さっさと合流して先ずは休もう
地下遺跡から迷宮への道には、警備も無ければ怪物もいない。
意外とばれないものだと感心すると同時に呆れてしまう。結構ざるだな。こんなんで首都機能とかは大丈夫なのかね。
そんな考えも、いざ入ろうとすると吹っ飛んでしまう。
緑の苔のような迷宮の入り口。そこには壁にナイフで括りつけられた焼き鳥の袋があったからだ。
ばれている人間にはばれているって事だな。そしてこれは、『あえて見逃した』『次は無い』という彼からのメッセージだ。
金髪の彼を思い出す。これを見る限り、相当な実力者だったのだろう。
もしかしたら10人の一人だったのかもしれない。
正直戦いたくないなと思いながら、俺は迷宮へと帰還した。
■ ◇ ■
まあ予想はしていたが、迷宮内は大騒ぎだった。
いったい何人の人間が入り込んだのだろうか?
入った所はセーフゾーンからだろうが、迷宮全体に足音や声が反響して凄い事になっている。
お前らは上で救助活動でもしていろとも思うが、あの女神官の様子を考えれば、この時計は国家の最重要アイテムだ。負傷者などよりも優先されるものなのだろう。
それに確か管轄も違うんだったな。迷宮内は軍隊の縄張りだったか。
それに加えて召喚者も多数入り込んでいるだろう。あのアナウンスからすれば、それこそ死活問題だしな。
これで俺は、全ての召喚者の敵になったわけだ。あーあ。
だけどまあ、数は少ないけどひたちさんたちもいる。全部ってわけじゃないな。
今は早い所、合流しよう。
◆ 〇 ◆
水城瑞樹は郊外の宿舎で共同生活をしていた。
最初の教習を受けた後、ある程度の経験者達とチームを組んだのだ。
ただ経験者と言っても、特別に強力なスキルを持たない中堅者軍団。
当時は総勢10名だったが、今は8人となっている。
巨大建造物が倒壊した衝撃は、彼女が暮らす郊外にも響いていた。
大変動後も浅い階層を探っていたが、その間に2人の仲間を失った。代償として何とか生活出来るだけのアイテムを手に入れて地上で休んでいたのだが、今度はこの大事件だ。
この世界に、安息の場所など無いのだと思い知らされた。
そして日も暮れた頃、龍平が戻って来た。
既にチームの全員が集結し、今夜の夕飯はバスケットに詰めて弁当の形にしてある。
サイレンと共に流れた放送は聞き取れず、状況を把握していたわけではない。
それでも支度を済ませていたのは、ここがそういった世界であると学んでいたからであった。
「何があったの?」
「放送があったけど、状況が分からないんだ」
「俺達も迷宮に潜るのか?」
鎧を着こんだ仲間たちが一斉に詰め寄ってくる。男性3人、女性3人。それに遠巻きに龍平を心配そうに眺める瑞樹。
そんな様子を一通り見渡すと、龍平は苦しそうに――本当に心臓を掴まれているかのような表情で告げた。
「狼藉者が現れ、召喚に関する重要な秘宝を奪って逃走した。そいつの名は成瀬敬一。俺と同じ、杉駒東高校の出身者だ」
場の空気が硬くなる。そう、数人の経験者も加わっているが、この集団のメンバーはあの日に召喚された人員が主体。つまりは、杉駒東の人間たちなのだ。
当然、ある意味元々有名人で、あの日乳を揉んで更に有名になり、ハズレスキルを引いて即日帰った成瀬敬一の事は、今や全員が知っている。
ただそれよりも――、
「嘘、嘘よね? だって敬一君はあの日帰ったのよ。もうこちらの世界にはいない。だから私は頑張って、少しでも向こうで楽をさせてあげたくて、でも怖くて、それでも――う、うえええええ、げええー」
瑞樹はそれだけ言うと、立っている事も出来ずへたり込み、盛大に吐き出してしまった。
慌てて3人の女性陣が駆け寄るが、男性陣の目は冷ややかなものだ。ただ一人を除いて。
「瑞樹はここに残れ。他は全員迷宮行きだ。気を付けろ。奴が奪い去ったアイテムが無いと、俺達は帰還できない。この世界で死ぬ事は、そのまま死を意味する事になる」
「なんだって!」
「そんな馬鹿な!」
「だから全ての召喚者に討伐命令が出ている。手段は問わない。秘宝を取り戻せとの事だ」
「――なら、私も行くわ」
「瑞樹は残れ!」
「人を探すなら、私の広域探査が絶対に必要になるはずよ。闇雲に探したって見つかりっこない」
西山龍平は暫し目を閉じて沈黙したが――、
「分かった。俺達の様な若輩が、先輩方を出し抜くにはそれしかない。必ず秘宝を取り戻して、俺達は元の世界に帰る」
「ああ、そうだな」
「分かったぜ、リーダー」
こうして西山龍平は、6人のメンバーを率いて迷宮へと向かったのであった。
いよいよ1話が近づいてまいりました(*´▽`*)
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