10 本当に良い刀というのは鞘に入っているものですよ
「なぁ、ほんとにいいのか?もしかしたら後天的に何かのスキルを授かるかもしれないし、僕らと一緒にモルガン先生の授業を受けた方がいいんじゃないか?」
「ありがとう。でも……まずは槍の練習して槍術スキルの獲得を目指したいからさ。二人が魔法の授業を受けている間、俺は槍の修行をしたいんだよ」
無言で一緒に行こうよ、と袖をくいくいと引っ張るセシルはかわいいが今日は頭をぽんぽんして宥める。今日は槍を持って神殿に行くつもりなんだ。藁にも縋りたいんだよ、今の俺は。その縋りつく藁が随分危険でヤバい藁なのかもしれないが……それでも、だ。あの人、すんげぇ恐ろしいんだけど……なぜか不思議と嘘は言っていないと思うんだよね。まぁ根拠は全くないけど。
まだ神殿でのことは、この2人には話ししてない。まだ俺自身が説明できるほど何も分かってないのもあるし……やっぱ俺、焦ってるのかもしれない。
『来たか』
あまり来たくなかったけど、昨日と同じ順路で神殿の地下から昨日俺が死んだ……いや殺された空間に戻ってきた。今日はいきなり惨殺されないだけ良いスタートだ。そもそものスタートラインの位置が随分後ろなんだよなぁ……かなりマイナスからのスタートだ。1からとは贅沢は言わない、せめてゼロからスタートさせてください。
『教えてください。何故、俺にはスキルが無いんですか?』
『早速だな。分からん。分からんが推測は出来る。お前にスキルが無い理由はな……お前が既にスキルを持っているからだ』
教えてやると呼び出して分からんとは何事かーっ!……などと実際にそう言ったらまたぶっ殺されそうなんで言わないけど。さて既に持っているとは……それは頓知ですか?脳トレクイズか?東大王でも呼んでくるか?
『当時、メルヴィルはスキルマスターとも呼ばれていた。お前の知識によると、現在の人間のスキルに関しての研究は随分と退化しているようだな。或いはメルヴィルだけが異常だったのかもしれんが……とにかく彼は当時の世に知られていたスキルのほとんどを所持していた』
スキルマスター……ダッサ!ダサいにも程がある!それはなんとも頭悪そうだな!いや、問題はネーミングセンスじゃない。スキルをほとんど持っていた、ってそんなこと出来るもんなの?そんな大量のスキルを持って生まれて来る筈もないだろうから後天的に手に入れたってことだろ?それはスキルゲットの方法を解明したってことか?スゲーな。いや、それでなんで生まれ変わりの俺には引き継がれてないのよ…?
『ああ。確かにこの世界のスキルは魂の力だ、それはメルヴィルも言っていた。そしてメルヴィルの魂は私に移植された。今も私はメルヴィルのスキルの多くを受け継いでいる』
じゃた俺のスキル……アナタが持ってったの!?
か…返してよ!俺のなんでしょ!?
よくないよ、借りパクは!
『先日、私とお前の魂をリンクしたが……元々私達の魂は非常に細い回線で繋がっていたと思え。お前が再度、転生してこの世界に戻ってきたこと。そしてこの広い世界でも私が封じられていた、この地に産まれてきたこと。これらは私たちの魂の縁が結ばれていたからだと思う。そして私とお前の魂の繋がりは、スキルの所持情報は共有しているがスキル自体は共有できていない、そういう状態だと思うぞ』
『そう言われてもよくわかりませんが、えーと、じゃあどうしたら良いんですかね?』
『魂の繋がりを拡げて、スキルを共有出来るようにする。もしくはスキルをコピペするとか』
『ほうほう……で、それは具体的にはどうするんですか?』
『知らん。推測の上に構築した半ば希望のような予測だぞ?しかしメルヴィルなら、きっとなんとか出来るはずだ』
『俺はわかんないですよ。メルヴィルだったことも覚えてないのに…』
もっと言うとメルヴィルが前前世だったこと自体半信半疑だわ。正確に言うと1信9疑。殆ど疑ってます。いくら俺がピュアボーイだとしても簡単には信じてないよ。
『ルーさんこそ、スキルを受け継いだなら記憶も継いでないんですか?』
『私が受け継いだのはスキルだけだよ。記憶は一切……だいたい生前から術やスキルに限らず大事な事も碌に説明しない男だったよな、貴様は!』
うん、なんか……今日もいきなり地雷を踏んだのかも。
現在の俺は悪くないと思うんだけどなぁ…。
『いつもいつもいっつも自分だけで納得して私には何も説明もしない記録もしない……全部お前のせいだろうが!』
あ、今日はもう帰りたいっす。
うーん、メルヴィル、良くないよ!アレクもそう思うよ!
