自分の心が壊れていく感覚を味わった
なんて声をかけようか。
目の前にいるのは奈々本人。それは間違いない。
普段は絶対に身に付けないような煽情的な赤紫のパンティに、上は前空きスケスケのベビードール。
始めてみた彼女の乳房は想像していたよりずっと大きく……そして素晴らしい形であった。
「最初の日に帰ったよね? どうしてまだこっちの世界にいるの?」
唇に指を充てる仕草。彼女の癖。いつもは子供っぽい仕草だが、今の妖艶さを漂わせた彼女がすると全く違った雰囲気になる。
「あ。ああ。その事でな。話せば長くなるんだが――」
「じゃあ帰ってくれない? 私、これから忙しいの」
――完全に想定外の言葉だった。
いや、何と言うか全部想定外だ。どうしてこうなっている?
「いや、それどころじゃないんだ。聞いてくれ、奈々。この世界は、俺達が最初に説明を受けたような世界じゃなかったんだ。もっととんでもない所だったんだよ。とにかく一緒に行こう。話はその後でも大丈夫だ」
「聞こえなかったの? 私はこれから忙しいの。これからお互いの意識が飛んじゃうまで、剛様と愛し合うの。何度も何度もね」
そう、うっとりとした目でいう彼女の左手の小指には、見た事もない美しい指輪が嵌っていた。
剛……どこかで聞いた事がある気はするが、今は関係ない。
というか”様”? 頭でも打ったのか?
「何を言っているのか分からないな。いいから行くぞ」
一歩踏み出そうとするが、体が動かない。奈々に近づく事に対して、無意識に体が拒否している。どういう事なんだ。
「その指輪、どうしたんだ」
代わりに、何とも場違いな質問が口から出た。
我ながら情けない。
「これは隷属の指輪。これを付けていると、身も心も所有者の剛様の物になるんだよ」
なんだ、なら話が早い。
「そんなものを付けられたのか。なら簡単だ、俺が外してやる」
「あはっ。あははははは。敬一君は変わらないね。ちょっと聞いただけで、もう全部分かったような気になっちゃう」
「俺が何か間違っているか?」
自分でも気が付かないうちに、握った拳から血が滴り落ちていた。
「これは自分で付けたの。自分で付けないと意味無いの。そして剛様も私の指輪を付けているわ。こうして互いが互いに隷属して、初めて効果が出るのよ。取るなんてとんでもないわ。これは私たちが選んだの」
恋人を見るような……いや、それよりも心の底から崇拝する目で指輪を見る奈々の瞳は、今まで見た事のないものだった。
ショックが大きすぎて、もう何をしにここに来たかもはっきりとしない。頭が痛い。吐きそうだ。
「……どうして、そんな事になったんだ?」
絞り出すように、それだけ言うのが精一杯だった。
「その様子だと、敬一君は知らないのかな? もしかして、まだ童貞?」
くすくすと笑う奈々に、何も言う事が出来ない。それを肯定と受け取ったのか、奈々は言葉を続けた。
「この世界だとね、私達は絶対に妊娠しないし、誰かを妊娠させることも出来ないんだよ。世界の法則が異なっているから、そうなるんだって」
「そんな理由で、その剛ってやつに抱かれたのか?」
「昔敬一君が話していたのを覚えているかな。一部の類人猿は、争いが起こると交尾して鎮めるんだって。確かゴルゴだったかな?」
「ボノボだな……」
「そうだっけ? ふふ。迷宮探索はね、思ったような簡単な話じゃなかったの。怖い事も沢山あって、チームの争いも日常茶飯事だったのよ」
「それで――」
「お姉ちゃんなんてね、初めての日に6人も相手したんだよ。凄いよねー」
感心したように、楽しそうに話す奈々を見て、そして瑞樹先輩の話を聞いて、俺の心の琴線が音を立てて切れた。
もうダメだ、吐く。
だけど抑える。気持ちを外す。そんな事をしている暇なんて無いんだ。
でも外れない。奈々たちへの想いだけは外せない。歯を食いしばり、涙をこらえる。
「それでお前も、みんなとしたのか?」
それだけの言葉を口にするだけで、一生分の精神を擦り減らしたような気がした。
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後今更ですが、ネトラレ注意です。






