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地上の動きなんて俺は知らなかった

 成瀬敬一(なるせけいいち)の探索から1か月。

 まだ迷宮(ダンジョン)内に潜っている人間もいるが、多くは地上へと帰還していた。


 あの日は大変動が発生した後という事もあり、街には多くの召喚者が久々の地上を満喫していた。

 大変動が近くなれば可能な限り地上に戻り、大変動後は浅い階層の探索が主になるからだ。

 ところが、そこで起こった大事件は彼らの状況を一変させてしまった。

 これは、特に召喚間もない未熟な者達にとって顕著(けんちょ)であった。


 今までは、自分達はよそ者であり、また彼らにないスキルと身体能力を持っている。だから互いに壁があっても仕方がないという認識であった。

 ところがあの日以来、自分達は首都最大にして国家の象徴である大聖堂を崩壊させ、大量殺戮を行った凶悪犯と同類になってしまったのだ。


 しかも帰還の為のアイテムまで奪われてしまった。

 このままでは、この世界で死ぬ事は本当の死となってしまう。そんな恐怖は、当然ながら当事者へと向けられる。


 成瀬敬一(なるせけいいち)に対する怒りは更なる憤りを生み、今では烈火のように燃え上がっていた。

 何としてでも成瀬敬一(なるせけいいち)を追跡、補足、そしてアイテムを取り戻し処刑する。

 それは、もはや召喚者の総意といっても過言ではなかっただろう。





 そんな中、郊外にあるとある召喚者の宿舎には一組の男女がいた。

 一人は黒髪の美人だが、どこか疲れきった様に見える。病的だと表現した方が良いかもしれない。

 厚手のパジャマを着て、ベッドの上で上半身だけを起こしている。


 もう一人はグレーのレザーアーマーを着た男だ。女性の手を握り、優しそうな――あるいみ憐れむような視線を投げかけていた。

 女性は水城瑞樹(みなしろみずき)。男性は西山龍平(にしやまりゅうへい)という。二人とも、成瀬敬一(なるせけいいち)とは因縁浅からぬ仲だ。


「あの時、広域探査(エリアサーチ)には引っかからなかったんだな?」


「ええ……でも私が敬一(けいいち)君を間違えるわけがない。分からないはずが無いのよ!」


「落ち着け! 頼むから……落ち着いてくれ……」


 力強く、白い手を握る。


「い、痛い、痛い!」


「あ、す、すまない」


 沈黙が場を支配する。重苦しい空気が立ち込める。

 そんな空気を換えようと言葉を発したのは西山龍平(にしやまりゅうへい)だった。


「なら、あいつは偽物だったんだろう。本物の敬一(けいいち)は帰ったんだよ。もう心配する事も、気に病む事もない。上への報告はいつもの様に俺がするから、瑞樹(みずき)は休んでいてくれ……他の連中にも話しておく」


 そう言って部屋を出た。かつてあれほどに憧れ、恋焦がれた相手――違う、かつてではない。それは今も何一つ変わってはいない。

 彼女の為に、敬一(けいいち)に近づいたと言っても過言ではない。なのに、今の自分は何なのかと西山龍平(にしやまりゅうへい)は自問した。しかし結局、悪いのは全て自分だ。そんな結論しか出ない。


 ――敬一(けいいち)なら、どうしたのだろう……。

 だが考えたって意味はない。もう引き返す道は無いのだ。


 部屋を出た後、背後で声がする。

 決して聞き耳を立てていたわけでは無い。身体強化のスキルによって鍛えられた体は、たとえ発動していなくても常人のそれを遥かに凌駕してしまっていたから。


「どうして……どうして最初に私のところに来てくれなかったの。こんな体だから? (けが)れてしまったから? もし来てくれたのなら……声をかけてくれたのなら……手を取ってくれたのなら……何処にでもついて行ったのに。消えてしまったって良かったのに……」


 背後から聞こえる嗚咽と泣き声を聞きながら、西山龍平(にしやまりゅうへい)は庁舎へと向かった。今後の方針を決めるために。





 その夜、最高司教にして現代人召喚の責任者、ヨルエナ・スー・アディンの処刑が決まった。

 捕えた兵士達に悪態と罵倒の限りを尽くし、現在は刑務所へと送られている。

 召喚の責任者であったという立場から、処刑の場は通例に則って召喚者が帰還するための穴を使用する……のだが、現在は成瀬敬一(なるせけいいち)により建物ごと破壊されてしまった。

 処刑は当分先になるだろうというのが世間の噂だった。


 同時に、成瀬敬一(なるせけいいち)の討伐が正式に決まる。

 これは召喚者だけの話ではない。

 自分達の首都を破壊され多くの死傷者を出した現地人の怒りもまた凄まじく、今やラーセットに住む全ての人間が、成瀬敬一(なるせけいいち)への復讐の為に動いていたのだった。





遂に第一部完です。ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

記念に「完結」といたしましたが、当然ながら物語はまだまだ終わりません。

数日程かけて、第2部の見直し作業を行いたいと思います。

終わりましたら、また「連載中」に戻して書き始めます。

出来ればそのまま、また毎日投稿モードに入りたいですね。


それでは、数日から1週間ほどで第2部を開始いたします。

よろしければ、再びよろしくお願いいたします。


あ、忘れるところでした。

ご意見ご感想やブクマに評価など、何でも頂けるとものすごく喜びます。

是非餌を与えてくださいヾ(*´∀`*)ノ

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― 新着の感想 ―
不穏な空気も匂わされていたし、タグにあるワードからしてわかっていた展開ですが、エグい再開ですね。 ただ、敬一と奈々の交流があまり深く描写されていなかったことや、奈々というキャラが読者から見てわりと空気…
[一言] ハーレムエンドにならないとお姉ちゃんの方は救われない感じに見える
[一言] どんな理由であれ、自分の意思で身体を売ったのなら俺は無理だ… 避けることはできただろう…
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