『散々待たせた挙句、ようやく来たかと思ったら私の顔も名前も覚えていないとはどういうことだ!』
矛先が俺を向いた!?いや、最初から俺なのか?わからなくなってきた。すみませんっ!顔は覚えてないかもだけど、そもそも見てません。それともその鎧は素の身体?この人はリビングアーマーなのかな?こんなインパクトのある存在を忘れてしまうとはな。夢に見そうな姿なのにな。もちろん悪夢だぜ?
『あ、あの!ルーさんの顔というのは、その鎧の中のことを仰っているのでしょうか!?それともその黒い鎧が素顔なんですかっ』
『……………………………………………………』
………あ、この人、鎧のことを忘れてたな?めちゃくちゃ強いし恐ろしいけど……意外とポンコツか?バカなのか?
ルーさんは、おもむろに手に持った黒い大剣を地面に突き刺しガチャガチャとその鎧を脱ぎ始めた。どうでもいいけどその大剣、鞘はないんだろうか。扱いが雑だな。
あなたはギラギラとして、まるで抜き身の刀のようですね。でも本当に良い刀というのは鞘に入っているものですよ……なんて大昔の映画の台詞でも言ってやりたいが、余計なことを言ったら、また斬られそうで怖い。ここはクロサワ映画の世界じゃないからね。
ルーさんがフルフェイスを外そうとすると、長い髪が零れ落ちた。その神々しい髪は紫水晶のように透き通っていて、まるで絹糸のように柔らかそうだ。その瞳は確かゴールデン・イエローと言うんだったか、まるで黄金のように煌めいていた。その白い肌は、まるで淡く輝いているようにすら見えた。およそ、俺が想像しうる最も美しい女性がそこにいた。いや俺の想像の限界など、遥か遠く超えている…!
あぁ、俺はこの人を知っているぞ…!
いつかどこかで逢ったことがあるはずだ。
逢った?どこで?
………思い出した。
日本で死んで生まれ変わる時だ。
あの時、俺は神様に会ってチートスキルは貰わなかったが、この人を見たんだ。気が付かなかったが、いつの間にか俺の両目から涙が溢れていた。そんなにか。そんなに嬉しいのか、俺よ。もし俺の転生に意味があるとしたら……きっと、この人にもう一度逢うためだ。あぁ、記憶が無くても断言できるよ。
『どう?少しは思い出した?』
『いや、申し訳ないけど思い出してないんだ。でも……ただいま』
俺は止まらない涙を拭いながら、正直に言った。
くっそ、ハンカチ忘れてきちゃったわ。
ああ、待たせてごめんね。
『相変わらず、そういうところだけは正直な男だな……おかえりなさい』
少し困ったように、でも優しく彼女は微笑んでくれた。黒い鎧を脱いだら声も全然違う。玲瓏たる声というのか、優しい透き通るような声だ。なるほど、メルヴィルは俺なのかもしれない。これは…申し訳ないが理屈じゃない。彼女が言うならそうなんだろう。ストンと胸に落ちてしまったんだわ。腑に落ちたってやつだ。しょうがないっしょ、納得しちゃったんだもん。前前世の俺、間違いなくこの人に惚れてたんだろうな。この人の為に2度生まれ変わったんだとして、後悔なし。この人の命を救ったんだろ?むしろよくやったな前前世の俺、と言ってやるよ。ああ、さすが俺だ。GJ!
