俺が奈々を見間違えるわけがない……けれど
崩れていく超高層建築。吹き飛んだ瓦礫に飲まれていく街。あのビル一つにどのくらいの人間が生活していたのだろう。そして巻き込まれたビルにも。
だけど、それを気にしても仕方がない。手段など選んではいられなかった。俺は俺に出来た事をしたまでだ。
そう心に言い訳しながらも、憎悪に満ちた龍平の顔を思い出す。
あんな表情、見た事もない。まるで別人だった。
タイミング的に、何処まで俺の事やぶっ壊した塔の事などを知っていたんだろう?
そんなに細かく正確な説明を受けていたとは思えない。
俺が地上に出る事を前提に、何か吹き込まれていたか?
まあ考えたところで仕方がない。俺は二人の元へ行くだけだ。
ほぼ悩むことなく、最初の目的地は奈々の元へと決めていた。
距離的にも近いしな。
ただ、警戒されている事は確実だ。いったいどれほどの困難が予想されているか、考えるのも怖いな。
吹き荒れる暴風と飛んでくる瓦礫を外しながら、俺は一目散に走り続けた。
■ 〇 ■
奈々が住んでいる場所へは、拍子抜けするくらいあっさりと辿り着いた。
途中で襲ってくる兵士も召喚者もいなかったし、そもそも職務質問の様なものもなかった。
スキルが強化されたおかげだろうか?
それともあの惨状では人命救助が優先され、こちらに構ってなどいられなかったからか?
いや、それは無い。無意識のうちに、ベルトに縛り付けた時計を触る。
アイツらは、決してこれを手放したりなどしない……。
既に崩壊は収まっていたが、日も落ちて現場は大混乱だろう。まだ炎は燃えさかり、それとは別の人工的な明かりが幾つも見える。今も救助活動が続いているのだろう。
印を付けられていたそこは、巨大な豪邸だった。
およそ6階建。外観はホテルというよりも、城と言った方が良さそうだ。
リゾート地のパンフで3階建て位のなら見た事があるが、ここまででかいと正直引く。
この世界の人間は、何でもでかく作る趣味でもあるのだろうか? まあいいや。
見張りもいないが、奈々の正確な場所も分からない。
だけど確信はあった。今更だ。俺が求めれば、その場所まで自然に導かれる。
やっとこれで会うことが出来る。長かった……本当に長かった。
一応正面からは避け、塀を越えて中に入る。
こういった所は、出入り口が無数にある。その辺りは便利な事だ。
中もまた、外見にも負けない豪華な造りだった。
床も壁も美しく彩られ、廊下で瞬くシャンデリア状の明かりも眩いばかりだ。
そういや、奈々はこういったのが好きだったな。
幾つになっても、お姫様に憧れていたっけ。
足は自然に進み、4階にある大きな扉の前に来た。
中に奈々の気配を感じる。だけど他にも人間がいるのか? 分からない。
ただ彼女がいると言う事だけが、本能で分かっただけだ。
手持ちの武器は無くなってしまった。もし万が一、敵が待ち構えていたら……。
首を振り、少し呆れる。ここまで来てそんな事を考える位なら、最初から来るなって話だよな。
俺は勇気を振り絞り、目の前の豪華な両開きの扉を開けた。
中は外にもまして豪華な部屋だった。
見た事もない高級な絨毯。美しい壁紙。天井を飾るシャンデリアの明かりは、互いに干渉しあって幻想的な輝きを放っている。
部屋の中央には、透けた天幕付きの赤く大きな丸いベッド。
そしてその上に、水城奈々は座っていた。
赤紫の、見た事もないような際どい下着。だけどつけているのは下だけ。上はノーブラだ。
その上から羽織っている前空きのベビードールは完全に透けていて、初めて見る巨大な双丘が完全に顕わになっていた。
ひたちさんも凄いと思ったけど、やはり直接見ると破壊力が段違いだ。
先輩に比べてどことなく童顔だった表情は妖艶そのもの。確かにそこにいたのは奈々だったけど、何処か俺の知っている彼女ではなかった。
そして彼女は俺を見ると、静かに告げた。
「敬一君じゃない。なんでこんな所にいるの?」
たいした興味もなさそうに冷たく言い放った言葉。
だけど俺の心が、細胞が、全身が訴えている。目の前の彼女は、奈々本人に間違いはないと。
本来だったら目を逸らし、とても直視できる姿じゃない。
だけど俺は、奈々から目を離すことが出来なかった。
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