに枝豆。たまんねぇな、オイ!


「そんなに?そんなにすごいの?この豆」

「セシル、これは日本人には欠かせない存在なんだ」


 店の親父に頼み込んで、ここにあるだけくださいと買い占めた。取り扱いはしてるものの、どうやらそこまで人気の品でもないらしい。バカめバカめ、畑の肉とか大地の黄金とか呼ばれたりするミラクルフードですよ!この世界ではまだ時代が追いついていないようだ。

 おかげさまで、俺とルーはホクホク顔ですよ。いやぁ、この大豆が買えただけでもラウルシュタイン帝国に来た甲斐があったな。満足感がハンパない。


「ママっ!お芋さんがあるよ!」


 今度はクゥムがジャガイモを売ってる店を見つけてくれた。でかした!良い子だぞ、クゥム。ジャガイモは大豆の比じゃなく大量に色々な店で売っていた。これだけあると……どれを買えば良いのやら。テレビで美味しいジャガイモの見分け方、なんてやってたかもしれないけど忘れたわ。


「ふっくらとして丸みのあるのが良いんだよ。表面がなめらかで傷やしわの少ないヤツね」


 俺自身が覚えてなくても俺の記憶を全て見た魔神が覚えてくれていますからね。それだけじゃない、彼女には神眼がある。それを使って買うべきジャガイモも素早く選別してくれる。ルシアス王国に帰ってからの栽培用に種芋もキープして、全部で200kgくらい購入したよ。大人買いかな。……大人の買い方というか、ほぼ業者の買い方かもしれんね。ポテトチップスを作ってる会社のような買い方。


 さて、他に何か無いか…?

 もっと探せば他にも面白いモノがありそう。

 いや、絶対にある。俺にはわかる。

 そして俺の勘ってのは当てにならないんだよな、これが。



次回は幻の祝日となった11日の月曜日に更新予定です。


ファミマで売ってるベリーベリースープ監修~濃厚仕立て~じゃがいもの冷たいポタージュ、が美味しいんです。箱で買いたいくらい。

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