これは別れなんかじゃない
《避けられない死が確定しました。“ハズレ”ます》
――くそう!
今度は大爆発であった。俺を中心とした――というより、俺の心臓が内部から爆発した感覚。
普通の人間だったら本当に確実に死んでいたぞ。
スキルを使ったのは言うまでもなく奈々。俺の奴への殺気に反応したのだろう。
部屋の半分は粉々に吹き飛び、幾つもの瓦礫が火球となって飛んでいく。
その中に混ざって飛んでいくのは、バラバラになった燃えあがる俺の手足たちだ。さらば俺。
なんて考えながらも、俺自身はスキルで逃れていた。龍平に使ったのと同じ手段ではあるが、その時とは違った異変を感じていた。
――使いすぎたか。
忠告はされていたのに、結局使わないわけにはいかなかった。
そもそも制御するアイテムを手に入れることが出来なかったからな。この結果も仕方がないか。
世界が遠い。大地に立ち、木立によりかかる。
だけど何も感じない。まるで体中の神経が無くなってしまったかのようだ。
俺の体は、この世界から大きく離れてしまったのだろう。
だけど諦められない。諦めきれない。このまま終わらせたりなんてするものか。
けれど、もう瑞樹先輩の元へ行く余裕はない。
でもそれは今だけだ。もちろん先輩も大切だ。だけどひたちさんたちへの恩も返しておかなければいけない。
当然、奈々もこのままで終わらせるつもりはない。
どうしても、一つ気になる事があった。それだけは確認しなければ収まらない。
だけど今は――帰ろう。
結局、何も得る事の無い帰還。失った物だけが大きかった。
いや、違うな。俺は大きな成果を得た。無意識のうちに、腰のベルトに手を伸ばす。そこにあるのは例の時計。髪留めの通信機と同じで、こういったものはちゃんと本体の方に残るようだ。
というか、これを吹き飛ばされていたらひたちさんに合わせる顔が無いぞ。
まあとにかく、召喚のキーアイテムを奪取し、召喚に必要だと思われる塔を破壊できたのだ。
これで新たな召喚者は当分補充されないだろう。それだけでも大きな成果はあったはずだ。
後の事は、これから考えよう。
こうして俺は帰路についた。様々な想いを胸に。
◇ △ ◇
……なんて簡単な話ではない事は分かっていたさ。
こんな状況になっても、俺のスキルは止まらない。いや、止まったら死ぬ。
街に溢れる大量の兵士。そして空を飛ぶ人間――あれは間違いなく召喚者だな。
俺が奈々の元へと行った事はもう知られている。そしてそこで殺された事も。
だけど肝心なものがない。そこで俺か、俺の仲間を探しているのだろう。
セポナとひたちさんが心配だが、あの場所は崩れたビルで完全に潰れた。さすがにあの瓦礫を撤去するのは大変だし、スキルを使うにしても、よほどの根拠が無ければやらないだろう。
こちらは最初の墓地のような場所が目的地だ。
あそこから帰る。合流は中で出来るだろう。
◎ 〇 ◎
吹き飛んだ奈々の宿舎では、ほぼ全裸と言って良い奈々が燃え盛る下界を見下ろしていた。
部屋の半分は吹き飛び、夜風が吹き込んで来る。
その肩に、男物の上着が優しくかけられた。
「流石は奈々様です。あの狼藉者め――確か敬一とか。奴もこれで帰った事でしょう」
「どうでも良いわ」
奈々はもう、その事になど何の興味もなかった。
ただ熱い、うるんだ瞳で剛を見つめる。
「彼に会った時も、肌を見られた時も、攻撃した時も、消し去った時も、何の感情も浮かばなかったわ。私の心も体も、もう全てが剛様の物。それを改めて確認できたの。それだけで十分よ」
「俺も奈々様だけの存在。この身も心も全てを捧げております」
「嬉しい……」
熱い口づけを交わす二人は、何処から見ても疑いようもない恋人同士だ。
そしてそのまま獣のように互いの服を脱がす。
「今夜も沢山楽しんで、互いを互いに刻み付けましょう。元の世界に戻っても……ううん、たとえ生まれ変わったとしても、絶対に二人が出会えるように」
「世界なんてものがどう変わっても、この剛は奈々様だけの存在でございます。たとえどのような者が現れようとも、指一本触れさせることはございません」
焼け残ったベッドの中で、二人の影は一つになっていた。
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