『ルーさんは……いつ俺がメルヴィルと判ったんですか?』
『7年前に、この世界に産まれたことは判っていた。そして、おそらくは近くに居るだろうこともな。でも、それだけだ。確実にお前だとわかったのは、この迷宮に入ってこられたからだ』
あ、やっぱりここ迷宮なのね。
『なんで、それだけで判るんですか?』
『今の私はこの迷宮のダンジョンマスターでもある。基本的には外部からの侵入は全て禁止にしてある。それでも入ってこられるのは私と同じ魂を持つ存在だけだ。つまり、それはメルヴィルだ』
入り口が簡単な魔方陣だったから、ちょこちょこ人が来そうなもんだと思ったら。俺以外の人は侵入禁止の鍵がかけてあったのね。そんな便利なことも出来るんですね、ダンジョンマスターって。まぁ、別になりたいとも思わないけどな。
『………ん?入ってきたのが俺だと、つまりメルヴィルだと判ってたのになんで俺、最初に貴女に襲撃されたんでしょう?』
『当然だろう。メルヴィルにとって私が己の命より大切だった様に、私も誰よりメルヴィルを愛していた。そのメルヴィルの命を犠牲にしてまで、私が生きたいと思うはずがないでしょう?勝手な事をした、お仕置きだ』
『…………前回、帰り際にも一回やられてますが?』
『それは、お前の前世の記憶を見せてもらったからだ。日本での前世で4人もの女性と付き合って……色々と仲良くして楽しんでいたんだなぁ!私という者がありながら』
『それは!!記憶も無くしてますし!しょうがないかと!』
『……………だから?』
笑顔が怖いんですが。初めて知った。美少女の笑顔って時にこんなに怖いものだとは。理不尽だ。情状酌量の余地は十分にあると訴えたいが、この裁判長は決して有罪を覆さないだろう。再審請求も絶対に認められないだろう。
では裁判長、質問を変えます。
『あの、俺が……メルヴィルが死んでからどのくらいの年数が経ってるんですか?』
『少なくとも450年は経っているんだろう。私がここに封じられたときルシアス王国などという国はなかったからな。一度、オリスティという国を調べてみるといい。かつてメルヴィルが建国に貢献した国だ』
『少なくとも……ってルーさん今、何歳なんですか?』
『女性に年齢を聞くのか。お仕置き追加だな……冗談だよ。そんな顔をするな』
こ、この人も冗談を言うんだ……欠片も笑えなかったけど。逆に漏らすかと思ったわ。お仕置きがヘビーすぎるんだよなぁ……罪と罰のバランスが、おかしい。
『私は魔神だからな。不死ではないが、不老だ。それに何歳かと聞かれてもあれから何年経ったのかもわからんのだ』
『はぁ……魔人、ですか。なんか凄そうですねぇ』
普通の人間と魔人との構造がどう違うのか知らんけど、見た目は人間の美少女だね。いや、不老なだけでも十分に凄いよ。あ、でも彼女が不老だというのなら、あと10年位すれば俺も見た目的には釣合が取れるんじゃないかな。これだけ綺麗な人なら魔人でもアリだろ?イケるイケる!
『スキルに関しては少し時間をくれ。とりあえず、お前をもう少し強くしてみようと思う』
『俺は何をすれば良いですか?』
『組手だ。お前の言うゾーン……あの異常な集中力は武器になる。自在に使えれば、だが』
『プランBはありませんか』
返事の代わりに大剣が俺の頭上に振り落とされた。スレッスレでも避けられたと言うことは少しは手加減してくれているんだろう。言ってみただけじゃないか……しかし俺の冗談は相手にもしてもらえないらしい。焼け石に水な装備だが、今日はげいぼるぐⅡを持ってきた。覚悟を決めろ、俺。
よォし、やるか。
『死ぬ気でやれ。というか………死ね』
その言葉の数秒後。
ほとんどなんの抵抗も出来ずに、俺の頭部だけが宙をダイブしていた。
こういうアングルから自分の身体を見たくなかったな……また灼熱と極寒、苦と悲惨と激痛と窒息が俺を取り巻いて地獄を味わう事となった。だから!発狂するわ、こんなもん!
汗だくになって、ようやく感覚が戻ってきた。これで通算3回目の地獄巡りだが初めて体験するかのようにまるで慣れない、というか確信した。これ……今後も絶対に慣れることは、ない。
『俺がこうやって蘇生しているのはルーさんの魔法ですか?』
『説明していなかったな、ここの迷宮……アムブロシアの特性は不死だ。ここでは一切の生物は死にたくても、死ねない』
『不死は人類の夢のひとつですよ』
『そうだね。でも、これはアムブロシア内部だけの話だ。そしてここに封じられている私にとっては、不死は呪いでしかないんだ。死と言う最後の開放すら私には訪れない。ここは文字通り、魂の牢獄なんだ』
『……どうやったらその封印は解けるんですか?』
『それもわからん。そのうち、お前がどうにかして解いてくれると期待しているよ』
メルヴィルなら、なんとかしてくれるってことなんだろうな。ちくしょう、俺は平凡な日本人なんだぞ。それにしても、やっぱりここ迷宮なんだな。しかも不死の迷宮。ファンタジー、急にアクセルを踏み込んできたね。不死、迷宮、魔人。しかも美少女。よくばりセットかよ。
『それと、生き返るときに随分な苦痛を味わうんですが、あれはなんですか?』
『今後の残りの人生で経験するはずの痛み寒さ暑さ飢餓渇き孤独喪失裏切り哀しみ……負の全てを纏めて貰ってるんじゃないだろうか。言っただろう、ここのは不死という名の呪いだと』
『それを知ってて俺をぶっ殺したんですか?』
『私はお前に、つまりメルヴィルに対して怒ってるんだ、当然だろう?あとお仕置きも3回残ってる』
『今さっき、一回死んできましたが』
『今のは訓練の結果、だろう? ノーカンだ』
死の訓練と同時に八つ当たりもあるんですかマジですか。
なんとかならんのか、そのシステム。
改善の余地がたっぷりあると思うぞ。
『お前はメルヴィルとしてのスキルと戦いの経験を全て失った。前世でも豊かで平和な国に育った。力もスキルも無いお前だが経験が無いのが特に致命的だ。ここでひたすらに死線を越え続けろ』
『………スパルタっすね』
『ああ、私には元から指導・指南のスキルもあるんだがな。メルヴィルに私は指南役には向いてないとよく言われたものだよ』
言われたなら改善せぇ!
薮蛇だから言わないけども。
努力の跡が、見えない。
いや改善する気も無さそうだ。
『今のお前の数少ない長所はな、その生への執念だ。異常に死を恐れている……とも言えるが。死にたくないと言う一念において狂気すら感じる』
あ、ちょっと引いてる。俺の長所の話で魔人に引かれてる。確かに俺もウ○コ食えば死なずに済むなら……まぁ取り敢えず検討はしてみるよね。どのくらいの量か誰のものか、とか。大丈夫、俺もこんなこと口には出さないよ。プライド?ないよ!
『この場所の特性とお前のその長所。これでお前は通常の数十倍数百倍の密度で訓練ができるだろう。ゾーンのコツも掴める筈だ』
『わかった、わかりました……あと、せめて服、どうにかなりませんかね?身体は再生しても服がボロボロだと家に帰って母に説明が困ります』
『裸でやるか?私にショタ属性は無いから別に構わんぞ』
変な日本語まで覚えちゃったな。美少女の見た目でバカなこと言ってるんじゃありませんよ。前回も服をズタズタにされて家に帰ってから言い訳が大変だったんだから。
『……プランBはありませんか』
『無理難題を言うヤツだな。しょうがない……今度来るとき、布と針と糸を持ってこい。私は裁縫のスキルも持っている』
意外だ。今のところ見目麗しい破壊神としか思えなかっただけにギャップ萌えだ。そんな家庭的なものも持っていたのか…!
『……どうも、この姿のままだとお前は集中力に欠けるようだ』
そういうと、ルーさんは瞬時に黒いフルプレートアーマーを身に纏った。戦隊ヒーローの変身みたいでちょっとカッコいいな。そう言いつつも、このフルプレートアーマー自体は俺のトラウマになりつつあるんだが。それ、本当に呪いの魔鎧じゃないのか。
『さぁ……全力でもがけ、死線で足掻け、死力を尽くして抵抗しろ。お前の全てを最後の一滴まで絞り出して抗うんだ。いくぞ。』
鎧を着ると、また彼女の声も変わる。途端に辺りに息をするのも苦しい程の殺意が充満する。見た目的にも全くご褒美が無い。癒しがない。逃げ道もない。ああ、つまりはやるしかない。
このあと、滅茶苦茶死闘した。
死闘というか………一方的に俺が殺され続けただけですけども。
拙い小説ですが読んでくださり、ありがとうございます。
この小説を読んで少しでも面白いと思ってくれた、貴方or貴女!
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